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冒険の始まり

皆さん初めまして。北村美琴と申します。このような場所に小説を書くのは初めてで、いろいろ批判や意見もあると思いますが、それらの声に耳を傾けつつ、頑張って書こうと思います。

長い小説だと思いますが、飽きずについてきてもらったら嬉しいです。

  チチチチチ……。


  朝の日差しと鳥の声で彼女は目を覚ました。

  ショートカットの短い髪にパッチリとした大きな瞳、笑うとえくぼのある可愛い少女だ。

  名前は聖美衣子(ひじりみいこ)、年は14、性格は優しく、でも芯は強い。

  ベッドから飛び出た彼女は、支度を済ませて学校に向かった。そして、あっという間に夕方。

  帰宅部の彼女は自分のベッドの上。

  美衣子は目をつむって、今朝見た夢を思い出していた。



  辺りは真っ暗だった。美衣子はそこで一人ぽつんと立っていた。周りを見回すと、遠くの方にかすかな光が見えた。彼女はそこに向かった。

  突然、強烈な光が襲った。真っ直ぐ前を見ると、見たことがないような緑の草原にいた。


「美衣子」


  名前を呼ばれ振り向くと、綺麗なロングヘアの少女が立っていた。


「わたしの名は北原美理子(きたはらみりこ)。しばらくしたらあなたを迎えに来ます」


 そう言って彼女は消えた。夢はそこで終わった。


「迎えに来る……か。でも、一体あの娘は……?」


 目を開けて、美衣子は考えた。

  すると、キッチンから声がする。

  母親の声だ。

 美衣子は急いで向かった。

  テーブルに美味しそうな料理が並んでいる。席につくと両親が微笑んだ。美衣子はコロッケにかぶり付きながら、なんとなく今朝の夢の事を話してみた。

 すると、両親二人とも面白がって、「迎えに来るなら行ってみれば? どうせ明日から夏休みだし」と言い始めた。

  この両親、放任主義なところがあり、娘の言う事はまず信じる。そして、面白いことと楽しいことが好きなのだ。


「後悔しないで、やれる事はやりなさい」


 それが二人の口癖だ。

  美衣子はそんな二人が大好きだ。

 しかし美衣子はまだ、気づいていなかった。両親がなんとなく、淋しそうな顔をしていた事を。反対されるだろうと思って話した事が、受け入れられて頭が一杯になってしまった。

 ただ、こんな突拍子もない事を、信じてくれる人はあまりいない。この両親なら、と美衣子は思って話したのだ。


 夢だけど、夢じゃないような、そんな感じがどことなくしていたから。



 夕食を食べ終わり、美衣子は二階の自分の部屋に向かった。すると、電気を消したはずなのに、ドアの隙間から明かりが見える。あわててドアを開けると、部屋の真ん中にあの少女の姿があった。

 後ろには、球体の、光輝く物体が浮かんでいた。

 ちょうど、少女の背の半分くらいの大きさだ。

 

「あなたは、美理子さん?」


 美衣子の問いに美理子はにっこりして答えた。


「あなたを迎えに来ました。わたしと一緒に、このゲートに入ってください」


 美衣子は少し戸惑った。まさかあの夢が現実になるなんて思わなかったからだ。しかし、実際に彼女が目の前にいるのだ。美衣子は覚悟を決め、ゲートの方に向かった。

 これから何処に向かうんだろうという不安はもちろんある。けど、行かなければならないという思いも、また美衣子の中にあった。

 一応、動きやすい服と思って、Tシャツとスパッツを着ている。スニーカーも、用意しておいた。

 美理子が手を繋ぐ。そして同時にゲートに飛び込んだ。

 二人を包んだゲートは、あっという間にその場から消えた。



 ヒュウヒュウヒュウ……。


 身体にあたる風が気持ちいい。

 二人は空を飛んでいた。

 眼下に見えるのは、緑の草原と花に囲まれた湖。

 こんな綺麗な景色を、美衣子は初めて見た。

 湖の側に降りる。

 言葉が出てこない。

 改めて、今までと違う場所に来たのだと実感した。

 美理子が話し出す。


「ここはmirikoworld(ミリコワールド)よ。わたしが住んでいるところ。あ、年が近いようだし普通に喋るね。あなたも美理子って呼んで。あなたはしばらくここにいて欲しいの」


