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世界線越のスペクルム  作者: EME(R15)
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第5話 GT

ありきたりな表現だが…起きたら知らない天井だった。

夢オチを少し期待していたが、あっけなく期待は裏切られた。


昨日、蝶子とマツリと一緒にいることを強要され、俺は同意した。

その為しばらくはこの部屋…赤レンガ倉庫4階の小部屋が俺の部屋となった。

非常に不本意だが、蝶子の話が本当ならここは戦争真っ只中の世界だ。

しかも不利な陣営にいる。が、俺が元の世界に戻るためには、蝶子たちがもつ世界線とやらを越える力が必須…。


状況は整理できたが、状況を整理するたび、信じられない気持ちや怒りや絶望感が湧き上がってくる。


「はぁ…」


俺は鬱々とした気持ちになりながらも、丸テーブルに置かれた透明なタブレット端末を手にした。そこにはナナカに頼めることのリストが表示されていた。水、食事、洗濯、掃除、蝶子への取り次ぎなどだ。

食事は今は気分じゃないから、水だけ頼んだ。


すぐにナナカがやって来て、部屋の扉を開ける。


「ユイト様、お水をお持ちしました。」


そう丁寧に言い、ナナカが水をテーブルに置いた。


「なあ、ナナカ、シャワーを浴びたいんだが…。」


俺は部屋の外に出るため、シャワーを浴びることにした。


「バスルームはこちらになります。」


ナナカが入り口付近の壁に手を翳すと、壁の一部がスライドし、ガラス張りのお洒落なバスルームが現れた。アンティークが並んだ部屋には似合わない、近代的なトイレ・バスがばっちり完備してあるようだ。


「えっと…着替え…」


「こちらです。」


さらに奥の壁に手を翳すと、真っ白なウォークインクローゼットが現れた。

清潔そうな白T、ジーンズ、黒のボクサーパンツ、靴下がズラっと並んでいる。


「ありがとう…。そうだナナカ、外の空気を吸いたいんだけど…。」


そういうとナナカはベッド付近の小窓を指差した。


「存分にお吸い下さい。」


取り憑く島もない。基本的にこの部屋から出るなと言うことなのだろう。

俺が無言になると、ナナカはそそくさと部屋を出て行ってしまった。


ナナカに指差された小窓から外を見てみる。海と荒廃した横浜の景色が見えた。橋は爆撃にでもあったのだろうか。大部分が欠けている。


ぼーっと外を眺めていると、部屋の扉がノックされ、外から声が聞こえて来た。


「ユイト〜!起きてる?マツリでーす!」


何となく返事をするのが癪で、無視した。


「さては昼まで寝るタイプだな〜!だめです〜!起きてもらいます〜!!」


そう言ってマツリが勢いよく扉を開けた。


「おはようユイトくん!さぁ今日も朝が来たよ〜!頑張ろ〜〜!!ってあれ?」


大声でそう言いながら部屋に入って来たマツリと目が合う。


「なんだ起きてるじゃん!もう!無視はやめてくださーい!」


マツリはそう言いながら俺の方へ近付いて来た。

隣まで来て、小窓を覗く。


「この部屋からの景色、こんな感じだったんだ!いいね!

でもずっと部屋だと息詰まらない?外行こうよ!」


マツリがそう笑顔で言った。外出れるのか!


「あ、ちなみに外危険だから、私から離れないように!

あとユイトはキャンセラー持ってないから、夕方5時までにこの建物に戻らないと脳壊れちゃうからね〜!」


めちゃめちゃ物騒なことを言われた。夕方5時といえば、昨日の鐘のことだろう。

一瞬聴こえたあの馬鹿でかい音の夕方5時の鐘。そういえば昨日蝶子もキャンセラーとか脳波が何たらとか言ってたな。何なんだよマジでこの世界…。


とりあえず俺はマツリと一緒に外へ出た。

風が冷たい。今は何月なんだろうか。昨日ここに拉致られるまでは10月だったが。見渡す限り、人1人いない。海と廃墟。


「ユイト!外に出たらあんまりぼーっとしないこと!本当に危ないんだからね!

こっち来て!みんなを紹介したいの!」


マツリの声が少し離れたところから聞こえた。

すでに赤レンガ倉庫の向かいの道路にいる。

マツリと2人で赤レンガ倉庫近くのショッピングモールまで歩いた。


「紹介ってどういうことだ?これから人に会うのか?」


「そうだよ〜!ユイトは私たちの仲間になるんだから、仲間は全員紹介するよ!

それにみんなで協力してユイトを守らなきゃいけないしね!

みんな強いし良い人達だから、安心して大丈夫!!」


そうこう言っているうちにショッピングモール入り口に着く。

建物を見上げると上の方はばっくりと露出している。見るからにここも廃墟だ。


「キャンセラーオン。周波数変調展開。入館コード・WP4580」


そうマツリが言うと、視界が磨りガラスのようにパキパキと歪んだ。昨日もこれ見たな。


〈入館コード・認証。ようこそ。〉


どこからか機械的な声が聞こえた。


「行くよ、ユイト〜!」


マツリに引っ張られ、ショッピングモールの中に入る。ここも赤レンガ倉庫同様、中は綺麗だった。


「GT〜〜!話題の最終兵器くん連れて来たよ〜!挨拶して〜〜!」


そうマツリが大声で言った。

俺はちょっと緊張した。今からマツリが呼んでいるジーティーさんに会うのだろう。さっきマツリが強くて良い人達って言っていたし、男の人が出てくる気がする。


「マツリ、テメェ!いっつも声がでけーんだよコラァ!」


ショッピングモールの上階の方から男性の怒鳴り声が聞こえた。

そして上から、誰かが飛び降りて来た。


どさっと大きめの落下音とともに、俺と同じくらいの身長のマッチョのお兄さんが現れた。


「よう最終兵器さん!俺はGTだ!よろしくぅ!」


「あ…はい。よろしくです。」


色々と圧倒され、そう返すのがやっとだった。

よく見たら俺と全くおんなじ格好をしている。

俺がじっとGTの服を見ていたら、それに気付いたのかニカっと笑って言った。


「お前さんが俺と同じくらいの身長だって聞いたからな、俺の服をお前さん用に3Dプリンターで大量生産しておいたんだ!気に入ったか?」


「えっと…はい。普通に着心地いいです。」


だから少しサイズ大きいのか。筋肉量の差が少しだけ悔しいな。

じゃないだろ!この人も蝶子やマツリの仲間なんだろう。

マツリは俺のこと仲間になるって言ったけど、俺はそんな気はさらさらない。

だってこいつらは俺を利用する為に拉致してきた奴らだ。

そんな奴らと仲良くする気は全くない。


俺のそんな気持ちが伝わったのか、場は静まりかえっていた。


「あ、ユイト、よかったらみんなとブランチしよ!GT、用意頼める?」


マツリがそう提案した。


「おう。……最終兵器さんよ、俺たちがお前にすげぇ酷なことしてるのは理解してる。でも、俺はお前のこと知りたいし、お前のことちゃんと守りたいし、仲間として迎えさせて欲しい。必ず元の世界線に返すって約束する。…うーん悪い、うまく言えねえけど…とりあえずあんましょげんな!」


GTが悪い人ではないと言うことは、何となく分かった。

だからって許せる訳ではないが。


「……はい。」


俺は怒りも絶望も諦めも不満も全部とりあえず一旦飲み込み、GTに返事をした。

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