止まった歯車と動きだした歯車の連鎖
日常が少しずつ色づき始めた、そんな何気ない日々に心が壊れそうになる瞬間と、
壊れ欠けたその心の破片が、磁石の様に、まるで吸い付くかの様に救われる瞬間が
交差するような日々が始まる ー------。
「おはよございま~す。」
前の飲み会からまた少し距離が縮まった。
「今日も朝から掃除かあーー。」
そう、ブツくさ言いながら他愛無い会話が弾む。
あそこのお店美味しかっただとか、好きな漫画だとか。そんな他愛無い会話。
そんな会話がいつしか私の頭の中の日常の大半を占めるようになった。
単純に“特別な時間”だった。
残業が増えるにつれ、月半ばから月末に忙しくなるその人と
一緒に残業する日が出てきた。
残業を繰り返す度に距離が縮まっていった。
何気ない会話がとてつもなく新鮮で心地よかった。
残業終わりの帰り道は決まって1人。
「ふぅ、、、、。」
実際問題、同棲している彼氏とは上手くいってない。
上手くいってないというよりかは上手くいけてない。きっと私だけ。
同業者であり、彼の何年越しの猛アタックに根負けして付き合ったものの、だ。
ちゃんと好きだった。そこにあったのは愛なのかはいまだにわからないけど。
私を私として受け入れてくれた、きっと最初の人だと思う。
でもそれは全てではなくて、切り取られた一部分。
愛してくれたのはきっと。その “一部分” 。
家に帰るのが億劫で暇を見つけては地元の友達と飲み歩いた。朝まで。
それでも何一つ文句も言わなかったし、ヤキモチなんて妬いてたのかさえ解らない。
快く送り出すし、0時回るなら敢えて帰ってこないで、とまで言う人。
まあ、とてつもなく心地よかったのは否めない。
ヤキモチに気を遣わなくて良かったし無論そんなつもりで外に出ている訳でもない。
そんな日々が続いてた時 ------ 。
ひょんなことで彼と大喧嘩。
向こうは何気ない一言だったんだろう。けどもそんなの通用しない。
その時のその歳の私には。
切り取られた部分の一部を愛されていたんだ、と気づかされた私は
彼を避けるように生活を始めた。
極力仕事が終わってもまっすぐ帰らず、飲んで寝静まった時間に帰る事に努めた。
あえて仕事を詰め込んで残業三昧にだってした。そう、敢えて。
残業している方が楽しかった。心が安らいだ。彼との何気ない会話が。
とりあえずもう、日を追う毎に同じ空間にいる事に対して拒否反応が作動していた。
そんな日が数日続いた日 ---- 。
休みがたまたま被ってしまう。やってしまったと思いながらも
外に出る伝がない。どうしようもなくカメラを片手に外へ出た。
途方に暮れて帰宅した私をおもむろにただ一心に彼は抱いた。
私の意思など見えぬかのように。
泣きながら訴えた私に目もくれずただ一心不乱に。
きっとあの時の彼は。あの時の彼は手を伸ばしても届かなくなってしまう
私の心を必死に引き戻そうとしていたのかもしれない。
今なら。そう思える。
一通り終った後、彼は徐言う。「ごめん、、、。本当にごめん。」
声を震わせながら放たれた言葉さえももう私には届かなかった。
わたしはただ、無言で部屋を飛び出す事が精一杯だった。