突入!暗黒の城
決戦の時は、音も立てず静かに流れていた。
美衣子達は、ダルに奪われたファイヤーストーンの欠片二つを取り戻すため、再び暗黒の城を目指していた。
この戦いが最後になって欲しい。誰もがそう願っていた。彼女達にとってこの戦いは長く苦しい道だった。だが、楽しいこともあった。
仲間と信じあい、共に協力して一緒に歩いてきた。この道は、決して苦しいことばかりではなかった。それが平和へと繋がる道ならば、決して諦めない。それが、美衣子達の信じる道。
そのためには、ダークキングを倒し、この地上を愛の世界へと変えなければ。
みんなの思いは同じ。
彼女達の顔は希望に満ち溢れていた。
「さぁ、行きましょう!」
城の入り口の大きな扉の前に、戦士達は立つ。
中ではダークキング以下、ブラックグラウンド全土から集まった黒魔族が勢揃いしていた。
「来たか。ここがお前達の死に場所と知らずに」
今、決戦の火蓋は、切って落とされようとしていた。
ギギギギ……。
城の大きな扉を開けると、待ち構えていた吸血コウモリのドラキュロスの群れが襲ってきた。
「さっそく出てきたな」
ジースが横に飛び、素早く10匹ぐらい切り落とした。
「キキーッ」
ドラキュロスの群れは数を増やし迫って来る。だが、美衣子達の前ではその牙も役に立たない。
ビュッ。
うさちゃんの投げるナイフは、見事にドラキュロスに命中していく。
「これで半分は片付けたな。さぁ、後は一気にいくぞ!」
「うん!」
ジースがみんなをまとめる。
「ファイヤー!」
美衣子の魔法でドラキュロスの群れは全滅した。
そこから長い通路を真っ直ぐ歩くと、下へと続く階段があった。
迷うことなく、その階段を降り始める。
しばらく行くと広い部屋に出た。
部屋の中央に行く。
突然、目の前の壁が壊れて、二頭のスモークタイガーが飛び出して来る。
「ガルルルル……!」
鋭い眼光で美衣子達を睨むスモークタイガー。
このモンスターは白い色をした虎で、体から煙を出すことで、相手の視界を奪うことができる。
「そのスモークタイガーは朝から何も食べさせていない。餌を欲しがっている」
室内に響く男の声。
「誰!?」
思わず叫ぶ美理子。だが相手は姿を見せず、聞こえるのは声だけだ。
「わたしを倒す前に、まずわたしのペットのそのスモークタイガーを倒すことだ。さあ行けお前達」
「ガルルルル……!」
スモークタイガーが、牙を剥き出して飛びかかって来る。その大きな体型のわりに、動きは素早い。
「くっ」
アヤが剣で切ろうとするが、その剣は空を切った。
「スーパーウインド!」
小人達が空から強力な風を起こすが、それも効かない。
スモークタイガーの目は、獲物を狙うそれと化していた。
彼らの目には、美衣子達はただの美味しそうな餌として捉えられている。
「ガウッ」
お腹をすかせたスモークタイガーのスピードが増し、美理子に迫る。
「ウォーターフラッシュ!」
美理子の持つ魔法の杖から水が勢いよく飛び出す。
その水に足を取られたスモークタイガーは、滑って転んでしまった。
「今よ!」
「うん!」
美理子の叫びに答える美衣子。
「はあああああっ……!」
美衣子が両手に気を集中し、炎の形を作っていく。
「フレィムガン!」
彼女の両手から作られた無数の炎の玉が、狙いを定め飛んでいく。
ビシュッ。シュッ。シュッ。
起き上がろうとしていたスモークタイガーに、フレィムガンは命中した。
「ガウウウ……」
スモークタイガーは足にフレィムガンを当てられたが起き上がった。
そのまま高くジャンプして、アヤに飛びかかる。
ガキッ。
自分に噛みつこうとしていたスモークタイガーの牙を、アヤが剣で受け止めている。
だが、力の方はスモークタイガーが上だ。
