次なる刺客
「ハア、ハア……」
一体どれくらい走っただろう。
サイーダは立ち止まり、その場に座り込んだ。
何処まで行っても、闇が続くような気がした。
呼吸を整え、遠くを見る。
あの城からは、だいぶ離れたはずだ。
ふと、光がかすかに見えた。近づいてくる。そう感じた。ただ、その気配が邪悪なものではなく、暖かい、優しいものだと分かっていた。
美衣子達だ。
この長い戦いの中で、mirikoworldの戦士達と共に戦い、信じあってきたサイーダにとって、その気配はとても強い信頼の証だった。
今再びサイーダの心に歩き出す勇気が生まれた。
(行こう、みんなの所に)
森を抜けて広い道に出た時、数人の影がこちらを向く。
驚きの表情で見つめる美衣子達。
「サイーダ様っ!」
「みんな!」
笑顔を見せながら抱きしめ合う。
美理子がサイーダに言った。
「ご無事で何よりです。サイーダ様。しかし、どうやって城を抜け出して来られたのですか?」
「あなた方が疑問に思うのも、無理はありません。実は、この魂の石に眠る私の母が、その力で、私を城から逃がしてくれたのです」
「えっ、それって、ミーアノーア様ですか?」
「そうです。この石は、もともと私の側にあったのですが、何のために私が持っているのか、私自身も分かりませんでした。けれど、あの時初めてお母様が姿を現して下さって、私は助かったのです」
「そうだったのですか」
「それに、みなさん、よくここまで来てくれました。私のために、あなた方が頑張ってくれたこと、とても感謝しています。どうもありがとう。私も、あなた方の無事な姿を見て、とても嬉しく思っています」
サイーダの言葉を聞いた戦士達は、感激して涙を浮かべた。サイーダを助けにここまで来たことが、報われたから。そして彼女達は、ここに来てからの事を、サイーダに伝えた。
サイーダの愛の気に包まれ、戦士達の傷も癒えていく。休憩をとりつつ、少し眠ることにした。
ガサッ。
迫りくる邪悪な気配に、ジースは目を開けた。
森の木の陰に、誰かいる。
ジースはそっと近づいた。
ビュッ。
突然、ナイフの束が襲いかかるが、分かっていたようにジースは全部避けた。
その音で他の戦士達も目を覚まし、すぐに周りの様子に気がつく。
何かが違う。
サイーダの優しい気とは違う、暗い気だ。それは強いパワーを持つ敵が来たことを示していた。
「そこだ!」
ジースが剣を森の中に投げる。
何かに当たった音がした。
「フフフフフフ……」
「誰だっ?」
「さすがはmirikoworldの戦士の中でも、高いレベルを誇るジースだね」
声の主が剣を投げ返し、姿を現した。
「女!?」
そこに立っていたのは少し華奢な美女。しかしその体からは、妖しい邪気を放っている。
「私の名はベルラ。黒魔族五人衆の四番手、風の使い手だよ」
「そしてもう一人。五人衆のリーダー、狼のウルス」
ベルラが話し終わったと同時に、木の上からもう一人現れた。
狼のウルスと名乗るその男。五人衆の中でも一番の強者で、狼のように爪を使う攻撃が得意。その爪は岩をも砕くという優れもの。そして、一番残忍で、残酷な性格。いわば黒魔族の中で一番恐ろしいのは、ダークキングでもダルでもなく、この闇の狼ウルスなのかもしれないと、ブラックグラウンドで語り草になっていた。
一方、美しき女戦士として登場したベルラ。武器はナイフ。しかし、風の使い手でもあるという侮れない敵だ。常にウルスとパートナーとして組んでおり、他の三人の仲間とはぐれていた。それは、ウルスとベルラの考えが、他の三人と違っていたからだろう。
ウルスとベルラは、五人衆として結成されても、他の三人とは距離をおいていた。自分たちは五人衆の中でも、特にダル様と近い関係を持ち、他の三人とは違うレベルだと考えていたのだ。いわばこの二人にとって、他の仲間など、ダルの捨て駒だとしか思っていなかったということだ。
自分たちがとてつもない強さを持ち、ダルに信頼されているということが、ベルラとウルスには絶大な自信になっていた。
ガサッ。
ベルラの足が一歩動く。その行動を見たmirikoworldの戦士もまた、足を一歩前に出した。
激しいにらみ合いが続く。
両者ともすでに戦闘体勢を整えていた。
今、戦いの時が来た。
先に攻撃に出たのは、ベルラの方だった。
「行くよ!」
彼女の投げたナイフの束を、美衣子達は次々と避けていく。
「やっぱり、こんな単純な攻撃じゃ、効かないか……」
ポツリと囁かれたベルラの言葉にウルスが答える。
「ならば、早めにオレ達の必殺技を出せばいいのさ!」
ウルスの言葉に頷くベルラ。
ウルスが構えた。
来る……。
美衣子達がサイーダを守るように丸く並んだ。
「オレ達は、今までの五人衆の奴らと同じように、簡単には倒されない。あいつらは弱すぎたんだ。いや、その逆でオレ達が強すぎるのかもしれないなぁ。とにかく、オレの技を受けて立ち上がった奴は、今まで一人もいなかった。お前達の中に一人でもそんな奴がいたら、褒めてやるよ。まぁ、そんな奴いないと思うけどな。ハハハハハハ……!」
ウルスが自信ありげに、美理子達を指さし高笑いを上げた。完全に上から目線で挑発している。
「何ヨォそれ。アタシ達をバカにしているよねェ」
リースは怒り心頭だ。他の仲間達も明らかに不機嫌になっている。
