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月光の歌  作者: サンジン
虚空月 篇
24/39

3楽章。月下狂人。5


「玄さん。あの人は… 誰ですか?」

「離れろ」


玄はまさにミツキを守るように、ペプ·アルセナルと向き合って立った。

急に雰囲気が変わった玄を見て首をかしげるミツキ。

一方、ペフは現在の状況を観察した。


「なるほど。それがきさまの本名か? 今日初めて聞いた。カダルーソ」

「……」


その言葉に玄はペプ·アルセナルをにらみつけ、彼もまたそれに応酬した。

そんな雰囲気にみつきは、ペプの言葉に疑問を抱いた。


「はい?玄さんの名前は玄さんです。カダルーソという名前ではありません。あなたこそ誰ですか?」


沈黙する玄に比べて突然現れた男性の正体について聞くミツキ。

あまりにも堂々としたミツキのそんな反応に、ペプ·アルセナルは笑いながら拍手をする。


「ああ。これは、これは、失礼。私は5大公爵の一人。【中央の武器庫】と呼ばれるペプ·アルセナル公爵といいます。あなたを迎えに来ました。お姫様」

「ペプ·アルセナル… 公爵?」


公爵という言葉に、ミツキは顔がこわばった。

いや、自分を探しに来たこの男よりも、その男が自分を呼ぶ『呼称』に怯えた。


『まさかこの人は私の正体を──』

「どういうつもりか。ペプ」


一方、玄はペプ·アルセナルに敵意を隠さず聞く。


「はぁ? それは私が聞く立場じゃないが? きさまこそ何のつもりだ。カダルーソ」

「お前こそ答えろ。なんで『ミツキ』の前に現れた?」

「ミツキ?」


玄の問いに、ペプ·アルセナルは彼が『ミツキ』と呼んだ少女に目を向けた。

その後に──


「はっ!」


大笑いした。


「なるほど。そういうことか!自分の本音(ばけもの)を隠すため、仮名という名の表を作った魔女(ミツキ)と、自分の(ばけもの)を隠すため、誰にも見せなかった本音(ひと)をさらけ出した武器(ゲン)……か?」


しかし、その笑いが消え、


「いや、本当に笑えない。三流の脚本もこれよりはましだ!」


敵意だけが残った。


「!!」


まさに殺気を感知した玄は、ミツキを抱えていきなり飛んできた攻撃を両断した。

半分になったクロスボウの弓が見える。

玄が睨みつけると、木の下で黒い服を着ている仮面たちが現れる。


「こいつらは、全員『掃除者(リムピアドル)』か?」

「そうだ、デペンサになれなかった人形(ドル)たち。そして同時にデペンサが使えないときのために存在する私の道具。掃除者(リムピアドル)だ。形式上メネアドルと同じくアルセナルの分家になっている」


ペプ·アルセナルはまた丁寧に頭を下げてミツキに言う。


「まず、このような乱暴な方法を使用したことについてお詫びします。帝国の王女 『ルナ·アイオン·バン·ゲート』陛下」

「……」


ペプ·アルセナルのその言葉にミツキは沈黙し、玄は瞳が大きくなった。


「何のざれ(ごと)だ。こいつはミツキだ。帝国の王女では──」

「嘘をつくのはやめろ。カダルーソ」


その言葉とともに、ペプ·アルセナルの雰囲気は険悪になっていくだけだった。


「カダルーゾ。貴様(きさま)が知らなかったはずがない。もし知らなかったとしたら、それは貴様(きさま)が自分にそう『錯覚(さっかく)』させたのだ。」

「……違う」

「いや、違わない。貴様(きさま)はそうやって自分をだましたんだ。考えることをやめ、思考することをやめ、徹底して道具のように。人間やめた貴様(きさま)にはぴったりだけどな」


