表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月光の歌  作者: サンジン
虚空月 篇
3/39

1楽章。彼は英雄の夢を見ない。2

明け方の閑散(かんさん)とした高速道路。

本来ならまだ車両移動を開始する時間だが、現在の高速道路は阿鼻叫喚(あびきょうかん)だった。

「助けて!」

()(もの)だ!車も壊した!」

「どうやって逃げればいいんだよ!」

ぶち壊されてしまった車両を捨てて外に出る市民たちは、怪物に向き合う。

外見は鹿を連想させ、イノシシのような奥歯に鹿(しか)特有の木の枝のような(つの)は、まるでザリガニのはさみを連想させ、蛇のような鋭い4つの瞳が民間人を狙うと、民間人の顔は凍りついた。

車の何倍にもなる怪物が計6匹!単独でも恐ろしい怪物が群れを成している。

これが人類の敵『凶獣』

民間人は目をつぶって心の中で最期を迎える準備をしていた。

「C級凶獣『アーマームス』を確認。全員撃て!!」

「「「?!」」」

後ろから銃弾の音が鳴り響くと、凶獣は悲鳴をあげながら倒れた。

民間人はすぐ後ろを振向く。

黒盾の模様。

それを見て、民間人はすぐに安堵の表情を浮かべた。この【Puerta(プエルタ)王国】で、あのマークを知らない人はいない。

「ここは我々が引受ける。民間人は待避しろ!!」

「し、『シールドキーパー』が来た!」

「私たちは助かった!」

民間軍事会社シールドキーパーの隊員たちは、直ちに民間人を避難させ、銃弾を惜しまない。

銃で武装した軍人のような動きに隙がない。

甲冑のように頑丈(がんじょう)(つの)を立てて頭を下げたまま、アーマームスの群れはは防御の姿勢を取った。

くまも止まる阻止力を持つ銃弾であっても、あの巨大で丈夫な角でガードしている以上では倒すことは非常に難しい。

「やっぱりC級アーマームス!固いね!」

「あきらめるな!『彼ら』が来るまで時間を稼ぐ!」

「ただいま『ロベル伯爵』から連絡!少しでも動きを止めろという命令だ!」

「ラジャー!6匹全員に精密射撃!」

何とか食い止める隊員たち。しかし、群れの中で特に巨大なアーマームスが目立つ。

ざっと見ても他の奴らの2倍以上の大きさ。たぶんあいつが群れのボスだろう。

「クオオオオ!」

ボスのアーマームスは目を輝かせ、すぐに突進し始めた。

自分たちの耐久で銃弾数発ぐらいは許容しても問題ないということに気づいたのだ。

「くそったれ!!」

そんなアーマームスと立ち向かうかのように、銃を乱射する隊員たち。

互いに『一か八か』という空気が漂っていた。

ブウウン!!

