3楽章。月下狂人。3
「どうした?もう限界か? 防御だけじゃないが!【南の杖】という二つ名が聞いて呆れるな!」
両手で剣を振り笑いながら、バルデオはそう叫ぶ。
『早い』
ディーン・ガルシアも5大公爵の一人であり、そして『恐怖の魔女』のファミリアとして生きてきたので決して弱くはない。
『だが、この男の剣。格が違う!』
バルデオが右手で振った剣に合わせてバリアを展開するディーン・ガルシア。
それに攻撃を流して、左手の剣で攻撃するのが普通。
──しかし、バルデオは違った。
『曲がった?』
いや、バリアの範囲を把握して、手首を回してバリアをはなした。
あまりにも速い動作で、剣が曲がったような錯覚を起こしたんだ。
そのまま中心を失ったディーン・ガルシアに左手の剣を突き刺す。
一度や二度なら不可能ではないだろう。
しかし、それが数十回の攻防の中で頻繁に起きるとしたら?
それは人間業では無い。
今まで生きて来ながら受けたことのない剣。
獣のような動きだが、どの剣よりも洗練されている。剣が生きている人間ならこんな男だろう。
そういうのが感じた剣士だった。
「驚いた。君のような剣士がいたとは。『デペンサ』というのは、全部君のようなモンスターなのか?」
「何のたわごとだ? 俺はまだ全力を出していない。お前もそうだろう?」
「何言ってんだい?」
バルデオはしばらく右手の剣を地面に挿しながら右手を腰に上げて話す。
「知ってるじょ?『ファミリア』というのは一般的な魔術師と違って、仕えている魔女と魂的に繋がっているだろう? 呼べ。お前の師匠である『白夜の魔女』を。そうしてこそ対等になる。それとも──」
バルデオは自分の剣をガルシア公爵家に構えた。
「聞くところでは、5歳になる息子がいたそうだな。息子と一緒にやしきを吹き飛ばしたら戦力を出すのか」
かなりの闘争心
戦力の相手と戦うために何にも迷わない戦闘狂だ。
しかし、そのような脅迫はディーン・ガルシアには通じない。
それもそうだろう。
「情報が遅いね」
「え?」
バルデオが疑問を投げかけると、ディーン・ガルシアはその疑問を解消するように言った。
「息子は…今年の12月16日に亡くなった。交通事故でね。つまり、我に人質はいない」
「……」
その言葉にバルデオは目を細めながらディーン・ガルシアを眺める。
その目はまるで真実か虚実かを見極めるような目だ。
「息子が死んだのは確かなようだな」
「そう、だから僕にとってそんな人質は──」
「でも、人質がいないのは、うそだ」
「!?」
「なるほど。なるほど。『白夜の魔女』──いや、不死大帝の孫娘。呪われた『帝国の王女』なのか?」
「どうやってそれを?」
「どう?ハハ! 『お前が今』教えてくれたじゃないか。 バカ~め」
「……」
バルデオの今言った言葉の意味を理解できなかった。
一つ確かなことはあの男にはうそや、はったりは通じない。
「よし。決めた。おまえを殺せば、次は白夜の魔女を殺しに行く。まあ、俺が出しゃばることはなく、討伐任務は出るけど。その時は俺よりもっと殺伐とした断頭台さんがその首を打つだろう」
「………………………殺すぞ、手前」
瞬間、ディーン・ガルシアのリビドが上がった。
空まで舞い上がる紫色のリビードに大地が揺れると感じるのは錯覚か?
そして、それをまるで待っていたかのように、歓喜するヴァルデオ。
「いい殺気だ! 魔術師」
「バルデオ。手前は傲慢だ」
「褒め言葉どうも。傲慢は俺の大罪属性だからね!」
「そして、何か勘違いしているようだから言っておく。我の師匠は白夜の魔女ではない」
「何?」
うそではない。
ディーン・ガルシアは真実のみを口にしている。
「我の師匠は『片目の三姉妹』の一角。『恐怖の魔女』だ!!」
「何? ──まさか?!」
ディーン・ガルシアのその言葉に空が割れ、空まで続く紫色のリビドに乗って何かが降りてくる。
それは白夜の魔女に似た紫色の化け物だった。
自分を包むリビドを破り、ディンのリビドを黒く染める白髪の化け物。
「おまえ!魔女本人ではなく、魔女の力の一部そのものを召喚したのか?」
「魔女というのは、自分の因子をファミリアに植えつける種族ですからね」
「魔女の因子を受けたファミリアならではの芸ってことか」
『魔女の弟子』というのは二種類ある。
小さな国に名をはせるほどの強い英雄になったり、廃人になったり。
ディーン・ガルシアは前者だった。
魔女に選ばれているという事実より、『魔女の弟子』という自分の位置を守る『真の試練』を乗り越え、彼は1人の『ファミリア』となった。
「さあ!力だけ呼んだ不安全な召喚だが、この力!第4位種【魔女種=ウィッチ】に違いない!来い、バルデオ!」
「相手として十分である!」
バルデオは両手の剣を捨てて宙に手を出した。
すると、何もないところから剣が現れた。
外見は海軍が使いそうなカトラス。
問題はその大きさ。
『何あれ!?まるで【巨身種=ウルガルト】が使いそうなあの巨大さは!?』
一般的なカトラスがグリップを含めて75~80cmなら、バルデオが背負った巨大なカトラスはその3倍以上、2.5mもある大剣だ!
