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そんなこんなで…パーティーが始まった。その間はどうなったって?そんなものどうでもいい。ただ…宿泊地に到着したジョセフィーヌ嬢に面会した時、不足はないか、困ったことはないか尋ねたが…
「こんなに良くしていただいて、申し訳なく思っております。あの件でも…ただの噂。小娘一人、貴方様が気に病むことではございませんのに」
「しかし…間違いを正すことも出来ずに、そなたに不名誉な噂を消すことも出来ないなど…」
「その心だけで十分でございます。これ以降は…わたくしの事は、お忘れになられてください」
「え…」
「どうぞ、お気になさらず」
「まっ、それでは、俺の、」
「あーはいはい、回収しますので。お騒がせしました。ゆっくり楽しんでいってくださいね」
「おまっ、放せ、まだ話がおわってな、」
「うぐっ…」
ぱたん、と…無情にもドアが閉まってしまう。強引に入る事は可能だが、女性の部屋に押しかけては醜聞が悪い。こいつが邪魔をしなければ…!
「げほっ…あんたね、取り合えず戻りますよ。焦らなくてもまだ10日はありますよ。その間に仲を深めれば良いじゃないですか」
「…お前、これから鍛錬場で袋叩きになるのと、メイドに紛れ込むの、どっちがいい」
「…どちらもお断りで」
「断れるとでも?」
あ。ころされる。と、この時乳母兄弟は思ったとかなんとか。
パーティーと言っても、ダンスをする訳ではなく、ただ食べて話して…という様相だ。ただ、ここにいる男は俺だけだが…いや、メイドに扮した乳母兄弟がジョセフィーヌ嬢についてるか。相変わらず違和感ないなあれ。あいつなら悪意ある者がいたとしても上手く捌くはず…だ。多分。
それよりも、俺か。様々なドレスで着飾った女性が押し寄せる。それでも、身分があるからだろう、上位の貴族がいくつかのグループを作っている。手近にいる女性に話しかけ、ドレスや宝石を褒めたたえ、美しいとされる何かに例え…そうやって、女性の波を渡っていく。
◆◇◆◇◆◇◆
「こうしてみていると、本当に王子様なんですね」
「ああしていれば王子ですね。日頃がアホすぎるんです」
「あなたも災難ね。見張り役だなんて」
「普段あんなでも、匂いに敏感ですからね。あなたをまもりたいのでしょうよ」
「匂い、ですか?」
「ええ…それ、毒入ってますよ」
「………」
「もう少し待っていただけますか。こちらで用意してますので」
「…あなた、なんであの人の部下やってるの」
「私だから、できるんですよ」
「…聞いても?」
「聞かない方が幸せですよ。今は、まだ。ああ、来ましたね」
「…城のメイドより手つきいいとか…」
「そうおっしゃっていただけるのならありがたいですね。…どうぞ」
「ありがとう。いただくわ」
「ちなみにそれ、王子に惚れる惚れ薬入れておきましたので」
「っ…」
「冗談です」
「………」
「王子と言っても、王太子様に惚れられても困りますし、スタンフォード様は…論外ですしね。まだ11歳ですし」
「あなた…」
「大丈夫ですよ。何も入ってない、ちゃんとしたお茶です。ご安心ください」
と、乳母兄弟は未来の第二王子妃で遊んでいるのだった。