二人の剣士
次の日の朝、宿屋の外。
先生が美衣子に向かって言う。
「みーこ、あなたの魔法はまだこれから伸びるわ。たった一週間だったけど、そのペンダントの力なのかしら、あなたは通常より早く魔法を覚えた。不思議なペンダントね。見たことはないけど、それはきっとあなたに必要なものだと思う。
これから、あなた達は聖地ミリルークへ向かうのよね。道のりは大変だと思うけど頑張って。あなたと出会えたこと、忘れないよ」
「先生、ありがとうございました。わたしも、先生に会えて良かったです。もし先生に会えなかったら、わたし、美理子達と一緒に戦えない。魔法も知らない。だから……」
「みーこ……」
美衣子は泣き出していた。先生が、彼女を優しく抱きしめる。
「泣かないでみーこ。大丈夫。何も知らない世界にいきなり飛ばされて、戦えと言われても、何もできないよね。でも、あなたは強い子ね。知りあって間もない美理子達のために魔法を覚え、そして、パピィ村の人々を救った。こちらこそ感謝すべきね」
「先生……」
「さぁ、もう行きなさい。みーこ、美理子、そしてそのお友達の方々。あなた達の旅の無事を祈っています」
「はい、先生!」
「またね」
手を振る先生と村の人に見送られ、美理子達は村を後にした。
目指すは聖地ミリルーク。
黒魔族に襲われたパピィ村の人達は、再建を目指しその場に残った。
みんな、自分たちに出来ることをやる。
(わたし達は……)
自分たちにしかできないこと。
mirikoworldを守ること。
(そう、きっとあの人も……)
美衣子はふと、昨日出会った男の人を思い出した。
黒魔族に彼女をさらわれ、探しているという男の人。
(一人で、探しているなんて……)
そんなことを考えているとーー、
ガサッ。
何かの物音がする。
ザザザザザザ。
音はだんだん近づいてきた。そして、目の前に、あの男の人が走って来る。
「ちっ」
彼を追ってきていたのは、黒魔族だった。
「はぁ、はぁ……」
右手に剣を持った彼は、ふらふらとその場に倒れこむ。
「大丈夫ですか? ここはわたし達にまかせて、あなたは休んでいて下さい!」
美衣子はそう言うと同時に、彼の前に踊りでて、戦闘体勢に入る。
他の仲間達が、男の人を守るように輪になった。
「ファイヤー!」
「ウォーターフラッシュ!」
美衣子と美理子の魔法が炸裂する。
魔法の杖の威力で、攻撃力が上がっているようだ。
「フェア、リィ、僕らも」
「うん、パンパン」
パンパンのお腹の太鼓のリズムに合わせ、妖精達が歌を歌う。優しい、そして澄んだ歌声だ。
黒魔族が苦しみながら倒れていく。彼らはこの妖精のメロディーという技が苦手なのだ。
「スーパーウインド!」
ジェルとマーキス、二人の小人達も負けてはいない。大地から風のエネルギーを分けてもらい、嵐のような風で攻撃した。
mirikoworldの戦士達の猛攻に、さすがの黒魔族も撤退していった。
「はぁ、はぁ、君達は……」
男の人が立ち上がる。
美衣子が彼の前に行って話し出す。
「わたし達は、黒魔族を倒すためにこの世界を旅しています。もし良かったら、あなたの話を聞かせてもらえませんか?」
「君は昨日の……。そうか……、黒魔族が言っていた敵ってのは、やはり君たちのことか」
「わたし達のことを、知ってるんですか?」
「ああ、俺の名はジース。まずは礼を言わせてくれ。俺は……、黒魔族に彼女を奪われ、それを取り戻すために奴らと戦っていた。その中で、他にも黒魔族と戦っている戦士がいることを知ったんだ」
「それで、わたし達を……」
「ああ、昨日あの道具屋で出会った時、もしかしたらと思った。でも、彼女のことは俺の責任でもある。だから、できるだけ一人でなんとかしようと思ったんだ」
「そうだったんですか」
「だけど、情けないな……。結局、黒魔族にやられてこのざまだ……」
ジースはうつむいた。唇を噛んで、悔しげな表情が読み取れる。美衣子は、慰めるように話しを続けた。
「ジースさん、大丈夫ですよ。わたし達と一緒に、彼女を黒魔族から救いましょう」
