またね
美衣子達が空に掲げた欠片は、手の中で七色に光の色を変えた。
彼女達は祈り出す。
「遥かなる伝説から導かれし宝石の欠片よ。今一つとなりてその姿を現したまえ。そして、この地上に永遠の愛と平和を約束せよ」
光りは四方に輝き出す。
「今ここに復活せよ! ファイヤーストーン!」
まばゆい光の中、五つの欠片が一つの形へと戻る。それはちょうど両手の指を組んで円を作った位の丸い宝石だった。
透明で透き通っている中に、メラメラと燃える炎が見える。
「あ、ああ……」
もうすぐ手の届きそうだった勝利が砕けていくのをダークキングは感じた。
美衣子達がサイーダ達の元へ戻る。
笑顔が溢れていた。
みんなの顔が優しい。
「ダークキング、帰りましょう」
サイーダがダークキングを優しく諭す。
「新たな世界へ。私達と共に参りましょう。さぁ」
差し出された手を、ダークキングは握らない。
渋い顔をして突っ立っているだけだ。
「あなたも本当は、私達と同じように愛を信じているはず。心の奥底に、眠っている正義があるはず。さあダークキング……」
「うるさい!」
サイーダの手をはねのけ、ダークキングは叫ぶ。
「わしは、わしはお前達には従わない! 殺された部下達の為にも、ここでお前達を抹殺する!」
「ダークキング!」
美衣子がファイヤーストーンをダークキングに向ける。
「ダークネスパワー!」
全ての怒りを込めた邪悪な気。
部屋全体を覆い尽くすようだ。
「守れ! ファイヤーストーン!」
ファイヤーストーンから暖かい光が溢れて、ダークネスパワーとぶつかる。
「わたし達は、負けない!」
美衣子の叫びにファイヤーストーンが答え、ダークネスパワーを押し返した。
自らのパワーを受けたダークキングは倒れる。
「痛っ」
ぼろぼろな体でなおも起き上がり、後ろの壁を探る。
「本当は、使いたくなかったがな」
壁の色が一ヵ所だけ違う。思い切りそこを叩いた。
ゴゴゴゴゴゴ。
隠し扉が現れる。その扉の向こうへとダークキングは身を踊らせた。
「待て!」
あわてて戦士達も追いかける。
ろうそくの灯りが灯っていた。
中央に置かれた台座に、黒く滑らかな大きい石がおいてある。形は丸というより、台形に近いいびつな形だ。その石にもたれかかるように、ダークキングはいた。
「その石は?」
初めて見る不思議な石に、サイーダは興味を示した。ダークキングが答える。
「これは邪光石。わし達黒魔族の力の源、黒きエネルギーが含まれた石だ!」
「邪光石?」
「そう。お前達の持つファイヤーストーンは、元々聖空間に広がる聖光石から作られた。その聖光石と対になる石が、この邪光石だ!」
「そんな石が……」
「初めて見ただろう。わしは今からこの邪光石のエネルギーを受け、お前達を倒す!」
「待ってください!」
「問答無用! さぁ邪光石よ。その力をわしに!」
邪光石から伸びたエネルギーが、ダークキングの腕を伝い体の中に入っていく。
ダークキングの体が、大きくなった。
キズついた羽も元通りになり、数が増えている。というより、翼だ。翼が生えた。
堕天使といった表現がふさわしいのか。
そんな感じだ。
「フハハハハハ……!」
力を得たダークキングが高笑いをした。
自分の手や、足や、体を見る。
「これでお前達を倒せる。ファイヤーストーンの力があっても、わしは負けない!」
「あ……」
美衣子達はダークキングから逃げるように、元の部屋の方に後退りした。まさか、ここにきてパワーアップするとは思っていなかった。
ダークキングがつかつかと歩いて来る。
「どうした? わしが怖いか?」
翼を広げ、空中へ。
両手を素早く上下に振る。
ダークネスパワーの連打だ。
ドドドドドド……。
「わーーーーーっ!」
「キャーーッ!」
戦士達の悲鳴が響く。
やがて煙が晴れ、視界が良好になってきた時に空中にいたダークキングが見たのは、キズだらけで倒れている戦士達の姿だった。
服もあちこち破れている。
ただ、まだ死んではいない。
ダークキングはトドメを差そうと、下に降りてきた。
ダークネスソードを構え、まずはサイーダの元へ向かう。
「ううっ……」
間一髪、サイーダが気絶から目覚めた。
「はっ!?」
横に転がり、ダークネスソードを避ける。髪が数本切られたが、気にしている暇はない。ダークネスソードは、床に刺さった。
「まだ抵抗するか。サイーダ」
ダークネスソードを床から抜く前に攻撃しなければ。サイーダは、スカートをはためかせ、ダークキングの腹をめがけて蹴りを入れた。
ビュッ。
片手でガードされる。が、サイーダは諦めない。足を引っ込め、今度は顔を狙ってパンチ。
当たった。ダークキングは剣を握ったまま後ろに飛ばされた。見事に着地はしたものの、口から血が出ている。
「サイーダ様……?」
美衣子達も気が付いた。しかし、彼女達は、初めてサイーダの格闘術を見て、困惑している。
「みなさん、気が付いたのですね。良かったです」
「サイーダ様、あの……」
「申し訳ありません。驚かせてしまったようですね。実は、水仙人から、格闘術も習っていたのです。私自身が強くなければ、mirikoworldを守っていく事はできません。これは、私の務めですから。ただ、スカートで蹴りは、品が良くありませんでしたね」
「いいえ、そんな事はございません。ただ、驚いただけです」
「そうですか。はっ!?」
ダークキングが襲いかかる。彼の気配を感じ振り向くサイーダ。両手に気を溜める。