その言葉とともに、ペプ·アルセナルは人差し指でミツキを指したまま、言った。


「カダルーソ。命令だ。今すぐ目の前に帝国の王女を… 『白夜の魔女』を捕獲しろ」

「………断る」


彼のその言葉にペプ·アルセナルは目が細くなった。

まるで自分の子供が言うことを聞かなかったのが、不快な親のような目だった。

しかし、すぐにペフは目を閉じて、言う。


「ふざけるな。私はアルセナル公爵家の当主だ。貴様(きさま)はアルセナルを、そしてこのプエルタ王国のための『断頭台(カダルーソ)』だ。自分が道具だという事実をまた忘れたんだな? 考えることをやめた(やつ)が自分を人間のように呼ぶのは本当に笑うところだ。この化け物が!」

「やめてください!」


玄を罵るペプ·アルセナルをミツキが立ちはだかった。


「玄さんはいい人です。優しい人です。私のような化け物と違って!だから玄さんを化け物と呼ばないでください」

「……」


ミツキのその言葉に自分の言うべき言葉を忘れたように、ペプ·アルセナルはタバコを取り出し、火をつけた。

彼が息を吐き出すと、暗い夜空を登るように、煙が上がった。


「私が望むことは一つ。あなたが大人(おとな)しくついて来ることです。帝国の王女として」

「……わかりました」

「待て!」


ミツキを連行しようとするぺプ·アルセナルのその行動を玄が阻止しようとすると、ミツキが首を横に振った。


「いいんです。玄さん。私は大丈夫です」

「……」


一方、ぺプは端末を取り出してどこかに連絡を取っていた。


「……なるほど。わかった。……バルデオの管理者からの連絡だ。私たちには良い知らせで、そこの王女には残念な知らせだ」

「?」

「……」


ミツキは疑問を、玄は沈黙したまま、ペプ·アルセナルを眺めると彼は口を開く。


「ディーン·ガルシア公爵の死亡をいま確認した」

「──」


一瞬、何かが切れるのを感じた。


「それはどういう意味だ」

「その言葉どおりの意味。あの王女の面倒を見てくれた貴族が死んだのだ」

「だからどうしてって聞いてるんだろ!」


玄がまさにペプ·アルセナルの胸倉をつかんで叫ぶのが響く。

だが、そんなものはみつきの耳には聞こえない。


『──ああ』


今日、玄に自分の正体を打ち明ければ前に(すす)めると思った。

いつも一歩下がって人の好意を受けない自分が変われると思った。

好意を受けられると思った。


『でも、もう──』


やはり受けられない。

二度と受けられなくなった。


──姫様。確か私に息子は大切です。でも姫様もそれと同じく


その時、あとから続く言葉をうすうす知っていた。

しかし、ミツキはその次を聞くのが怖かったから、


──お気をつけて


また一歩下がった。

それが最後の会話であることも知らないまま、


『ごめんなさい。ごめんなさい。ディーンさんの息子さんに、私は取り返しのつかないことを!』


目から涙が出た。

泣きすぎて血が流れそうだ。

瞳が燃えるように熱かった。


「姫様。──が死んだのはあなたのせいではありません」


一瞬、ノイズに聞こえなかった音声が聞こえてきてぼやけた画面が真っ直ぐに固定される。

みつきの記憶から映像が見えた。

自分を背負って歩くディーン·ガルシア公爵の姿。


『いや、違う…! こんなの…!』


「姫様。息子が死んだのはあなたのせいではありません」


──忘れていたことを思い出す。



「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」



ミツキは悲鳴をあげた。

そこに歌はない。

単なる悲鳴だけ。


「なんだ、これは!?」

「白い…影?」


普段ミツキを守る白い影は周囲を無差別に攻撃し始める。

届くものは全てを切り出す無差別な(やいば)

それがミツキの周辺を繭のように覆う。


「ミツキ!!」


玄は叫ぶ。

だが、ミツキには聞こえない。

何も聞かずに耳を閉じたミツキの黒髪は白く染まり始め──


「何をぼっとしている?! 撃て!!」


──真っ白に染まった。


「キャハハハ!! 本当に… 赤いね」


髪を白髪に染めたミツキの姿に玄は唖然とした。

掃除者(リムピアドル)の胸に手を差し伸べ、心臓を引き抜き、それを見つめるミツキの姿。


(しっか)り立ち上がれ。 心臓が破れた程度で簡単に死ぬな。 久しぶりに生きている体で戦っている。 少しだけ楽しませろ。白夜の夜は長い。確実(かくじつ)に皆殺しにしてあげるから!」


