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ブラックグラウンド

 この広い世界の、どこかの遠い彼方。勇気と力と、そして愛を心に秘めて、まぶしい輝きを放つ光と共に、今数人の影がいずこへと飛びさって行った。

 光から闇の中へと、その影は消えていく。

 目指すは黒魔族の待つ大地、ブラックグラウンド。黒魔族に捕まった女王サイーダを救うため、mirikoworldの戦士達が、ブラックグラウンドへ向かっているところだった。


 暗い闇の中で、ブラックグラウンドはだんだんその全容を明らかにし始めた。その大地は強い邪気を帯びており、そこでは月さえも黒い妖気を放っていた。不気味に魔空間に浮かぶその大地は、近づいて来る美衣子達に恐怖と不安を感じさせ、ますます妖しく輝き始めた。


「あれがブラックグラウンド……」


 手を伸ばせば、届くようなところまで来ていた。


 トン。


 光と共に彼らは着地する。

 降りてみたら、その大地の異常さが、尚更はっきり分かった。

 ただ一面、静かなだけ。何も見えない、暗黒の世界だった。

 美理子が、魔法の杖で明かりを照らす。

 それを前に向けてしっかり持った。

 一つ、ただ一つ、城が見える。

 地獄の炎をあげる炎の池に囲まれるように、その城は建っていた。

 戦士達が決意したようにその方向を見つめる。

 ジースが呟いた。


「あの城へ行ってみよう。きっとあの城にサイーダ様はいらっしゃる!」


 他のみんながコクッと頷く。

 一歩、美衣子の足が先に進んだ。それに続き、戦士達も歩き出す。

 その様子を、城の中のモニターで見ている者達がいた。

 囚われの女王サイーダと、ダル。そしてダークキングである。

 ダークキングが口元にうっすらの笑みを浮かべる。


「やって来たな。mirikoworldの戦士達が」


 その顔の裏に、自分は絶対倒れないという自信が隠れていた。それにサイーダは気付く。

 キッとダークキングを睨み、サイーダは言う。


「ダークキング。あなた方の野望は、きっと私の意思を継いだ戦士達が破ってくれるでしょう。あなた方の命運も、ここまでです!」


 その時、ダルの右手がサイーダの頬をひっぱたいた。


「キャッ」

「サイーダよ。まだ分からないか? ダークキング様が復活した今、お前達の力など取るに足らないということが。これで、mirikoworldの支配も夢じゃない」


 だが、サイーダも引かない。


「あなた方のやっていることは、間違っています。人間界やmirikoworldを支配して、何になるというのですか? 大切なのは、人々が信じあい、共にこの世界を守っていくことです。私は、私の勇者達を信じます。彼女達なら、必ずやってくれると!」


 一瞬、サイーダの気迫に押され、言葉を失ったダルだったが、


「ええい、黙れ!」


 再び、その頬を叩いた。


「うっ」

「魔兵士達よ、サイーダを牢へ」


 すぐさま現れた魔兵士がサイーダを引っ張って、牢へ連れて行った。



 コトッ、コトッ。


 城内に足音が響く。

 ダルに呼び出され部屋に入って来たのは、幻矢と龍妃の二人だ。


「来たか。二人とも」

「お呼びでしょうか。ダル様」

「ふむ、今この城に、捕らえたサイーダを助けだそうと、mirikoworldの戦士達が向かっている。人間界での決着もあるだろう。この城に奴らが来る前に、倒してくるのだ」

「分かりました。では」

「うむ」


 幻矢と龍妃は一礼して出て行った。


「ダルよ」

「はっ、ダークキング様」


 奥からダークキングの声が聞こえる。


「あの二人に任せて、大丈夫だろうな?」

「はい。あの二人は、黒魔族五人衆の中の二人。必ずや、戦士達を倒して来ましょう」

「そうか。それならばいい。わたしは少し休む。何かあったら、知らせるがいい」

「はっ、ダークキング様」


 ダークキングが静かになる。

 ダルもそっと部屋を出て行った。



 平行に並んだ鉄格子の中、サイーダは大きなため息をついた。ただ、拘束はされていない。

 本当に人質として生かしておくつもりなのか。

 見張りの魔兵士が牢の側に立っているが、鍵を持っている様子はない。どこか別の場所にあるのか。

 サイーダは、あえて大人しくして、魔兵士の様子を伺った。見張りの魔兵士も、サイーダが脱出する気配がないので安心したのか、目をそらし雑談を始めた。

 やがて交代の見張りが来て話に加わる。が、彼らも鍵を持っていない。一体どこにあるのか。サイーダは、牢に入れられた時のことを思い返してみた。

 そういえば、彼らは鍵を掛けなかった。鉄格子の扉は横に開き、そのままガチャンと閉められた。

 だとすれば、横に引っ張ったら開くのか。いや、そんな簡単なことじゃない。もう一度考えてサイーダははっとした。一人が扉を閉めた時、もう一人は壁をいじっていなかったか。そうだ。正面の壁だ。サイーダは、鉄格子の隙間から静かに小さな気を壁に当てた。思ったとおり、スイッチが現れる。気が付いた見張りが慌ててスイッチを隠そうとするが、それよりも早くサイーダのナイフが炸裂。扉は開かれた。