 気さくな美理子に好感を覚えた美衣子は、友達のように話し出す。


「みーこでいいよ。みんなそう呼ぶの。で、もう少し詳しく聞かせて」

「ありがとうみーこ。実は今この世界は、黒魔族(くろまぞく)という闇の世界の住民に狙われているの。戦いは長く続き、わたしの両親も殺されたわ。でも、あなたが来てくれて良かった。あなたは気付いていないかもしれないけど、あなたには不思議な力があるの。お願いみーこ、一緒に戦って! わたし達は、あなたに頼るしかないのよ」


 美理子の必死の願いに、美衣子は戸惑った。まさか自分のような普通の女の子に、戦う力があるなんて思えなかったのだ。

 落ち着いて、美衣子は言った。


「不思議な……力……?」

「ええ」


 美理子は興奮気味の声を抑えて、静かに続けた。


「あなたは、伝説の救世主(メシア)の力を受け継ぐ者と言われているの。もともと黒魔族は、わたし達人間の負の力が生み出したもの。それを先代救世主が封じたんだけど、時を越えて、その力が蘇った。だからわたし達は、この戦いに勝たなきゃいけない。世界を、もう闇の世界にしてはいけないのよ!」

「わたしが、救世主の力を受け継ぐ者?」


 美衣子にそんな実感はない。しかし、もともとRPGなどゲームが好きで、異世界で戦うという事にワクワク感を覚えていた。それに、何故かこの世界は、懐かしい感じがする。

 そんな美衣子を察して美理子は言った。


「ごめんなさい。来たばかりのあなたにこんなことを言って。とりあえず、わたしの家に案内するね。他のみんなを紹介してあげる」


 そう言って彼女は歩き出した。

 美衣子も、その背をあわてて追った。



 湖の脇の小道を歩き、森を抜け、小高い丘の上の小さな木の家に二人は入った。

 美衣子は、そこにいた者達を見て驚いた。

 自分の住んでいた世界の生物とは、明らかに違うのだ。

 美理子が一人一人紹介する。

 まずは頭にウサギの耳がついた女の子。


「彼女はうさちゃん。17才。この世界ではうさぎ人間と呼ばれているわ。幻影を見せることが得意な、しっかり者の女の子よ」


 何だかありきたりな名前だな。

 美衣子は一瞬、そう思ってしまった。

 美理子がフォローする。


「あ、彼女の本名は違うの。本当の名前は、ラヴィーナンジェラ……えっと、何だっけ」

「ラヴィーナンジェラ・フェラシード・グランジー。でも言いにくいから、美理子達があだ名で呼んでるの。あなたもそう呼んで」

「う、うん」

「じゃあ、よろしくね」


 うさちゃんが握手を求めてきた。

 美衣子も握り返す。

 次に、お腹が少し膨らんでいて、それが太鼓になっている男の子。短パンの腰にはバチがぶら下げてある。後ろ髪を結んでいたが、大して長くはないため、子犬の尻尾みたいで可愛かった。


「彼はパンパン。15才。太鼓が得意な名ドラマーよ。お腹のことは気にしないで。そういう人種なの。クールに見えるけど、優しいの」

「よろしく、美衣子」

「うん、パンパン」


 次は、犬と羊が合わさったような動物。


「この子はワンメー。凄く足が速いの。一応オスよ。喋る時、語尾を伸ばす癖があるの」

「えーっ? ここは動物が喋るの!?」

「そうよ美衣子。あ、みんな、美衣子はみーこって呼んでいいんだって」

「そうなんだ~。よろしくね〜。みーこ〜」


 ワンメーが喋りかけてきた。美衣子は戸惑いながら挨拶をした。


「次はこの子達ね」


 登場したのは、トカゲに姿が似た動物が二匹。


「えっと、頭にリボンがついていないのがオスのカン、ついているのがメスのリースよ。二匹共に強力な牙を持っているの。リースは、ぶりっ子口調で喋るかな」

「そうなんだ。よろしく、カン」

「うん」

「リースもよろしくね」

「こちらこそよろしくぅ。みーこぉ」

「最後はこの人達ね。妖精のフェアとリィ。小人のジェルとマーキスよ。妖精達はパンパンと一緒に歌を歌って攻撃するの。小人達は、風を起こすことができるのよ」


 四人共に手のひらサイズの可愛い戦士達だ。妖精二人は女の子の姿で、小さな羽で空に浮いている。小人二人は男の子で、美理子の足元に立っていた。

 全ての紹介が終わると、改めて美理子が言った。


「さて、では改めて、わたしは北原美理子。14才よ。水と氷の魔法を使う魔法使いってことになっているわ。では、よろしく」


 こうして、mirikoworldの住民に温かく迎えられた美衣子。彼女は、ここに凄く居心地の良さを感じていた。そして、もっとこの世界を知りたいと思い、美理子達と一緒に、まずはリメンバールという、この村を散策することになった。