怪物。そのものだった。


「キャハハハ!!」


そんな不気味な笑いを叫んで、掃除者(リムピアドル)屠戮(とりく)するミツキ。

いや、あれはもうミツキじゃない『何か』だ。

あれは──


「本当にミツキか?」

「うん?ああ……」


玄の言葉に振り返る白髪の少女

彼女が玄の顔を見ると、彼女は怪物からまるで愛する少女のような表情を(うか)ぶ。

顔を赤らめて焦点のない目を帯びたまま、彼を見つめながら静かに口を開く。


「まさか…うそ。『あなた』?本当にあなたよね。会いたかった。ねえ?覚えてる?私はあなたの大切な──」

「誰だ?君は」

「私が誰だか……わからないの?」

「だから、誰だ」

「……………………………………」


玄のその言葉に、まるで世界が終わったような表情を浮かべ、固まる白髪の少女。

その雰囲気は殺伐さを越え恟恟(きょうきょう)だった。

うつむいたまま、白髪の少女は静かに呟く。


「……そっか。『まだ』なのが? ごめんなさい。今言ってもわからないよね?」

「?」


玄が頭の上に疑問符をつける時、白髪の少女は彼に謝りながら自分の胸に手を上げて言う。


「あ。『この子(ミツキ)』は今眠っているだけ。気を失うほどのストレスを受ければ私が出るが、こんなことは8年ぶり。ちょうど()()()()()()()()()()でだが」

「……」


玄は白髪の少女が話す言葉を理解するのが難しかった。

あまりにも断片的な言葉と彼女だけが知っているキーワードのため、正解には至らない。

しかし、今までミツキが見せた行動と、いま目の前に現われた白髪の少女というこの状況を組み合わせれば、少なくとも目の前のこの少女に対する答えは出る。


「君は……『白夜の魔女』なのが?」

「!」


ちょっと驚いたらしく、瞳孔を育てる白髪の少女。まもなく、彼女は目を細めて玄を眺めながら 静かに彼の頬に手を上げて、自分の顔を近づける。


「それは──」


瞬間銃声が公園を埋めた。

銃口の煙が夜空を登る。

そして声が聞こえてくる。


「この化け物が!」


おびえたように叫ぶペプ·アルセナルの声。

その声が耳に届く頃、血を流して倒れた白髪の少女。


「どうして…?」


玄はそうつぶやいた。

銃を撃ったペプ·アルセナルに言った言葉ではない。

この状況について言った言葉だ。

こんな簡単に死ぬわけがない。ミツキのまわりは、いつも白い影が守ってくれた。それに守らされている限り、ミツキはけがをしない。

そんなはずなのに…


『白い影がない…?』


よく見ると、現在白髪の少女のそばには白い影がない。

どういう原理なのかは分らないが、あの白髪の少女が出ている間は白い影は出てこないようだ。


『そしたらミツキはどうなる?』


玄は倒れた白髪の少女を抱いて持ち上げる。

息をしていない。

胸に耳をあてるが、心臓の鼓動音も聞こえない。

すぐ起きそうに目を閉じているが、眉間に銃弾が貫通し、口元からは血を流している。


「……」


玄は頭の中の思考が停止する。

やめるのではなく、停止する。


「何をしているカダルーソ!」

「……」


玄はペプ·アルセナルを見つめる。

この少女を撃ち殺した貴族男性を見つめる。


「……」


その瞬間、怒りで心臓の鼓動が大きくなる。

彼の体の中にある『黒血(こくけつ)』もまるで自分の意志があるかのように現在の状況に合わせて彼の怒りと同化していた。

その証拠に──


「き、貴様。何だ? その体は…黒い?」


黒く染まった化け物が彼らを見つめた。


「──殺す」


黒い化け物は、カダルーソはそう言った。

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