怒りの反撃
ガシッ、バシッ。
ウルス対ジース。
激しい攻防戦が続く。
ウルスがフェンリル・パワーアタックを仕掛ければ、ジースが雷光剣で防ぎ、逆に攻撃される。二人の実力は、ほぼ互角だ。
このままでは勝負がつかない。
二人は動きを止めた。
どちらかの隙を見て、一気に勝負に出るつもりだ。
二人が戦いを繰り広げている間、サイーダの力で美衣子達のキズは回復していた。
「う、うん……」
「気が付いた? みーこ」
「パンパン……」
美衣子が目を開けるとパンパンが心配していた。彼はサイーダの負担にならないように、美衣子達の手当てを手伝っていた。
美理子、うさちゃんも目を覚ます。
「戦いは? ウルスは、どうなったの?」
美衣子は今の状況を確かめようとパンパンに聞いた。
「今、ジースが戦っているよ。大丈夫。ほぼ互角みたいだから」
美衣子はアヤが静かに戦況を見守っているのを見て、安心した。
ジースが不利なら、もうちょっと不安そうにしているはずだ。
ウルスは、ジースの意外な実力に、焦りを感じていた。本来なら、ここにいる者達全て、自分の技で皆殺しにするはずだった。五人衆の一人として、自分の力には相当な自信があった。
そう、ダル様が、オレを選んで下さったから。
強さを、認めて下さったから。
負けるはずはない。最強だ。オレは、最強だ。
ウルスは、唇を噛んだ。ギュッと手に力を入れた。前を見ると、ジースの後ろに祈りのポーズをしたアヤがいる。サイーダ達も、全員揃って戦いの行方を見つめていた。誰も、ジースの勝利を信じている目だ。揺るぎない、澄んだ目をしている。
「そうか………」
このままでは勝つことはできない。ウルスはフッと口元を緩め、左手首のリストバンドの中に隠してあったカプセルを取り出す。
「これはダル様から頂いたカプセルだ。これを飲むとオレのスピードは二倍になるらしい。本来なら、こんなものを使わずに勝ちたかったが仕方ない。さぁ行くぞ! これでお前らみんな皆殺しだ!」
「待て、ウルス!」
ジースが止めるのより早く、ウルスはカプセルを一息に飲み込んだ。水なしでも飲めるように、大きさは小さめだ。
ゴクン。
途端、ウルスの身体から溢れ出す妖気。体が、軽くなる。足を前に出し、一気に加速した。
ビュン。
ジース達の目に、ウルスの姿は見えなくなる。目にも止まらぬ早さで動いているのだ。
「フェンリル・パワーアタック!」
「キャアアアアア」
気が付くと、美衣子達みんな切り傷だらけになっていた。風を切る音とウルスの声は聞こえるが、姿が見えなければどうしようもない。
「みんな! できるだけ動いて! 固まらないで!」
うさちゃんの声に美理子達は、それぞれバラバラに動き始めた。固まっていたら、一気に殺られる。バラバラに動くことで、ウルスの気配を探るのだ。
ビュッ。
回りの木や地面に、ウルスの爪の跡がついていく。美衣子達は、彼の技に当たらないように逃げ回った。
こうなるとウルスの方も、全員を狙うより、誰か特定の相手を狙った方がいい。幸い、自分の姿は戦士達には見えていない。ならば、とアヤをターゲットに定めた。
「キャッ!」
地面を転がるアヤ。ウルスが体当たりしたのだ。
彼女は肘を擦りむいてしまった。
「アヤ!」
ジースがすぐさま彼女の下に向かおうとする。
「あっ。駄目だよぉ〜〜。ジース〜〜」
ワンメーもそこに向かった。
「フェンリル・パワーアタック!」
ジースがアヤを助けに来るだろうと予測していたウルスが技を仕掛けた。が、ワンメーもウルスの動きを読んでいて、ジースとアヤの前に走った。
ザッ。
二人の代わりに、ウルスの技を受けるワンメー。
彼はボロボロの姿で倒れた。
この時にやっとウルスが姿を見せ、ワンメーのそばで立ち尽くす。
「ワンメー!」
アヤが自分の代わりになったワンメーを抱いた。
「しっかりして!」
気絶したまま、ワンメーは動かない。
「フッ、そいつが邪魔になって、お前を仕留められなかったか。まあいい。どのみち全員、この場で死ぬんだ。誰を殺ったって同じこと」
冷たい言い方のウルス。アヤはウルスを見上げ、叫んだ。
「あなたって、とことん腐った性格をしているのね。だけど、わたし達はこんな所で殺られる訳にはいかないの! mirikoworldを守ること。それがわたし達の使命だから!」
「守る? どうやって? そいつさえ守れないお前が」
「こうやって守るの!」
「何っ!?」
声がする方を見ると、美衣子、美理子、小人達が横に一直線に並んでいた。そして、合体技を繰り出す。
