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世界線越のスペクルム  作者: EME(R15)
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第4話 並行世界に来た理由

「つまり、俺は今、パラレルワールドにいるってことで合ってますか?」


俺は戸惑いながらも自分の考えを蝶子に伝えた。


「理解が早いのね。そういうことよ。簡単に言うとここは『分岐の世界』なの。あなたが元々いたのは『2年前に並行世界からの来訪者が来なかった世界』。あなたが今いるのは『2年前に並行世界からの来訪者が来た世界』。」


蝶子の説明を頭ではなんとなく理解できた。実感はないけれど。


「分かりました。いや、分からないけど。とりあえず状況はなんとなく把握出来ました。」


夢ではないが、夢みたいなことが起きている。


「すごいね〜!私だったら理解も納得も出来ないと思う…!ユイトって頭いいんだね!」


横にいるマツリが感心している。いや、俺も納得はしていない。


「俺はなんでいきなりパラレルワールドに来てしまったんでしょうか…。」


蝶子とマツリ2人に向けてそう聞いた。

その瞬間、場の空気がピリッとしたのを感じた。目の前の2人が強張った顔をしている。

嫌な予感がして来た。


「あの…それはね…えっと…」


マツリが緊張した声で何かを言おうとしている。下を向いているから表情は見えないが…なんだかイライラして来た。


「私があなたを転送したの。」


蝶子が言った。


「は?」


「私が、あなたをこの世界線に連れて来た。」


怒りの感情が一瞬のうちに爆発した。

俺は蝶子に向けて怒鳴った。


「なんで…何してんだよあんた!!」


「きゃっ…!」


俺の怒鳴り声に驚いたマツリが小さな悲鳴を上げた。マツリの方に目を向けると、怯えた目で俺を見ていた。

でも、知るか。もしこのまま元の世界に戻れなければ俺の人生が壊れる。

何としても戻して貰わなければ。


「今すぐ戻せ!!今すぐにだ!」


「怒鳴り散らすのはやめて。」


蝶子の冷たい声がした。


「やめて?やめるわけないだろ。俺に危害を与えた張本人の言うことなんて聞くわけないだろ!」


俺は怒りが頂点を越していた。人生でこんなに怒り狂ったのは初めてだ。

蝶子に掴みかかろうとしたその時、頭を強く打たれた。

一瞬視界がにじみ、痛みが追いかけて来る。


「いっ…!」


痛さに動きが止まった。

その隙に背後にいたナナカに素早く縄をかけられた。

その細腕からはとても想像できない腕力で締めあげられる。


「な、何すんだよ!!!」


「端的に言う。

私はあなたを利用する為ここへ転送した。

あなたはこのままこの世界に放置されたら間違いなく死ぬ。

私たちに従いなさい。そうすれば必ず元の世界に返す。」


めちゃくちゃな話だ。いきなり…こんないきなり窮地に立たされるなんて。

この状況に理解も納得も出来るわけない。

さっきまでどこかで、これは夢だと確信に似た感情を抱いていたのに。

なぜか故意的に仕組まれたものと分かったとたん、現実感が湧いてきて…。

俺は絶望した。


「元の世界に、戻れるんだな?」


「私たちの目的が達成されれば、必ず。」


蝶子の声は真剣だった。


「お前たちの目的はなんだ?

 俺を利用するって、何をさせる気だよ。」


「私たちの陣営にいて欲しい。それだけよ。

私たちにとっては、あなたの存在自体が武器になるの。あなたの命は、私たちが守る。」


「存在自体が武器になる…?なんだそれ、どういう意味だよ。」


俺は卓越した知識も持っていないし、もちろん超能力とかも使えない。

国の要人的なポジションの人間でもないし…。


「ユイト、さっき話した"ドッペルゲンガー病"の話を覚えてる?」


「え?ああ…自分と同じ奴に会ったら死ぬ、致死率99.9%の病気だろ…?」


「そう。…私達と相対する組織のトップは、ユイトの"ドッペルゲンガー"なの。生物的には同一個体の、この世界のあなた。」


「え…?」


「つまり私たちは、あなたをアイツの元に連れて行くだけで、勝てる。あなたの存在が私たちの最大の武器。

科学も超越する、最強の武器なの。」


蝶子が俺に目線を合わせるように身体を屈めてきて、そう言った。

ゴーグルに隠れて見えないが、きっと俺の目をじっと見つめているのだろう。


蝶子達の敵のトップが、並行世界の俺と言われても全然ぴんと来ない。どこか他人事に思えてしまう。


「というか、相対する組織って何者だよ。」


話を逸らすことにした。なんだか居心地が悪い。


「対"ドッペルゲンガー"特殊部隊・日本支部。この世界のあなたはそこの総督よ。」


名前を言われても…。

対"ドッペルゲンガー"特殊部隊ってことはおそらく蝶子達並行世界の来訪者達と戦う部隊なんだろうが。


「私達…並行世界の来訪者達を、拘束または無力化する役目を持っている部隊だよ。おおもとは政府。」


蝶子の横に立っていたマツリが言う。


「勝手なお願いだって言うのは分かってる。でも、私たちが生き残るにはこれしかないの!

対"ドッペルゲンガー"特殊部隊・日本支部を乗っ取り、膨大な電力を一定時間確保出来れば…!」


「マツリ!…話過ぎよ。それはまだユイトに話すことじゃないわ。」


なるほど。とりあえず電力を求めているということだけは今ので分かった。


「大丈夫だよ。ユイトなら必ず協力してくれるよ!

それに私達が一緒じゃないと世界線は越えられないし!」


「マツリ…。もう黙ってくれる?」


なるほど。蝶子達に付いて行けば世界線とやらは越えられる。おそらくこのパラレルワールドから元の世界に行けるってことだろう。


蝶子はバツが悪そうに、もじもじとした仕草をしながら見てきた。


「なんか…色々勘付いちゃったかしら?」


「ふっ…!!」


今までの怖い蝶子とのギャップに思わず笑ってしまう。全然笑える状況ではないのに。

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