未来が見えないこの部屋
ついに本編に入っていきます。
ん?ここはどこだ?
ショートしたはずの脳が再起動し、状況を把握しようと試みる。
「榊怜くんですね?」
はっとして顔を上げると見たことのない少女がこちらを見上げていた。
俺よりも20センチほど小さいだろうか。かなり小柄だ。
「あんたがここに?」
「はい、そうです。あのままだと貴方が吊り上げられて丸焦げになってしまうところだったので間一髪で助けました。」
………だっせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
今の時代で死因が豚の◯焼きとかダサすぎるだろ!
「助かったぁぁぁ。ありがとうぅぅ!」
命の恩人である少女に大いなる感謝を述べ、俺はその場に崩れ落ちた。
「ですが、こちらの世界にやって来てしまっては試練をくぐり抜けなければ元の世界に戻ることができません。このようなパターンでこちらへやって来た方は貴方が初めてですよ?」
「普通はどんな人がこっちにやってくるんだ?他に人は見えないが。」
「普通は自殺を試みた方を、誘惑し、こちらへやって来て多くの試練を果たすために鍛え、暗殺者になるように作り上げております。要はここは暗殺者育成所といったところでしょうか。」
どうやら俺はイレギュラーな存在らしい。すぐに戻ろうと思ったのだが、どちらにせよ◯焼きになるのでやめておいた。試練も果たさなきゃならないらしいしな。
「その暗殺者育成所ってところを見せてもらおうか。」
「はい、こちらに」
真っ白に包まれた世界を5分ほど歩き、部屋らしいところに到達した。
どんなところだろう。
ドアを開けると
「ビュン」
矢が目の前を通り過ぎていった。
「驚かせてしまいましたか。すみません。でも貴方ほどの方ならこれくらいどうってこともないでしょうけど。」
意味深なことを言い、俺に説明をしてきた。
俺のことを知っているのだろうか。だとすれば警戒を強めないと。
「ここにやって来たからには試練を果たしてもらいます。試練の内容は当日お伝えいたしますのでそれまで各自訓練に励んでいてください」
非常に事務的な報告って感じだな。慣れているのだろう。
「では」
名も知らない少女は扉を閉じて出ていった。あの娘が支配者なのだろうか。まあどうでもいい。
さっさとあの場から逃れる方法を考えて試練をクリアしよう。
「なあ。あんたも自殺未遂者か?」
「いや、俺は違う。殺されかけたところを助けられた。」
「はっはっは。なるほどな。よろしく。俺は上川寝音だ。」
俺の真横に矢を飛ばした人間が挨拶をしてきた。
あの少女の話からするとかなりデストリックな場所だと思っていたが、そうでもないらしい。
この人もフレンドリーだし、仲良くしようじゃないか。他の人もフレンドリーだったら一緒に試練をクリアやってみたり?
この時俺はこの状況に浮かれてしまっていた。いや、気づくべきだった。この男の笑顔に。
この男は今ここに来たとは限らない。前からいて、試練を行ったことがあるかもしれない。
笑顔の裏に潜んでいる悪魔の顔に気づくべきだったんだ。
この育成所の過酷さを気づく日は近いかもしれません。