「……! 君は……!」
「ジースさん、わたし、あの道具屋であなたを見た時、知らない人なのに、何故かあなたが気になって仕方がなかった。だって、どこか寂しそうで、悲しげな目をしていたから。きっと、あなたは彼女のことをとても大切に思っている。だから、力になりたい、そう思ったんです」
「ありがとう。君は、優しいんだな」
ジースは顔を上げ、美衣子に向かって微笑んだ。
その笑顔が素敵で、一瞬、美衣子はドキッとした。たしかに、ジースは美形だ。
「俺と彼女……、アヤは幼なじみで、小さい頃から一緒に過ごしていた。剣の腕も、彼女は凄くてね。俺といつも稽古をしてたよ。そんなある日、俺がちょっと村を離れた隙に、彼女は黒魔族に連れて行かれてしまった。長老達も、あっという間だったって……」
「ジースさん……!」
「大丈夫だよ。ありがとう。そして、頼みがあるんだ。俺を……仲間に入れてくれないか。やはり、一人で戦うには限界だったんだ」
「ジースさん、はい、いいですよ。わたし達も、とても心強いです」
「そう言ってもらえると助かる。じゃ、改めてよろしく」
「はい! こちらこそ。それと、もう仲間なのだから、あなたのこと、ジースって呼ばせてもらうね。あなたもわたし達のこと、普通に呼んで下さい」
「フッ、面白いな君たちは。じゃ、そうさせてもらうよ」
こうして、新たに仲間になったジースを加えて、一行は聖地ミリルークへの道を進むのであった。
一方、こちらは黒魔族の本拠地、ブラックグラウンド。黒い色で彩られた城の中央。どっしりとした大きな椅子にダルが座っている。彼はある人物を部屋に呼んだ。
「アヤよ」
「はい」
腰まである長い髪。少し癖毛らしい。胸が大きくスタイルも良い。動きやすいピッタリしたズボンにブーツ。上はへそ出しの短いTシャツっぽい格好。彼女は黒魔族に連れて行かれたあと、洗脳され、ダルの部下になっていた。
「今、mirikoworldの戦士達が、聖地ミリルークへ向かっている。そこには、我ら黒魔族が封じた女王サイーダが眠っているのだ。お前は、その戦士達を倒し、サイーダの封印を守れ。できるな、アヤ」
「はい、我が尊敬する王、ダル様。必ず、戦士達を倒し、我ら黒魔族の世界を作りましょう!」
「頼もしい限りだ。だが、戦士達の中には、お前の恋人、ジースもいる。奴を倒せるか?」
「はい! 奴がどんな力を持っていようと、我が敵ではありません」
「そうか、では、この剣を持っていけ」
ダルがアヤに差し出した剣。これは稲妻の剣といい、雷を呼ぶことのできる剣だ。
「その剣が、お前の力になってくれよう。では、頼むぞ」
「はい、ダル様!」
アヤはmirikoworldに向かって旅立った。
「フハハハハハ。mirikoworldの戦士達よ。今度こそお前達の死ぬ番だ。フハハハハハハッ!」
城の中に、ダルの高笑いが響いた。
mirikoworld、マホ村。
聖地ミリルークは、mirikoworldの一番南にあり、美衣子達はひたすらそこを目指していた。
マホ村は水の豊かなオアシス的な村で、彼女達に憩いを与えていた。
疲れた体を一休み。
ちょっと水を飲むだけでも、心が休まる。
村の噴水の側のベンチに腰かけ、パンパンと美衣子が談笑していた。パンパンは優しく、話しやすい。話しも合うし、一緒にいて飽きない。何より、美衣子が知らないmirikoworldの事を、いろいろ教えてくれる。この世界の事をあまり知らない美衣子にとって、パンパンは先生でもあった。
「……それでね。君が一番先にこの世界で見た森は、光の森って言うんだよ」
「そうなんだ。物知りなのね。パンパンは」
「そんな事ないよ。僕なんてまだまださ」
「くすっ。でも凄い」
(ドキッ)
一瞬、美衣子が見せた笑顔に、パンパンは見とれていた。
(か、可愛い……)
「パンパン?」
美衣子が不思議そうに除き込む。
咄嗟に何でもないと、パンパンはごまかした。
他の仲間達も、それぞれ休んでいる。
