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ナリスとジョイナス王子

 ナリスとジョイナス王子は、ナリスの公爵領にある屋敷に戻ってきた。結局子供も大人も皆が興奮してしまい、とてもじゃないが授業どころではなくなったからだ。


 今二人は、公爵邸にある庭を歩いている。そこはちょうど今花が咲き乱れていてこの庭が一番きれいな時期だ。

 

「ありがとう。申し込みを受けてくれて。でもちょっとずるかったかなあ。子供達に協力してもらったようなものだものな。でも私の気持ちは本物だよ」


 ジョイナス王子は、ナリスの手を握りしめてナリスの目をじっと見た。


「ありがとうございます。私もうれしいです。でも婚約者だった方は大丈夫なのですか。今悲しんでおられないかと...」


 ナリスの言葉にジョイナスが笑いだした。


「大丈夫だよ。ごめん、あの王女のことを知らないからそう思うのも仕方がないよね。でも彼女なら今、自分がほしかったものを手に入れてご満悦さ」


「そうなのですか?」


「ああ、彼女が私と初めて顔合わせしたときに、私になんて言ったと思う?」


 ナリスが首をかしげると、ジョイナスがあの時のことを思い出したのか、少し面白がったような遠い目をしてナリスに語ってくれた。



 ジョイナスは、国のために隣国の王女と顔合わせをさせられることになった。しかし自分はナリスと別れたくない。どうにかしてこの王女と破談にしたいと考えていた。

 二人で庭を散歩するということになり庭に出た時だ。王女は何を思ったのか、自分をほうって後ろの方を歩いている王女自身の護衛のところに走り寄り、ぐいぐいその護衛の腕をつかんでこちらに再びやってきた。


「わたくし、この人が好きなんですの。どうしても一緒になりたいのです。あなたにもそういうお方がおありだそうですね。協力しませんこと?」


「ちょっと、王女様。そんなことをおっしゃってはいけません」


 護衛はそう言うと、つかまれていた王女の腕を丁寧にはがして、ジョイナスの元にひざまずいた。


「わたくしと王女との間には何もございません。ジョイナス王子、あなたならきっと王女をむげになさらないでしょう。どうぞ先ほどの言葉は戯言だと思ってお許しください」


 そう言って護衛は深く頭を下げたのだった。


「頭を上げてください。そんなことをしていては、あなたの大切な王女を守れませんよ」


 ジョイナスがそう言ったとたん、護衛ははっと顔を上げた。そして素早く立ち上がると、王女の後ろに戻った。


「あなたのおっしゃる通り私には、結婚したい者がおります。あなたと同じですね。この際協力しましょう。何かいい手立てでもありますか?」


「そうですわね。わたくし一人では大変ですけど、あなたにお手伝いしていただけたら...」


 そうしてジョイナスと隣国の王女と婚約することになった。ただし本人たちの中では仮という言葉が付くのだが。

 隣国の王女はマリアといった。マリア王女は非常に有能だった。隣国のマドヴィには、マリア王女のほかに弟の王子がいる。王子も賢いといわれているが、マリア王女ほどではないのかもしれない。それほど頭が切れる王女だったのだ。

 そんな王女に愛されている護衛はといえば、武骨で無口なタイプだった。それでも王女のことを本当に大切に思っているようだった。ある時ジョイナスが、王女と作戦のため話し込んでいるときだ。ものすごく鋭い視線を感じた。そちらを見ると、あの護衛がまるで敵でも見るかのようににらみつけていた。

 一応形ばかりとはいえジョイナスは王女の婚約者である。しかもそんな顔をしているとは本人でさえ気づいていないのかもしれない。たぶん無意識にしているのだろう。

 ジョイナスは王女をちらりと見ると、王女はそんな視線をジョイナスに向けている護衛をいとおしそうに見ていた。二人の様子を見るにつけ、うらやましくて仕方なかった。

 まあそのおかげで、自分に喝を入れて頑張ることが出来たのだが。


 結果的に言えば、政情不安だったもう一つの隣国キエイドが安定した。これも王女やジョイナスの頑張りによるものだ。それに加えて王女は、自国に巣くっているどうしようもない貴族たちを一掃することに成功した。まあこれにはジョイナスの国の、ジョイナスの大切な人を苦しめている貴族を処分することにもつながった。


 こうして周りを着実に固めていった二人は、円満に婚約解消をすることに成功した。


「ジョイナス王子、あなたのおかげでわたくしどうやら幸せになれそうですわ。ただ弟を補佐する宰相というものにならなくてはいけなくなったのですけれど。でもマービスとの婚姻を認めてもらうことが出来ましたので文句は言えませんわね」


 そう言ってマリア王女は高らかに笑った。マービスとは彼女の愛する護衛の名前だ。


「あなたの方はどうですの?」


 たぶん彼女の情報網だったら、とっくにジョイナスのことは知っているに違いない。しかし何も知りませんという顔をして聞いてくる彼女に、ジョイナスはニヤッと笑った。この顔はとてもほかの人には見せられない顔だ。ジョイナスは常に穏やかな印象を常に周りに与えているのだから。


「あなたのおかげで、私も排除出来ました。彼女はとても悲しい思いをしていましたから。でもこれから私が彼女を幸せにしたいと思っております。あなたに会えたことは私にとって本当に幸運でした。それにあなたを敵に回さなくて本当によかった。これからも隣国同士いい関係を築いていきましょう」


「そうですわね。わたくしもそう思いますわ。ただ一つ思っておりますのよ。あなたに愛された女性に少しだけ同情いたしますわ。あなたの本当の姿をずっと知らないままでいてほしいと同じ女性として思います」


 マリア王女が真顔で言ったので、ジョイナスも負けず言い返した。


「それを言うなら、あなたにこれほど愛されている彼に、私も少し同情を覚えますよ。お互いさまです」


「まあ~、マービスはこんなわたくしでも、いないと生きていけないと言ってますのよ」


 マリア王女は少し上を向いて高笑いをしたのだった。


 

 

 ジョイナスは、ナリスに自分に都合のいいことだけを説明していった。ナリスは、そんなジョイナスを尊敬のまなざしで見てくれた。


「わたくしもマリア王女様といつかお会い出来たら嬉しいですわ」


 ナリスの言葉に、かわいいナリス一人では絶対にあのマリア王女に会わせるものかと心の中で固く誓ったのだった。

 

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