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世界線越のスペクルム  作者: EME(R15)
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第1話 荒廃した横浜

「リン…好きだ…。」

俺は彼女の上に覆い被さり言った。


「ユイト…私もだよ…。」

彼女は少し緊張した声で言った。


俺は今から、初めて彼女…リンと体を重ねる。

緊張と興奮で全身から汗が噴き出してくる。

自分の服を脱ぎ、リンの服に手を掛ける。

リンも緊張しているみたいだ。額に汗が滲んでいる。


お互いの緊張を和らげる為、自然と唇を重ねた。軽く唇を啄んだ後、目を閉じて深く口付ける。


目を開けて…俺は鏡を見た。

ベッドで重なっていたはずの俺達だったが、いつの間にかベッドと自分達の間にとても大きな鏡があった。

鏡の中の俺と目が合う。

その瞬間、激しい頭痛と共に視界が歪み、俺は意識を失っていた。


目が覚めた俺は素っ裸で冷たいコンクリートの上に転がっていた。コンクリートの建物だけれども壁や天井は大きく崩れて、青空が見えていた。どこだここ…廃墟か…?何が起きた…

というかリンは…?!

俺は辺りを見回したが、リンの姿は無かった。

とりあえずリンを捜さないと…!

そう立ち上がろうとしたのに、身体が重くて膝をついてしまった。全身が地面に打ち付けられたように痛い。


「起きたのね」

その時、背後から女性の声がした。

背後は壁が崩れ、空が見えていたはず。

俺は極部付近を急いで手で覆い隠し、振り返った。

そこには、真っ白な長い髪に真っ白な長いロングドレス、そして黒いゴーグルをした女性が立っていた。ハーフアップにした真っ白な長い髪と、髪を括っている大きな蝶の髪飾りが日の光を反射しキラキラ輝いていた。

あまりにも人間離れしている見た目。

しかも空に浮かんでいる。

もしかして女神とか天使とか言われる類の人だろうか。そうなるとここは死後の世界とかだろうか。

なんて考えながらぼんやり眺めていたら、いきなり何かを投げ付けられた。


「みっともない。とりあえず服を着なさい。」


服を投げてきたのだ。

そこで俺は改めて自分が見知らぬ女性の前で素っ裸という緊急事態を思い出した。


「すみません、ありがとうございます。」


指摘されたのがかなり恥ずかしくて、すぐに渡された服を身に着けた。

ちゃんと男性物の服だ。

年代物の革ジャンに、ジーンズ、白いTシャツ…どれも少しだけ大きい。


「服は着れた?」


彼女は着替える間俺に背を向けていてくれたらしい。


「はい。すみませんでした。」

「いいわ、じゃあ行くわよ。」


彼女は俺の側まで飛んで来ると手を差し伸べて来た。

よく見ると彼女は、A3紙ほどの小さな白い板の上に乗っていた。板の下部は青い光を帯びている。俺はSFな夢を見ているのか…?

それよりも。


「行けません。俺には連れがいて…あいつを捜さないといけなくて。」


俺はリンを捜さないといけない。

直前まで抱き合っていたし、きっと近くにいる。


「いないわ。私がここで見つけられたのはあなただけよ。」


俺の考えを読んだかのようなタイミングで目の前の彼女は言った。


「ここは危険区域よ。私がこのまま去っていったらあなた…死ぬかもよ?」


大きなゴーグルのせいであまり表情は読めないが、声色は真剣だ。おそらくここに1人置いて行かれたら本当に危険なのだろう。

ここがどこか分からない。リンは周辺にはいないと彼女は言う。リンを捜す為にも、まずは安全と情報が必要だ。


「…分かりました。行きます。よろしくお願いします。」


俺は彼女の手を取り、建物の外、空へ飛び出した。


浮遊感に驚きながら眺めた外の世界は、廃墟だらけだった。でもどうしてか面影を感じる。俺はよく似た場所に来たことがある。そうかここは…横浜だ。



海に浮かぶ廃虚と観覧車…コスモワールドだろう。手前のはランドマークタワー。奥に見えるのは赤レンガ倉庫だ…。

なんであんなにボロボロなんだよ。

いったい何が起きてんだよ。


リンは?母さんと父さんは?友達は?

頼むから夢であってくれよ。


そう祈る俺の気持ちとは相反して、空を滑るように降下していく身体は、これは夢ではないと悟っているみたいだ。

耳全体がボウボウと鳴る風の音に包まれる。正面から当たる風が冷たくて痛い。足場がとても小さいから、ちゃんと踏ん張ってないと空中に放り出されてしまうだろう。

あまりにリアルな感覚に俺は絶望した。


その時。いきなりものすごい大きな音が聞こえた。大きすぎて、ブォンと音が響くたび、音の波を身体全体で感じる。このメロディーはすごく聞き覚えがある。夕方5時の鐘だ。


「キャンセラーオン。音波吸収展開。脳波保護機能最大値。」


次の音の波を感じる前に、俺の手を握り支えてくれていた女性がそう口にした。

その瞬間、視界が磨りガラスのようにパキパキと歪んだ。


「なんだこれ…どうなってんだ…。」


視界が元に戻ったと思ったら、音が聞こえなくなった。目の前の空間に大きな透明の膜が張っているみたいだ。透明の膜に音の波が当たって揺れている。


「この鐘の音は、脳波を壊すの。聴き続ければ二度と正常な脳には戻れなくなるわよ。」


「普通の夕方5時の鐘じゃないんですか…?」


「あなたの住んでいたところの夕方5時の鐘はこんなに大きな音だったの?」


そんなわけない。


「いったい…何があったんですか…。ここって、横浜…ですよね?夕方5時の鐘で脳が壊れるとかって……それって……。」


夢ですか?夢って言って下さい。

それか現実的で最悪な場合テロとかですか。


「あなた、名前は?」


俺が言葉を続けるより先に、彼女はそう聞いてきた。


「……ユイトです。」


「ユイト。

ディストピアへようこそ。

ここは科学戦争が起きた世界。

科学で支配するか支配されるかの世界よ。」

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