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月光の歌  作者: サンジン
虚空月 篇
1/39

0楽章。虚空の月。

※残忍なシーンあり

──あの夜の出来事を黒髪の少女ははっきりと覚えている。


髪を脚まで垂らした白髪の美人は、黒髪の少女を抱きしめたまま、走った。

どこに走って行くのだろ?

いつものように面白い所を見せに行くのだろうか?

祖父(そふ)さま?」

気になったので、黒髪の少女は自分の祖父である白髪の美人を呼んだが、彼は答えない。

ただ一つ分かったのは、その日は普段のような楽しい表情ではなく、苦々しい表情でただ少女を抱えて走って来たということ。

行き先がどこなのかあまりにも早くてわからない。

「……」

馬より、機関車より足が速かった彼は、壁を飛び越えて、世界の中心を過ぎて平野を走り、目の前にちらっと見えた氷山さえ小さく見えるほど速いスピードで走った。

人間の速度をはるかに超越した、──神速。

やがて目的地に着いたらしく、白髪の美人は足を止めてすぐ、黒髪の少女を降ろした。とんでもない距離を一瞬で駆けつけたにもかかわらず、白髪の美人は息ひとつせず、汗の匂い一つしない。

祖父(そふ)さま。ここはどこですか?」

周囲を見回しながら用心深く黒髪の少女が口を開くと、黙りっぱなしだった白髪の美人は彼女を抱え込み、震える声で静かに話す。

彼女の耳にだけ聞こえるようにとても小さく──

「……すまない」

「?」

しずんだ声を浮ぶ白髪の美人。

そうやって彼女を抱きしめてどれくらいの時間が経ったのだろう?派手な服装の男性が現れた。白髪の美人ほどではないがかなりの長髪を垂らした男。

貴族に見える見た目。

白髪の美人とその貴族は何か話をしたが、まだ幼い彼女には二人の話の内容はもちろん、現在の状況さえ理解できなかった。いや、理解したくなかった。

自分の置かれている状況くらいは、

「君はこの王国で過ごさなければならない」


──とっくに気づいたから。


白髪の美人は彼女の肩に手を上げる。

視線を合わせ、現実を直視しろと言うように静かに話す。

「生活場所が変わり、君もとても不安だろう。しかし君のためにも、身分を隠して、息を潜め、この狂気の国で、君の中の隠れた狂気を隠さなければならない」

「よく、…わかりません。祖父(そふ)さまとずっと一緒にいたらだめですか?明日はトリアおじさんも遊んでくれるって言ってたのに…」

涙声を抑えて彼女がそう尋ねると、白髪の美人は静かに首を振り、何か固く誓った表情で淡々と言った。

「君の存在は、…君は帝国にとって『罪』そのものだ。だから一緒にいられない」

「……」

その言葉に彼女は言葉が詰まって泣く気力さえなくなった。

そんな彼女を見て白髪の美人は内心歯を食いしばったが、それを隠したまま、顔を背けて貴族の男性に言う。

「お前の頼みは聞いてくれた。だから後は任せよう」

「はい。『不死大帝』陛下」

黒髪の少女は涙も出ない空虚な目で、視野から消えていく祖父(そふ)さまを眺める。行かないでと、一人にしないでと、そう哀願するように手を伸ばす。だが、もう祖父(そふ)さまは天の月のようにあまりにも遠くなった。

彼女の手は決して届かない。

そんな現実だけを直視するようになる。

「罪。私は、…罪」

静かにそうつぶやく黒髪の少女。

さっき祖父(そふ)さまが去る前に言った言葉を思い出すように──

やがて、彼女の表情は消え、瞳の息は死んでしまった。

その後は真っ白に忘れた。


──忘れることにした。





──その夜の出来事を黒髪の少年ははっきりと覚えている。


暴雨のように降り注ぐ雨が少年の頬を打った。

空虚な目で少年は月明り一つ照らさないこの暗い夜空を見上げるだけ。

しかし、そんな少年を現実に戻すように、何かが少年の足をとんとんと叩くと、少年は頭を下げて現実を直視する。

頭。人の頭が転がってきた。

それだけじゃない。

「うう… ああ…」

濃い血のにおいがあふれる死体の山。

話すことさえ許さないらしく、鼻から唇まで鋭く切られたまま両足を失って死にながら息を吐く人。まるで千切りにされた野菜のように原型を見分けられない死体。四肢を切断されたまま、死んでいくのを待っているように、呼吸しかできない人。下半身が吹っ飛んで、内臓が地面に垂らした死体。

人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体、人、死体。

死体!死体!死体!!!

死体たちと死体となって行く人々が転がる地獄のような光景に少年は非常に冷静だった。

いや──

『この地獄で正気を保つやつは果たして正気と言えるだろうか?』

そんな風に自分に質問する少年に、

「おね…がい」


──声が聞こえてきた。


死体になりかけている同年代の少女。

助けてほしいというのか?しかし、すでに生かすには血を流しすぎた。体の半分も吹っ飛んで、そこへこの大雨だ。体温を奪われ、まもなく訪れる死を待つだけ。

それでも生を渇望するのか?理解できない。

「私を、…殺して」

「…!」

そんな予想とは裏腹に、死にゆく少女は目の前の少年に『命乞い』じゃなく、苦痛から逃れるために『死の乞い』をした。

「くっ!」

生ではなく死を求めるその言葉に、その声に、無表情な少年は初めて表情がゆがんだ。

何が、何がどこから間違ったかは少年も忘れてしまった。

いや、最初から間違っていたかもしれない。

しかし、現在自分がすべきことは確かだ。

確かになった。

「……」

黒髪の少年は手当たり次第に巨大な剣を軽く持ち上げて少女を狙う。

自分に死の乞いした少女に向かって──

「……」

お互いに会話は交わさないまま、二人はお互いを静かに眺める。

首を打つために剣を持ち上げる黒髪の少年。

そんな彼を見て、少女は静かに微笑んだ。

まるで救われたような人の微笑だ。

その微笑みに戸惑ったが、黒い髪の毛の少年は思いっきり剣を打ち下ろす。

「うぇっ!!」

剣を打ち下ろした黒髪の少年は本能的に剣を持った手を放し、すべてを吐き出すように嘔吐した。

なれない、なれてはいけない感覚。その気持ち悪い感触に両手が震える。

感触だけは、はっきり残った。

刻印させるように、さっき首を打った少女の笑顔が目の前をちらつく。

どうして?

そう自分に答えを求めるが、答えは出ない。

「雨…?そう!雨のせいで!さ、寒くて震えているんだ!きっと!」

答えになってないそんなことをつぶやきながら、黒髪の少年は考えることをやめる。

しかし、転がる頭を見て、黒髪の少年は再び現実を直視する。

切り取った首は相変わらず笑顔を見せていた。

「ハハ、…ハハハ、…ハハハハ!!」

やがて死体の山のここで大きな笑い声が広がる。観客?そんなものは最初から存在しない。

人の形をした存在は黒髪の少年だけ。

ここに残ったものは全部死体。

そう狂ったように笑う少年は笑いを止め、表情は消え、瞳の息は死んでしまった。

その後は真っ黒に忘れてしまった。


──忘れることにした。


サンジンです。

ネット小説は初めてです。

どうぞよろしくお願いします。

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