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フォールブラッディ。
正式な名前は何だったかしら?
とにかく正式な名前は長くて、当時七歳だった私には覚えきれなかったことは覚えてる。
お母様に連れられて初めて行った王宮。
そこで初めて会った王様の後ろから出て来た初めて見る男の子。
無表情にも見える整った顔立ちにふわりと揺れる銀髪と伏し目がちな紫の瞳。
あんまり可愛いから本の中に出てくる水の妖精みたいって思ったの。
な・の・に!
口を開けば意地悪なことばかり、だからこっちも手加減しないで反撃をしてやったわ。
悪口を言われたら倍は言い返したし、意地悪をされたらその倍の倍返してきたつもり。
何年も喧嘩ばかりしていれば、二人の仲は最悪、なんて王宮中が知ってることよ。
でもそれも今日でおしまい。
なぜなら私の嫁ぎ先が決まったから。
あんな見掛けだけ麗しい王子だろうが、私にとっては永遠のライバルだから、これでもう会わなくてもいいかと思うとせいせいするわ。
今だってそう。
お父様に縁談の話をされたって言った時のフォールの顔。
怖い顔して一言も言わずに部屋を出て行ったじゃない。
最後の最後に私が勝ったようなものよね。
だからこれは嬉し泣き。
フォールと会えなくなるなんて思いもしなかった私の誤算。
何も言わずに去った彼の後ろ姿が滲んでよく見えない。
今更気付かないようにしていた気持ちが溢れる。
こんな風にフォールに何も言って貰えない自分が泣くなんてどうかしてるのに。
読んで頂きありがとうございます。
他にも書き散らかしておりますのでお暇があればどうぞ。
ではまたお会いできますことを。