すると、ふと、誰かの視線を感じ、ジースが辺りを見回す。
二本の木に挟まれた細い道。その木の影に、見覚えのある女性。
「あれは……!」
「ジース!?」
美理子達も追いかける。
「どうしたの? ジース」
「アヤだ。アヤがいた!」
「えっ!?」
細い道を抜けると村の外に出た。その先に剣を構えたアヤが待っていた。
「久しぶりだねジース。我が王ダル様の為、お前の命をもらうよ!」
「待ってくれ! 一体どうしたんだアヤ!」
「問答無用、覚悟!」
アヤの瞳は正気を失っていた。完全にダルに操られている。
「アヤ、止めてくれ!」
アヤの剣を避けつつ応戦するジース。だが、彼女の攻撃は止まらない。
美衣子達には、その戦いに入れる隙はなかった。
ただ見守ることしかできない。
(ジース……)
美衣子が祈る。
「くっ……」
ジースの左脇腹。服が破れたけどかすっただけのようだ。
「よく避けたね。だけど、これまでだよ!」
稲妻の剣を掲げる。そして、気を込めて振り下ろした。
「雷!」
強烈な雷が、ジースに迫る。
「ジースぅ〜〜!」
ワンメーが、とっさにジースの体を押した。
彼はその見た目とは裏腹に、とても素早いのだ。
「ありがとう、助かった」
だがアヤが飛びかかって来た。
ジースは腰を低くし、剣を横に構えた。
そしてーー、
「がはっ……!」
峰打ちだ。
ジースの剣がアヤの体をとらえた。
アヤは気絶して倒れる。
「アヤ……」
彼女に近づくジース。
もう少しで取り戻せる、と思ったつかの間。
彼女の下の地面が黒い光を発した。
光はそのまま彼女を包み、空へと登っていく。
響きわたるダルの声。
「惜しかったなジースよ。だが、この女はまだ利用価値がある。貴様らmirikoworldの戦士を倒す為、わたしも手段を選ばない。さらばだ」
「ま、待て! アヤを返せ!」
ジースの叫びもむなしく、アヤは消えた。
「ジース……」
なんて声をかけたらいいか分からない。
空しさだけが、戦士達を支配していた。
だがジースは諦めない。
(アヤ、いつか必ず、君を取り戻す。だから、もう少し待っていてくれ……)
ただ、今は歩くしかできない。
ザッ、ザッ。
戦士達の足音が響く。
アヤとの戦いから二時間ほどたったか。
彼女の気配とは違う気配に、美理子は気づいた。
「誰?」
道の先は林の中。そこに白いワンピースを着た女性が見えた。
「あなたは?」
女性に近づこうとした美理子だったが、ジースに止められた。
「ちょっと待て。何か変だ」
確かに、こんな場所に女性が一人でいるのはおかしい。案の定、林の中から黒魔族が姿を表した。
ダッ。
黒魔族が一斉に襲いかかって来る。と同時に女性は林の中に姿を消した。
「待って!」
女性を追いかけ、美衣子と美理子が抜けた。
「スーパーウインド!」
「妖精のメロディー!」
ジース達が黒魔族と激しい戦いを行っている間、林の中で美衣子達は女性を見失っていた。
「困ったなぁ、どうしようみーこ」
「う〜〜〜ん」
とりあえず、そこらを歩き回ってみる。
「お困りのようですわね」
あの女性の声らしい。怪しいと思った二人は叫んだ。
「どこにいるの? 出てきなさい!」
近くの木の枝がガサッと揺れ、矢が二人に向かって飛んで来る。それを避けた二人の前に、空から降りてきた女性が立った。
「美衣子、美理子、あなた方にいいものを見せてあげる」
そう言うと、女性の姿が変わった。
身体全体が黒くなり、目が光り、爪が伸びた。
背中には羽が生え、クチバシもできた。
例えるなら、カラスといったところか。
「あたしは黒魔族の怪物、暗黒姫。これから、あなた方の相手を致しますわ。オホホホホホ」
美理子と美衣子の下の地面。暗黒姫の念で丸い円が描かれる。
「暗黒の地よ。どうかその力を使い、この者達をその手の中に引きずり込むがいい!」
「えっ!?」
地面が黒く光り出し、八つに割れた。
そのまま崩れ出す。
「キャアアアアアッ!」
美理子と美衣子は地の底深く落ちていった。
「う、うん……」
