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アルファポリス様で完結している物をUPしています。
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俺はルーヴェリア=ラ=ルヴージュ。ルヴージュ国の第二王子だ。父である国王は、少し身体が弱いが国は盤石なので問題ない。後を継ぐ王太子である兄もいる事だし…国を守る要の高魔力持ちの数は安定しているし。
だから、というか、余り考えるのが得意ではない俺は、武力を持って守るべく、騎士になった。騎士は、街の住民トラブルや防犯などの治安維持を行う為、見回りもしている。王子がなんでそんなことを?と、よく言われるが…騎士学校を卒業したら、まずは街の治安維持からというのが普通なのだから、皆と同じようにしているだけだ。
…それでも、騎士になって一月で隊長に据えられてしまって、そろそろ半年も経つが…日々頭を悩ませている。隊長になると、色々と…頭を使わねばならないからな。一緒に育った乳母兄弟に丸投げしているが。
「いや、放して!あっ…返して、返してよ!」
と、いつもの様に何人かで見回りをしていた時…路地から聞こえたその声に、思わずそこへ駆け込めば、真っ赤な髪が印象的な女性が荷物を取られたのだろう。男に縋り付いて、逃がさないとばかりに奮闘していたが…ちょうど振り払われて、突き飛ばされた所だった。その女性が地面に叩きつけられる前に、抱き止めることができたのは良かった。
「あっ…嫌、今月の生活費ぃ!」
「え…」
のだが…女性があげた声に、思わず茫然としても、おかしくないはず。
「あ、あの、先ほどはすみません、その、取り乱しまして」
茫然としてしまったが、仲間、というか部下と一緒に見回りをしていた為、部下がその女性の荷物を奪った男を取り押さえ、無事に荷物が戻った女性が…詰所でそう、礼を言った。
一応…経緯というか、事情を聴きたかった為、取り押さえた男と一緒に来てもらったのだ。だが…事情を聴くうえで、名前を聞き取り、貴族であると判明してからというもの…俺が話を聞くことになった。
まあ、分からないではない。私と一緒に見回った部下は…一応皆平民だからな。いくら…田舎の小さな領地の娘とはいえ、平民から見れば、貴族は貴族なのだから。
私がその女性…名は、ジョセフィーヌ=クラムト=ファフマンというのだが…私が事情を聞いていた部屋へと入れば、それは見事なカーテシーを見せた。ああ、貴族だな本当に。続けられた挨拶は、今は唯の騎士として接するように言う事で止めさせたが。
それでまあ、先ほどの謝罪となるわけだが…貴族の女性が生活費がどうのとあんなことを言うとは思えず、心の内に仕舞っておこうと思う。そう、あれは聞き間違いだ。
「…それはまあ、しかたあるまい。気にしなくていい」
「ありがとうございます」
「で…なぜそのような恰好で、あのような所に?」
そう、恰好。貴族が城下町に出かける時、町娘の様な恰好をすることはよくある。よくあるが…それにしても、その…質が良くない布地に、よく見れば修繕された跡もあるのだ。
「…うちの領地は、あまり裕福ではありませんので、給金が良い王都へ働きに出ておりました」
「それなら…王城のメイドのほうが良いのでは?」
聞き間違いでもなんでもなかった…というか、生活が立ち行かなくなる貴族がいるのか…政ごとはすべて丸投げしていたが、少しは学んでおくべきだったか。
それはともかくとして…事情を聴いて、そう問うた。街に働きにでるより、よほど良い給金が出るはずだからだ。貴族であれば礼儀見習いということで、素行がよほどでなければだが大抵は雇用される。平民だと様々なテストがあって難しい、らしいが。
その問いに返ってきた返答は、弟たちの面倒を見る必要があるからだという。
「…ここから領地までは遠いだろう。通いではないのであれば、同じことではないのか」
「いえ…来月末になれば、国へ納めた作物の代金が入りますので、それまでの生活費を稼ぐ為、一時的に働きにでていました」
一時的に、であれば仕方ない。メイドとなるとそう簡単にやめられては困るものだからな。作物の代金に関しては…ああ、確かに、そう、だった…はず…?そこらへんはすべて父である王や、兄である王太子がやっているから把握していない。ただ…そこまでしなければ立ち行かなくなるとは…と、哀れに思い、早めに支払うように頼んでおくと言えば。
「いいえ。うちの領地だけしていただいては、よそから不満が出るかもしれません。そのような事があってはいけません」
「しかし…」
「幸い、ありがたくも…騎士様が取り返してくださいましたので」
だから大丈夫なのだと、しっかりと意志の強そうな瞳で見られては…そうか。としか言えなかった。
その後は、事情を聴くと言っても、現行犯で捕まえているのだし、なぜあの通路にいたのか、どのようにあの男に荷物を取られたのかなどを聞きとり終えれば…当然、ジョセフィーヌは帰ってしまった。
これから領地へ帰るのだというから、馬で送ってやろうと言ったのだが…綺麗に断られてしまった。もう少し…そう、領地の事とか、生活の事とか、聞きたかったのに。
後ほど部下に、見送っていた時の私が未練がましく見てるように見えたらしいが、決して違うからな。心配していただけだからな。