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お題『傘/カエル/赤』  作者: 紅茶きのこ
1/5

傘をさした(著:雨蛇

 雨が降りそうな空だった。

 文学的に言えば『泣き出しそうな空』みたいな。

(せっかくのお出掛けなのにこんな天候か……)

 傘を持っていくことにした。わたしの傘は白地に青い水玉模様の、端にフリルのついた可愛い傘で、このデザインはよく気に入ってる。なんかこう、わたしにぴったりの花の女子高生! 爽やか! っていう感じが滲み出ているのが好き。

「いってきまーす!」

 それを片手に、玄関で声を上げると、のそのそとおばあちゃんがこちらへやってきた。

「いってらっしゃい。でもね、こういう日はね──」

 

「赤い雨に気を付けなさい、だって」

 友達にそう伝えると、彼女は不思議そうな顔をした。

「赤い雨って、なに?」

「分かんない。昔はそういうのがあったのかな?」

 錆が浮かんだ雨とか──いや知らないけど。酸の雨が降っていたくらいだから、錆の雨もありそうじゃあない? 確かにそれは、体に悪そうだ。傘も汚れてしまいそう……。

「それにしても、映画、楽しみだね!」

「うん! どんな内容なんだろうね? 前作は見てないんだけど……」

 友達の言葉に、わたしはこたえる。そう、今日は友達と『ちくわの逆襲』という映画を見に行く。前作の『ちくわの侵略』は見ていない……というか誘われなければ興味すら沸かないような練り物映画だ。

 あまり期待はしないでおこう……。


 映画は案外面白かった。特にちくわがはんべんと魚の骨を交わす熱いバトル。焦げ目までしっかりだ。

 まだ四時だと言うのにすっかり暗いのは、分厚い雨雲が空を覆い始めているからだと思う。何とか、帰宅まではもってくれそうだが。

「じゃあ、今日は楽しかっ──」

「あ! カエル!」

 シメに入ろうとしたわたしの声を遮って、友達は叫んだ。

「ほら!」

 と、彼女の指差す方には、いかにもカエルですっていう雰囲気の……アマガエル? が、居た。アスファルトの上で緑色のシミのようになりながら、げこげこ鳴いている。

 こちらに気が付くと、ぱっとどこかへ跳んでいった。

「待って!」

 何故か、それを友達は追いかけ始めた。

 さすがにそのまま放置して帰るのもどうかと思ったので、わたしは彼女の後についていく事にした……理解できない突発的なその行動に、若干の苛立ちを感じつつ。

 

 帰りたい。

 

(近くにこんな場所があるなんて)

 たどり着いたのは、まるで森の中のように、草木の生い茂った場所だった。昼間に来ればまだマシだろうが、この時間帯で暗いと、得たいの知れない恐怖を感じざるを得ない。

 周囲に気をとられている間に、友達を見失ってしまった。

 そこまで遠くには行ってないはずだが……どうしよう。正直、自分だけでも帰宅してしまおうか。視界も悪いし、こんなところをガサガサ探してても、別の、意図しないものを見つけてしまいそうだ。

 振り向くと、そこには、茶色い壁があった。

 壁?

 ぽつり。

 頬に雨粒。

 ぐちゃりぐちゃりと、頭上で音が鳴る度、わたしは『雨粒』で濡れ。

 視線を上に向、

「げこげこ」

 蛙。大きな。

 わたしの三倍はあって。

 口にあるのは、わたしの友達かな。

 ぐちゃり。

 

 赤い雨に、もう濡れたくなかったので。

 傘をさした。

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