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「という事で、ジョセフィーヌ=クラムト=ファフマンと結婚したい」
「なにが、という事で、なんだい…まったく…」
父が捕まらなかったから、兄である王太子に言えば、ため息交じりに言われた。女性の大切な問題を、そんな迷惑そうにするな!
「お前ね…いや、まあ、わからないではないよ。そして助けてあげたいという気持ちは、良い事だと思う。けれどね、」
「何が問題だ。実際の所は私が助けたのだし、本当にただの物取りであったぞ」
「その女性の身が清いかどうかの話ではなくてね」
「ではなんだ。身分か?そんなもの、」
「いいから黙りなさい」
う…兄が本気で怒ると魔力でちりちりと…こう、焼かれるような感覚がするから嫌だ。
「いいですか。お前がどこぞの平民を娶ろうが一向にかまいませんよ。構いませんけれど、貴方は上位貴族達から縁談の話が大量に来ている事を知らないのでしょう?だからそんなことが言えるんです」
「そんな話、知らないが」
「お前がそれらをまとめた手紙を読んでいないからでしょう」
手紙…父や兄から手紙は来ていたが、どうせ元気でやっているかとか、悪い事してないかとか、そういった物とばかり思ってみてないな。
「やっぱり。おかげで何度も返事はどうなのかと問い合わせが来て困っていたんです。お前の返答が分からないのでは、答えようがないですからね」
「悪い…でも、その手紙が来ているとして…それが何か問題が?」
「それらを受けるにしろ断るにしろ、きちんと筋を通さなければいけません。半年以上前から来ていた要件に断りも入れずに、妃を決めたなどという発表があってはおかしいでしょう?そもそも貴方は…妃に関してはどうしたいのです」
「どう、というと?」
「王の様に一人の…そのジョセフィーヌ嬢だけを妃にするのか、それとも…私の様に、妃を幾人か娶るのか、です」
「娶るのか!?」
「娶りますよ。…今は私の話ではなくてですね」
「へーそうか。皆仲がいいしな。そっか」
「だから、貴方はどうしたいのですか」
俺…は、どうしたいのか。特に考えたこともなかったし…そのうちなんとなく結婚して子供をそこそこ生んでもらって、としか考えてなかったからなぁ。
「縁談の話ってどこまで進んでるんだ?会ってから考えてもいいものなのか?」
「それはもちろん構いませんが、ある程度は絞りますよ。それとも…顔合わせのパーティーでもしますか?」
「それもいいかもな。話してみないとわからないし。もちろん、ジョセフィーヌ嬢も呼びたいがいいか?」
「…呼ぶんですか。どうなるかわかりませんよ」
「ジョセフィーヌ嬢とも仲良くできるか見ないとだめだろう?」
「……妃になる事前提ですか…」
「?当然だろう、俺が責任をとるんだからな」
「はあ…わかりましたよ。ただ…クラムト=ファフマンから断られる可能性もありますからね」
「あるのか?」
「…ありますよ」
「そうなのっ!?」
「そうなの」
「父からこう…」
「だめです」
「だめなの?」
「お前、父…王に言われたからって嫌いなやつと結婚したいの?」
「したくない」
「そういうことだ」
「…そうか。わかった」
ジョセフィーヌ嬢が俺の事嫌いと言ったらどうしよう。責任を取るとは言ったが…はっ!もしや許嫁とかいたりするのか?そうだとしたら、俺が二人の仲を切り裂くことに!?
「も、もしジョセフィーヌ嬢に好いた人とか許嫁…」
「それ、私が考えてないとでも?」
「いえ…」
「お前はもう黙って待っていなさい。後で知らせます」
「はい。お願いします」
と、そう言って、兄の部屋を出ようとして---
「あ。いつ結婚式するんだ?」
「…まだ先ですよ。一年後位になります。まずは3人一緒にしますからね…準備や調整が大変なんです」
「まだ発表してないよな。なんでなんだ?」
「一年後の話をされても、困るでしょう。貴族には話はしていますが、内密にさせています」
「そっか。おめでとう」
今更過ぎて、改めて言うのもばからしくなるくらい…仲がいいからな。兄とその婚約者達は。