激闘!ミリルーク神殿
ダルの命令により魔兵士がサイーダの命を奪いに挑みかかる。うさちゃんの技で半分以上減ったとはいえ、彼らの戦意は衰えない。近くにいるダルを恐れてか、一心不乱に攻撃してきた。
サイーダはジースに守られるように後ろに下がる。
「アイソトニックブリザード!」
ここで美理子が新たな魔法を使う。
氷まじりの吹雪が黒魔族を吹き飛ばす。この魔法は敵が一人でも複数でも、どちらにも使えるから便利だ。ただし、その分魔力を消費する。
「やるわね、美理子」
「うん、みーこも頑張って」
「OK!」
魔法の杖に火が灯る。
「ファイヤー!」
これで魔兵士はほぼ全滅。
残ったのはダル一人だ。
今まで、黙って戦いを傍観していたダルが動き出す。
「なるほど、さすがはmirikoworldの戦士達と言ったところか。わたしが送った兵士達をあっさり倒してしまうとは。サイーダ、強い仲間を持ったものだな」
「ダル……」
「しかしわたしとて、このままあっさり引き下がる訳にはいかない。ここまで来た以上、どちらかが倒れるのみ。決着をつけよう。サイーダ」
「分かりました」
ダルの目が怪しく光り、黒い大きな気の塊をぶつけた。両腕から打ち出されたそれは、戦士達に直撃し後ろに吹き飛ばした。
ドゴォン。
壁にぶち当たる。
その衝撃は凄まじく、立ち上がることさえできない。
「ううっ」
力なく横たわる。
「みなさん!」
サイーダは急いで美衣子達の下へ駆けつけようとしたが、ダルの気に当たって倒れる。
「女王様!」
なんとか起き上がろうとする戦士達。壁に手をかけ、ゆっくり立った。
サイーダも立ち上がる。
みんな、諦めてはいない。
「ほう、立ち上がってきたか。さすがだな」
ダルは両腕をあげ、くるくる横に回転し始める。すると、彼の体の回りから風が生まれ、やがてそれは巨大な竜巻へと変わった。
「受けよ! 暗黒竜巻攻撃!」
mirikoworldの戦士達全員、竜巻の中に閉じ込められた。竜巻が、彼女達の力を吸い取る。
「も、もう駄目だ。僕らの力が、吸い取られていく」
「わたしも……」
「俺も、もう力が出ない……」
その戦士達の言葉を聞いたサイーダが叫ぶ。
「みなさん、諦めてはいけません! このままでは、ダルにこの世界を乗っ取られてしまいます。今までの戦いを思い出すのです。諦めては勝てません。勇気を、忘れないで」
「勇……気……を」
「そうです! あなた方は、この世界を光に変える勇者なのです!」
サイーダの声に呼応するように、戦士達は勇気を取り戻した。
「ウオオオオオ……!」
全員の気を集めて竜巻を消し去る。
「ダル、覚悟!」
ジースが稲妻の剣を構え突進する。
「愚か者め! まだわたしの力が分からないのか!」
再び襲い来る気の塊。
ジースはひらりと避けた。
「な、何いっ!?」
「受けろ! 雷光衝撃波!」
稲妻の剣の雷を利用し、敵に衝撃波を喰らわす技だ。
ダルは吹き飛ぶが、体を空中で回転させ、見事に着地する。
神殿の天井は思ったより高い。
部屋の広さも十分だ。
着地したダルがジースに近づく。
「惜しかったなジース。雷とはこう使うのだ」
ダルは右手を前に出し、親指と人差し指で銃の形を作った。そしてーー、
「魔雷波!」
人差し指から放たれた稲妻がビーム状になってジースに迫る。
「ガハッ……」
ジースの体を光線が貫いた。
彼は前のめりに倒れる。
床に転がる稲妻の剣。
ダルはもうジースの目の前まで来ていた。
ジースは床に這いつくばったまま、上半身を起こしダルを見上げる。
「はあ……、はあ……」
「苦しいか、ジースよ」
ダルが稲妻の剣を拾い、ジースの首に近づける。
