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迂回。




 -------------球技大会が終わって1週間。


 いつもの毎日に戻った。


 優衣と幼なじみではない日常。


 同じ高校に通っているから、同じマンションに住んでいるから、どうしても優衣が目に入ってしまうから、優衣と幼なじみに戻れない寂しさを、忘れる事も慣れる事も出来ない。


 優衣が男なら良かったのに。


 優衣が男だったら、オレじゃなく彼女を優先された時、オレは今と同じ様な淋しさを覚えるのだろうか。


 ・・・何、仮想で仮定のBL的想像をしているんだろ、オレ。 エロ本も、グラビアアイドルも、女の子も大好きなのに。


 最近、自分で自分の気持ちを理解する事が出来ずに、自分を持て余している。


 「・・・もう、やだ」


 放課後、誰もいない教室で、机に突っ伏し進路指導の順番を待っていると、


 「優衣の次、律なんだ」


 オレの前に進路指導を受けている優衣と一緒に帰る為に残っていただろう晃が、教室に入ってきた。


 「うん」


 身体を起こし、晃に返事をすると、晃がオレの前の席に腰を掛けた。


 「最近、優衣のお姉さんとはどう??」


 「どうって・・・」


 晃の質問に口篭る。


 優奈さんとは、相変わらずだから。 相変わらず、上手く行っていない。


 年下のオレがガキすぎるバカだからダメなんだと思う。


 優奈さんを、受け止める事が出来ないでいた。


 「・・・優衣が心配してたから。 『あの2人、ちゃんと上手くやってるのかな』って」


 晃が机に視線を落とした。


 「・・・そっか」


 全然上手く行っていないけれど、優衣に気に掛けてもらえた事は、ちょっと嬉しかった。


 「・・・律はさぁ。 本当に優衣のお姉さんの事が好きなの?? 律が好きなのは、優衣なんじゃないの??」


 「・・・え??」


 晃が真剣トーンで話すから、『はぁ??』と笑って返す事が出来なかった。


 「球技大会の時のあれ、何?? みんなの前で『幼なじみに戻りたい』って。 どう見ても告白じゃん」


 晃の視線が机からオレに移る。


 「・・・イヤイヤイヤイヤ。 告白じゃないだろ。 『幼なじみに戻りたい』で『彼氏になりたい』って言ったわけじゃないし」


 手を左右に振って否定するも、


 「そう思ってるの、律だけだよ。 みんなは告白だと思ってる」


 晃はそれを突っぱねた。


 「・・・優衣もさ。 『お姉ちゃん、ずっと元気ないんだ。 晃くん、律から何か聞いてない??』って。 いつもいつも律の話が出てくるし」


 若干の苛立ちを見せる晃。


 「それは、オレってゆーか、優奈さんの心配してるだけだろ。 優衣は」


 晃の思い違いを正そうとするが、


 「そうかな。 球技大会だって、大声で律の応援してたじゃん、優衣。 写真まで撮って」


 晃には納得がいかなかった事がまだあったらしく、不満を漏らし出した。


 「それは、その時オレがボール持ってたからだろ。 写真は、球技大会を見る事が出来ない優奈さんに送ってあげる為だし」


 「じゃあ、優衣と律が2人揃って寝不足で学校来た日の説明は?? あれ、偶然じゃないだろ。 2人で何か隠してるだろ」


 次々出てくる晃の疑念。

 

 疑いを持った人間に嘘を吐くのは逆効果に思えた。


 そもそもあの時の嘘に、悪意はなかった。 優衣にとっては善意しかなかった嘘。


 「・・・前の日にオレ、優奈さんとケンカしちゃってさ。 そしたら優奈さん行方晦ませちゃって。 だから、2人で探した。 優衣は、晃に心配かけたくなくて黙ってただけだよ」


 「・・・律がオレの立場だったら、黙ってて欲しいって思う??」


 晃は溜息混じりに呆れた声を出すと、少し睨みを利かせてオレを見た。


 優衣との秘密を持てた事に喜んでいたオレは、何て浅はかだったのだろう。


 平気で親友を傷つけた。


 「・・・教えて欲しいと思う」


 素直に答えると、『ふぅ』と晃が大きめの溜息を1つ吐いた。 そして、


 「・・・、優衣のお姉さんの気持ちが分かるんだよね。 ・・・オマエら何なんだよ。 オマエらはさ、『自分たちは幼なじみを大事に想っているだけ』とか思ってるかもしれないけどさ、そういうのが周りを傷つけてるって分かんない??」