 リメンバールは、パンパン、ワンメー達動物トリオの出身地。のどかで、温かい感じの村だ。その南側には、光の森という森があり、妖精達と小人達が住んでいる。ちなみにうさちゃんと美理子は、聖地ミリルークという場所の出身だが、その場所は、ここから遠く離れている。

 みんなは、楽しくお喋りしながら、村を歩き回った。


 だがーー、


 突然、空に黒雲が覆い、稲妻がなり始めた。

 はっとする美理子。

 闇の中から黒魔族の兵士達が襲い来る。

 全身真っ黒な人間。それぞれ剣や斧、弓を持って美理子達に飛びかかる。

 美衣子は、一歩も動けなかった。

 初めて見る戦い。

 激しく動き回る彼らの動きを、ただ見ているしかなかった。

 これはもうゲームの世界じゃない、現実なのだと、その時認識した。


「キャアアアアッ」


 うさちゃんが、敵の体当たりを受けて吹き飛ばされる。パンパンが前に出て庇うが、徐々に劣勢になってきた。美理子が魔法を使う。が、いかんせん敵の数が多い。次から次へ増えてくる。


「このままじゃ……」


 美衣子は、自分に優しくしてくれた戦士達が次々倒されていく様子を見て、悪を憎む心と戦う勇気を自覚した。


「やめて!」


 しかし、力のない自分に何ができるのか。黒魔族の前に出ても立ち止まるだけ。

 すると、


「待ちなさい!」


 空から声が聞こえたと思ったら、黒雲は一瞬にして晴れ、優しい光が美理子達を包んだ。


「黒魔族達よ。この美しい世界から手を退きなさい」

「な、何ぃ、お前は誰だ!」


 興奮した黒魔族の兵士が叫んだ。


(わたくし)は、このmirikoworldの女王、サイーダです。さぁ、黒魔族達よ、ここから立ち去るのです」

「じ、女王だと? 仕方ない、一旦引いてやる!」


 黒魔族達は、女王と聞いて、突然、あわてて引いた。

 美理子達は一瞬呆気に取られたが、立ち上がってサイーダに礼を言った。


「女王様。助けて下さってありがとうございます。どうか、そのお姿をお見せください」

「皆さん、残念ながらそれは出来ないのです」


 サイーダの悲しそうな声。


「私は、今から10年ほど前、黒魔族に力を封じられてしまいました。黒魔族は、私の城、ミリルークの神殿ごと、いばらで隠してしまったのです。そのために人々は、城を見ることができないでいます。しかし、長い年月で、封印は解けつつあります。こうして、あなた達と話すことができるのも、そのためでしょう」

「サイーダ様……」


 女王サイーダの存在は、いると信じられているものの、その姿を見た者がいないため、伝説と言われていた。実はうさちゃんと美理子は、ミリルーク神殿が黒魔族に襲われた時、村人と一緒に逃げていたのだ。だが、神殿があったかどうかは覚えていない。

 美理子が言う。


「サイーダ様。無理をなさらず、お待ちになっていて下さい。わたし達が、必ずお助けいたします」


 そして仲間の方に振り向くと、みんなも決意の表情で頷いた。


「美理子、そして、そこにいる皆さん、ありがとうございます。そしてみーこ。私達の願いに応え、良くこの世界に来て下さいました。私は、あなた方を信じて、ここで待ちます。それでは、このペンダントをあなた方に託します。このペンダントから出る光が、あなた方を正しい道へと導いてくれるでしょう」

