対決!幻矢と龍妃
サイーダが城を脱出したことをまだ知らない美衣子達は、懸命に道を歩いていた。近くに見えたかに感じた城は、思ったより遠くにある。戦士達を惑わす為だろうか。
「どこまで続くんだ。この長い道は」
「見渡す限り暗くて。あ、でも見て。さっきより近くなって来た感じ」
ジースの呟きに美理子が答えた。
美衣子は、美理子と同じように魔法の杖で明かりを照らそうとした。が、それが敵に居場所を知らせる合図となったらしい。
ザッ。
突然、美衣子めがけて矢が飛んで来た。
「危ない!」
パンパンが彼女を守るように前に飛び出し、その矢をはたき落とした。
「ありがとう、パンパン」
「当然だよ。君を守るためなら、僕は何でもする」
「えっ? あ……」
美衣子の顔が赤くなる。
もちろんパンパンも。
これは何かあったなと仲間達は思ったが、声には出さなかった。
そう、何かあったのだ。
だが、今は語らないでおこう。
悪いけど、しばらく待ってね。
「ちっ」
ため息混じりの声。
放った矢が止められたからか、美衣子とパンパンの話に苛立ったのか、気配が流れて来た。
が、姿は見えない。
「そこだっ!」
ジースが闇を切る。何かに当たった音がした。
「さすがだなジース」
闇の中からジースの剣を受け止め、出てきたのは幻矢と龍妃の二人だった。
「俺達を倒しに来たのか?」
「ああ。人間界での決着もあるからな」
余裕の笑みを見せる幻矢。
「サイーダ様はご無事なのか?」
「ああ。魔兵士が地下牢に閉じ込めたという話は聞いた。お前達を倒すための大切な人質だ。殺されることはないだろう」
「……そうか」
「さぁ、話はここまで。俺達はさっさとお前達を倒し城に戻らなくてはならない。いくぞ。サンダーハリケーン!」
ジース達が構える暇もなく、幻矢の必殺技が炸裂した。
ドッカーン。
凄まじい音が地上に響く。
大地は割れ、砂ぼこりが視界を覆った。
勝利を確信する幻矢と龍妃。
だが、龍妃の頭の上から風を切る音がする。
「!!」
龍妃が上を向くと、頭上に美衣子がいた。
「ファイヤー!」
美衣子の魔法が火を吹く。魔法の杖の先から、火の玉が龍妃めがけて落ちる。龍妃も自分の口から火を吹いて反撃を開始した。
ゴゴゴゴゴゴ……。
火と火の塊がぶつかり合う。その火はだんだん美衣子の方へ押し戻されていく。
「とどめ!」
龍妃の炎が威力を増した。が、その瞬間ーー。
「アクアビーム!」
咄嗟に美理子が水の魔法をぶつけた。
空気中の水蒸気を指先に集め、光線状にして打ち出す技だ。そのビーム状の水が、炎の威力を和らげた。
そして美衣子が着地した後、小人達が風をおこす。
「生きとし生ける森の聖霊達よ。その森に吹く風の力を、どうか僕らに与えたまえ。そして、大いなる風の力、一つになれ! スーパーウインド!」
大地に聞こえていた呪文が、やがて嵐のような風を呼んだ。
龍妃の力が、少しずつ落ちてきた。しかし、彼女は諦めない。彼女はおもいっきり炎を吐いた。
ゴオオ……。
美衣子、美理子、小人達に跳ね返ってくる。
「キャアアアアッ!」
「うわああああっ!」
炎の塊に吹き飛ばされ、転がる。
龍妃がそれを見て、少し笑った。
「フフフ。あれくらいの攻撃で、わたしがやられると思ったら甘いわよ。これが本当のわたしの実力。さあ、その目を開けて、しっかり見なさい!」
彼女は目を閉じて、体中にパワーをみなぎらせた。
「ハアアアアアッ!」
赤い炎をその身に纏う。彼女は炎龍妃としてパワーアップしたのだ。
その迫力は美衣子達を震え上がらせる。
