私の師匠はどこですか
思い出したかのように書き始めました
フゥ…サクサク、ヨイショ…サク、ハーハー…
旅人と少女は枯れ木に囲まれ廃れた道路に沿い、その歩みを進めていた
その道の先にある旅人の友に出会うために
「そういや、君…随分と寒っこい服装だけど、大丈夫なのかい?」
「さむっこい?」
「あぁ、見ていてこっちがゾゾゥとする程寒そうな見た目だよ
いや、寒いは通り越したら痛いんだゾウ」
「さむそう…さむい…?」
「…君、もしかして寒くないのかい?」
「さむく…。
さっきからデッカくんは何を言ってるの?
サムってなぁに?」
「…。
そうさなぁ…オイラが最も嫌いなものサ!」
「きらい…?」
「そう!これから会う親友が寒さの鳥の子になっているんだっさ!
それでオイラと離れ離れに一回なって…だから寒いが嫌いなんだ!」
「…ふぅん?」
「…でも、嫌いなもののことばっか考えてもいい気分にならない!
だから、一緒に好きなものを言い合おう!
オイラはね、その親友がだーいすきっ!
いつも賢くて優しくて、楽しいんだな〜」
「デッカくんお目目キラキラしてる
とってもすきなのね?」
「あぁ!餅食う論さ!
そろそろ君にも会えるよ
ほら!あすこの木のてっぺんちょにある家にいるよ」
おーいと旅人が大声を張り上げると
ガララ、ガチャンコン、カンコンカンコン
と小気味いい、木の奏でる音楽がツリーハウスへの道を作る
「これ、橋の五っていうんだべさ!
この前訪れた時に教わったんだ!」
「はしのごじゃない、ハシゴだ」
頭上から間違いを訂正する声が低く響く
「あはは、間違えちゃった…。」
「ねぇねぇ、デッカくん
チビにもすきできたよ
この音好き、最も好きなもの!」
「おぉわぁ!好きなものができるのはいいことじゃ!いいことじゃ!」
「うん、いいことじゃ、いいことじゃ」
二人の来客はいいことじゃ、いいことじゃと梯子を一段登るたびに言う
「ふぅーい、着いたぁ〜…」
「お疲れ様、可愛い連れ子がいるな」
うんしょと登りきった少女が目にしたのは
「散らかっていてすまない、空いてる所に腰掛けてくれ」
文字でびっしりとうまっている紙が散乱した部屋の中、大きく伸びをする旅人とこちらに目もくれない黒い服で覆われた女性だった
「っは〜…邪魔して悪いね」
「いいよ、君なら」
旅人が荷物をドッカリと置くと木の軋む音がする
その音に気を止めず、女性はスルスルと梯子を回収していく
少女もまた壊れそうな音には反応せず、女性の長い髪が動くたびに波打つのをまじまじと見ていた
「それで、この子は」
「ナーガナガくん…」
「え…?」
女性は少女に焦点を初めてあてる
「ナーガナガ、髪が長ーい、ナーガナガくん!」
「ふむ…なるほど、私がナーガナガくんかい?」
「うん、ナーガナガくんの家って黒いものが好きなの?」
「黒…あぁ、そうだね
寒いところだと黒いものが家と私を守ってくれるの
黒いものは私達に暖かさをくれるんだ」
「あたたかさ…?サム…」
「そう、寒いの反対は暖かいなんだ
私は暖かい方が大好きでね」
「大好き…?」
「好きが止まらない、それが大好き」
「だいすき…デッカくんがナーガくんのこと話してる時言ってた」
「あらら、それは嬉しいことだな」
「ナーガくんもなの?」
「あぁ、私もデッカクンのこと大好きだよ」
「大好きいっぱい…チビ、それが大好き」
「フフ…それはいいことだ、チビ
生きてる限り、最も大切で幸せな感情を君は今手にしている
…それは何ものにも代え難く、また有難く、そして消えてはならない、いや、消してはならないものだ