サイーダの顔ギリギリのところで、ダークキングの剣は止まった。サイーダが、両手で剣を挟んで受け止めている。
彼女はそのままダークネスソードを上に押し上げた。聖なる気を受けたダークネスソードは粉々に崩れていく。
「アクアビーム!」
美理子の攻撃。続けて戦士達も技を撃つ。
「ミラクルハリケーン!」
「妖精のメロディー!」
「フレィム・ガン!」
ダークキングに隙は与えない。今、倒すしかない。
「……ううっ」
苦しそうなうめき声。立ってはいるが、荒い息づかいをしていた。
パワーアップしたとはいえ、あれだけの攻撃を一身に受けて、無事であるはずがない。
「ダークキング。もう止めましょう」
サイーダがもう一度、説得を試みた。
ダークキングは、口元は笑っているが、首は縦にふらない。
「お前達には、従わないと言ったはずだ。それに、わしには邪光石がある。邪光石が、わしに力をくれるのだ!」
「それが本物の、邪光石だったら、の話ですよね」
「何っ、お前は……!」
「お母様!」
サイーダの持つ魂の石から、ミーアノーアの幻が現れた。今度は、サイーダだけではなく、戦士達やダークキングにも見える。
「ダークキング。忘れたのですか? このブラックグラウンドは、元々mirikoworldと一つだった大地です。それが、あなたやその石を乗せて、魔空間に流れついた。そして、魔空間の黒いエネルギーを浴びて、黒く染まってしまったのです」
「ま、まさか……」
「そうです。多分それは、mirikoworldにあった聖光石です」
「そう言えば、私が目覚めた時、水仙人が言っていたのですが、聖光石が、あの日以来、見当たらないのだと。私も、どこかにあるだろうとは、思っていたのですが……」
サイーダが話に入る。
「そ、そんな……」
ダークキングが肩を落とす。しかし、それも一瞬だった。
「まだだ! その話が本当だとしても、今ここにあるのは黒いエネルギーを持った石だ!」
「分かりました。実際に見なくては、諦めてくれませんか。美衣子!」
「はっ、はい!」
ミーアノーアに急に名前を呼ばれ、驚く美衣子。
「ファイヤーストーンの光を、あの邪光石に当てなさい。そうすれば、邪光石が、聖光石に変化するはずです」
「分かりました!」
邪光石の所に走り出す美衣子。
「何をする気だ、小娘!」
ダークキングがダークネスパワーを撃つ。
それを身を盾にして止めたのは、パンパンだった。
「パンパン!」
倒れた彼を気にして、振り返る美衣子。
パンパンは腹這いだったが、上半身を少し起こし、笑って見せた。
「いいから行ってみーこ! ここは引き受けた」
「う、うん」
だが彼はその場から動けないらしい。
早く邪光石に光を当てて戻らなきゃ。
ジース達もダークキングの足止めをする。
邪光石の所にたどり着いた美衣子は、ファイヤーストーンをかざす。
「邪光石よ! ファイヤーストーンの光を浴び、元の姿を取り戻せ!」
七色の光が、邪光石に当たる。
黒い色が変化していく。
邪光石は、本来の姿を取り戻し、白い石になった。
「何だと!?」
驚愕するダークキング。美衣子が振り返る。
「サイーダ、後は」
「はい! お母様!」
ミーアノーアの幻が消える。ダークキングは、戦士達に囲まれた。
もうどこにも逃げ場はない。自分の負けを感じたが、怖さはなかった。多分、心の奥底、人間だった頃の記憶が、そうさせているのだろう。
「みーこ、お願い。ダークキングを元の姿に戻してあげて下さい」
「はい! サイーダ様!」
ファイヤーストーンを、ダークキングに向かって投げた。
「願いを聞き入れて、ファイヤーストーン! わたし達の聖なる力と共に。この世界を愛で満たす為に!」
みんなの力が一つとなり、ファイヤーストーンに吸収されていく。そしてファイヤーストーンから放たれた光が、ブラックグラウンドの大地に広がっていった。
「あ、ああ……」
ダークキングは、光に包まれ、満足げに消滅していった。彼も最後には、正義の人に戻ったのだ。
光は聖光石と共鳴し、さらに広がっていく。
ゴゴゴゴゴゴ。
ブラックグラウンド全体が動き始める。魔空間を抜け、聖空間に。mirikoworldと一つになる時だ。そして、一つの大きな大地として復活した。
全ては終わった。
過去からの長い時を超えて、一つの伝説が終わりを告げた。しかし、それは始まりでもある。
mirikoworldにはもうすぐ、たくさんの聖なる魂が舞い降りるだろう。女王サイーダと勇者達。正しき者として生まれ変わったダークキング達。
水仙人も戻って来ていた。
戦士達の活躍により、邪悪な者は消え、平和な日々が戻った。
これから先の事は分からない。ただ、今を精一杯生きるしかない。
戦士達も、それぞれの生活に戻っていく。
聖なる大地の輝きは、彼女達の心を示すように、青く澄んだ青空と重なった。
今日を、明日を、未来を、愛で満たすようにーー。
戦いの後、美衣子は無事に人間界へと帰ってきた。別れの時、パンパンと約束した、また会おうねの言葉が胸に残っている。
繋いだ小指が、熱い。
美理子、パンパン、ジース、アヤ、ワンメー、カン、リース、うさちゃん。妖精に小人達。そして、美しい女王サイーダ。
みんなと共に過ごした日々を忘れない。そう思った。そして、彼女は仲間達の笑顔を思い浮かべながら振り向き、笑った。
「それじゃ、またね!」
太陽の光が、走り出す美衣子の後ろ姿を照らしている。
彼女の、そして仲間達の未来と共にーー。
(The end)




