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月光の歌  作者: サンジン
虚空月 篇
6/39

1楽章。彼は英雄の夢を見ない。5

「あれがカイン・ロベール伯爵。いい部下を置きましたね。モシュコヴィチ公」

そう言って現れた金髪の女性。

レイラ・メネアドル男爵。

男性用の黒いスーツを着て、170cmほどの身長に美しい美貌の女性であり、瞳は黄色を帯びて、彫刻のような冷たい表情をしていた。

リチャードは突然現れたレイラに驚かず、ゆったりと口を開く。

「面白いだろう?彼奴(カイン)。本能的にこの情報の出処に疑問を持った」

「そもそも私があなたに渡した情報ですから」


──たった1日でリチャードがどうやってそのような詳細な情報を得たのか。


もちろんリチャードはその程度の能力も権力もある。

普通ならそんな疑問は持たないだろう。

それでもそれを考慮しても、一日は早すぎる。

いくらリチャードだとしても、そうした詳細な情報まで持っていることには疑問を抱かざるを得ない。


──考える可能性は一つ。


「しかし、私という情報提供者の存在に最後まで気づかなかったことは残念さを(ひょう)します」

外部の情報提供者。

それがこのレイラ・メネアドル男爵だ。

「それより宜しいですか?見たところ作戦にノイズが入ったようですが」

「それは心配するな。子供じゃないから。それより女王についての情報は感謝する。メネアドル男爵。おかげで女王に先手を打つことができた」

「私がその情報をくれたのは、あなたが他の公爵たちと協力することを願った行動です。しかしあなたは他の公爵たちに助けを求めず、情報提供者である私を部下に隠して、あなたの戦力だけでこの仕事を処理しようとしています」

顔の表情には変化がないが、レイラの言い方には不快感が隠れていた。

そんなレイラの感情に気づいたリチャードは笑いを見せた。

「君は本来【中央の武器庫】と呼ばれる『アルセナル公爵家』の分家である『メネアドル男爵家』の人間だ。そんな君が俺のところに来たということは、少なくともアルセナル公爵家は動くつもりはない──違うか?」

「……」

図星だったリチャードの言葉に沈黙するレイラ。

リチャードにその沈黙は彼女なりの肯定に見えた。

「無謀…いや、傲慢です【北の盾】リチャード・モシュコヴィチ公爵」

「俺のリビドの属性は傲慢だからな。何よりもドラクル血統は基本的に傲慢。クォーターでも、その傲慢さが残っている」

「その傲慢さがあなたの命取りになる」

「こわいね~そんなに怒るな。リビドから殺気が出てるぞ?メネアドル男爵」

ぶっそうな言い方に比べて顔の筋肉が死んだのか、レイラの表情に変化はない。

一見すると、よくできた人形のような顔だ。

そんなレイラに両手を挙げて、戦う意思がないことを伝えるリチャード。そんな彼の傲慢さにレイラは小さなため息をつく。

「あなたはこの事態の重要性とそして危険性を自覚していません。まあ、遺言はよく聞いておきました。モシュコヴィチ公」

その言葉を最後にリチャードを後にするレイラ。

そんなレイラを見て、渋い表情を浮かべるリチャード。

「おっかないお嬢さんだ」





作戦を実行するために雑草巣(ネストウィード)がある平野までバイクを走らせたカイン。

彼がペレガティ・ポーレの偵察に出ることにした。

現在、近くを守る凶獣は昨日のようなアーマムス8匹。全部C級た。

『少なすぎる。リチャードさんの言う通り、まだ生まれて間もない女王だからなのか?』

それでも、あの巣の内部には大量の凶獣があるはずだ。

まだ偵察兵が少ない時、雑草巣(ネストウィード)を発見したのは幸運だ。

『でもやっぱり違和感がある。どうしてリチャードさんはこんな詳しい情報まで知っていたんだろう?』

その場ではリチャードがいたので聞けなかったのが、1人で考えてみるとやはり疑問だ。いくら低いBランク(推定)の女王でも、リチャード一人で女王討伐は相当な挑戦だろう。しかしリチャードの自信感でカインはその部分を指摘できなかった。

