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ダルとサイーダと

 ダッ。


 先に攻撃を仕掛けたのはダルの方だった。

 彼が放った気の塊を、簡単に避けるサイーダ。


「やはり、この位では、効かないな」


 うっすらと顔に笑みを浮かべるダルとサイーダ。

 二人共に、まだまだ本当の実力を出してはいない。

 一瞬二人の動きが止まる。


「フッ。行くぞサイーダ!」


 ダルが右手に黒い気を溜め、サイーダに襲いかかる。


「魔雷破ーー!」


 ダルがmirikoworldで使った稲妻の攻撃だ。

 サイーダはそれを自分のオーラで包み込み、かき消した。


「はっ!」

「はっ!」


 凄まじい気のエネルギーがぶつかり合う。

 それは大きな大爆発を引き起こした。

 ダルとサイーダの二人が吹き飛ぶのが、戦士達には見えた。


「サイーダ様っ!」


 慌てて美衣子達が駆けつける。


「大丈夫です」


 ニッコリと笑顔を見せて立ち上がる女王サイーダ。

 たいして怪我もしていないようで、戦士達はほっと安心した。

 その時、後ろに巨大な気を感じた。

 美理子達を守るように、サイーダが自分のオーラで周りを包む。

 ダルがすぐ後ろに来ていた。

 その目は邪悪な眼光で、ギラギラとサイーダを睨み付けている。


「死ね!」


 ダルの手がサイーダに向かって降りおろされる。

 彼の手は今、暗黒の気で包まれた手刀となっていた。


「くっ……!」


 サイーダがダルの腕を掴み、手刀を止めた。だが、手は止めたが足がある。


 バシイッ。


 ダルの強烈なキックがサイーダの体に決まった。


「ゴフッ」


 痛みでその場にかがみ込むサイーダ。


「フフフ……」


 ダルの不気味な笑い声が聞こえる。


「くっ」


 美衣子に支えられ、サイーダがゆっくり立ち上がる。心配する戦士達。

 その視線にサイーダが気付き、微笑む。

 優しく安らかなその笑顔。全てが愛の光に包まれていく。

 その温かな輝きが、ダル達黒魔族は苦手だった。



 黒い闇の、邪悪な魔空間で生まれ育ったダル達の目に写っていたのは、ただ果てしなく続く暗黒の世界だった。

 そこには優しさの感情はなく、生きる者全てが戦士だった。

 戦って戦い抜き、強い者は生き残り、力を得た。

 恐怖と血の戦場。骨と皮だけの修羅場と化していた。

 ダルの両親も生き残るため、力を得るために、生きる者は殺しまくった。

 たとえそれが仲間だろうが、家族だろうが、友人だろうがーー。

 全てを失い、ただ一人残ったダルは、人間の邪悪な心の欠片を集め、ブラックグラウンドの大地に黒魔族をよみがえらせ、統一した。

 そしてブラックグラウンドの兄弟ともいえるmirikoworldを手に入れ、闇で満たそうとした。


 ダルとサイーダの初めての出会い。それはまだ美理子達が小さかった頃。

 あの時、mirikoworldを突然の地震が襲った。

 神殿で兵士達に、人びとを安全な場所へと避難させるように指示していたサイーダは、不気味な闇の光を見た。

 月ーー。mirikoworldを見上げる美しい月が真っ暗な色に変わり、黒魔族が舞い降りてきた。

 人びとは逃げ惑い、国中はパニック状態だった。

 その時、勇敢な二人の戦士が現れた。

 幼子を優しい人びとに預け、黒魔族に挑んだ男女。優しかった美理子の両親である。

 サイーダが向かわせた神殿の兵士と共に、黒魔族から人びとを守った二人。だが、現れた若き日のダルに負け、命を落としてしまった。

 その後、ダルは 魔兵士数十人を連れ、サイーダのいる神殿を攻撃した。

 ダルとサイーダの運命の出会い。

 ダルはサイーダを最後まで守っていた兵士二人の命を奪い、ついにその美しき女王の体を、氷の棺の中に閉じ込めることに成功した。


「あれから、長い日が過ぎたな」


 思い出を振り返っていたダルが呟く。

 ダルとサイーダの二人の強い気で、城の壁にはあちこちヒビが入っている。


「ええ……。でも黒魔族は、それ以前にもmirikoworldに攻めいって来ましたが」


 サイーダのきれいな唇から、ため息が漏れる。


「そうだな。しかし、わたしが直接お前に会ったのは、あの時が初めてだ。またこうして、戦うことになるとは、思いも寄らなかった。光と闇、どちらかが消える時が来ているらしい」

