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私ジョイナスは、先日ナリスと結婚をした。今日は、ナリスの兄であり私の幼馴染であるランダルとその妻であるパメラがやってくる日だ。
「ジョス、今日はパメラお姉さまが来てくださるのよ。今から楽しみだわ」
ナリスはそれはそれは嬉しそうに言うので、一瞬私は会わせないようにしようかと思った。しかしそんなことをしたら私のいとしいナリスが悲しむに違いない。私は若干引きつった顔で言った。
「そうか、それはよかったね」
「ええ、さあ今日のお茶に合うお菓子を選ばなくっちゃあ。パメラお姉さまは、あまり甘すぎるお菓子はお好きではないのよ。忙しいわ」
私の少しこわばった顔に気づくこともなくナリスは、お茶と一緒に出すお菓子の手配に部屋を飛び出して行ってしまった。私は、深呼吸をしてこのイライラを落ち着けることにした。
「パメラお姉さま~!」
ナリスが、歩いてくる二人を見て飛んでいった。思いっきりパメラに抱き着いている。パメラも嬉しそうだ。パメラは、ナリスが見えないことをいいことに、私にどや顔を見せている。私は、たぶんすごい顔をしていたのだろう。パメラは全然気にしていないが、その隣にいたランダルが私の表情に気づいて苦笑していた。
「よく来てくれた」 (来なくていいのに)
「お招きありがとうございます」 (お前はどこかにいっていろ)
私とパメラの間で見えない火花が散っている。
「ナリス、慣れたかい?」
ランダルが、ナリスに聞いた。私とパメラの見えない戦いを終わらせようと、ナリスに話しかけた。
「ええ、お兄様。ジョスがいろいろ教えてくださるの。それに王宮の皆さんもとても優しくて、私幸せだわ」
「それはよかった。ジョイナス王子ありがとうございます」
ランダルは本当に幸せそうに微笑むナリスを見て安心したようだ。当たり前だ。ナリスが気持ちよく生活できる様に気を配るに決まってるではないか。そんな勝ち誇った私の顔を見たパメラは、残念そうな顔をしている。いったいなんだ、これがランダルの妻ではなかったら今頃とっくに追い出している。
「今日のお菓子、ナリス様が選んでくださったの? 私が大好きなお菓子ばかりだわ」
パメラは目の前のお菓子を見てから、嬉しそうにナリスの顔を見た。ナリスの顔が嬉しそうに笑った。
「そうなの。私がパメラお姉さまのために選んだのよ」
パメラは、そんなナリスの顔を見て顔が緩んでいる。だらしのない顔だ、そう思った時だった。そのだらしない顔を見ているランダルもとても嬉しそうで幸せそうな顔をしている。
きっと私もランダルのような顔をしているのだろう。そう思うと、私も自然に顔が緩んだ。
そんな時だった。
「ねえパメラお姉さま、あの時の訓練本当に面白かったわね」
「訓練?」
ナリスの話に、気になった私がナリスに尋ねた時だ。
「あっ、ナリスこのお菓子どこで売ってるんだ? とてもおいしいな。なあ、パメラ帰りに買って帰ろうか」
「そっそうね、買って帰ろうかしら。あっはっはっ」
急にランダルとパメラが慌て始めた。ナリスはそんな二人に気づかずにのんきにお菓子の話を始めた。
「このお菓子は、王宮の料理長自ら作ってくださったのよ。私がリクエストしたの。よかったら持ってお帰りになる? たぶん多めに作ってあるはずだから」
「そっそうだな。頼むよ」
やはり何か怪しい。私は話がそれたのをまた戻すことにした。
「ねえナリス。さっき言った訓練て何のこと?」
私が笑顔で言ったからか、ナリスはぽろっとそれを口にした。
「前にお姉さまが、私をおぶってくださったのよ。訓練だからって。庭を何周もしたわよね。パメラお姉さまってこう見えて結構力があるのよね」
「そっ、そうだったかしらね? あっはっはっ」
明らかにパメラは動揺している。何かを隠している。ランダルの額には、暑くもないのに汗が浮かんでいるではないか。
「どうしてそんな訓練をしたのかな。ナリス知ってるかい?」
「えっ、どうだったかしら。あっお姉さま確か言っていたわね。このままでどのくらい走れるかしらって。そういえばその時冗談でおっしゃてくださったわね。私と留学するのもいいわねって」
ナリスの一言で、部屋の温度が五度は下がっただろう。
ひぃぃ_____。
私の顔を盗み見たランダルとパメラは、腰を抜かさんばかりに震えだした。ナリスは、急に真っ青な顔になったランダルとパメラを見てから、私を見た。そこでナリスは、私がふたりに怒っているのを初めて知ったのだろう。
「ジョス、違うのよ。パメラお姉さまが言ったことは冗談だったのよ。でも私、あの時は本当にうれしかったの。パメラお姉さまの背中の温かさが、私を救ってくれたの。あの時本当に毎日がつらかったから」
ナリスはあの時の事を思い出したのだろう。その目が少し潤んでいた。それを見た私は、自分の勝手な怒りが消えていくのを感じた。確かにあの時には、自分勝手にもナリスが自分だけに目を向けるように仕組んでいた。ナリスはずいぶんつらい思いをしたことだろう。今思えばそれを支えてくれていたのは、ここにいるパメラだろう。あの頃パメラは、自分の事のようにナリスを心配してくれていた。
もしかしたら、本当にナリスを背負って他国へ留学する気だったのかもしれない。あのまま私が何もしなかったら。出来なかったら。そうしなければならないほど、ナリスの心は弱っていたのだろう。そう思うと、自然に言葉が出ていた。
「パメラ嬢、あの時のナリスの心を守ってくれてありがとう」
私が頭を下げたのを見たパメラはびっくりしていたが、パメラは恥ずかしそうに言った。
「いえ。ナリス様が今お幸せで、私もランダルも幸せです。これからもナリス様がお幸せでいられるように、どうぞよろしくお願いします」
気が付けば、パメラもランダルも、そして私もお互いに頭を下げあっていたのだった。
そして誓うのだった。一生ナリスを守ると。そして幸せにすると。
おわり
ありがとうございました。