『何か誘導された気分だ。それともリチャードさんが他の公爵に女王の資源を配分したくなかったためか?いっそ、それなら楽だが』

そやってカインは猟銃で雑草巣(ネストウィード)を狙う。彼らが受けた任務は、日が暮れるまであそこから出る凶獣を押さえておくこと。今のところ、凶獣の動きもおとなしく、あえて先制攻撃をする理由はない。

「だからこそ──」

「あえて先手を打つ…ってことたろ?カイン伯爵」

その声の主はエリオット·スチュアート子爵。黒いスーツに両肩にはマスケット銃を背負っており、彼のそばには黒い本を開いている少女。カロル・スチュワートも立っていた。

「すみません、マスター。二人を止めましたけど…」

「謝ることはない。いや、それよりも何に乗って来たのコーヤ?!リチャードさんの凶獣じゃないか! どうやって乗ったの?!すごい!」

カインはリチャードの凶獣であるクモイトヒョウのアラニャの背中に乗ってきたコーヤを見てびっくりした。どうやらコーヤを自分と同級の強者として認めたようだ。

カインはまず、心を落ち着かせみんなに話す。

「先に、僕らの任務はあくまでリチャードさんが活動可能な夜までの時間稼ぎ。これは分かるだろう?」

「しかしそれは別にあいつらを倒してはいけないというわけではないだろう?カイン伯爵」

「その通りだ。エリオット」

エリオットの言葉に悪童の微笑を浮かべるカイン。

コーヤが「まさか…」と不吉さを感知する。

「リチャードさんが戦いやすいように雑魚たちを処理しておくのが我々の役割。まだちょっと引っかかるものもあるけど、じっとしている理由にはならない」

「分かってるじゃないカイン伯爵。今回だけはその意見に賛同だ」

「リチャードさんの凶獣クモイトヒョウのアラニャを先鋒に立たせ、銃を使える僕とエリオットが支援射撃。初戦はこれがベストだろ」

「ああ、文句はない」

カインの提案にうなずくエリオット。

しかし──

「その意見には賛同できませんわ。エリオット兄様」

「え?」

「私もカロルお嬢様の意見に同感です。マスター」

「は?」

カロルとコーヤがそれを拒否。

「わたくしが召喚した悪魔で凶獣をぶち殺しますわ」

「私がアラニャさんの背中に乗って、前方の凶獣たちの息の根を止めます」

いや、むしろ意見を出す二人だった。

「?コーヤメイド長。凶獣の群れに飛び込む危険を知っておっしゃるのですの?おとなしくわたくしの言うことを聞きなさい」

「?いいえ、むしろ今回はカロルお嬢様が私の意見を参考にする時です。悪魔召喚にどれだけのリビドを消費すると思いますか?」

お互いを睨み合い、決して譲らないカロルとコーヤ。

そんな2人を眺めながら汗だくになるカインとエリオットは、お互いに「あの2人を止めろ」と視線を送るだけだった。そうして二人の男がたじたじしているとき、コーヤとカロルは静かに口を開く。

「それでは半分ずつ」

「──ですわ」

その言葉と同時にコーヤはアラニャの背中に乗って突撃し、カロルは懐の黒い本を開いた。

「72書シリーズ起動。召喚に応じなさい!35位!マルコシアス!」

カロルが黒い本を持って叫び始め、虚空から怪物が飛び出した。

雌オオカミの体にグリフォンの翼、蛇の形をした尻尾を持つ悪魔。

その悪魔が口から火を噴くと、火がついた凶獣の体の一部は石となってしまい、それを見逃さずコーヤはアラニャに乗って疾走し、そのまま急所を狙って息の根を止めた。

「あれが噂の悪魔『マルコシアス』の『石化の炎』か。おまえさんの妹めちゃくちゃだね。エリオット子爵?」

「そう言う君のメイドこそ、体の一部が石化して暴れる凶獣に恐れず飛び込むのではないか?それもきちんと急所を狙いながら」

「そう言うところだけ上手いんだ。教えたこともないのに」

「HAHA。君も苦労だな」

「お互いにね」

カインとエリオットは仲間思いが深まった。

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