「フハハハハハ。いいぞ炎龍妃。二人で力をあわせて奴らを倒そう。俺の技は効いていなかったらしいからな」
幻矢が指を指す方向に、立ち上がったジース達。
雷光剣を、幻矢に向ける。
双方ともそのままピクリとして動かない。
お互いの隙を探っているのか。
幻矢の額から汗が一粒落ちる。それが合図になった。
ダッ。
二人同時に仕掛ける。
幻矢が飛ばす矢を左右に避けながら、ジースは彼の懐を狙う。
ザッ。
服が破れるも、幻矢はジースの剣を後ろにジャンプして避けた。
「サンダーハリケーン!」
間近から技を放たれるが、ジースは雷光剣の一振りでそれを消しさった。
「なっ……」
幻矢の顔が青くなる。
「さすが聖剣だ。これくらいの攻撃じゃびくともしない。さあ、今度はこちらから行こうか」
幻矢が防御の構えを取る。
「雷光衝撃波!」
雷光剣が持つ稲妻の力は、稲妻の剣とは比べものにならない。幻矢は、簡単に吹き飛ばされた。
「うっ」
激しく体をうちつける。それでも、何とかして起き上がろうとする。
「幻矢!」
炎龍妃が幻矢を支え、立たせる。
「大丈夫? 幻矢」
「ああ、何とかな」
ジースが剣を持って立っている。その後ろにうさちゃん、パンパン、フェア&リィ、ワンメー、カン、リース。
「炎龍妃、ここは一人でいい。お前は美衣子達をやっつけろ」
「分かった。気を付けて。幻矢」
「ああ」
炎龍妃が美衣子達の方を向く。美衣子、美理子、小人達VS炎龍妃の戦いが再び始まった。
「こっちも始めようか。ま、かかってくるのはお前だろうからな。ジース」
「ああ、そうだな」
ジースには分かっていた。幻矢にも戦士としてのプライドがある。勇者達全員を相手にしても、ダルのため退く訳にはいかないだろう。ならば、こちらも全力でその思いに答えるしかない。
「いくぞ、ジース!」
「来い!」
幻矢が構える矢に集まる風が、今までより強い。最後の力を振り絞っているのか。
「サンダーハリケーン!」
「雷光衝撃波!」
バチバチバチ。ドッカーン。
岩が飛び、回りの木が吸い込まれ、飛ばされる。
風が砂ぼこりを巻き上げ、美衣子達は体を伏せて身を守った。
大爆発の後、大地には巨大な穴が残った。
「ジース!」
「幻矢!」
もう戦いどころじゃない。その場にいた全員、穴の回りに集まった。
穴の底に二人の姿。
ジースが、剣を支えにして立ち上がる。幻矢は、仰向けに倒れたままだ。
二人とも息は荒くぼろぼろだが、ジースが立ち上がったということは、この勝負勝ったのだろう。
「ジース……」
幻矢に背を向け穴を登ろうとしていたジースは、その幻矢に話しかけられ、びっくりして振り向いた。
「幻矢……」
「ジース、強いな。お前は……」
幻矢は倒れたままだったが、その顔には今までにない穏やかな笑みが浮かんでいた。
「いや、俺もギリギリの勝負だった。お前も強かったよ。幻矢」
「だが、紙一重の差でお前は勝った。それは認めるべきだ」
「幻矢……」
幻矢がゆっくり目を閉じる。もう最後の時か。
「炎龍妃、悪い……な。先に……逝く」
そう言い残し、幻矢は動かなくなった。
「幻矢あああっ!」
炎龍妃の叫び。
穴の縁で彼女は、膝を落とし、泣いた。
ジースは、パンパンに手を引かれ、穴の上に上がってくる。
炎龍妃は、怒りの混じった声で言った。
「可哀想に……。幻矢、一人でも倒したかったでしょうね。あなたの仇は、このわたしが討ってあげるわ。さぁ、あなた達、一度ならず二度までも仲間を殺されたこの怒りを、この悲しみをぶつけてあげるわ。覚悟なさい!」
キッと美理子達を睨みつける。
強い悲しみと怒りが入り交じったパワー。
