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月光の歌  作者: サンジン
虚空月 篇
4/39

1楽章。彼は英雄の夢を見ない。3

次の日。太陽暦658年12月17日。朝。

巨大なビルが立ち並ぶ現代式の都市で、特に目立つ高い建物が建っている。ビルのような現代式の構造物とは程遠い、まるで中世の城を連想させる建物。そこが民間軍事会社『シールドキーパー』の本部だ。

そこの社長の命令で帰ってきたカインは、

「このドアホが!!」

お目玉を食らっていた。

「まったく、お前という(やつ)は…伯爵の爵位を受けたと自慢に落ちたのではないか。カイン・ロベール」

黒いタキシードを着た赤い瞳の男性がカインの顔を見て大きくため息をつく。

リチャード・モシュコヴィッチ。

民間軍事会社『シールドキーパー』を運営するCEO。同時にプエルタ王国5大公爵の一座に座っている貴族であり【吸血種(きゅうけつしゅ)=ドラクール】の血が流れるクォーターだ。

「カイン、俺ときさまの関係は?」

「雇用主と雇用人の関係です。リチャードさん」

「その通り。きさまが伯爵の爵位に就こうが、俺が工作であろうが、俺たちの契約関係は変わらない。シールドキーパーが会社設立前から『傭兵団』という枠をはみ出さないようにな」

「……」

カインはリチャードがなぜ自分を呼んだのか理解していた。

リチャードもまた、それを知っているからそれ以上叱るのをやめた。

「まあ、傭兵時代の癖を捨てろとは言わない。きさまがコーヤと二人きりで戦うことを好むのもよく知っているし。でもさ──」

リチャードは壊れた高速道路の写真をカインに突きつけた。

昨日、コーヤのバズーカで無残に砕かれた高速道路の光景が見えた。

「ほかの隊員の前で高速道路を壊すなんて、どういう神経だ!そんなに首になりたいのか!」

「ごめんなさい!」

直ぐひざまずくカイン。

きっと、傭兵ならこうしたことにいちいち呼ばれることはないだろうが、カインは伯爵以前にシールドキーパー所属の隊員だ。すなわち、カインが事故をやらかせば国民にシールドキーパーのイメージが回損され、それはCEOであるリチャードの顔に泥を塗ることだ。傭兵団から育てた会社と工作まで上がってきた自分のイメージを信頼する部下が失墜させたのだから彼が怒るのも当然だ。

「まあ、これはあくまでも俺の個人的な怒りだ。呼んだ理由は別にある」

そう言ってリチャードは別の写真を取り出した。それを見てカインは瞳孔を大きくした。

「まさか、…こんなバカな!?」

「なるほど。その反応。本当に気づかなかったのか?」

リチャードはシガーをくわえながらカインに資料を手渡した。暗く、遠くから撮ったので分かりにくいが、一見すると砂漠や道路で転がる回転草(タンブルウィード)を連想させる巨大植物。

カインとリチャードはその植物の正体をよく知っている。

「なぜ女王の巣が…?」

女王。凶獣を産んで生産する怪物たちの母。

写真にあるのは、その女王の巣だった。

「よく『雑草巣ネストウィード』と呼ばれる女王の巣。噂では『世界の中心=アビス』から上がってきたという話もあるが、その真実は誰も知らない。一つ確かなことは、凶獸は全部女王から生まれること」

「……」

「世界に凶獣を撒き散らす化け物たちの女王。われら人類の敵だ」

その『女王』というキーワードにカインは顔がこわばり、リチャードは歯を食いしばった。カインの気持ちをよく理解するリチャードなので、彼はあえて女王について並べたのだ。

「5年ぶりの女王を見て興奮したか。まあ、きさまの戦友であるノア‧シュミットを殺したやつとは違う個体だが」

「蒸らさないでください。リチャード社長。いや『モシュコヴィチ公爵』と呼びましょうか?」

覚悟がこめた表情。

カインの顔には5年前のその子供のような姿はない。現在、彼は自分の復讐の炎を燃やしている青年の顔をしている。

「いつも通り『リチャードさん』とよびな。きさまには社長や公爵と呼ばれるのはぎこちない」

「はい、リチャードさん」

そんなカイン・ロベルの姿を見て、リチャード・モシュコビッチは笑った。

その同時に、

「その話!」

「われら兄妹も聞くことにしよう!」

ベージュの短いくせ毛に黒いスーツを着た黄色い瞳の青年と、同じくベージュの縦ロールの黒いドレスを着た黄色い瞳の少女が飛び出してきた。

「な、なんでお前たちが!?この狂人兄妹が!」

その2人を見るとすぐにカインはどなりつけた。

「HAHAHA!!その呼称は、われら兄妹には褒め言葉だ。そうだろう?今日も美しいカロル」

「はい、今日も素晴らしいエリオット兄様」

「うっ…頭が痛くなる」

そうしてその兄妹はお互いを見つめながら自分たちだけの時間にはまって、そんな二人を見てカインは胃が痛くなり始めた。

スチュワート兄妹。

シールドキーパーではカイン・ロベールに劣らない有名なコンビで【南の杖】と呼ばれる『ガルシア公爵』が親交の意味で与えた贈り物といわれるほどの実力者だ。

「HAHA!君の反応は相変わらずだな。カイン伯爵」

兄のエリオット・スチュワート。子爵の爵位ある優れた銃士。

「そうですわ。伯爵なのに貴品がまったく感じられない貴族」

その妹のカロル・スチュワートは悪魔を使役した『悪魔使い』と言う。

カインとコーヤと同じく2人1組で動き、シールドキーパーが後押しするエースだ。

「すみません、マスター私が止めるべきだったのに……」

「いや、コーヤは悪くない。雰囲気も読めないこの兄妹が悪い」

さっきまでの胃痛がコーヤの心配だけで治ったかのような錯覚を感じたカイン・ロベールだった。

「乙女にあんな気持ち悪い笑顔を見せるなんて…やっぱりロリコン。きっと変な服を着せて『うへへへ』って言いながら写真を撮ることに違いませんわ!」

「HAHA!違うカロル。確かに彼は犯罪者の鏡だけど、あいつの狂気はメイドにある。自分に従う可愛い女の子をメイドにする…『メイド狂伯爵』なんだ!」

「そんな恐ろしい真実が!怖いですわエリオット兄様!わたくしメイドになりたくないですわ!どちらかといえば『お帰りなさい。お嬢様!』って聞きたいですわ!」

「HAHAHA!!心配するな、カロル。君が望むなら僕が直接執事の服装をして眠るまで言ってやるよ」

「ああ!エリオット兄様!」

「おお!カロル!」

「そこの狂人兄妹は黙れ!!」

我慢していたカインがついに爆発した。

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