「サイーダ様……!」

「それでは、皆さん、勝利を、願って……います……」


 女王の声が聞こえなくなったと同時に、空からペンダントが降りてきた。それは美理子の首に掛かり、一条の光が道を照らした。

 光は光の森に続いている。美理子と美衣子が最初に抜けて来た森だ。

 戦士達は、森に向かい歩き始めた。



 森に着いたときには、太陽は沈みかけ、辺りは薄暗くなってきた。これでは何も見えないと、パンパンがたいまつを手に取り明かりをつける。

 ペンダントの光は、森の奥を指している。

 ワンメーが、疲れたように言った。


「ねぇ〜、みんなぁ〜今日は〜、ここで〜休もうよ〜」


 うさちゃんが続ける。


「そうね。夜に動く方が危険だわ。寒くなると悪いし、そこの洞窟で暖をとりましょう」


 たいまつの明かりが照らす洞窟にみんなは入った。

 入り口近くで火を起こす。

 妖精達と小人達は、食料を探しに行った。

 そして食事の後、美理子が美衣子に話かける。


「みーこ、突然の黒魔族との戦い、びっくりしたよね。人間界で、平和に暮らしていたあなたを、こんな事に巻き込んで本当にごめんなさい。もし戻りたければ戻ってもいいよ」


 それに対し、美衣子の答えは明確だった。


「美理子。うん。最初はびっくりした。わたしの住んでいるところと、全然違う所なんだもん。けど、凄く綺麗な世界だね。ここは。だから、この世界を守りたい。何ができるか分からないけど、わたしがここに呼ばれた意味があるのなら、みんなと一緒に戦ってみたいと思う」


 彼女の瞳は澄んでいた。後悔は、していないようだ。美理子は、改めて礼を言う。

 他の戦士達も、彼女に感謝し、全力で彼女のフォローをしていこうと決めた。

 やがて、美衣子、美理子、うさちゃんは眠り始める。

 疲れたんだろう。

 パンパンが火を消す。

 明かりが消え、戦士達は静かになった。



 朝、一番に目を覚ましたのは美理子だった。

 風が彼女の髪を揺らす。

 朝日が当たる森の中はさんさんと輝き、遠くまで良く見渡せる。


「おーい」


 仲間が起きてきたようだ。


「美理子、ペンダントの光は?」

「ええ、みーこ。あの方向を指してる」


 洞窟の入り口から、やや北西方向。


「あそこに何があるの?」

「とにかく行ってみよう」


 光に向かい進むと、共鳴するように向こう側から、もう一筋の光が現れた。


「な、何?」


 木の根元に落ちているのは、もう1つのペンダント。

 それは自然に美衣子の首に掛かった。


「えっ?」


 二つのペンダントの光が消える。


「共鳴が消えた」

「ど、どうするのォ。導きの光まで消えちゃったよォ。アタシ達、迷っちゃったのォ?」


 慌てるリースだが、そこにサイーダの声。


「大丈夫です。皆さん。光は消えた訳ではないのです。まずは、もう1つのペンダントの下に導いてくれたのです。さて、みーこ。あなたはこれから一人である村に向かって下さい。そこで、そのペンダントの力で魔法の呪文を覚えるのです。だけど心配しないで。村までは私が飛ばします。その村には魔法の先生がいますから安心していいのですよ」

「えっ、サイーダ様。もしかしてそこはチルル村ですか?」

「そうです美理子。そして、あなた達はmirikoworldの西の果て、ベール村を目指して下さい」

「ベール村?」

「ええ。その村には、美理子、みーこ、あなた方が使う魔法の杖が隠されています。それを使えば、黒魔族との戦いも楽になるはずです」

「分かりましたサイーダ様。ベール村を目指します」

「お願いしますね。道に迷ったら、そのペンダントに願いなさい。道を示してくれるはずです。では、みーこ、行きましょう」

「はい! サイーダ様!」


 美衣子の身体が白い光に包まれる。

 そしてーー。


 ビュウ。


 彼女はテレポートしていった。


「美理子、わたし達も」

「うん、うさちゃん」


 こうして、美理子達は西、美衣子は南へと別れていった。



 美理子達と別れて1週間、美衣子は炎の魔法を少し使えるようになっていた。ここチルル村にいる魔法の先生は、美理子にも魔法を教えたことがある、優しい女性だ。年は30代後半くらい、髪をトップでおだんごにまとめている。

 修行は精神を集中したり、時には滝に打たれたり厳しいこともあったが、楽しいこともあった。

 それが救世主の力なのか、もともとの素質なのか分からないが、美衣子は覚えるのが早かった。

 そんなある日ーー、

 美衣子は、村の泉の側に倒れている女性を見つけた。話を聞くと、彼女は黒魔族に襲われた村から逃げて来たのだという。先生に事情を話し、美衣子は女性と一緒にその村に向かった。

 背に女性をおぶって村に着いたとき、村は家も木も倒されて跡形もなかった。無事だった村人はみな怪我を負っており、美衣子はその中の老人の側に女性を下ろした。

 怪我人の手当てをし、美衣子は安全な場所を探した。そして、唯一高そうな崖を見つけると、そこに村人を誘導した。

 黒魔族が再び襲ってきたのは、そんなときだった。

 美衣子は、黒魔族への怒りを胸に、一人立ち向かう。


「ファイヤー!」


 美衣子が使う火の玉の魔法だ。

 弱い黒魔族の兵士は、どんどん倒れていく。

 が、一人ではやがて限界が来る。


(このままじゃ、やられる……)


