邪神復活のとき
ザッ、ザッ、ザッ。
幻矢は歩みを止めると、ギラッと睨んで言った。
「俺達黒魔族五人衆は、ダル様をお守りするため、魔法や武術などそれぞれの技に優れた者達を選んで結成された、黒魔族の誇り高い戦士だ。飛龍は、一番下っぱとはいえ、その炎の威力は、俺達の中でも一番のレベルに達するほどだった」
それに続き龍妃も言う。
「そう。飛龍は、あたしの大切な弟分だったの。その飛龍を殺したあなた達を許さないよ」
「行くぞ、龍妃!」
「ええ!」
幻矢と龍妃の二人が美衣子達に向かって来る。
「ファイヤー!」
美衣子は幻矢に向かって魔法を放つ。が、幻矢は持っていた弓でその炎を跳ね返した。
「お前の力はこの程度か? 今度はこちらから行くぞ!」
「!!」
幻矢は弓矢を構え、静かに目を閉じた。
「我が信頼する王、ダル様。我に力をお貸しください。空よ、風よ、大地よ。その暗黒のパワーをその手にゆだね、我に捧げよ!」
彼が目を開く。構えた矢に渦状に風がまとわりつき、稲妻のような光が見える。
「受けよ! 我が最強の必殺技、サンダーハリケーン!」
幻矢が放った矢は、嵐のような風が吹き荒れ、稲妻と混ざり、真っ直ぐに美衣子の所へ突き刺さった。
ドカーン。
地面に激しく衝突する音を残して、砂煙が視界を覆う。
「みーこっ!」
ジースが叫ぶ。
一瞬の沈黙の後、だんだん晴れてきた砂煙の中、一人の人影が近づいてきた。
少しフラついてはいたものの、少女は真っ直ぐ目の前の敵だけを見つめている。キリッと顔を上げたその瞳の奥に、キラッと光る闘志が浮かんでいた。
「フッ、上手くかわしたようだな。だが、次はどうかな」
幻矢は驚いた顔をしていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「今度はそう上手くかわせまい。サンダーハリケーン!」
第二、第三の矢が迫る。
次々に来る攻撃をかわしきれず、覚悟を決めたその時、
「スーパーウインド!」
小人達のおこした風が幻矢の矢を吹き飛ばした。
「アイソトニック・ブリザード!」
美理子の攻撃も続く。
「大丈夫ですか。みーこ」
「はい、サイーダ様」
仲間にフォローされ美衣子は立ち上がる。
龍妃が槍を持って突進。
ジースが、その槍を剣で受けとめた。
「みーこ!」
ジースの後ろから、美衣子は龍妃に向かって魔法を放つ。
「エレクトロニックサンダー!」
吹きとばされそうになる龍妃だが、両足に力を入れて踏ん張る。
「やるじゃない。あなた達」
戦士達の実力を認めてか、龍妃は笑みをもらした。
「だけど、まだ倒れてあげる訳にいかないよ。あたし達の願いを叶えるまではね」
その様子を見ていた水仙人があることに気付く。
彼はデスキャッスルに向かい走り出した。
途中、パンパン達を呼ぶ。
「よいかパンパン。幻矢と龍妃は時間稼ぎじゃ。デスキャッスルの中の人達の魂が集まるまでのな。じゃから、早く中の人々を助け、ダークキングの復活を止めねばならん。よいな」
「はい!」
幻矢が気付く。
「させるか!」
サンダーハリケーンを打とうとするが、それを美衣子に阻まれる。
「水仙人様、早く!」
「うむ。グレート・シー・ラビリンス!」
「光の演奏!」
水仙人とパンパン、フェア、リィ、うさちゃんの攻撃で、デスキャッスルにヒビが入る。
「ちっ」
悔しそうな幻矢だが、すぐに水仙人に狙いを定める。
「龍妃、デスキャッスルを破壊されるな!」
「OK!」
「させないよ〜〜」
ワンメーの体当たりで幻矢が体勢を崩す。
しかし龍妃が動いていた。
「ハアアアアアアッ!」
水仙人に槍を一直線に突き刺そうとする。
「むっ」
