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婚約者をないがしろにする人はいりません  作者: にいるず
番外編 ランダル・レリフォルの婚約者パメラ
10/16

3

 パメラが馬車を降りようとすると、すぐにすっと手が出てきた。パメラがその手を見ると、ランダル本人が馬車のところまで迎えに来てくれたようだ。パメラはびっくりしたが目の前のランダルに手をのせて、ランダル本人の案内で公爵邸に向かった。後ろではパメラの父がぶつぶつつぶやいていた。パメラが横目でちらりと見ると、ランダルの前だというのに父は顔をしかめっ面にしていた。どうやらあまり嬉しそうではないようだ。


 公爵邸はさすがともいうべきか洗練された重厚感のあるお屋敷だった。大きな部屋に通されたパメラは、レリフォル公爵当主に挨拶をした。


 「パメラ・チェイスにございます」


 「よく来てくれたね」


 レリフォル公爵は、ランダルに歳を重ねたような美丈夫だった。その横にはこれまたあでやかな夫人が、優しい笑みを浮かべて立っている。そしてその横には。まだ小さなかわいらしい女の子が立って、こちらをじっと見つめていた。パメラが思わず笑いかけると、その女の子もニコッと笑ってくれた。

 パメラが心臓を撃ち抜かれた瞬間だった。その時の事を婚約者となったランダルに、今でもからかわれるほどパメラの表情は違っていたらしい。パメラとナリスとの初めての出会いだった。


 そのあとレリフォル公爵に何か言われた気がするが、その時の事はよく覚えていない。気が付けばパメラはランダルに庭を案内されていた。


 「気が付いた?」


 ランダルは、夢の中にいたようなぼ~としていたパメラに、怒ることもしないで辛抱強くパメラがこちらの世界に戻ってくるのを待っていてくれた。


 「先ほどのかわいらしい女の子は?」


 パメラの頓珍漢な第一声にランダルが笑いながら言った。


 「僕の妹だよ。名前はナリスというんだ」


 「ナリスちゃん、かわいい名前ですわね」


 「やっぱり君に決めて正解だったよ」


 パメラが感心してそうつぶやいたのを聞いたランダルは、思いっきり笑ったのだった。その言葉にパメラははっと我に返り、ランダルに疑問を投げつけた。


 「ランダル様、わたくし今までランダル様とお話したことがないのですが。どうしてわたくしを婚約者にしようと思ったのですか?」


 ランダルはパメラのほうを体ごと向いて、じっとパメラの目を見た。こちらを向いたランダルは、やはり『ほほえみの貴公子』と呼ばれるだけあって、顔の造形が整っている。あるべきところにきちんと目や鼻、口がきれいに配置されており、誰が見てもカッコいいと言われる顔をしていた。そんな人にじっと見られて、初めてパメラはランダルを意識した。


 「実はあなたの事は、前からよく知っていてね。その裏表のない性格をとても好ましく思っていたんだ。初めてあなたを見たのは、今から三年前ぐらいにあなたが王宮に来たお茶会かな」


 ふたり、公爵邸の庭のパティオにある椅子に座った。


 そこでランダルは、初めてパメラを見た時の事を話してくれた。


 ランダル・レリフォルは、由緒あるレリフォル公爵家の嫡男だ。幼い頃から教育を受けていた。幼いながらもお茶会に出れば、女の子やら男の子やら皆が自分に寄ってきた。はじめは別にそれを疎ましく思ったこともなかった。


 しかしある日、自分に寄ってくる男の子たちの話を聞いてしまった。それは偶然だった。子どもたちだけでのお茶会で、ちょうどランダルは父に呼ばれた。この国の第一王子の遊び相手に選ばれたのだ。そうして席をはずして戻った時だった。席に戻ろうとしたランダルにもその声が聞こえてきた。いつも自分に寄ってくる男の子たちが、大きな声で話していたのだ。


 「あいつ、今度王子の遊び相手に選ばれたらしいぜ」


 「そうか、だからか。父上があいつと仲良くするようにうるさかったんだよ」


 「面白みもないやつなのに、こちらから話しかけなくちゃいけないなんてめんどくさいよな」


 ランダルがいないのをいいことに、男の子たちは大声で話していたのだ。ランダルの足が止まった。今まで自分にすり寄ってきたのは、親に言われたからなのか。ランダルは、自分が好かれているものとばかり思っていた。ランダルの父は、友達について一言も言ったことがなかった。ランダルがお茶会でのことを話しても、頭をなでながら、そうかそうかとしか言わなかった。まさか親に言われて、しぶしぶランダルと仲良くしようとしていたなんて夢にも思っていなかった。

 その日からだ。ランダルが変わったのは。どんなお茶会やパーティーでもそつなくこなすが、自分の事は決して皆に話さない。ただ微笑んで聞くだけだ。

 そんなランダルを見た父は、ランダルの頭をなでながら、よくこういっていた。


 「お前にも、きっと本音を言える者が現れるよ」


 それはランダルにとって呪文のような言葉となった。決して期待はしないが、いつか現れると信じていた。そして一人は現れた。王子と臣下という身分の違いこそあれ、本音を言える者に。ランダルはそこでもう期待することをやめた。自分には一人いればいいではないか。


 ある時の王宮のお茶会だった。それは、実質見合いを兼ねたお茶会だった。この国の唯一の王子ジョイナスも参加するとあって、そこに呼ばれた女の子たちは皆張り切っていた。ランダルも公爵家嫡男であり、当然のように女の子たちが群がってきた。しかしランダルは愛想よくふるまうだけだ。

 しかし運命の女神は、そんなランダルに幸福をもたらしてくれた。

 


 

 


 



 

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