「何だ? バカにされるのが嫌なら誰でもいいからかかって来たらどうだ? それとも、オレ様が一人づつ殺してやろうか?」
「いいだろう」
ジースが怒りを押し殺し、静かな声で言った。
こんな時でも彼は冷静だ。不用意な怒りは隙を呼ぶことを彼は知っている。さすが、美衣子達より年上で戦闘経験も多い、剣士といったところか。
が、仲間はやはり心配なのだろう。
一斉にジースを見た。
「ジース!?」
その声には戸惑いも混じっていた。ジースも気づいていたが、あえて笑顔を浮かべて言った。
「大丈夫。心配はいらないよ。アイツの技がどれ程のものか、ちょっと見てみたくなっただけさ」
「でも……」
「平気。だから君達は、サイーダ様をお守りしてやってくれ」
「う、うん」
不安そうな顔をしながら、美衣子達はサイーダの側についた。
それはジースの自信の表れなのか、それとも美衣子達を心配させないようにわざと言ったのか。どっちにせよ、今の美衣子達にはウルスに勝てる気がしない。ジースに、任せるしかない。
その様子をウルスは余裕の顔で見ていた。
「ハハハハハハ。面白い。このオレに挑戦する奴が現れるとはな。よほどバカな奴と見える」
「ごたくはいい。早く討って来い」
「生意気な奴だな。まあいい。どうせこの一撃で死ぬんだ。最後にいいのを見せてやるよ!」
ウルスが全身にパワーを溜める。
狼のオーラが、浮かび上がった。
「フェンリル・パワーアタック!」
闇の狼が吠える。
ウルスの後ろの狼のオーラが、彼の体と一つになり、突っ込んでくる。
その長い爪が強力な武器となった。
ガキッ、ドサッ。
爪で切り裂かれ、ジースは血まみれで倒れる。
彼の体には、ウルスの爪の跡が残った。
「ジース!」
すぐさま仲間が駆けつけようとする。が、その時ーー、
ムクッ。
「何だと?」
ウルスが声を発した。その顔の余裕の笑顔が、消えた。
その瞳は立ち上がってくるジースを捕らえていた。
「ば、馬鹿な……」
信じられないと言ったように、声が震えている。
ゆっくりとジースが起き上がった。
だが深手をおったらしく、体はふらついている。
「な、何なのさこいつら。ウルスの技を受けて立ち上がる者なんて、初めて見たよ」
ウルスの横にいたベルラも、驚きを隠しきれない。
「うう……」
ウルスはショックで、自信を失っていた。ベルラはそれに気付き、自らウルスの前に出る。
「ウルス、代わろう。今度は私がやるよ。少し後ろで休んでいて」
後ろに下がるウルスを見て、ベルラが構える。
「不思議な奴らだよ。何故立ち上がってこれるんだ。それにこの気。何だろう。とても温かい」
サイーダの愛の気が、辺りに広がっていた。それに触れたベルラは、自分でも分からない気持ちを感じていた。
「くっ」
ベルラが首を振る。
キッと美理子達を睨み付けた。
「こんなものに惑わされないよ! もうすぐ、私達の世が来るんだからね。さぁ行くよ。ハイパートルネード!」
ベルラが放つ妖気が、竜巻の形を作っていく。そして辺りの木々を巻き込み、さらに強大になって迫ってきた。
ドカッ、ボキッ。
竜巻に吸い込まれた木々が折れる程の凄まじい風。あの風に吸い込まれたらひとたまりもない。だが、美衣子達は逃げなかった。
戦う意志がある限り、最後までやり通す。
ハイパートルネードが、美衣子達の体と共に大地を吹き飛ばす。
「やった!」
ベルラ、そしてウルスの顔に笑みがこぼれる。だが、すぐにその顔が変わった。
「な、何だこの光は?」
ハイパートルネードが炸裂した場所に、光が溢れている。次第にそれは、大きく広がっていった。
「女王か?」
サイーダの愛の気が、戦士達の傷を癒していた。
「くっ」
サイーダを攻撃した方が早いと判断したウルスが構える。そこに、
「これは未來を導く光。サイーダ様を、やらせはしない!」
空から降りてきた影に、その攻撃は邪魔された。
「アヤさん!」
「久しぶり、みーこ。みんな」
アヤがニッコリ挨拶する。
彼女は、mirikoworldでのダルとの決戦が終わった後、洗脳された心と体の傷を癒すため、故郷フォエバールに戻り、ジースや村人に見守られ、ゆっくり休んでいた。だが、再び黒魔族が現れたことにより、先に行ったジースや仲間達と共に戦う決意をして、この地に飛んできたのだ。
「アヤ、大丈夫か?」
ジースが心配して側に来る。
「大丈夫よジース。黒魔族が現れたのに、わたしだけ休んでいる訳にはいかない。それに、あなたに救われたこの命、今度はあなたのために使う。だから、側にいさせて」
「アヤ……」
アヤの決意に、ジースは分かったように頷いた。
「アヤ、いいのですね?」
「はい、サイーダ様! この力、大切な人達を守るために、使わせて頂きます」
「分かりました。では、みんなの力をあわせて、戦いましょう」
「はい!」
サイーダの号令の下、心を一つにする戦士達。
ウルスとベルラは、苦い顔で見ていた。
「ちっ、また一人増えやがった。だが、一人でも二人でも関係ない。こうなりゃ皆殺しにしてやる。行くぞ、ベルラ!」
「ああ!」
ウルスとベルラの攻撃が再び襲いかかる。
「フェンリル・パワーアタック!」
「ハイパートルネード!」
闇の狼と凄まじいパワーの竜巻が近づいてくる。
「こっちも行くぞ!」
「うん」
ジースが剣を構え飛び出す。続けて美衣子、そして他のメンバーも。
「ファイヤー!」
「アクアビーム!」
美衣子と美理子の魔法がベルラに命中した。