腕に力が入らなくなり、手が下がっていくアヤ。
「アヤさん!」
パンパンが横からスモークタイガーに体当たりして、アヤを救う。
「ガウッ」
スモークタイガーがそのままの体勢で、パンパンの肩に噛みつく。
「うっ」
パンパンの肩から赤い血が流れていく。
その牙は食いついたまま離れない。
「くっ、このっ……!」
パンパンはもう片方の手でベルトに挟んであったバチを取り出し、思いっきりスモークタイガーの顔を殴った。
その勢いで後ろの壁に激突するスモークタイガー。
パンパンは傷口に手をやったまま、その場で動かない。
「パンパン、大丈夫ですか?」
サイーダがすぐに駆けつけ、その傷を癒してくれる。
「はい、大丈夫です」
サイーダに支えられ、パンパンが立ち上がる。
ちょうどその時、吹っ飛ばされたスモークタイガーも起き上がっていた。
「ガルルルル……!」
二頭のスモークタイガーの眼光が激しく光る。
かっ。
スモークタイガーの体が、急に青白く光り出した。その光の中に包まれ、戦士達の視界は何も映らなくなった。まるで辺り一面に煙が充満しているように。
ビュッ。
スモークタイガーの牙が戦士達に攻撃をくわえる。しかし、美衣子達にはその姿は見えない。
ハッと美理子が何かを思い出した。
あの時と同じだ。暗黒姫と戦ったあの時と。
美理子は決意の表情で叫んだ。
「みんな! スモークタイガーの気配だけに意識を集中して!」
「分かった!」
美理子の言葉にみんなが頷く。
ガサッ。
ジースの後ろにスモークタイガーの邪悪な気配がする。
「でやーっ」
ジースが雷光剣でスモークタイガーを切った。
その瞬間、視界を覆っていた光が消え、血を流すスモークタイガーの姿が目に入った。
「ガルルルル……!」
スモークタイガーは血を流しながらも反撃してくる。
「くっ」
カンが飛びかかるも、スモークタイガーはサッと避けた。が、カンは諦めず、その尻尾を思いっきり噛んだ。
「ギャルルルルル」
苦しそうなうめき声を上げて、スモークタイガーは倒れる。
「はっ!?」
それを見たジースが何かに気が付く。
「みんな! 奴の弱点は尻尾だ。尻尾を狙え!」
「分かったわ!」
もう一頭のスモークタイガーを見ながら美衣子が答える。
「行くわよ! フレィムガン!」
美衣子が両手から放ったフレィムガンが、スモークタイガーの尻尾をめがけて飛ぶ。
「ギャルルルルル」
最後の咆哮を発しながら、スモークタイガーは倒れた。
「やったぁ!」
嬉しさを隠せず、仲間達と手を取り合って喜ぶ。
と、ちょうどその時ーー、
「よく我がペット、スモークタイガーを倒した。それは褒めてやろう。しかし、このわたしは倒せるかな」
つかつかと奥から誰かが歩みよる。
「お前は……!」
「ダル!」
戦士達の顔色が変わる。
ダルは漆黒の鎧を身に纏い、戦士達の前に歩み出た。
「サイーダよ。残り二つの欠片はわたしが持っている。手に入れるためには、わたしを倒すしかない。さぁ、どうする?」
真剣な顔で、サイーダに問いかける。
「分かりました」
サイーダが美衣子達に後ろに下がるように合図を送る。
「サイーダ様!?」
驚く戦士達。
サイーダはダルと一対一で戦おうというのか。
「私達は、決着をつけなければなりません。下がっていなさい。みーこ」
「しかし……」
「大丈夫です。この戦いは、私とダルの宿命の戦いです。あなた方は後ろで休んでいなさい。いいですね?」
「は、はい……」
こんな真剣な表情の女王は初めてだ。
今まで優しくて、いつも温かく、戦士達を見守ってくれた女性ーー。
こんな強い部分もあったとは。
この時、美衣子達は、女王サイーダの本当の姿を知った。そして、本当の愛のあり方を。
宿命の戦いが、今始まろうとしている。