振り向く水仙人。そして、槍を両手でがっちりと掴み、止めた。
「あたしの槍を、止めた?」
龍妃は女とはいえ力には自信がある。しかし、自分の槍を止める者がいたとは、思いもよらないことだった。
「それだけじゃないぞ」
水仙人は槍を掴む両手に気を貯め、一気に押し返した。
「キャッ」
槍は空中を舞い地面に刺さる。龍妃は、しりもちをついた。
やはり水仙人はただ者ではない。
彼の意外な強さに、美衣子達は感嘆の声をあげる。
「水仙人様、強いです!」
龍妃が槍を拾い立ち上がる。幻矢も近くに来た。
「大丈夫か、龍妃」
「ええ。でも、やっぱり一筋縄ではいかないわね」
再び、美衣子達と睨み合う。
デスキャッスルのヒビは広がり、もう少しで割れそうになっている。
サンダーハリケーンの構え。
幻矢が、矢を放つ。しかも一発じゃない。何回も続けて射ってくる。龍妃も、口から火を吐き援護する。
ドガガガガガ。
地面が火の海になる。
戦士達は防御もままならず、地に倒れ込む。
「ゲホッ、ゲホッ」
煙の中、幻矢と龍妃が歩いて来るのが見える。
火の勢いが弱まってきた。
「どうした、mirikoworldの勇者達よ。もうおしまいか?」
息が苦しくて言葉が出ない。
「幻矢、どうやら彼女達は動けないようよ。このままトドメをさしてあげましょう」
「そうだな」
矢と槍が首筋に向けられた。
その一瞬の隙をついて、サイーダがデスキャッスルに気を当てる。
「何っ?」
ガラガラと音をたててデスキャッスルは崩れる。
サイーダのバリアーで戦士達は守られた。
優しい祈りで、傷が治っていく。
幻矢と龍妃は立ち尽くしたまま。
してやられた、そう思った。
がーー、
またもやダルの声。
「フハハハハハ。サイーダよ。良くデスキャッスルを破壊した。だが、もう遅い。集められた人間の魂から、邪悪な心を抜き取り、それがこの魔法陣のエネルギーになっている。これで儀式を行う。ダークキング様の復活はもうすぐだ」
「何ですって?」
「そうだな。人間達の魂は返してやる。それに、面白いものを手に入れたぞ」
「えっ?」
「ファイヤーストーンの欠片だよ。魂を奪った人間が持っていた。それに、最後の一つは、もともと、わたしが持っていた」
「そ、そんな……」
「そして、あと一つ」
デスキャッスルがあった場所から長く無数の黒い手が伸びる。
それはサイーダの体を掴み引きずり込んだ。
「キャアアアアッ!」
「サイーダ様!」
「サイーダよ。わたしがデスキャッスルをここに置いたのは、何も人間達の魂を集めるためだけじゃないぞ」
「うっ、それは、まさか……」
「そう。お前をおびきだすため。ダークキング様の復活には、お前の力が必要なのだ。さぁ、来てもらうぞサイーダ。我が下へ!」
「止めるのじゃ!」
水仙人がサイーダを救おうとするが、黒い手が邪魔して近づけない。
「水仙人、みんな……」
「幻矢、龍妃! お前達も戻れ!」
「サイーダ様アアアッ!」
サイーダが黒い手に包まれて消えた時、幻矢と龍妃も消えた。
残された戦士達は悔し涙を浮かべる。
「今回は、全てが後手に回ってしまったか……」
水仙人が力なく崩れ落ちる。
「サイーダ様。うっ……」
美衣子達も泣くばかり。
大切な人を、奪われた。
「みんな、あきらめては駄目よ」
「うさちゃん……」
「まだ、何も終わってない。ブラックグラウンドへ行って、サイーダ様をお救いしましょう」
うさちゃんの手は、固く握られ悔しさがにじんでいたが、それでも彼女は立って、上を向いた。
美衣子達も立ち上がる。
「そうだ。うさちゃんの言うとおり。俺達が諦めちゃ駄目だ。俺達が弱気になったら、この世界も、mirikoworldも救えない」
