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月光の歌  作者: サンジン
虚空月 篇
10/39

1楽章。彼は英雄の夢を見ない。9


一方、中央地域のアルセナル公爵家では現在、忙しい動きが行き交っていた。

公爵家のやしきというよりタワーと呼ぶほど高い建物。そこの20階から26階を占めている大きな空間。通称『センター』で人々の声が響く。

「ただいま『白夜の魔女』の出現を確認!」

「位置は?」

「北と中央の境界線にある公園です!」

「よりによってそこか」

センター内部は制服を着ている男女が座って画面に向かい合って、端末を叩いている。正面には全体の状況を知らせるように、青の画面にこの国の地図を浮かべている。中央地域と北地域の間の空間に現われた真っ白な点。

それを見て、制服を着ている全ての人が動きを止めた。

絶望に陥った表情。

その中には、画面を見ながら頭を抱える人もいた。

「慌てるな。それでも、お前たちはアルセナルの人間か?」

不安に思われる人々の視線を一身に受けたのは長髪の青年だった。長い金髪を垂らして、夕焼け色の瞳を浮かべている貴族青年。

ペプ‧アルセナル公爵。

【中央の武器庫】と呼ばれるアルセナル公爵家の当主でありセンターの頭。同時に五大公爵の中で国王に進言可能な唯一の貴族だ。

「我らがすべきことは白夜の魔女と凶獣の女王との接触を防ぐこと。女王の目的は『完全なN女王としての覚醒』だ。決して接触させてはならない!」

「し、しかし今、白夜の魔女近くにいたモシュコヴィチ公爵のリビド反応は消失。そこへ女王を相手にしたシールドキーパーは全滅しました」

「……」

「……」

その言葉にセンター内部の雰囲気は暗くなった。

5大公爵のうちドラクルのクォーターであるリチャード・モシュコビッチの死亡と同様、それに押されない月人(つきびと)のクォーターが入っているシールドキーパーのエースが全滅した。

白夜の魔女と凶獣の女王。

2人が合流する前に短時間で倒す戦力が必要だ。

「リチャード・モシュコビッチとシールドキーパーという大事な戦力を失ったのに、意外と冷静ですね。ペプ・アルセナル公爵」

「君か?レイラ・メネアドル男爵」

その言葉にペプ・アルセナルは瞳をひろげた。

黒いスーツを着ている金髪の黄色い瞳の女性、レイラ・メネアドルに向かって嘲笑しながら言う。

「まあ、確かにモシュコヴィッチ公を失ったのは残念だ」

──しかし、この問題を解決すれば、それは問題にならない。

自信に満ちた表情でペプはそう言った。

「彼を含むシールドキーパーを追悼し、墓碑を作っておけば、外交的には悪くない。実際、これはモシュコビッチが無理をした結果。すぐにアルセナルに助けを求めるべきだった。まあ、君がそんなにあおった結果だが」

「……」

レイラは目をまっすぐに向ける。別に同情するつもりはなく、罪悪感もない。彼女は十分に警告したが、それを聞いたリチャードは傲慢だった。

傲慢で死に、

傲慢だったため部下たちを死地に追いやった。

其れ丈のこと。

むしろ、そのような傲慢な公爵を主人にしているシールドキーパーがかわいそうだ。彼らがそのような結果を迎えたのは、相手を低く見て自分を過大評価したことだ。雑草巣(ネストウィード)が北地域の境界線に来る前に助けを求めるべきだった。

