8.心弾む桜色
目を覚ますと時刻は昼を回っていた。学校に遅刻すると焦ったけど、幸にも今日は春休みで学校が休みであることに安心して、張り詰めた焦りの気持ちがスッと消えていった。突然体を起こしたこともあり、落ち着こうと近くのソファーに腰掛けた。ふぅーっと息を吐いて、心を落ち着かせた。
今日は確か──。
今日が私にとって特別な日であることを思い出すと、自分の部屋へ行く。服を脱いで、外に出かける時の服に着替える。今日は晴天ということもあり、昼の時間帯は日の光が照らされる自分の部屋は、とても暖かかった。もう、暖房の近くで着替える必要は無いのだろうと悟った。
着替えを終えると、洗面所に行き顔を洗う。寝癖で少し跳ねた髪を櫛でとくと、鏡面に映る自分自身の姿を確認する。良し、と呟くと、櫛を元の場所に戻して洗面所から出る。自分の部屋から財布とスマートフォンを取り、それをポケットに入れて玄関へと向かった。
玄関の扉を開けて外に出る。外は、家の中よりもずっと暖かい。寝起きということもあり、日の光によって照らされた世界に目が眩む。目の周りを指先で軽く押さえて、少しずつ目を慣らしていく。慣らしながら、私は道に沿って歩く。
この時期になると、いつもあそこへ行く。歩いてすぐの所にある並木道。いつもは青々としているか、禿げて枝だけになっているその木々。今の時期になると、その木々は──。
並木道が視界に入ると、思った通りの光景が広がっていた。
今の時期になると、その木々は桜色の花を咲かせていた。小風で騒めく音。その小風でひらひらと花弁が舞い落ちていく。道路にはそんな落ちていった花弁が桜色の道を作っていた。そんな桜並木の道は、とても綺麗で幻想的だった。
春が来たと確信する桜色に、心が弾む。そして、今日が私にとって特別な日であることに、より心が弾んだ。
桜が満開になる頃に、私は生まれたのだから。