「三魔法合体! ファイヤーハリケーンアタック!」
風と炎と水が、ウルスの体を貫く。
「グハッ……!」
地面に転がるが、すぐに立ち上がった。だけど、お腹の辺りを手で抑えている。
「やるな。だが、これでどうかな」
またウルスの姿が消えた。さっきの攻撃はあまり効いていなかったのか。
うさちゃんが目をとじる。耳を澄まして風の音を聞くためだ。ウサギの耳を持っているおかげか、彼女は耳がいい。これで敵の動きも分かる。
ガサッ。
風が揺れる音。
「そこっ!」
うさちゃんがナイフを投げた。空気を切り、何かに当たる。
「痛っ」
右の肩にナイフが刺さったまま、ウルスは立ち止まった。さすがに疲れたのか、肩で息をしている。
「よくオレにナイフを当てられたな」
肩のナイフを抜き、うさちゃんに投げ返す。うさちゃんは臆することなく言った。
「風の音が聞こえたから。それに、あなたの殺気も混じっていたから。多分そこだろうと」
「オレの殺気を読んだのか」
「ええ。あなたは確かに強い。けど、わたし達もいろいろ戦闘経験を積んでいるの」
「そうか、ただのクズとは違うようだ」
クズ? ここまできても、ウルスは口が悪い。うさちゃんは内心ムッとしながらも、落ちついた態度を崩さない。
「何とでも言いなさい。わたし達は、負けないから」
「そうか。では、試させてもらおう!」
ウルスが仕掛ける。
体中に気を巡らせて。
フルパワーの必殺技がうさちゃんを狙う。
「フェンリル・パワーアタック!」
「セビュン・ボディス!」
分身して反撃を狙ううさちゃん。ウルスの爪とうさちゃんのナイフがぶつかる。
ビュン。
ウルスの爪をかいくぐって、ナイフが命中する。
「何っ!?」
ウルスが怯んだのをきっかけに、次々飛んでくるナイフ。
「わああああっ!」
これだけの量だと避けることは難しい。ウルスは背中から倒れた。
mirikoworldの戦士達に囲まれる。ワンメーを抱いたアヤが目の前にいた。ワンメーは弱っていたが目を開けていた。
「認めない! オレが負けるなど。オレは最強だ! 今度こそトドメを刺してやるよ!」
上半身だけを起こし、アヤに攻撃を仕掛ける。アヤはワンメーをそっと地上に下ろすと、腰の剣を手にした。
「風陣回転脚!」
アヤの持つ剣は風の剣という。この剣は、風の力を持っており、この風を盾にして、回転しながら敵を切るのがこの技だ。
ウルスが沈黙する。
赤い血で地面が染まった。
これで五人衆全てを倒したことになる。
「アヤさん、やったね!」
「さすがだなアヤ」
美衣子やジースの祝福を受けるアヤ。照れているのか顔が赤い。
「わたしだけの力じゃないわ。みんなの力があったから勝てたの。それに、一度みんなに救ってもらったから、恩返ししないとね」
「アヤ……」
「それに、まだ戦いは終わってはいないわ。ダルやダークキングは、まだあの城に残っている。彼らを倒し、mirikoworldに平和をもたらすこと。それが、わたし達の使命よ」
「そうだな」
戦士達一同、遠くの城を見る。
サイーダが言った。
「皆さん、あの城に行くのですね」
「はい、サイーダ様。ダルとダークキングが待っています。彼らを倒し、大好きな世界を守りましょう!」
「分かりました。私も行きます。そこで、全ての決着をつけましょう」
「はい! サイーダ様」
戦士達の決意は固い。ここまできた以上、やるしかないのだ。今度は、サイーダを助けるためじゃなく、決着をつけるために城に向かう。
美衣子は思った。
(ダークキング、それにダル。救世主の力を持つ者として、どこまでできるか分からないけど、わたしは、あなた達の下に行く。そして戦う。それがわたしのやるべきことなら)
人間界。美衣子達の学校の裏山。洞窟の中。
美衣子達にサイーダを託し、一人人間界に残った水仙人は、水晶玉でブラックグラウンドの戦士達の様子を見ていた。
美衣子達がサイーダと共に城に向かったのを確認した彼は、フッとつぶやいた。
「もうすぐ、望んでいた時が来る。離れていた二つの大地が一つになる時が」
サイーダの横顔が、水晶玉に映る。
水仙人は部屋の隅の箱から、銀色の鎧を取り出した。一千年前、あの決戦の時、彼はこれを着て黒魔族と戦った。
再び、彼の目がサイーダをとらえる。
「ミーアノーア様。あなた様のご息女サイーダ様は、女王として君臨され、立派にお役目を果たしておられます。どうか、見守ってあげて下され」
その呟きは、遥か遠く、天に向かって囁かれた。




