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5/6

◆5◆

長らくお待たせを致しました。

これにて完結です。一応。

題名変えてみましたが、いかがですかね?


 ……見事なまでの曇りね…


 空を見上げたキャデルはそっと溜息を吐いた。

 今日は世にいる乙女なら一生に一度の思い出に胸をときめかせるハレの日だ。

 

 あの日、初めてくちづけを交わした私とフォールは、告白成就の勢いそのままに二人で結婚の許しを得るため陛下の元に行った。

 いや、もうすでにフォールが陛下と取り決めていたのだが、改めて二人の気持ちを報告しておいたわけだ。

 丁度お母様もいて、自分達の決意を告げると大いに喜んでくれた。

 それから私の王太子妃教育が始まるわけだが、元々王室の教育を受けている私は特に滞ることなく進め一年を待たずに終えた。

 それが今日となったのはやはり一国の王子の結婚式の準備に一年余を要したからだ。

 国を挙げての行事は城下を華やかに飾り、諸外国の国賓の為に今日以外の日も様々な行事が組まれ催されている。

 私も爪の先から髪の一本に至るまで念入りに日々磨き上げられ、今日だけの為に惜しみない準備をした。 

 そして誰もが羨むような豪奢な純白のドレスに身を包んでいる。

 自分でいうのも何だが、首元から胸へと掛けてほっそりとした肩をレースが包み、レースから僅かに見える肌は光り輝く肌理(きめ)細やかな白さが際立ち、磨き上げられた美しさに自信と誇りを持たせてくれる。

 ウエストから裾へ向かって広がる刺繍も凝ったデザインで光に反射をしてその花嫁姿をますます神々しいものにするはずだった。


 それなのに。


 何度見ても見上げた先にある空は曇天。

 それこそ後々晴れていきそうな曇りではなく、今にも降り出しのちに雷雨にでもなりそうなまごうことなき曇りだ。

 普通にこういう日は晴天になるものだと思っていただけに、朝起きてカーテンを開けた時の侍女越しに見えた空に驚いた。

 準備を進めていく間に少しでも晴れ間がと思っているのに、暗雲は垂れ込める。


 (……笑うしかない)


 見せるための笑顔はそれこそ幼少から板についているが、今日は心の底からの本気の作り笑いで一日過ごせそうだ。

 すべての支度を終えると侍女が迎えに来る。

 呼びに来た侍女を先頭に王宮内の礼拝堂へ進む。

 部屋を通り過ぎる度に私の後に続く侍女達の数は増えていく。

 いよいよ本堂へと続く扉を前に控え室でクレアが待っていた。

 本人は断ったが、私からのたってのお願いとお母様を始め私達家族の願いでクレアには式に参列者として出てもらうからだ。


 「王太子妃殿下にお喜び申し上げます。より一層の幸福の導きをお祈り申し上げます」


 私が差し出した手を軽く握り、額をつけたまま深く腰を折ったクレアからお祝いの言葉を貰う。


 「ありがとう。貴女にもクレア。これからも私をよろしくね」


 ぱっと上げたクレアの目は真っ赤に充血していて、ずっと涙を堪えているのだと察する。

 もちろんですと告げる声も震えている。

 私とて返す返事に涙が浮かび声が震えた。

 そんなクレアにベールを掛けられいよいよ入場の時を待つ。



 開かれた扉の先は広い堂内を上から下まで蝋燭が灯り、ステンドグラスと相まって揺らぐ光で満ちた幻想的な設えとなっていた。

 多分、昼間なのに今日は曇っていた為、堂内が暗く明かりが取れないため苦肉の策が最上等に功を奏していた。

 昼なのに暗いからの夜仕様。

 いや、却って煌びやかさはある。清廉さがないだけで。

 その奥にある上座の壇上で待つフォールの元へ一歩ずつ、ゆっくりと歩を進めながら中央の赤い絨毯を進んで行く。

 司祭の前に着くと、フォールと向かい合ったのち私だけが両膝を突いて跪く。

 もちろん工程に必要な準備を挟みながらだ。

 今日だけのために用意されたドレスに身を包んだ侍女達が膝を突くクッションを用意したり、フォールに錫杖を渡したりして用意はされる。

 私たちの結婚式は民衆のそれとは違って、結婚を国に宣誓する約束の儀だ。

 フォールはいずれ国王となるわけだから、私は未来の国母となり、私達は国と国民の為に働くことを徒する義務があるからだ。

 司祭が宣誓を読み上げ、フォールが答える。

 跪き顔を伏せた私の肩にフォールが錫杖を乗せる。

 フォールから私への宣誓があり顔を上げる。


 (…………完っっっっっっ璧ね!!!)


 今日初めてまともに見たフォールはこの世のものとは思えないくらいの美しさをだだ漏らしてした。

 総純白にところどころ豪奢な金糸の刺繍が施された騎士服に近い正装に、王家のみが付ける勲章の数々が胸元を飾り、雪ヒョウの毛皮で縁取られた王冠とローブに身を包んでいる。

 その豪華な衣装に負けない顔。

 この一年近くの間フォールは髪を伸ばしていて、肩下まである綺麗な銀髪は普段遊ばせているが、今日は丁寧に撫で付けられ一つに束ねられてある。

 宝玉のような紫の双眸も健在だ。

 気を抜けば口が開きそうになるのを堪えながらフォールを眺める。


 「!」


 気付かれた。

 慌てて下を向いたが、見惚れていたのを察したフォールが口の端を僅かに上げるのを見た。

 これでまた勝ち誇ったフォールに嫌味を言われることだろう。

 だが、人生最大に盛って貰って着飾ったのに、夫に負けたのだ。

 女としては悔しいが、この美しい生き物の伴侶になった覚悟はしなくてはならない。



 あの日。

 私の結婚話をした時に見送ったフォールの背中を諦めなくて良かった。

 フォールのいない人生など私にとっては何の意味もないと思うから。

 例えどんなに嫌味で憎たらしい美貌の悪魔でも!



 私が俯いている間に全ての宣言が終わり、立ち上がる。

 二人並んで参列者へ向き、壇上から降りる。

 王と王妃の並ぶ前へと移動をし、今度は二人で跪く。

 フォールが挨拶を口上し、私もそれに倣う。

 王陛下より私達二人への祝辞と参列者への宣言をもって婚礼の儀が終わった。

 あとは披露宴と夜会を三日間行い、招待したすべての客に挨拶ともてなしをして、落ち着いたら優先順位の高い来賓客の元へお礼の挨拶を兼ねた外遊が待っている。

 本当に落ち着けるのは来年か再来年……。

 ふと差し出されたフォールの手に気付いて彼を見上げる。


 「しっかりやれよ、我が妃」


 何度見ても見飽きない惚れ惚れとする笑顔を浮かべたフォールが私の耳元に囁く。

 囁かれた耳から熱が広がるのを感じて、フォールの手に重ねた自分の手に力を込める。

 フォールに全部伝わるといい。

 この手を選んだ私の覚悟を。

 この手を選ばせた覚悟を。

 私の人生最高の笑みをフォールへ向ける。

 フォールが何か返事をしてくれたが、その声は私の耳には届かず消える。


 ──── 美形は雷鳴を背負ってもいいわね……


 とうとう耐えられなくなった空が稲妻を落とし、フォールの美貌はこれまた美しい稲光りを逆光に凄みを増す。

 美麗な悪魔のごときフォールに魅いられた私が、彼の妃としての人生を選んだことに悔いなしだわね!



 

 


 

お読み頂きありがとうございます。

重ねて、お付き合い頂きありがとうございました。

また何かでお会いできますよう。

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