表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼は火曜の早朝に僕はジャンプを読むはず

作者: 関谷 雄大

 転職を機に、関谷は都会での暮らしを止め実家に帰ってきた。

 関谷の実家は片田舎の一軒家である。庭は県道に面しているものの、その道路を通る車は一時間に数台といった立地だ。県道を挟んで向かいにはとある会社の集配センターの駐車場がある。そこでは特殊な商品を扱っているため、繁忙期以外は従業員用の駐車場も静かなもので、今日の帰宅時も特に気になることはなかったと関谷は記憶していた。

 その日も夕食を取り、関谷は風呂に入ることにした。服を脱ぎ、シャワーで体の汗を流し、湯船に浸かる。

 湯船で今日の出来事などを思い返している関谷の耳に、車のアイドリングのような音が届いた。誰かが集配センターの駐車場に車を停め、電話でもしているのだろうと、関谷は思った。その予想は当たったようで、数分の後にその音は聞こえなくなった。


 翌日、関谷は仕事を終え、帰宅した。その際に昨日のこともあり、なんとなしにだが、集配センターの駐車場に車があるかを確認した。

 午後七時を回った頃だったが、駐車場に車はなかった。

 そして、夕食を取り、関谷は風呂に入る。同じようにシャワーを浴び、湯船に浸かる。

 やはり、車のアイドリングのような音がしている。関谷は昨日と同じだ、と思った。

 昨日と同じ人物だった場合、その人物が駐車場で何をしているのだろうかと、関谷は考える。

 現在時刻は午後九時過ぎ。

 そこそこ、集配センターの駐車場はひと目につきにくい場所である。

 車で出来ること。

 なんだろうか。関谷にはいくつかの想像が浮かんだが、その辺りで音は消えていた。

 駐車は短時間であるため、特に関連性はないだろうと思い、関谷はそれとは関係のない別のことを考えた。


 そのまた翌日、関谷は仕事を終え、帰宅した。やはり気になり、集配センターの駐車場を見たのだが、車は一台も停まっていなかった。

 そして、夕食を取り、関谷は風呂場に入る。一旦、関谷はその場で耳を澄ませてみた。

 音はしなかった。どうやら今日はいないらしいということを確認して、普段のように湯船に浸かった。

 ブロロ……

 やはり、昨日や一昨日と同じ音がしていた。

 誰かが今日もいる。昨日とほぼ同じ時間、同じ辺りに誰かがいる。

 関谷は、駐車場の彼の立場になり、何をしているかを想像することにした。

 ケース1、独身男性の場合。

 車でいかがわしいことをしている。しかし、時間が短すぎる。関谷はこの考えを切り捨てた。

 ケース2、既婚男性の場合。

 家に帰ってはできないことをしている。どちらかと言えば、関谷はこちらの考えが正解に近いと感じていた。

 では、その独身男性は何をしているのか。

 家ではできないことをしているのだろうから、アダルトビデオでも見ているのか。その考えをわざわざ、こんな僻地まで来てすることではないと、関谷は否定した。

 更に禁忌とされることでなければ、こんなに人気のないところまで来てしないだろう。

 では、なんだろうか。と考えたところで、先程の音がしていないことに気がついた。

 実際には午後八時くらいに駐車し、アイドリングは出る直前にしているだけの可能性もある。しかし、その可能性は少ないだろうと関谷は考えた。なぜなら、出発するまで数分の時間はある。やましいことがあるのなら、エンジンをかけたらすぐに移動するだろうからだ。

 エンジンをかけっぱなしにする理由は、すぐに車を動かせるようにしていることにあると関谷は思っていた。

 その時間で出来ることといえば、画像を数枚確認することくらいだ。

 そこそこ、問題のある画像をスマホで眺めていたという結論を関谷は導き出した。


 様々考え、長湯になっていた。すこしのぼせた関谷はシャワーを浴び、体を拭いて、脱衣場で寝間着を着ていた。

 そうすると、先程の『ブロロ……』という音がしていることに気がついた。

 もしかすると、この音は車の音ではないのかもしれない。

 そうすると、音のきっかけはなんだろうか。

 風呂に入る時と、出る時に音は鳴っていた可能性がある。

 服を脱ぎ、シャワーを浴び、湯船に浸かり、音が聞こえ、そのうち聞こえなくなった。

 湯船から出て、シャワーを浴び、服を着たことで、音が聞こえた。

 結論は一つだ。シャワーの給湯器の音である。シャワーを止めて少しの間、給湯器は動いている。そのため、室外から音がするのだ。たまたま、給湯器の取り付け場所が駐車場の方であったため、車が停まっているような気がしていたのだ。


 翌日、同じようにシャワーを浴び、湯船に浸かる。例のあの音は少しの間だけ聞こえ、やがて消えた。

 関谷はこの出来事を物語にしてみようと考えた。

 しかし、駐車場の架空の彼を主人公に据えても、サクッと盛り上がる展開が浮かばない。

 では、駐車場の彼が本当に存在していたのなら、そこで何をしているだろう。

 妄想では問題のある画像を見ていたという結論になっていた。

 エロ画像かグロ画像のどちらが田舎の物語にふさわしいか。

 ご近所さんに怒られると思うが、ここにはグロ画像がふさわしいと思った。

 では、その画像は誰が上げたものなのか。

 そのサイトの管理人を主人公に据えようと関谷は考えた。

 そこからは『火曜の早朝に僕はジャンプを読む』の通りです。


 これを書き上げて、風呂に入って久々に耳を澄ましてみて気がついたが、あの時のような給湯器の音は聞こえない。あの時の音は何だったのだろう。

 おそらく、気まぐれに父が給湯器を交換しただけのことだろうけど、取り替えたかどうかは別に聞かなくてもいいやと関谷は思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