私のありがとうはどこですか(中間)
「んだってせんくても、おらたち大丈夫なのに…」
「私がしたいって言っているんだ。
それをミルが気にする必要はない」
「友達だから気にしてるじゃいけなか?」
「じゃあ友達なら止める必要ないくらい信用してくれよ
私があんな警備に捕まるわけないだろう」
「んだって、万が一あったらどうすんだべ!」
「その万が一の可能性もあの子がいたら大丈夫だ、そうだろう?」
あの子と言って黒づくめの女性は獣人の子を見つめる
「片っぽだけ大きなミミだね」
「うん…私は生まれつきこうなんだ
そういうのを奇形児っていうんだって」
「カタミミくんってソーセージの仲間なの?」
「え?
い、いや、私は一人っ子だし、双生児じゃないよ」
「ふーん?」
「後、私は女だよ…?」
「ふーん?」
話の意味が分からなかったのか、少女はクシャクシャと言いながら進み始める
「…あの、あなたはどういう経緯で先生と知り合えたの?」
「センセー?」
「ほら、目の前のあのお方だよ
今は離れの村で起こる怪奇現象を調べるために町から出て調査中だったような…」
「むー…?
どうって
お話しして、協力してくれるって言って、一緒に町に向かってるだけだよ?」
「…それ、本気で言っていますか?」
「んー?」
「だって、あのカイ先生ですよ?
獣人奴隷解放に協力して、今の世の中を批判して、正しい世界に導こうとするあの大先生ですよ!?」
「そんなの知らないもん」
「な!?」
「チビにとってナーガくんはナーガくんだし
そのなんたらってやつは知らないけど、ナーガくんがデッカくんのこと大好きなことは知ってるよ」
「な!?…あなたの言う言葉はどうにもおかしなことばかりですね」
「むー…おかしくないよ
ね、ナーガくん
デッカくんのこと大好きでしょ?」
「あぁ、もちろんだ
それに私はチビのことも好きだよ」
「ね、あってるでしょ?」
えっへんと胸を張る少女に訳が分からないという獣人の子
「交流関係はないはずなのに…。」
「それは君たち信者の中での話だろう
私を慕うのはいいが、君たちの理想とやらで私を美化までして祭り上げるのはよせ
美化している私を追う人のことを私は一度たりとも仲間と思わないし、助ける気もない」
「!」
「君がさっきから言っていることもほとんど違う
私は人々を導く気はないし、普通に友を持っている
それにそうやって私を神格化するやつらを救おうという気は一切ない」
冷たく言い放つとさっさと前へ足を進める
「カイ、言いすぎだべさ!」
「いいんだよ
あれくらい言わないと目が覚めないんだよ、彼らは」
言われた獣人の子は目を潤ませる
「大丈夫?
こういう時は…
頑張れー頑張れー」
「…。」
「頑張れー頑張れー」
「…大丈夫だからいいよ」
「大丈夫じゃないよ
だってすっごく辛そう」
「…。」
「あのね、これあげる」
そう言って少女は獣人の子に長い髪を押し付ける
「ナーガくんが言ってたの
黒いのはねあったかいのをくれるんだって
あったかいっていうのはね、好きがいっぱいなの
好きがいっぱいだとすっごくね、心がほわほわするの!」
「…あなた」
「チビね、好きがいっぱいなの
だからわけてあげる」
そう言って少女は頭をぐいぐい押し付ける
「わわわ、大丈夫ですから!」
「本当に?」
「…その気持ちが一番うれしいよ
ありがとう…えぇっと…あなたのお名前は?」
少女はその質問に頭をコテンと倒す
「さぁ?」
「チビでいいと思うよ」
前の方から聞こえる凛とした声
その声の主は
「カタミミくん」
黒づくめの女性だった
「私はね、別にあなた自身を嫌ってないの
ただ、私に見せてくる無償の尊敬の念が嫌いなだけ
だからさ」
「あれ、カタミミくん?」
「泣かなくていいんだよ
ほら、可愛い顔が台無しじゃないか」
「すびまっ…せ」
「カ~イ?」
何か意味を含めたような声が黒づくめの女性に刺さる
「…悪かったよ」
「…違うんです…私…違うんです」
「…私が狙われている理由について君が気にしてるんならお門違いだよ
神格化してるのは君だけじゃない
奴隷解放のリーダーとして祭り上げているやつはもっとめんどくさいやつらさ
少なくとも君を責める気は一切ない、それは覚えておいて」
女性がそう言うと少女はただごめんなさいという言葉を繰り返す
つっかえながらも何度も何度も
「…私はその言葉が嫌いなんだ」
「っ!…ご、べな」
「…カイが好きな言葉はありがとうだよ」
旅人はそう告げると少女の手を引きその場を去った
そこに残されたのは泣きながらありがとうございますと言い続ける獣人の子とそれを静かに聞いている黒づくめの女性だけだった




