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ベンダーゲーム

「さぁ皆!二本のベンディングロープでバトろうぜ!集中力と超能力の細かい操作が鍵だ!」


全国ネット配信の子供番組では今、ベンダーゲームが熱い、と報じていた。


ベンダーゲームとは、


10分以内に一本のひもの両端をくっ付けて輪を作った後、輪をくるくるとねじれさせ沢山の小さな輪をつくり、時間が来たらそのままの状態を維持して輪を数えて貰い、相手よりも輪の多い方が勝ちという単純なゲームだ。


ゲームはひもを空中に浮かせてから始まり、終わるまで空中で行われる。

ひもを地面に落としたり審判役以外が触れたりすると反則負け等のルールがあり、公式試合や大会ではベンディングロープという名前で、ひもの材質が細かく統一されている。


学校ではゲームをインストールできるという理由から、通信機器の持ち込みを禁止され、当然ゲームの道具の持ち込み禁止、学習用パットはゲームが入ってないか不定期に検閲される。中には家でもゲームそのものを禁止する家庭もある。


そんな中でベンディングロープ(ひも)二本で遊べるベンダーゲームは広まった。



教師や親も『将来超能力が無くなった後でも、集中力やイメージ力が鍛えられる』という知育遊戯としての側面を強調する文部科学省やニュース番組の影響で、このゲームだけは黙認していた。


超能力は生理現象であり、中学生や高校生になれば能力は衰え消えていく。

つまりは、超能力は子供だけの特権と考えられていた。


放課後集まった子供達がベンダーゲームで遊んでいた。

下校した後、子供達がたむろしてベンダーゲームで遊ぶ光景は、多子化に成功した日本では珍しいものではない。


「あー、輪っかつくるのはいいけど空中で維持するのが超難しい。カウンティングの時にバラけるとかないわー」

ゲームに負けた内村がぼやいた。

「まぁ、気にするなって、デュエル時間が過ぎた後も集中してればいけるから次頑張ればいいじゃん」

ゲームに勝った田中が優越感と共に内村に声をかける。

「オホン、やっとるかね君達」

「あ、教授だ!」

「こんにちは!」


黒い帽子に黒コート姿の、白髪の中老男に子供達が挨拶した。小学校低学年の子供達に至っては尊敬の眼差しで教授なる男の顔をみた。

教授。

本名は謎だが、自分で自分のことを教授と名乗っている。子供の生理現象であるはずの超能力を、大人になっても使え、しかもベンダーゲームでは無類の成績を誇っている。

大会や公式試合には絶対に顔を出さないものの、彼を知る子供達にとってちょっとしたヒーローだった。


「ねぇ、教授。輪っかのカウンティングの時にも集中してるのに、ひもがバラけちゃうんだけど、どうしたらいいのかなぁ?」

「それなら、輪を作った後のひもの形を、初めからそういう形だったとイメージして、当てはめて集中してごらん。長続きのコツはイメージだよ君」

「ありがとう教授!」


「教授、オレと勝負しようぜ!秘策があるんだ!」

不動結城が声をあげた

「なんだよ不動かよ」「俺らの中で一番よわいじゃん」「不動産はいらない、ての」

他の子供達が口々に文句反対する中、教授は「いいよ」と微笑んだ。


不動対教授が始まった。審判役は中村がつとめる。

「ひもを宙に浮かせて…ベンダーゲーム…デュエルスタート!」

教授はひもの両端をつけた後、右人差し指をくるくると回した。人差し指につられるように輪っかになったひもがくるくるとねじれていき、あっという間に小さな輪を作っていく。

「わぁ」「すげー」「流石だぜ」

子供達が感嘆の声をあげた。


一方、不動は、大きな輪を作った後のろのろと曲げている。

「だっせぇ」「もうちょい頑張れよ」「何やってんだよウスノロー」

不動には秘策があった。


そしてデュエル時間残り10秒の時、不動が動いた

「これが俺の秘策だぁ!」

不動は右の人差し指で上から下へ空を切る動作をした。

その瞬間、教授が限界までガチガチに曲げたひもが縦に鋭利に切り裂かれ、バラバラに地に落ちた。

「そこまで、デュエル終了」

中村が驚いた声でゲーム終了を告げた。


途端に、何が起きたのか皆目の色を金色に輝かせた。

超能力を可視化するサイコビジョンを使用したのだ。

残留した生体エネルギーを辿ると、不動が教授のひもを自らの生体エネルギーで干渉して縦に引き裂いた形跡が残っていた。


「嘘だろ」「マジか!」「ありえねぇ!」

ベンダーゲーム中に相手のひもを妨害しても良いとされるが、自分の輪作りに集中しつつ相手を妨害するのは、その困難さからゲームでは悪手とされていた。

また、サイコキネシスは動かしたい物体を体表から発する生体エネルギーの念力場で包んで動かす。

この生体エネルギーは通常他の能力者には干渉する事が難しく、動かしている能力者よりも強い念力が必要とされていた。


「ひもが切れちゃったね。」

内村がポツリと呟いた。

「代わりのひもなら、いくつか私が持っているから、これで思い切り遊ぶといい」

教授がコートから代わりのひもを取り出す。大会でも使われる値段の少し高いベンディングロープだ。


その日、不動はヒーローになった。

相手が生体エネルギーによるバリア、サイコフィールドを強く固く念じてからロープを曲げても、不動は皆フィールドを貫通させロープを切り裂いてしまった。

真似をする子供もいたが、相手のひもを揺らす事に集中した途端に自分のひもが地面に落ちて負けた。

小学4年生の不動に悔しがる上級生、スゲースゲーと囃し立てる下級生。


そんな中、教授は不動を静かに見つめていた。

(金の卵を見つけた。私のサイコフィールドをも破り、しかも物体を切り裂く能力の持ち主!これは我らイレギュラーズに…例え鬼畜と言われようとも…)

不動の姿を、写真撮影アプリで音もなく撮影した後、騒ぐ子供達に別れをつげた。

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