ジースの言葉にみんなは頷く。
「そうよ。行って、サイーダ様をお助けするの」
「そして、黒魔族を倒す」
「行ってくれるか。戦士達よ」
水仙人が美衣子達を見つめて言う。まるで決意を促しているようだ。
「はい、水仙人様。わたし達が行きます!」
「そうか。では、気を付けて行って来なされ。わしはここに残って、凍らされた人々を助けよう」
「えっ、水仙人様?」
「心配は無用じゃよ。わしはサイーダ様から、再生の力を教えて頂いている。じゃからお前さん方は、安心して戦いに行って来なされ。サイーダ様を、頼んだぞ」
「はい!」
デスキャッスルの跡に、サイーダの気が残っている。この気をたどって行けば、サイーダの下へ行ける。戦士達は手を繋ぎ、祈った。
三個の欠片が輝き出す。そして、美衣子達は光に包まれ消えた。
水仙人は空を見上げ願う。
(勇者達よ。サイーダ様と世界の命運を、頼んだぞ)
「う、うん……」
闇の気が満ち溢れた部屋でサイーダは目を覚ます。体は、水晶の中に閉じ込められていた。
目を凝らして良く周りを見てみる。部屋の中央に魔法陣があった。どうやら、ここはあの地下室らしい。
部屋の重い扉が開き、ダルと数人の魔兵士が中に入って来た。魔兵士は魔法陣のまわりを囲む。
ダルはサイーダを見据えて言う。
「気が付いたようだなサイーダ。では、これよりお前の力を借りて儀式を行おう」
「な、何を」
「魔法陣よ。サイーダの力をその中に取り込み、ダークキング様復活のエネルギーとするのだ」
サイーダを囲む水晶が妖しく光り、魔法陣へサイーダの力が流れていく。それはまるで電撃のような衝撃をサイーダに与えた。
「アアアアアアアッ!」
ダルと魔兵士の祈りが響く。
「暗黒の世界より舞い降りし、光の中で眠る者よ。その輝きを解き放ち、我らの願いを叶えん」
「願いを叶えん」
「今ここに復活せよ! 超魔生物、ダークキングよ!」
魔法陣が光る。そしてその上に、煙のように人影が現れた。
カッと見開かれた瞳。黒い肌。漂わせる不気味な雰囲気に魔兵士は怖れを感じた。
サイーダは意識を失いうなだれる。
ダークキングがダルに近づく。
「わたしを眠りから目覚めさせたのは、そなたか?」
「はい、ダークキング様」
ダルは片ヒザをつき、ダークキングの前に控える。
「一体、何が目的で、わたしを目覚めさせたのだ」
「はい。実は、我々は人間界とmirikoworldを手に入れて、暗黒の世界を作ろうと考えています。しかし、mirikoworldの者どもが、その計画を邪魔しておりまして」
「それで、わたしの力でその者どもを倒し、暗黒の世界を作ろうと言うのだな。よかろう。mirikoworldは我が最大の敵がいた場所だからな」
「ありがとうございます」
ダルとダークキングはがっちりと握手を交わし、目的のため手を組むこととなった。
ダルの笑いが響く。
(mirikoworldの者ども、待っていろ。もうすぐ、暗黒の世界がやってくる。サイーダは、お前達を倒すための人質となる。さぁ、早く来い)
「水仙人様!」
人間界に残って凍らされた人々を治す水仙人の下に、美衣子の両親が現れた。
「おお、そなた達か」
水仙人の魔法で人々は動き出し、壊されたビルや建物は何事もなかったように元通りになった。
「水仙人様、美衣子達は?」
一段落した水仙人に両親が尋ねる。
「さらわれたサイーダ様をお助けにブラックグラウンドへ行ったのじゃ。後は、あの子達の力を信じるしかあるまい」
「そう、ですか……」
両親は心配そうに空を見上げる。
(美衣子、無事に戻って来て。そしてまたあの笑顔をわたし達に見せて……)
遠い次元の彼方、戦いは始まろうとしていた。