黙示録の講義
「3Dプロジェクターは直ったかね?昔の動画映像だから平面画像が映ればそれでいいのだが。」
教授の問いかけにステルスは、それならできるとだけ答えた。
「では、不動君に説明しよう。今は2040年だから、話は41年ほど前に遡る。1999年7月。全ては一人の男性の投稿動画から発覚が始まった。」
ステルスが装置と共にコンテナから出てきた。装置に電源をいれ、慣れた手つきで動画を流す。
そこには、ある黒人男性が映っていた。
黄色の鮮やかなシャツとは対照的に表情は陰気で暗く、英語でも、勿論日本語でもない言葉でメッセージを紡いでいる。
「今フランス語で話している彼を、我々はトランペッターと呼んでいる。実名は当時でも分からなかったが、投稿元はカメルーンからだった。悪質ないたずら及び脅迫行為として動画は削除され、カメルーンの警察の捜査の手が入ったが、男は未だに捕まっていない。」
「何て言ってるんですか?」不動の質問に、教授は顔をしかめながら答えた。
「全ての人類へ。私は人類に寄生した知的生命体である。私は寄生した先である大脳を通じて自我に目覚め、死と自殺という概念をも知った。
私は宿主以外の人類の死を通じてより死を理解し、また宿主となる人類を全て滅ぼす事で、間接的ながら種の自殺という行為を実現することに決めた。
これはこの世界や、ヒトという種は滅びるべきだとの宿主の意思でもある。
自我を持たない同胞達を私の意識下におき、人類滅亡を実行する。全ての人類に速やかな死を。聖なるかな。」
教授の翻訳と共に、動画は途切れた。
「要するに、宣戦布告だ」タンクが額を手で押さえながら苦悩の表情で不動に視線を送る。
「寄生知的生命体、俺達は天使虫と呼んでいるが、そいつらが人類絶滅への宣戦布告を動画でやったのさ。」
「当時もネットがあったとはいえ、動画自体はそれほど拡散しなかった」教授が後を続けた。
「しかし、その後すぐだ。世界各地で超能力を用いて犯行を行ったと思われる通り魔やテロが多発した。」
「超能力は子供の頃にスプーンでも曲がるか程度に弱く発達した後、消滅していくというのがセオリーだった。今でもそうだな。ゆえに当時はどれも超能力や子供の犯行に見せかけた事件だと思われた。」
教授は首を振ってみせた。
「だが、現実は違った。大脳に寄生した天使虫達はトランペッターの命を受けて自我を持つ様になり、『偽天使』となって老若男女全ての宿主の超能力を再覚醒させ増幅させて殺人や破壊活動を行うようになったのだ」
「そこで、彼らに対抗するために私達だけでなく沢山の組織が立ち上がったというわけ」キャッツが静かに口を挟んだ。
「数は少ないけれど、世界規模でね。けど、奴等の超能力は人類のそれとは桁が違った」そのまま何かを思い出すように眼を伏せた。