「…やはり『デペンサ』を使うしかないでしょう」

「お前の考えを知らないと思う?お前の『マスター』の自由行動を狙っているだろ?レイラ・メネアドル」

「…そうお考えになってかまいませんが。私はマスターの命令にだけ動きます」

ペプとレイラの会話だけでセンターのみんなは冷ややかな雰囲気になった。

レイラはその冷ややかな雰囲気を無視して口を開く。

「そもそもリチャード公爵に女王の情報を与えたのもマスターの意志」

「あの道具が?自分が人間だと勘違いしている、あの化け物が?」

からかうような口調に、まるで嫌悪された物を見たように顔をしかめるペプ。

レイラの従うマスターという者に敵対感情が相当表れている。

「ペプ公──」

その瞬間レイラの周りの温度が下がった。

いや、錯覚た。

さっきまで黄色に光っていたレイラの瞳は、紫に変化してレイラが発散するリビドの影響で『寒い』と錯覚したのだった。

「マスターを愚弄することは許しません」

「…レイラ・メネアドル」

敵意を見せるレイラの言葉をペプが冷静に断ち切った。彼は目を細めてレイラをじっと見つめたまま静かに聞く。

「貴様はメネアドルという名の意味を自覚しているか?」

「…….」

まるで警告を発するような言葉。ここで言葉の選択を誤れば、その首を取ってしまうような手の動作だ。

普通なら恐怖におびえる殺気。

しかし、その殺気からレイラは冷静さを取り戻し、やがて瞳の色はまた黄色に戻り、レイラはいつものように表情変化なく静かに口を開く。

「私はデペンサという武器を管理する管理者。それがメネアドルの名前を背負う人の仕事です」

「そう、それがメネアドルの勤め。君がその化け物をマスターと呼んで忠誠を誓っても、デペンサという道具をきちんと管理してくれれば、君のやり方に関してアルセナルは関与しない」

「……」

「道具を管理するブレーキ(メネアドル)なんていくらでも用意できる。そのことを忘れるな」

貴様の代りはいくらでもいる。

そう言うように、ペプは瞳を丸くしてそう言った。夕焼けの色を浮かべる瞳を見てレイラは静かに頭を下げた。

「しかし、あの状況を覆せるのは、あの男… この国の断頭台だけだということを私も熟知している」

ペプはしばらくレイラの目を避けたが、すぐにレイラに再び向き合って覚悟を固めるように話す。

「ここではまず、君の策略にだまされてやる。デペンサ『カダルソ』を送る」

「その判断に感謝します。ペプ・アルセナル公」

その言葉を最後にセンターを後にするレイラ。

「──レイラ・メネアドル」

ペプの呼びかけにしばらくはっとするレイラ。

自分のあごに手を上げて考え込んでいるペプは口を開く。

「5年前にも、そして今回も…本来なら女王と呼べないレベルの凶獣が出現した。それも何かに憑かれたように」

「……」

「そして5年前と同じく今回もカダルソを出撃することになった。果してこれが偶然か?」

「……」

まるでこの状況を企てたのがレイラではないかと疑う口調。

レイラは言葉の真偽に気づいたので口を開く。

「そういわれると、モシュコヴィッチ公は女王の到着予定場所に先行したと聞きました」

「そして、白夜の魔女に殺された」

「…確かに女王の情報を教えてくれたのは私ですが、移動経路のような詳しい情報は私にはありません。一体誰がその情報を渡したんでしょ?少なくとも、私のマスターには聞いていません」

自分が潔白だと主張し、逆にペプ・アルセナル公爵に問い返すレイラ。

そんなレイラの言葉に、ペプもまた首を横に振って、自身も潔白だということを表す。

「残念ながら、私も違う。しかし、今この状況はよく覚えておきな。いつかとても重要な手がかりになるだろう」

「なるほど、誰かが意図的にモシュコヴィッチ公を白夜の魔女のところへ誘導したということですね」

「ああ」

ペプはうなずいて答えた。

「…この事が終わると、モシュコヴィッチにその出没場所に誘導した者が誰なのか調べるように ──まあ、あくまでカダルソがこのことを処理した場合だが」

「あなたの許可が下りたと同時に、マスターを北と中央の境界へ送りました。 まもなく任務完了の合図が来るでしょう」

「君の仕事ぶりには腹が立つね。それよりも私が許可を下さなかったらどうしようとしたのか?」

「過程より結果を重視されるあなたですから、結果を出せばいいと考えただけです」

「あ、そう?それよりもどこへ行くんだ?」

「マスターの食事の準備です。私はマスターの管理者ですから」

そう言ってレイラは彼らを後にする。

ついさっきまで、センターのスタッフたちはみんな終末を見たような表情に比べて、カダルソというデペンサの出撃でレイラは勝利を確定したような動きだった。

「信頼、──いや、彼の勝利は当然の確定事項って事か? おそろしい女だな」

彼の勝利を確定するレイラの後ろ姿を見ながらペプは静かにそうつぶやいた。


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