「ジースよ。何故わたしがお前の村からアヤをさらったか分かるか?」
「………」
「お前の村には武芸を嗜む者が多い。その中からいつか我ら黒魔族の邪魔をする者が現れるやもしれぬ。だからわたしは魔兵士に命じ、村の若者の中でも一、二を争う実力者であるアヤかお前をさらうことにした。洗脳して戦わせたのは、相討ちになってもらうためだ。それで敵の数が減るのならちょうどいい」
「そんな、そのために、アヤを……!」
「悪く思うな。若い芽は、摘んでおかないと」
稲妻の剣が少し首に食い込み血が流れる。
「さよなら、ジース」
その時、
「エレクトロニックサンダー!」
「スーパーウィンド!」
「ウォーターフラッシュ!」
戦士達の一斉攻撃。さすがのダルも壁に激突した。砂煙が舞い、ダルの姿が見えなくなる。
「ジース、大丈夫?」
この隙にジースをダルから引き離す。
「ジース、ジース……!」
柱の後ろに隠れていたアヤが顔を出す。
「アヤ、大丈夫だよ……」
ジースはサイーダの治療を受けていた。女王であるサイーダは癒しの力を持ち、その力で傷を治すことができる。アヤは安心して胸を撫で下ろした。
「アヤよ。そんな所に隠れていたか」
いつの間にかダルが立ち上がっていた。服は破れ頭から血が流れているが、致命傷はない。
「アヤ、今一度わたしのために働け」
頭の血を手で拭ったダルが、アヤに念をかける。
「あぁっ」
「アヤさん!」
「頭が、痛い……!」
アヤは頭を両手で抱え苦しみ出す。目が、徐々に虚ろになってきた。
「アヤよ。この稲妻の剣を使って、その者たちを殺すのだ」
ダルは稲妻の剣を持ったままだった。ふらふらとアヤが歩いて剣を受け取る。
「あ、アヤーっ!」
「アヤさん、止めて!」
ジースや美衣子達の叫び。
アヤは心の中で戦っていた。
(わ、わたしはジースを、彼らを切りたくない……)
その迷いが涙となって現れる。サイーダが、それに気付いた。
「戦うのですアヤ。ダルの言いなりになってしまっては駄目です!」
(わ、わたしは……)
「アヤ、頼む! 俺に君を、切らせないでくれ!」
(ジース……)
「何をやっているアヤ。早くその者たちを殺すのだ」
容赦なく飛んで来るダルの声。
「ああああーーー!」
アヤは稲妻の剣を空に掲げた。
「いけません! アヤ!」
「アヤさん!」
「止めてくれアヤ!」
剣が降りおろされる。
「!!」
血が、大量の血が流れていく。
アヤは自分で、自分の腹を貫いた。
驚愕するダルと戦士達。
血の気の引いた顔でアヤは倒れる。
バタン。
「アヤ、アヤーーーっ!」
すぐにジースが駆けつけ、抱き起こす。
「ジース……。わたし……」
「アヤ、分かっているから。喋ったら駄目だ」
まだ意識はある。ジースは剣を抜かないように布を巻き付け、彼女を抱き抱えた。
「早く手当てを」
今ここで剣を抜いたら、また血が吹き出す。血が固まるまで待つのだ。
「ジース、こっち」
床に布が敷いてある。ジースは彼女を横向きに寝かせた。
「ジース、私が彼女を看ます。あなた方はその間に、早くダルを」
「分かりました。お願いいたします。女王様」
戦士達はダルに向きあう。邪悪な気を発し、ダルがニヤリと笑った。
「ハアアアアアアッ!」
ダルの手の中に広がる気の塊は、今までの物より大きい。その大きさが、ダルの怒りを表しているようだ。
「お前たちは、どこまでもわたしの邪魔をする。もはや、全員死んでもらうしかないようだ」
「来るよ〜〜。あの大きな〜〜、塊が〜〜」
「みんな、構えろ!」
「遅い!」
美理子達が防御の構えをする前に、塊が放たれた。
「うわああああっ」
黒い気の塊に吹きとばされ、全員床に転がる。