気が付いた二人の周りは真っ暗で、辺りが全然見えない。美衣子は、たいまつに明かりをつけた。
「わたし達、地の底深く落ちてしまったんだわ。なんとかして地上に出て、あの暗黒姫を倒さなければ」
「そうねみーこ。地上に出る方法を考えましょう」
「あらあら、地上に出る必要はありませんわよ。あたしがあなた方を死の国に送るために、ここに来ましたから」
「暗黒姫!」
フッとたいまつの明かりが消された。暗闇の中、暗黒姫と美衣子達の戦いが始まる。
姿が見えないため、美衣子達は暗黒姫の羽の音に集中した。逆に暗黒姫には二人の姿が良く見える。要するに、暗闇で目がきくのだ。
バサッ。美理子の後ろで音がする。彼女は勘を利かせ蹴りを繰り出した。
「ギャッ」
どうやら当たったようだ。美理子はそのままたいまつに火をつける。
明かりの中、暗黒姫の姿が良く見える。
美衣子は新しい魔法を使うことにした。
「エレクトロニックサンダー!」
両手で雷のエネルギーを持つ玉を作り、高速で打ち出す。暗黒姫は、その魔法を避けることができず、壁にぶつかった。
「やったわ、みーこ!」
「うん!」
「まだですわよ」
暗黒姫が起き上がる。今までの黒魔族の兵士と違い、なかなかの実力者のようだ。
「はぁ、はぁ、よくもやって下さいましたわね。
今度はこちらからですわよ」
宙に浮かんだ暗黒姫の羽が開いていく。
「行きなさい! 羽吹雪!」
無数の黒い羽が矢のように飛んで来る。
(避けきれない……)
羽の数が多く、美衣子と美理子の腕と足は傷だらけ。暗黒姫が叫ぶ。
「どうですか? あたしの技は。なかなか味わい深いでしょう? さぁ、今トドメをさしてあげますわよ!」
暗黒姫が羽をまた広げ始める。この一瞬の隙がチャンス。美理子がたいまつを投げた。
「ヒャッ」
暗黒姫の羽に火が付いた。あわててその火を消そうとする。
「今よみーこ!」
「分かった」
魔法の杖を構え、暗黒姫を狙い撃つ。
「ファイヤー!」
「キャアアアアアッ」
炎に包まれ、暗黒姫は消滅した。
「やったー!」
手を取り合い勝利を喜ぶ二人。そこに、
「おーい」
地上から仲間達の声。
見上げると穴の中を心配そうに覗く彼らの顔が見えた。
パンパンが投げてくれたロープで、上に戻る。
「大丈夫かい? 二人とも」
「大丈夫。みんなも無事だったんだね」
「そんな事ないでしょ! こんな傷だらけで」
うさちゃんが美衣子達の足と腕の傷を見つけて叱る。
「これくらい平気だって」
「いいから座って。手当てする」
うさちゃんに促され、手当てを受ける。
「もう、みーこも美理子もあまり無茶しないで。みんな心配していたんだよ」
「ごめん、うさちゃん」
「いいよ。みんな仲間だもん。これくらいはね」
うさちゃんの手当ては的確だ。さすがはしっかり者のお姉さんと言われるだけはある。
手当てが済んで、再び歩き出す美衣子達。
林を抜けると、広い荒野だった。
「ここは……」
墓。たくさんの無数の墓が並んでいる。
「ここは悲しみの大地。戦いで死んだmirikoworldの人達の墓があるところよ」
美衣子の問いにうさちゃんが悲しい顔で答える。
「こんなにたくさん……」
戦いで死んだのか。美衣子はやるせない気持ちになり、思わずその場にしゃがみ込む。
「みーこ……」
「美理子、わたし黒魔族を許せない。ここへ来て、まだ何日もたってないけど、彼らのために苦しむ人をいっぱい見てきた。こんな気持ちになるのは初めてだけど、わたし今、心から、誰かのために戦いたいと思う」
「そうよみーこ。そのためにわたし達はここまで来たの。さぁ立って。みんなの思いは同じ。今は早く聖地ミリルークへ向かって、サイーダ様を助けましょう」
美理子が差し出した手をつかむ。そして仲間達も次々手を重ねた。
「みんな……」
「大丈夫。僕らは一人じゃない。黒魔族だって、みんなの力があれば、きっと倒せるさ」
「パンパン……。そうだね。きっと」
「そうさ、じゃ、行こう」
こうして、みんなの思いを一つにし、悲しみの大地を後にする。
聖地ミリルークまで、あと少しーー。