「波打て。オルキヌス!」
彼の叫びと共に巨大な波が押し寄せる。
いや、リビドだ。
濃くて凝縮されたリビドがまるで波のように押し寄せるのだ。
「こんなばかな!」
「おまえも『奥の手』を出したから、俺の『奥の手』を見せるのが礼儀だろう? 感謝しな。うちの『化け物』に対抗するために考案した技術だから」
そんな巨大なカトラスを握って姿勢をとるバルデオ。
「勝負だ! 魔術師!ファミリア!! ディーン・ガルシア!」
「クウッ!」
相手を甘く見た。
莫大なリビドの量。
それはまるで海。
召喚した『恐怖の魔女』の力であれを相殺しても、リビドの総量で押せば勝算はない。
ならば──
『命をかけるのみ!』
自分のリビドに続いて生命力自体を振絞るディーン・ガルシア。
この一発でいい。
これで二度と起き上がれなくてもよい。
せめてあの劍士の剣が自分が仕える姫に届かないように!
「──海泡」
ディーン・ガルシアは自分が召喚した『恐怖の魔女』の力を使って多数の泡を作り出す。 しかし、その泡は全部リビドを入れたリビド爆弾。
バルデオのリビドの波に乗って爆発する。
「──波切り」
しかし、ディーン・ガルシアの『海泡』はバルデオのカトラスで全部両断された。
爆発しても無視して前進するバルデオ。
引かずに拳を握るディーン・ガルシア。
「クオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ───!!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ───!!!!」
──お互いに戦力を込めた一撃が激突する。
☪
ディーン・ガルシアは12月17日を思い出す。
その日は彼の息子が死んで一日が過ぎた日。
しかし葬式を行わなかった。
息子の死を受け入れられなかったこともあるが、それと同級に──
『姫様にこの事実が知られてはならない』
それは果たして凶獣の女王が現れないようにするためか。
それとも姫が悲しまないようにするためか。
当時はどっちかは分らなかった。
ただ決して知られてはならない。
そう考えた。
「どうしてこんなことが!」
どいう経緯かは分からない。
姫に見付かった。
そして姫は屋敷を飛び出して行方不明。
5年前とまったく同じだ。
ディーン・ガルシアは念のため5年前と同じ場所。
その公園に向かった。
自分が遅れることに備え、友であるリチャード・モシュコヴィッチに事情を打ち明け、
「すまない…リチャード」
《構わない。それよりも凶獣を呼ぶ特異体質...か。俺もいつもめんどうなことに首を突っこむが、君ほどではない。まさか女王クラスとはな……》
「その子は大切だ。私の唯一の家族で、最後に残った私の子供だ」
《わかった。丁寧にエスコートしよう。じゃ──ちくしょう!!》
「リチャード!何かあっだ?」
その後、大きな爆発が鳴り響いた。
車が転覆したのだ。
そして数分後。端末機から元気のないリチャード・モシュコビッチの声が聞こえてくる。
《ディーン。まず謝まろう。死んだ。車に飛び込んで死んで…即死だ。息もしない。本当にす… あれ…何だ!?白い怪物。まさか白夜の──くそ!!》
「リチャード!答えろ!リチャード!!
そうして友を失った。
その後、何とか他の人より先に見つけたが、その代価があまりにも大きかった。
「……」
この子はわるくない
この子の悲しみに共鳴して女王がくることを教えてくれなかった自分の過ち。
だからリチャードも死んだ。
「くそ…」
「ディーンさん大丈夫ですか?」
非常に心配そうな表情で自分を見つめる姫を見て、ディーン・ガルシアは迷った。
「そんなに元気のない顔をしていると、息子さんが心配しますよ」
「息子が死んだことを思い出せないのか? いや、ショックで忘れてしまったのか」
ある意味では幸いだと思った。
この子の悲しみは女王を呼ぶ。
しかし──
「姫様」
「はい?」
姫様は私が死んだら悲しんでくださるんですか。
お忘れたりしないんですか。
そんな醜悪な言葉が出るところだった。
『いや、知ってるじゃないが。そんな冷たい子じゃないってことぐらい』
自分の目の前にいるのは、どこにでもいる、傷つきやすい女の子だ。
他人の死を嘆き悲しんで泣き叫ぶ子供だ。
そんな子が悲しみで女王を呼ぶのを知ったら何をするか…
『生きることも死ぬこともできないだろう』
感情を殺し、魔女の力しかない、怪物そのものになってしまうだろう。
死ぬこともできないならば、できるだけ可能なかぎり生きていけるようにしたい。
人間のように。
「なかなか楽しかったじょ。ファミリア」
『いまのは走馬灯か…?』
バルデオのその言葉にディーン・ガルシアは我に返った。
体に力がない。
リビドを使いすぎた。 指ぐらいしか動けない。
バルデオは剣を入れながら話す。
「それよりそんなに守る価値があるのが。まさか魔女に愛でも抱いたのか?」
「愛?ハ!」
その言葉に笑いが出た。
「我が姫様に?笑わせる。我が姫様を思う感情をその一単語で定義するというのが!」
「この死に損ないが! なんでそんな力が!?」
怒りがわき上がったためか。
そうでなければ、全部消えていく炎の最後の輝きなのか。
何方でもかまわない。
「娘を愛することはお父さんとして当然のことだ!我…いや、もう演技する必要ないか。とにかく私が姫様のために戦う理由はそれで十分だ! おまえは分らないだろう」
「おのれ、自爆するつもりか?」
「先に地獄で待とう。デペンサ。バルデオ!」
「おのれ!!!」
ディーン・ガルシアは至近距離から魔術を爆発させた。
その爆発はガルシア公爵家全体を平野化する威力だったという。
誰か!誰でもいいから如何か姫様を、あの子を──
そうディーン・ガルシアは目を閉じた。