 さて、ここから。魔兵士に取り押さえられそうになるが、サイーダは気を貯めて反撃。煙幕をまき、牢を逃げ出す。後ろから魔兵士が追いかけてくる音がするが、必死で逃げた。


 空いている部屋を見つけ、ベッドの下に隠れる。ちょうど、シーツが長く垂れさがっていた。これで姿は隠れる。息を潜め、サイーダは懐から淡いブルーの石を取り出した。この石は、サイーダが生まれた時から、ずっと手元にあった。何故かは分からないが、この石を見ると心が休まる。

 石をこすって抱きしめてみる。ふと、暖かいものを感じた。


「サイーダ……」


 声が聞こえる。


「誰?」


 女性の声だ。懐かしいような、暖かいような、不思議な、凛とした声。自分を、包み込んでくれる。


「今から、あなたをこの城から出しましょう。さぁ、目を閉じて」

「はい」


 言われるがまま目を閉じる。魔兵士が部屋に入って来たのと同時に、サイーダの体は光に包まれ、飛んだ。

 それは一瞬のことだった。魔兵士は窓を開け外を見る。光は、放物線を描いて遠くへ。とりあえず、ダルに報告しようと魔兵士は部屋を出る。後で相当怒られるだろう。魔兵士はガックリした。



 サイーダはゆっくりと目を開ける。光は消えていた。本当に、城の外に出たらしい。手には、あの石が握られていた。


「サイーダ……」


 またあの人の声。サイーダは礼を言おうと声を出す。


「あの、ありがとうございました。どなたかは存じませんが、私を城から出してくれたこと、感謝します」


 サイーダの目の前。何かを感じる。光が、人の形を作っていく。女性のシルエット。

 半袖の服に膝までのふわっとしたズボン。長いブーツ。左肩と胸に敵の攻撃を防ぐ防具(ガード)がついている。髪の毛はトップでポニーテール。それをさらに三つ編みにしている。下ろすと腰位までの長さか。どことなく、サイーダに顔つきが似ている。


「あなたは?」

「わたしは、この魂の石から、あなたのことを見守っていた者。サイーダ、大きくなったわね」

「……!! まさか……!」

「そう、わたしはミーアノーア。サイーダ。あなたを産んだ者」

「……お母様!」


 水仙人から聞いていた。母ミーアノーアは、自分を産んですぐに、戦いで命を落としたこと。それから長い年月、水仙人と共に眠りにつき、生きてきたこと。自分には、mirikoworldを守る使命があること。さまざまな思いが、サイーダの中でこだまする。

 一人、ただ一人、逢いたかった。逢えないことは分かっていたけど、逢いたかった。その願いが、今、叶った。

 涙が、自然に溢れてくる。互いの存在を確かめ合うように、両手を広げ、抱き合った。幻でもいい。今はただ、こうしていたい。


「サイーダ」


 ミーアノーアがサイーダから離れ、目を見つめ話す。


「あなたは、mirikoworldの女王として、使命を持って生まれた子。わたしの体は、あの時に滅んだけど、あなたは、まだ生きている。わたしの大好きな世界を、守ってくれてありがとう。母として、成長した娘に会えて、これ以上の喜びはないわ」

「お母様」

「さぁ、もう行きなさい。あなたの大切な戦士達が、この大地に来ているのでしょう。彼女達と力を合わせ、ダル、そしてダークキングを倒し、この世界に平和を導いて下さい。わたしはいつも、あなたを見守っています。さようなら。サイーダ」

「お母様!」


 母の幻は消えた。サイーダは涙を拭きダルのいる城を見る。あの城から、母が救ってくれた。今度は自分の番。ミーアノーアの願いを叶え、世界を救う。逆方向を向き、美衣子達の下へ走る。

 その顔に、迷いはなかった。


 一方、サイーダがいなくなった城では、見張りの魔兵士がダルに怒られていた。と思ったのだが、


「どうせサイーダと一緒に戦士達を殺すつもりだったのだ。ここで逃げたとしても、問題はない」


 とのダークキングの言葉により、おとがめはなかった。ダルはそんなダークキングに、より一層強さを感じた。どんな時でも、余裕を持っている。自分とダークキング様がいれば、大丈夫だ。

 悪の笑いが、こだました。

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