 それでも、美衣子は諦めず、村人を守るために魔法を使い続けた。



 一方その頃、西の果て、ベール村。

 美理子達は、村の長老に案内され、金色に輝く神殿に入ったところだった。真っ直ぐな通路を通り抜け、一番奥の広い部屋に入る。

 そこの中央に置かれているのは、青く細長い宝箱。

 長老が、持っていた鍵で、宝箱の蓋を開ける。


 カチャ。


「さぁ、どうぞ」


 先っぽに青紫の宝石がついた、美衣子と美理子専用の魔法の杖。この宝石が、魔力と攻撃力をアップする効果を持つのだ。


「ありがとうございます」


 長老から杖を受け取った美理子が、嬉しそうに笑った。


「いやいや、お役に立てて何よりじゃ。その杖で、どうか黒魔族を倒してくれるよう、願っておりますぞ」

「はい、必ず」


 するとそこへ、外の様子を見ていた村人が飛び込んできた。


「長老、大変です! 南の方角の辺りから、煙が見えます!」

「南の方角!?」


 美理子達も外に飛び出す。


「南の方角というと、チルル村かパピィ村じゃな」

「分かりませんが、多分そのあたりかと……」

「チルル村っ?」


 村人から借りた双眼鏡で良く見ると、遠くだが確かに煙らしきものが見える。


「ねぇ、チルル村って、確か……」


 妖精達がうさちゃんに問う。

 青い顔でうさちゃんが答えた。


「ええ、みーこがいるところよ」

「じゃ、じゃあ……」

「分からない……。分からないけど、もし彼女に何かあったとしたら、行って確かめなければ……!」

「それでは、わしらの馬車をお貸ししよう。急いで向かわれるといい」


 焦り始めた美理子達の様子を見て、長老が手をかす。


「長老……!」

「礼はいいから早くお乗りなされ。わしらには戦う力はない。だから、そなた達のような戦士に託したいのじゃ。こんな小さな手助けでも、そなた達の役に立つなら幸いじゃ。さぁ、早く」

「はい……!」


 村人達に見送られ、馬車に乗り込む戦士達。チルル村へと向かう馬車の中、美理子は美衣子の無事を祈っていた。


(みーこ、待ってて、すぐ行くからね。必ず、無事でいて)


 馬車は一路、南へ向かう。


「先生!」

「美理子、美理子ね!」


 チルル村に到着した美理子達は、早速先生の下に向かった。先生は、美衣子が隣村のパピィ村に行ったことを話してくれた。


「じゃあ、みーこはその女性と一緒にパピィ村に行ったんですね」

「ええ、でもなかなか戻らないの。どうしたんだろう……。美理子、あなた、ベール村から煙を見て来たのよね」

「はい」

「ベールの人達の技術は優れているわ。普通の双眼鏡でも、魔力を秘めた石を組み込むことで、より遠くを見ることができる。もし、その煙がパピィ村からだとしたら、みーこに何かあったのかも」

「でしたら、わたし達が行きます。もう心配で」

「頼むわね。パピィ村はここから南よ。わたしは残って様子を見るわ」

「はい、先生!」


 チルル村から走って戦士達は南下していた。ベールから借りた馬車は、美理子達を下ろした後、自分たちの村に戻って行ったはず。とにかく急がなければ、美衣子、彼女の身が危ない。