 晃が静かに怒りを放った。


 「・・・でも優衣は、物心付く前からずっと一緒に育ってきて・・・何てゆーか、家族みたいなモンで。 だから、晃はオレを危険視しなくても大丈夫だし」


 「何だよ、その少女マンガみたいな言い訳。 家族じゃねーだろうが。 一緒に暮らしてねぇし、他人だろうが。 そんなヤツが『幼なじみなんで』とか言って彼女の周りウロウロしてさ。 オマエが1番危険だろうが!!」


 オレの反論に、遂に晃が声を張ってキレた。


 「・・・ウロウロなんかしてねぇだろうが。 優衣と晃が付き合う様になって、あの事故もあって、優衣とは全然話もしてねぇわ!!」


 何故かオレもつられてキレる。


 だって、優衣と仲良くしているのが気に食わなくてムカつかれるならまだしも、優衣から避けられている状態なのにキレられるのは解せない。

 

 「はぁ?! みんなの前で告っておいてウロついてないとか良く言えたな、オマエ」


 最早ケンカ腰の晃。


 「どういう了見してんだよ、オマエ。 『幼なじみに戻りたい』が告白だったら、この世の異性同士の幼なじみ全部がカップルって事になるだろうが」


 晃の売るケンカを即買。 だって、オレには晃にキレられる筋合いがない。


 「男の幼なじみがいる女となんか、付き合わなきゃ良かったわ」


 晃がポロっと零した言葉に、思わず掴みかかる。


 「・・・何、それ。 優衣と付き合って後悔したって事??」


 大事な幼なじみが貶された様な気がして、無性に腹が立った。


 「・・・・・・しんどいんだよ。 常に男の影がある女って」


 晃が、オレに胸倉を捕まれながら視線を外した。


 「優衣のお姉さんは、もっと辛かったんじゃない?? それが他人じゃなくて自分の妹だったんだから」


 晃の言葉に、晃のシャツを握っていた手が緩む。


 ただ、優衣の事が大事だっただけだった。 だって、幼なじみだから。


 晃と優奈さんを傷つけるつもりなんか、1ミリもなかった。


 それなのに・・・。

 

 「・・・晃は、優衣の事・・・好きか??」


 「・・・球技大会、決勝戦の後半全然ボールこなかっただろ。 ・・・オレ、わざと律にボール回さなかったんだ」


 晃の言う通り、確かに後半全くボールに触れられなかった。


 ・・・と言う事は、『しんどい』と言いながらも晃はまだ・・・。


 「・・・・・・優衣の事、好きだけど・・・一緒に居るの、正直辛い。 だけど、優衣まだ怪我完治してないし、これ以上悲しい思いさせられないだろ」


 自分だって嫌な思いをしたのに、それでも優衣を想う優しい晃。


 「・・・だから、オレの気持ち確かめたんだ?? 優衣を1人にしなくて済む様に・・・」


 晃の気持ちを全部聞いたところで、教室の扉が開いた。


 扉の方に目をやると、

 

 「言ってくれればいいのに。 今までずっとごめんね。 晃くんに嫌な思いたくさんさせてしまったね。 怪我もだいぶ治ったし、もう全然大丈夫。 ワタシの事は、気にしなくて大丈夫。 もう、1人で登下校も出来る。 今日まで本当にありがとう。 彼氏になってくれてありがとう。 すっごく楽しかった。 折角待っててもらったのにゴメンなんだけど、今日から1人で帰るね」


 そこにいたのは、優衣だった。


 優衣は目に涙を溜めていて、でも零すまいと必死に笑っていた。


 優衣は、足を引きずりながら自分の席に行くと、机の脇に引っ掛けたカバンを手に取り、肩にかけた。


 「・・・一緒に帰ろう、優衣。 まだ完全に治ってないじゃん」


 晃が優衣の傍に寄る。


 「1人で帰れるって言ってるじゃん。 晃くんとワタシは、もう彼氏彼女じゃないんだよ。 晃くんに、ワタシと一緒に帰らなきゃいけない義務なんかないんだよ」


 優衣が晃の横を通り過ぎた。

 

 晃が、困った様にオレに目配せをする。


 「優衣、じゃあオレと一緒に帰ろう」


 優衣に駆け寄り、優衣の腕を掴んで引き止める。


 「何言ってんの?? 次、律の番だよ。 早く進路指導室行きなよ」


 優衣がオレの手を振り切って歩き出す。


 「待ってって。 進路指導なんかいいよ。 まだ1年だし。 一緒に帰ろう」

 