「ええ、決着をつけましょう」


 ダルの瞳の奥で、何かがギラッと光った。

 鋭くそれを見抜くサイーダ。


「行くぞ!」


 ダルが両手に気を溜める。その気が今までの気のパワーと違うということは、その気の塊の大きさで分かった。


「はああああっ……!」


 サイーダも自分の気のパワーを集中し、ダルにぶつけた。


 バチバチバチ。


 二人のちょうど真ん中でぶつかり合うエネルギー。

 お互いに相手にぶつけようと気を溜めているため、前に行ったり後ろに行ったりしている。


「何故だ。何故お前はそこまでしてその者達を守ろうとする?」


 ダルが不意にサイーダに今まで感じていた問いを投げ掛ける。


「自分を犠牲にしてまで他人を守って、何の価値があるというのだ」

「価値などありません。ただ、私は信じています」

「愛か友情か。それとも正義か?」

「全てを……。私は全てを信じます」

「全てだと?」

「そうです。人も動物も、全ての生き物はみんな愛で結ばれています。私はただ、みんなに力を貸しているだけ。邪悪を打ち滅ぼすのは、みんなの持つ正義の心一つなのです!」

「フッ、馬鹿がっ!」


 ダルの放つエネルギーのパワーが増大し、サイーダに迫る。


「!!」

「サイーダ様っ!」


 そのエネルギーはビッグバンを引き起こし、サイーダもろとも、後ろにいた戦士達を巻き込んだ。

 爆発の後は巨大な穴となってその姿を見せた。


「終わったな……」


 一人、ダルが戻ろうとした時だった。

 優しい光と力を感じる。

 びっくりしてその方向を見ると、爆発の跡となった穴の中に、サイーダと戦士達が立っていた。


「待ちなさい!」


 サイーダの力強い言葉がダルの足を止める。

 じっとサイーダの顔を見つめるダル。

 二人の気が周りに広がっていく。

 愛と邪悪の二つのエネルギーが、今再び火花を散らす。

 ダルが、サイーダの力を認めたように叫んだ。


「見せてもらおうか。正義の力とやらを!」


 一瞬、二人の顔が笑ったように見えた。

 ダルの体からものすごいオーラの塊が飛び出し、サイーダのオーラを包むように覆い被さった。


 バチバチバチッ。


 二つの気が重なり、大気の流れが少しずつ変わりはじめている。と同時に、その大気の流れは、床や壁にバチバチとヒビを入れ、欠片を飛び散らせた。

 二人とも、今度は全力でぶつかっている。

 美理子をはじめとする戦士達は、それに気付いていた。


「ぬうううううっ……!」

「はああああああっ……!」


 ダルの気に押され、サイーダの体が少しずつ後ろに下がっていく。

 サイーダの後ろには、美衣子達がいた。


(このままでは、みーこ達も巻き添えになってしまう……)


 サイーダの、美衣子達を守ろうという思いが、奇跡を呼んだ。


 シャアアアア。


 彼女は両手から気を光線のように無数に発射して、ダルを吹き飛ばした。


「なっ」


 吹きとばされたダルはそのまま床に叩きつけられる。が、彼はそれでも起き上がろうとした。

 ちょうどその時ーー。

 ダルよりももっと強い邪悪な気が、部屋中を満たした。


「ダルよ……」


 低い声が発せられる。


「ダ、ダークキング様……」


 起き上がったダルが驚いたように後ろを振り替える。

 彼のすぐ後ろに、ダークキングがいた。


「ダークキング様。わたしと一緒に戦ってください」

「………」

「一緒にこいつらを倒し、黒魔族の世界を作り上げましょう」

「……いや」


 不意にダークキングが、不気味な微笑みを浮かべた。


「帝王は、わし一人でいい!」


 ダークキングの目がカッと見開かれ、ダルを睨み付けた。

 その瞬間、彼の体からものすごい邪悪なエネルギーが溢れ出た。

 そのエネルギーは、数本の腕の形になり、ダルの手足を掴むとそのまま持ち上げた。


「ダ、ダークキング様、一体、何を……?」

「ダル。お前はわしにその命を捧げ、わしのエネルギーと一体になるのだ!」

「な、何ですって……? うがああああっ!」


 ダルを掴んでいる腕から電流が走った。


「うがああああっ!」


 苦しむダルをよそに、ダークキングは自分の二本の手に気を集中した。


 シャラララ。


 その手には黒く輝く気で造られた剣が握られている。


「フッ、ダルよ。お前の命を貰うぞ」

「ダ、ダークキング様、お止めに、ウッ……」


 ズバアッ。ポタポタ。


 ダルの鎧を貫き、ダークキングの剣が貫通した。

 傷口から大量の血がだらだらと流れ出る。


「黒魔族の王、ダルの神秘なる魂よ。このダークキングと一つとなり、今大いなる力を得よう。そして今こそ、我が野望、達成されたし!」

「………」


 ダルはもう返事をしない。完全に息を引き取ったらしい。

 ダークキングはダルの遺体を高々と掲げ、身体中からその恐ろしいパワーを引き出した。


「ダークネスパワー!」


 ダルの体がもう用済みとばかりに遠くへと投げられる。


「あ、ああ……」


 呆然とその様子を見ていた戦士達に、ダークキングがギラギラと妖気を放ちながら近づいて来る。

 その顔は力を得たという嬉しさと、戦士達を倒せるという自信が現れている。


「我はダークキング。この世界の帝王となるため、これよりお前達の処刑を行う」


 美衣子達は恐ろしさで、その場から一歩も動けないでいた。


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