壁にヒビが入り、割れた。
「威力が、違い過ぎる……」
体中が痛くて立てない。
「わたしの怒りの気を受けた者には、死が待っている。さあサイーダよ、そろそろ終わりにしよう」
サイーダに向かって邪悪な気が放たれる。
ピキーーン。
「むっ!?」
バリアーだ。
サイーダの優しい気が、戦士達を包むバリアーになっていた。その気が、ダルの気の塊をかき消す。アヤの傷の治療も終わり、静かに横になっていた。
「ダル、もうこれ以上、誰も傷つけさせません。
この世界も! 私の大切な仲間たちも!」
女王が目を閉じる。
サイーダのバリアーの中、戦士達の傷が癒されていく。
「ぬうぅぅぅ! お前たちはーーー!」
ダルの怒りが頂点に達し、気の塊を連発する。
次々とバリアーに当たるが、サイーダの守りは揺るがない。
美衣子他仲間たちが立ち上がる。
「女王様!」
「気が付いたのですね。皆さん」
サイーダは両腕を前に伸ばして、必死に守り続けていた。
ダルのほうも諦めない。
「魔雷波ーー!」
雷のビームがバリアーをとらえる。
ピシッ。
ついにバリアーにヒビが入った。
「フフフ……、さあサイーダよ。力比べといこう」
ダルの体中から気がみなぎっている。
妖しさも、前に比べて増したようだ。
「受けよ! ブラックハリケーン・ハイパー!」
竜巻が大きくなっている。その超巨大な竜巻がバリアーに直撃する。
「ハアアアアアア!」
サイーダもまた戦士達を守るため、気を高めた。
ピシッ、ピシッ。
バリアーへのダメージが大きくなってきた。
このままでは破られる。
意を決し、美理子が言う。
「サイーダ様、バリアーを解いて下さい。わたし達が反撃に出ます」
「美理子……」
「このままではいずれバリアーが破られます。わたし達を信じて下さい。必ず、勝ちます」
仲間たちも頷く。サイーダは、戦士達の真剣な眼差しに心を打たれた。
「分かりました。しかし、無茶はしないで下さいね」
攻撃の構えを取る美衣子達。バリアーが解かれた瞬間に、ダルに一斉攻撃するのだ。
「それでは、皆さん、行きますよ」
バリアーが解かれた。その瞬間美衣子達が駆け出す。
「むっ」
ダルはバリアーが解かれたのを見て攻撃を緩めた。そこに戦士達の攻撃。
「ファイヤー!」
「アイソトニックブリザード!」
「妖精のメロディー!」
「……ぐはっ」
完全にダルをとらえた。ダルは後ろに倒れる。
「やった!」
気絶しているのか動かない。カンとリースがそっと様子を見に行く。
身体の脇を通りすぎ頭の方へ。口から息がもれる。呼吸はしている。確認して仲間の下へ戻ろうとする二匹だが、突然その体を捕まえられた。
「ほう、こんなところに、面白いものが」
「カン、リース!」
ダルが上半身を起こす。右手にカン、左手にリースを握りしめたまま。
「は、離してよォ」
手の力が強くなる。苦しそうに鳴く二匹。
「二匹を〜〜、 離せぇ〜〜!」
ワンメーが突進する。ダルは嘲笑うように二匹を宙に投げた。そしてすっと立つ。ワンメーはあわてて方向転換し、ジャンプ。二匹を口で優しくキャッチして着地した。
「ナイス、ワンメー!」
美衣子が歓喜の声を上げる。美理子が彼女の前に出て構える。
「来るわよ! みーこ!」
ダルは走って近づいていた。美理子に蹴りを繰り出す。美理子は横に飛んで避けた。美衣子は至近距離から魔法を放つ。
「ファイヤー!」
ダルは炎に包まれたものの、自らの気でそれを消し去る。ジースが剣技を浴びせるが効かない。逆に剣を掴まれ、床に倒される。
「つ、強い……」
勝機が見えない。黒魔族の王とはこんなに強いのか。
「フフフ。どうしたmirikoworldの勇者たちよ。お前たちの力はこんなものなのか」