「「!?」」

その瞬間、高速道路の全体に怪音が鳴り響く。

新手(あらて)か?!いや違う!これは──、』

「ヤッホ!」

聞き慣れた声が彼らの鼓膜を叩く。

声の正体はライダースーツを着ている金髪の青年。

爽やかな笑みを浮かべた彼と違って、その後ろに乗ったメイドはポーカーフェイスを維持していた。

カイン·ロベール伯爵。

そして、その従者(じゅうしゃ)コーヤ·ロベールメイド長。

「一発、派手(はで)に行こうぜ!コーヤ!」

「ご命令なら──」

瞬間、「ドカン!」という爆発音が周囲を埋めた。

カインの後ろに座ったコーヤが、アーマームスにバズーカを容赦なく撃ったのだ。

銃弾でもない突然のバズーカの使用に、他のシルバーキーパーの隊員たちは凍りついた。

「ロベール伯爵!何するんですか?!」

「何が?いいじゃん。バズーカ。派手で」

「そんな問題じゃないですよ! 高速道路を壊すつもりですか?!」

「壊れた高速道路は新しく作れば済むこと。しかし、凶獣を一気にけしさる機会は多くない」

「いくらなんでも…」

「そして──」

カインは懐からベレッタ拳銃を取り出し、砂ぼこりで隠された虚空に向かって引き金を引くと、「キエーッ!」という悲鳴が響く。

アーマームスの4つの目のうちの1つが破れたように、血を流しながら悲鳴を訴えていた。

「まだ死んでない。あいつら」

「…まさか『リビド』を使ったんですか?」

「平凡な弾丸が凶獣の肌を通過するはずがないじゃないか。『リビド』を入れて撃たない限り」

「しかし『リビド』は心の力。 乱発したら──」

「そんなことに気を使う余裕はない。やつらが『デストルド』を吐く前に終わらせなければならないから」

シールドキーパーの隊員たちはカインの言葉に頭を下げた。

そんな彼らを後にしたカインの瞳は黄色に輝いていた。

「……ひとりで行かれるのですか?ロベール伯爵」

「ひとり?ちがうな」

隣に静かに立っていたコーヤは懐からショットソード2つを取り出して戦闘態勢(せんとうたいせい)に臨み、カイン・ロベールも持っていた拳銃に続き、懐に入れておいたリボルバー1丁を取り出した。

彼らの目には闘争の炎が燃えていた。

「マスターが止めても、私はついて行きます。 私がマスターの10倍は強いですから」

「本当の事を言うな。…まったく。ご主人様のコンプレックスをつく従者がどこにいるんだ ?」

「ここです」

「へいへい」

そうしてカイン・ロベールと彼の従者コーヤ・ロベールは凶獣の群れに二人きりで飛び込んだ。





リビド。人なら持っている生に対する衝動、意志、欲求などを力で作った感情エネルギー。それがリビド。

種族によってその色相(しきそう)が決まり、感情を表す属性はリビドーを使うトリガーとする。

カイン·ロベールのリビド色相(しきそう)は黄色。それは【人類種(じんるいしゅ)=ヒューマン】を表す色。そして、彼がリビドーを使うトリガーになる属性は謙遜けんそん

カイン·ロベールは自分の謙遜さをトリガーにヒューマンのリビロである黄色のリビドを行使できるのだ。

簡単に言うと、リビドーを使えば通常はあの怪物たちと戦うことができるはずがない彼らが、

「コーヤ! 僕がヤツの関節に銃弾をぶちこむからぶった切れ!」

「はい!」


──怪物と並べることを意味する。


「「……」」

シールドキーパーの隊員たちはその光景をじっと見つめていた。

さっきまで自分たちを窮地に追い込んだあのアーマームスなのか疑わしいほどだった。

それは戦闘より、屠畜に近かった。

ショットソードを2本も持ったコーヤの素早い動きで撹乱させ、距離を置いたカインが支援射撃を放つ。その戦い方は至ってシンプルだが、その単純な戦法にすでに5頭もひざまずいた。

「……」

シールドキーパーの隊員たちは2人の戦いを観察した。

アーマームスの角はザリガニのように鋏と甲冑がついている。頭。つまり、上半身のほとんどが防御力が集中している。

逆に言えば、それをその巨体を支える橋は無防備だという意味!

もちろん、2-3発撃ったからといってすぐにひざまずくほどアーマームスはあまくない。厚い皮は相当な衝撃を吸収するため、リビドをこめって撃つ弾丸でも倒すことはできない。

アーマームスの『(アーマー)』という名の通り、頭は兜のような角と肉体は皮製の鎧で武装した巨大鹿だ。


──しかし、鎧だからこそ突破口は簡単に開かれた。


鎧は基本的に関節が弱い。

それは同じく鎧のような構造をしているアーマームスにも同様に適用され、カインとコーヤは集中的にアーマームスの関節が折れる部分を集中的に攻略し、それが6匹だったアーマームスはあっという間に群れのボスだけを残し、その結果、

「とどめだ」

「クオオオッ!!」


──圧倒的な勝利を手にした。


「お疲れ」

「いいえ。マスターが弱点を見抜いて指示してくれたおかげです」

「僕一人では勝てなかった。コーヤがあったからこそできたんだ」

弱点を見抜き、すぐに支援射撃を入れたカインとその透きを、うまく活かしたコーヤのコンビプレーがあったからこそ可能な芸だ。

2人のうち1人でも抜けていたら成功できなかったはずのコンビプレーに、カインとコーヤの信頼がうかがえる。

「あれが…『リビド』を使った人間の力か…?」

その光景を最初から全部目撃したシールドキーパーの隊員たちはそうつぶやいた。

「じゃ、任務も終わったんだし、あと始末はほかの奴らに任せて帰るか?」

これが カイン・ロベール伯爵と、

「はい、マスター」

彼の従者。コーヤ・ロベルメイド長の力と言うものを──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