戦場の死神1
300年に渡って繰り広げられた戦争。
あらゆる国ができては飲まれ、取るに足らない小国と3つの大国が残った。
大国うちの一つ、華耀国では幼少時から訓練・選別を施した最強の部隊を作り、ほかの2国から抜きんでようと試みた。
華耀国サイド:燈和の話
最初の記憶は、ふかふかの毛皮に埋もれて眠っていたことだ。
「燈和、起きろ」
森で唯一、おれと同じ姿をした男がおれを呼ぶ。
呼ばれたのはおれだけど、寝床にしていた狼たちも声を受けて動き出したので、残念ながらおれも起きた。
姿が同じといっても、男はおれよりも圧倒的に大きかった。
といっても、まだおれは3歳かそこらだったらしいから、大人である男が大きいのは当たり前だった。
「お前ら、あんまそいつを甘やかすなよ」
男は狼達をなでながら、たった今とってきたであろう獲物の鹿を床に降ろした。
「燈和、捌け」
「ん」
了承して解体用の刃物を手に取った。
自分よりも大きい鹿の皮をはいで、首をためらいなく切り落として、吊るして血を抜き、手際よく解体していく。
その様子を、男はじっと見ていた。
おれは狼に拾われて、その狼を統べていたこの男に育てられた。
この1年で言葉や簡単な地理、体の使い方、狩りの仕方から、獲物の捌き方、色々教えられた。
教えられたことが、教えられた通りにできたとき、男は狼達と同じようにおれの頭をなでてくれた。
そしてその後、何か考え込むように無表情になるのが常だった。
そうして、2年くらい男のもとで狩りをしたり、小屋を作ったりして暮らしていたが、ある日、その暮らしは唐突に終わった。
その日のことは今でも覚えている。
男はいつもと違って、深いため息をついて、迷うような視線をおれに向けていた。
おれは5歳くらいになっていたが、その視線がなんなのかわからず、首をかしげた。
「・・・燈和、お前は、人を、殺せると、思うか」
「人?」
男が何を言いたいのかわからない。
人、というのは、おれや男のような動物を指して言っているのだろうか。
「殺せる」
おれはあっさりと言った。
男は多分、自分と同じ形をした動物を殺すのに抵抗があるかという意味で聞いたんだろうが、当時のおれはそんなことはわからなかったので、物理的に殺せるかという意味で答えた。
狩りで熊を仕留めたこともあったし、”人”を殺すことはできると思った。
まあ抵抗があるかと聞かれても、答えは”否”だっただろうが。
「そう、か。そう、だな。そう、だろうな」
男が、歯切れ悪くつぶやいて、頭を抱えた。
「・・・燈和、いいか、敵以外の人間は、殺すな」
「・・・敵って?」
「お前を殺そうとするやつのことだ」
「・・・ん」
短く、了承した。
おれの返事を聞いて、男は意を決したように、おれを見た。
「お前は、これから、森を出て、兵隊になる訓練を受ける」
でなきゃ森を燃やすと言いやがった、と男が吐き捨てた。
つまり、森を燃やされたくなければ、おれに”へいたい”になるよう、”人”に言われた、そして男はそれを受けるつもりだと理解した。
「・・・そいつが、敵?」
「いやまて違う。そいつは味方、っつうか、この森の持ち主っつうか・・・、まあなんだ、そいつは敵じゃない。・・・殺すなよ?」
森の持ち主。
「・・・ん」
納得はいかないが、男がそういうならと了承した。
「・・・”へいたい”って何?」
「・・・あー、わかりやすく言うと、敵を殺したり、仲間を守ったりする人間のことだな」
それは普通のことじゃないのか、と首をかしげると、男が付け加えるように言った。
「それを仕事としてやるんだ。それをやってれば飯とか服とかがほかのやつからもらえる」
「・・・敵を殺して、仲間を守ると、飯がもらえる。で、敵は、人で、仲間も、人」
ぽつぽつと、今言われたことを整理する。
「おれを殺そうとするやつが、敵。仲間は・・・それ以外?」
「いや。お前を守ってくれるやつが仲間、味方だ」
世の中には敵でも味方でもないやつってのがいるんだよ、と男は苦笑いした。
「敵と、仲間と、それ以外。敵は殺して、仲間は守って、それ以外は?」
「ほっとけ。守りも殺しもしなくていい。放置だ」
「それ以外は、放置」
「そうだ。・・・燈和、できるか?」
もし、ここで、できないといえたなら、俺は今でもあの森で暮らせていたのだろうか。
『敵以外を殺すな』という男の言葉を、俺は今でも守っているが、連れて行かれた場所は、ほとんど敵しかいなかった。
結果的に、俺は『死神』と呼ばれるようになった。
初投稿でびっくびくです。
話の筋はある程度できている話のつもりなのですが、キャラ設定を途中で変えたりして若干カオスなのと、自分がドジなのと、仕事が忙しくないときに投稿するので、更新速度は遅いと思われます。。。
広い心で受け入れてくださる方がいることを祈っております。