またもや気の塊を浴びせられる。もはや全員ぼろぼろだ。
だが戦士達の目は死んでない。美理子が立ち上がる。
「ダル。あなたがどんなに強くてもわたし達は負けない! この世界を守るため、仲間の力を信じる。そして、奇跡を起こす!」
「そうだ美理子。俺たちがやるんだ!」
「僕らは、死なない!」
「奇跡を、この手に!」
戦士達の心が一つになる。
その声を聞いたのかーー、
美衣子と美理子の首に掛かっているペンダントがまばゆい光を放った。
ピカッ。
「そ、そのペンダントは、まさか……」
ダルの驚愕の一声。
「みーこ、美理子、あなた方のペンダントには不思議な力があるといいます。もしかしたら、力を貸してくれるかもしれません。さぁ、そのペンダントにあなた方の願いを込めるのです!」
「分かりました。サイーダ様!」
「や、止めろお前たち」
「美理子、みんな、いくよ!」
戦士達は互いに手を取り、ペンダントに願いを込める。光が、ダルに向けられた。
「ペンダントよ。わたし達の願いを叶えて! この世界を守る力と」
「黒魔族を倒す力と」
「奇跡を、与えて!」
「止めろォォォォォォォ!」
「うォォォォォォォッ!」
美理子達の願いと共にペンダントの光がダルに向けて発射される。
「うわああああっ!」
光の中、ダルの黒い気は消え、体は消滅していった。
「やった……!」
ダルの気配は完全に消えた。勇者たちが勝利したのだ。
「やった、やったよ!」
手を取り合って喜ぶ戦士達。
mirikoworldから黒魔族の脅威は去った。
戦いは終わった。ダルとの激闘で壊されたミリルーク神殿は、サイーダの意向により城に建て替えられることになった。徐々に、mirikoworldの大地も回復するだろう。
美衣子はゲートを通り、人間界に帰ることになる。
別れの朝、神殿の前にみんなが集まる。
サイーダが美衣子の手を握りしめ、言う。
「ありがとうみーこ。あなたのお陰で、この世界は救われ、平和を取り戻しました。あなたのことは忘れません。人間界に帰っても、お元気で」
「はい、サイーダ様。わたしも、最初は不安だらけでしたけど、みんなに会えて、嬉しかったです」
美理子は泣いていた。美衣子との別れが惜しいようだ。
「みーこ。お別れだね。わたし、何か寂しい」
「美理子……」
「あなたとせっかく仲良くなって、友達になったのに」
美衣子は両手で美理子の手を包み、彼女の顔を見る。
「大丈夫、美理子。また会えるよ。だって、友達だもん」
「本当? みーこ」
「うん、約束」
二人は再会を胸に誓う。
サイーダの開いてくれたゲートが出現する。
仲間達が一人一人美衣子に言葉を送った後、最後にパンパンが近づいて来た。
「みーこ。ありがとう。君と一緒に戦えたこと、忘れないよ」
「うん。わたしもパンパンのこと忘れない。また、会おうね」
二人の間を、特別な空気が流れる。
美衣子はゲートの前に立った。
ゲートに入る前、美衣子はもう一度仲間の方を振り向く。
笑顔で手を振る仲間。
「じゃあね。うさちゃん、美理子、パンパン、フェア、リィ。カン、リース。ワンメー。ジェルとマーキスも。それに、ジース、アヤさん、サイーダ様! みんなのこと、忘れないから!」
美衣子がゲートに消えたあと、美理子は目を閉じて胸に手を当てた。
(みーこ、約束だよ。いつか、また……)
平和なmirikoworldの片隅、黒い影。
(死なない、わたしは死なない。いつか、また……)
(ダル様……)
(いつか復活する。そして、わたし達の世界を……)
(はい)
今はまだ小さな闇だが、やがて大きくなって、世界を巻き込むことになる。
美衣子の運命もーー。