絶対に手放すなよ?」
「?…うん」
「よしよし、いい子だ
そんな君なら不可能を可能に変えられる
空を飛ぶより、美声を手に入れるより、暗闇に灯をともすよりも困難なことだ」
「…なぁに…?」
「それはだね、他の子達と手を取り合うことだ
この生きているもの全てと」
「……。」
「一見、それはできるかもしれない
でもね、このことを大人はできないんだ
いや、大人だからこそできないのかもしれない
綺麗な心はとうに消えた大人だからこそ…チビ?」
「……スー…」
長話に耐えきれずチビは眠ってしまった
「いっぱい歩いて疲れたんじゃ、そっとしておこう」
「そう…だな…悪い、ちょっと話しすぎた」
「ううん、ぜーんぜん
カイの話は面白いから飽きないや」
「そうか?私としてはミルの話の方が飽きないよ」
下で焚き火しようと梯子をスルスルと静かに落とす
「…それで、早速話を聞きたいんだが
…あの子はなんだ?ミルは確か思い出の村を訪ねたんじゃなかったの?」
「あぁ、帰り道で拾った子さ
…捨てられた子だとオイラは思うよ」
パチ…パチ…
焚き火の音は謙虚だが、静寂の中では主役となる
「…それで、村のことなんだべが、誰もいなかった」
「…仕方ないさ、ここら一帯に今までなかった謎の雪に覆われている
住人達も逃げ出したんだろう」
「そうさな…いるはずないさな…。」
「ほら、しみったれた顔すんな
それで、あのチビっ子は雪女か?
この寒空の下に似合わない格好しているが」
「それが、寒いが分かんないらしいんだ
ユキオンナではないと思う!
あの子、高いところから落ちて平気そうだったし…そういう子じゃないかな?」
「ふむ……それは痛覚…感情がないんじゃないのか」
「感情が…ない?」
「あぁ、言葉がどこかチグハグそうだったし
多分、記憶喪失かなにかだろう」
「きおんそーしつ?」
「あぁ、今知っていることを全てあるいは部分的に忘れることだ
ただ、私は感情まで消えた子なんて聞いた覚えはないがな」
「…じゃあ、チビは今何もないのか?
家族も仲間も思い出も、感情も…」
「…そういうことだな」
女性は近くに置いてあった薪を火に放り投げる
「じゃあ、オイラが!」
炎が揺らめく
「オイラが、あの子の家族にも仲間にも、思い出にも感情にもなってやったらいいんだな!」
「…そういうことだな」
女性は手にある薪を火にくべた
「ねぇ、ねぇ、ナーガくん
家くんは一緒じゃなくて大丈夫なの?
ナーガくんも黒なのに離れ離れじゃ好きがなくならない?」
「フフ、いいのさ
私がいなくても家にはいっぱい黒があるからね
紙いっぱいに埋められた黒のインクが好きを埋めてくれるよ
だからチビが心配する必要はないよ」
「おーい、降りたさ!」
重い荷物を背負ってドタドタと少女と女性に駆け寄る旅人
「二人とも忘れ物はないね?」
「「うん/おうさ!」」
その返事を合図に女性は手に持っていた切れ味のよいナイフを二本、梯子の先端部分に投げた
梯子の紐はナイフで切れてガラガラと落ちてくる
「な、なしてなして!?」
「…石スッゴイ…」
「留守中にネズミが入るとマズイからね
なに、研究した内容は頭に入ってる
それに何か忘れたらまたゆっくりと誰もいないこの場所で考えればいいさ」
「けんきゅー?」
「チビには関係ないことだよ
さ、早く街に行こう
チビにとってここよりもずっと刺激的な場所だろうから」
好きって言えるのは子供の証拠、でもその証拠は決して悪いことじゃないのを大人は忘れている
ということでここまでのご閲覧、ありがとうございます