 目の前に、倒された木が何本も見えた。

 そしてーー、


「みーこ!」


 美理子の声に美衣子が振り向く。彼女は数人の黒魔族に囲まれ、片ヒザをついていた。


「このっ!」


 mirikoworldの戦士達の攻撃が始まった。美衣子の周りの黒魔族がどんどん減っていく。

 美理子も早速、魔法の杖を使ってみた。


「ウォーターフラッシュ!」


 気を集中すると、杖の先端の宝石から水しぶきが出て、敵を攻撃する。


「みーこ、大丈夫?」


 パンパンが美衣子の体を支え、立たせる。

 ふと、崖の側の女性が呼んでいるのに気がついた。


「あなたは?」

「わたしは、彼女に助けてもらった者です。彼女が黒魔族に囲まれて危なかったので、村人と協力して狼煙を上げました」


 見ると、壊された家の柱を利用して、火を燃やした跡がある。あの煙は、助けを求める狼煙だったのだ。


「分かりました。ありがとうございます。あなたはここにいて下さい。みーこ、君もここで休んでいて」

「パンパン……」

「心配しないで、大丈夫」


 パンパンが戦場に戻り、戦士達の力で黒魔族は大幅に減った。


「さぁ、もう少しよ」


 追い詰められた黒魔族だったがーー、

 突然、不気味な声が聞こえた。


「フハハハハハハッ。mirikoworldの諸君、初めましてかな。わたしは、黒魔族のボス、ダルだ。もう少し戦ってこの国を手に入れたいが、わたしとてこれ以上犠牲者を出す訳にはいかぬ。今日はこれで引き上げるが、まだこの国から手を引くと言った訳ではない。よいか! 覚悟して待っておれ。フハハハハハ!」


 ダルの声が消えた後、黒魔族達も黒い霧に隠れて消えた。美理子達は、初めてダルの声を聞いて動揺していたが、新たな決意を胸に誓った。


(どんな強い敵が現れようと、わたし達は負けない。必ず、この国を救って見せる。たとえこの命を失おうとも、わたし達は戦う。それがわたし達の宿命ならば……)



 美衣子の無事を確認した戦士達は、チルル村の先生の下に戻った。先生は、美衣子の姿を見ると、涙を流し抱きしめた。美衣子も、心配させたことを謝り、美理子達に礼を言った。

 そして、その日は宿屋もしている先生の家に泊まることになった。


「遠慮しないで上がって。みんな疲れているでしょう」


 宿屋は二階建てで、全体が木でできている。部屋数は全部で10部屋。なかなか広い部屋だ。一応、1000ゴールドで泊まれる。ゴールドとは、mirikoworldの単位で、1ゴールドが1円になる。

 美衣子は美理子、うさちゃんと同部屋。

 パンパン、妖精達、小人達が一緒。

 後はワンメー、カン、リースで三部屋だ。


 コンコン。


 ドアをノックする音。

 先生が美衣子達の部屋に入ってきた。


「あのね。夕食まで時間があるから、その間外の店に行って来たら?」


 チルル村には先生の宿屋の他に道具屋がある。

 美衣子、美理子はうさちゃんに留守をまかせ、道具屋に行くことにした。

 店の中は人で賑わっていた。

 商品の棚を見てみる。中には薬草、中薬草(ちゅうやくそう)、さらには、○○の実シリーズというのがある。

 薬草は、体力を小回復し、中薬草は中回復する。○○の実は見た目小さな種だ。すばやさの実は、食べた人のすばやさを上げる。体力の実は体力を上げ、魔力の実は魔力を上げる。後、一撃の針という武器も売っている。これは、敵を一撃で倒すという毒針だ。

 大きな店に行けば、大薬草(だいやくそう)という体力を大幅に回復する薬草があるが、この店にはない。

 そんなとき、美衣子は店主と話す男の人を見つけた。髪は長く背も高い。青いバンダナをしている。その人は店主に何か紙を見せ、真剣に話している。美衣子はその様子が気になり、思わず聞き耳を立てた。


「なぁ、店主さん、この女性を知らないか?」

「すまないが、見たことはないねぇ」

「そうか……。分かった。次を当たるよ」

「お前さん、その女性は何者なんだい?ずいぶん真剣なようだけど」

「彼女は、俺の彼女だ。黒魔族にさらわれた」

(えっ?)


 美衣子は思わず男の人の前に出る。美理子も気づいて横に来た。


「あ、あの……」

「……君は?」

「ごめんなさい、話、聞こえちゃって……、あの、黒魔族に、彼女をさらわれたと……」

「………」

「もし良かったら、力になれませんか?」

「もしかして、君達は?」

「えっ?」

「いや、何でもない。それに俺はもう少し自分で探すつもりだ。悪いけど、おいとまするよ」

「あっ……」


 男の人は店から出て行った。美衣子は少し悪いことをしたかなと思った。


「美理子、わたし……」

「大丈夫みーこ。あなたの思いはわかる。それに、あの人が黒魔族を追っているのなら、また会えるかもしれないよ。その時に、ちゃんと話しを聞いてあげよう」

「うん、そうだね」

「今日はもう宿に帰ろう。夕食ができているかも」

「うん!」

「あー、お腹すいたー」


 そして夕食の時、二人は仲間達にその話しをした。みんなは、美理子と同じように、また会えた時に力になってあげようと話した。

 窓から月が見える。美衣子は再会を願って目を閉じた。布団は、暖かい。

 

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