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オタクボクサー  作者: 平川らいあん
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第4R『リベンジ』-2

威力はありそうだけど、大振り。はっきりと見える。斜め後ろに半歩、体をずらすだけで避けることができた。

相手はバランスを崩し、前のめりに倒れそうになる。なんとかこらえて、その体制のまま僕を睨んだ。

「てめぇ」

前のめりの姿勢からアッパーを打ってきた。

今度は後ろに一歩下がる。パンチは空を切る。

これが素人のパンチなんだ。ポクサーのパンチとはレベルが違いすぎる。向こうがムキになればなるほど、かわいそうに思えた。

「てめぇ。ほんとにボクシングやってるみてえだな。どうせオレ達に仕返ししようとか考えてはじめたんだろ」

そんなくだらないことには使わない。ボクシングに失礼だ。だんだん頭にきた。ボクシングがどんなものなのか見せてやろうか。

拳を握りしめた。次のパンチが来たら、威嚇のパンチを打ってやる。

相手が拳を握りしめるのが見えた。来る。集中して相手の攻撃に備えた。

「おい!もうやめろ!」

誰かの制止する声が聞こえた。聞いたことある声。真人くんだ。

「なんだよ。真人かよ。いいじゃねえか、好きなだけやらせろよ」

「もうやめろよ。そんなくだらないこと」

「くだらねぇだと。何がくだらねぇんだよ。生意気なオタをお仕置きしてやってんじゃねぇか。こいつらすぐいい気になるからな。真人だって、オタクが気にいらねぇって言ってたじゃねぇか」

「確かに言ったけどよ。オレたち、もういい歳だろ。いいかげん卒業しようぜ」

「お前、最近面白くねぇな。いい子ぶってんじゃねぇよ」

相手の目が鋭くなる。悪意の視線が真人くんに向けられた。真人くんも鋭い視線を返す。睨みながらお互いの距離が近づく。顔がぶつかりそうな距離まで近づいた。一触即発。

長く睨みあいが続く。動くことすらできなかった。少しでも動けば何かがはじまってしまう気がした。

「くそっ。お前ら、今度会ったら覚えてろよ」

黒ずくめの背の高い方がそう言うと、さっと振り返り、立ち去っていった。

「お前ら」か。僕だけじゃなく、真人くんも含まれているんだ。真人くんの仲間だったはずなのに、こんなに簡単に敵になっちゃうんだ。なんだか寂しかった。

「ササオタ、オレの仲間が悪かったな」

「いや、あの、止めに入ってくれて、あ、ありがとう」

本当に助かった。止めてくれなければ、もしかすると僕はボクシングを悪い方向に使ったかもしれない。

「コーヒーでも飲むか」

自動販売機の方へ歩いている。ひぃぃ。財布ださなきゃ。財布を出して後を追う。

「好きなの選びな」

えっ?真人くんが自分のお金を入れて、ボタンを押すように促す。こんなことってあるの?

「どうした?はやく選びな」

「じゃあ、このお茶で…」

自動販売機の近くの道ばたに二人で並んで座った。な、何をされるんだろう…。

「お前…ボクシングやってるのか?」

「えっ?あっ。うん。まだそんなにうまくないし、この前の試合も負けちゃったけど」「試合に出てるのか!?すげーな」

「そんな、すごくないよ!アマチュアの試合だし。まだ一戦だけだし」

「お前はすげーよ。オレは、ずっとお前の事がうらやましかったんだぜ」

な、なんだって!?何度もいじめたくせに。

「小学校で一度同じクラスになったこと覚えているか?」

「お、覚えてる。けど、あんまり話したことなかったような」

「マンガ、アニメ、ゲームが好き。小学生の頃からいわゆるオタクだったよな」

うーん。あの頃は自分がオタクとか思ったことなかったけど。同じ趣味の人もいっぱいいたし。いつからだろう。オタクと言われ始めたのは。

「好きなことを堂々と好きって言えるお前がうらやましかったんだよ」

「そ、そんな、堂々としてたつもりはないけど」

「オレだって、当時は好きなアニメとかゲームがあったんだよな。でも教室でアニメとかゲームとかが好きとか言うと、女子はキモいとかいいやがるし。いったんオタクとか言われはじめると、仲のいいやつまでオタクって目でみる。仲間はずれにされるんじゃないかってこわかったんだ」

真人くんがアニメとかゲームに興味あったなんて。真人くんは小学生の頃からちょっと大人びていて、車とかバイクとかに興味ある感じだった。でもそんなに話したことなかったから、見た目や行動で僕が勝手に決めつけただけかもしれない。真人くんは、真人くんなりに偏見に苦しんだのかも。僕と同じ苦しみを。

「今度はボクシングだろ。オレたち、腕っぷしにちょっとは自信があるけど、それでもなかなか踏み込める世界じゃない。ほんとすげぇよ、お前」

「そ、そんなことないよ。僕だって、なんとか続けるだけで精一杯で」

「でも現実にボクシングをやってるじゃねぇか。やってるとやってないの差は大きいよ」

褒められてるようでうれしかった。なによりも真人くんに言われのがうれしかった。

「オレもさ、いまバイトしてるBARの仕事が楽しくてさ。いつか店持ちたいって思ってる。フラフラするのは卒業して本気で仕事に打ち込んでみようと思ってんだ」

「うん。真人くんならできるよ。きっと、できるよ」

おだててるわけでも、こわいから話を合わせたわけでもなかった。いまの真人くんは、今までの真人くんとは違う。そう感じたんだ。

「お前、いいやつだな。あれだけいじめたのに。オレのダチは、店なんか持てるわけねぇ。現実を見ろ。って、みんなして言うぞ」

「大丈夫だよ。本気ならきっと叶うよ」

「てめぇ。上から目線だな。すぐに調子に乗りやがる。やっぱお仕置きが必要だな」

「えっ?ご、ごめん、ごめんなさい」

「冗談だよ。ちょっとやりすぎたか。悪い、悪い」

真人くんが声を出して笑っている。僕は苦笑い。冗談きついよ。

でもすごくうれしかった。真人くんとこんな風に話せる日が来るなんて。真人くんも色々と悩み、苦しんでいる。その一部を少しだけ垣間見ることができた。いや見せてくれた。見せてくれたことがうれしくて、何か力になれることがあれば、力になりたいと心から思った。


 真人くんと別れ、僕は帰りの電車に乗っていた。休日の電車は、どこかゆったりとした時間が流れていた。いつもはまぶしいだけの夕日も、暖かく包んでくれる。今日の出来事を思い出し、幸せな気持ちに浸っていた。その時、携帯にメッセージが届いているのに気が付いた。


>いまどこ?大丈夫?警察の人連れてきたんだけど。


>どこにいるの?ひどいことされてない?


>大丈夫なの?連絡ください!


>交番にいます。連絡ください。


>連絡できないの?心配だよぉ。


しまった。みおちゃんほったらかしだ…。


>連絡遅くなってごめん。なんとか助かりました。助けを呼んでくれてありがとう。


すぐに返信が来た。


>いまどこにいるの?怪我はない?すぐに行くよ。場所教えて。


やばい…。


>帰りの電車の中です…。怪我とかもありませんのでご心配なく。


>ちょっ。あんた!交番に行って、警察まで連れて来たんだよ。心配したのに!心配して損した!もう知らない。バカ!バカ!バカ!


うぅぅ。こういうときなんて返信したらいいんだろう。世の中まだまだ分からないことばかりだ。とりあえず帰ったらネットで調べてみようっと。

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