美衣子達は恐怖を感じ後ずさりをした。
「受けよ! 炎龍妃最大の必殺技、ファイトニックドラコン!!」
炎の塊となった炎龍妃が突っ込んでくる。
その体中から溢れる炎は回りの木々を燃やし、戦士達に迫る。
「スーパーウインド!」
「アクアビーム!」
美理子とジェルとマーキスが火を消そうとするが、炎龍妃の炎はびくともしない。
大地は赤い炎の色に染まり、身動きさえできなかった。
「熱い……」
木々はほとんど焼け焦げ、美衣子達が炎に包まれるのも近い。
炎龍妃が嬉しそうに笑い声を上げた。
「飛龍、幻矢、見ていて。今、この憎き戦士達を焼き殺してあげるから」
美理子が空を見上げた。何か考えがあるらしい。
彼女は両手を空に掲げ、呪文を唱える。
「天の恵みの雨の雫よ。今一つになりて、この炎の闇を鎮めたまえ」
彼女の声に答えるように、雨雲が彼方よりやってきた。
「えっ?」
驚きを隠しきれない炎龍妃。
美理子は炎龍妃の方を向き、水の最大魔法を放つ。
「レインリバー!」
まるで滝のような雨がドドドッと降って来て、地上を濡らす。そのおかげで、炎龍妃の炎は消えた。
「くっ、だが、わたしはまだ負けない。受けよ! ファイトニックドラコン!」
炎龍妃は諦めてはいない。
「ファイヤー!」
美衣子が魔法を放ち、美理子、小人達もそれに続いた。
「アクアビーム!」
「スーパーウインド!」
炎龍妃のファイトニックドラコンが迫る。が、それもこれが最後だった。
美衣子達が放った三つの技が合体して、ファイトニックドラコンを跳ね返した。
「三魔法合体! ファイヤーハリケーンアタック!」
そのまま炎龍妃の下へ突っ込んでいく。
「キャアアアアッ」
弾き飛ばされた炎龍妃。地面に叩きつけられる。
「ゲホッ」
口から血を吐いた。
炎龍妃から、龍妃の姿へと戻っていく。
立ち上がり、槍を手に美衣子に突進していく。
最後まで、戦士の誇りを持っている。
美衣子は覚悟を決め、ライディンスピリッツを放った。
雷に撃たれ、龍妃は倒れる。
もう、生気はなかった。
虚しさを押し殺し、勝者である戦士達はダルの待つ城へ歩き始めた。
ここで立ち止まる訳にはいかない。
たとえどんな苦しい戦いだろうと、自分たちの決めた未來のため、サイーダと作る平和のため、歩き続ける。
目は、前を向いていた。
光の中に、一つの大きな大地があった。
美理子達のふるさと、聖地mirikoworld。
北に位置する、フォエバール村。ここに、一人の女性が、村人に支えられひっそりと暮らしていた。
白くてきれいな腕に、腰位まである長い髪。ちょっと癖毛がポイント。瞳は小さめだが首は長く、スタイルの良い、引き締まった体。
その唇から漏れる声はきれいでハスキーな声。
年は23才。整った顔の美女。
「ふう……」
不意に、女性がため息を漏らし窓の外を見る。
その目は遠く、空を眺めていた。
「ジース。あなたは今、どこで戦っているの。傷ついていないかしら」
ハッと何かを思い出し、引き出しの扉を開ける。
一つの指輪を手に取る。
見つめていると、涙が流れてくる。
「ジース……」
目が壁にかかっている剣に向いた。
その瞬間、彼女は決意した。
「ジース、わたし、あなたの側に行くわ。そして、一緒に戦うの。せっかく、あなたに救ってもらったこの命、今度は、あなたのために使う。サイーダ様がおっしゃっていた。この玉に祈りを込めれば、あなたやみんなの所に行けると」
女性は剣を取り、玉に祈りを込める。
ふわっと、体が浮いた。
そして彼女は、光に包まれ、戦いの舞台へと飛びさって行った。