 「一緒に帰ったら、律のサボりの片棒を担がなきゃいけない事になるでしょうが。 ・・・てゆーか、一人にしてよ。 一人で帰りたいの!!」


 優衣の瞳から涙が零れ落ちた。


 拭っても拭っても溢れてきてしまう涙を、それでも何度も袖で擦って、優衣は教室を出て行った。

 

 優衣を気にしつつ、仕方なく進路指導室へ向かう。


 担任と向かい合って座ると、担任が早速オレの成績の事、進学を希望した場合、就職を希望した場合の話をし出した。


 ・・・全っ然入ってこない。


 優衣の事が気になって、担任の話は右耳から左耳に留まることなく抜けていく。


 優衣はまだバスに乗っていないだろうか。


 今から走れば、チャリに乗って追いかければ間に合うかもしれない。


 

 「・・・第一希望、東大。 第二希望、東大。 第三希望、東大!!」


 「はぁ??」


 「先生ゴメン!! 超大事な急用があって。 帰らせて!! また明日!!」


 担任の『待て!!』の声を聞こえなかった事にして進路指導室を飛び出した。

 

 急いで教室に戻り、自分の席に置いてあるカバンを鷲掴むと、生徒玄関まで爆走。


 内履きからスニーカーに履き替え、駐輪場に直行すると、チャリに跨り、家ではなく優衣がいるだろうバス停を目指す。


 まだバス来るな!! 間に合って!! もう、優衣が辛い時にひとりぼっちにさせる様な事はしたくないんだ。


 全力でペダルを漕いでいると、バス停に立っている優衣と、その奥からやってくるバスが見えた。


 バス停と走るバスの間には、信号機が1コある。


 『赤に変われ!!』信号機に念力を飛ばす。



 -----------信号機が、赤に変わった。


 『よし!!』その隙に優衣との距離を詰める。


 オレの念力、すげぇかも。


 「優衣!!」


 バスが到着する前に、なんとかバス停に辿りついた。


 そこにバスも到着。


 優衣は、泣いて真っ赤になった目で、チラっとオレの顔を見たけれど、すぐに視線をバスに向けるとそのまま乗り込もうとした。


 「待って、優衣。 バス乗らないで」


 優衣の腕を掴んで力ずくで引き戻す。


 「放してよ。 バス乗るの!!」


 優衣がオレの手を振り払おうとするから、力を強めて優衣の腕を握る。


 「お客さん、乗るの?? 乗らないの??」


 困りながら尋ねる運転手さんに、


 『乗ります!!』『乗りません!!』


 2人同時に別の返事をして、更に運転手さんを困惑させる事に。

 

 「乗りません!! 他の乗客の方に迷惑かかっちゃうので、ドア閉めて発車しちゃって下さい!! オレ、怪しくないんで!! このコ、オレの妹なんで!!」


 咄嗟に嘘を吐き、無理矢理バスを発車させた。


 バスが行ってしまったところで、

 

 「いつから兄妹になったのよ??! なんならワタシの方が誕生日早いでしょうが!! 何のつもりなのよ!!」


 優衣が泣きながら怒鳴った。


 「優衣が意地でもバスに乗ろうとするからだろ!!」


 負けずにオレも叫く。


 「乗るよ!! バス通だもん!! 乗るに決まってるじゃん!! 何で乗っちゃいけないの??! 律は何でここにいるの??! 進路相談は??!」


 「優衣の事、一人に出来ないだろ!! 進路相談だってちゃんとやったわ!! おかげでオレの志望大学東大だわ!!」


 「何でよ!! 高校生にもなって一人で帰れないわけないでしょ!! てゆーか、律が東大に入れるなら、ハーバード行けちゃうわ、ワタシ!!」


 「進路の事、ちゃんと考えてなかったから、瞬時に浮かんだ大学がそこしかなかっただけだわ!! ・・・帰せられないだろ。 優衣、泣いてるのに。 泣いてる優衣を、放っておけるわけないだろ」


 「・・・・・・ッ」


 オレに泣いている事を指摘された優衣が、言い返す事を辞め、泣き出した。


 抱きしめて、頭を撫でて慰めてあげたかった。


 でも、彼女がいながらそんな事をするオレを、優衣は絶対に許さないだろうから。


 上手く呼吸が出来なくなる程に泣く優衣の背中を擦ってあげる事しか出来なかった。


 暫くそうしていると、


 「・・・そりゃあ、泣くでしょ。 普通、泣くでしょ。 振られたんだから。  ・・・振られちゃった。 ワタシ」


 優衣が、ポソっと呟く様に口を開いた。


 「・・・だよな。 そりゃ、泣くよな」


 そんな優衣に同調する。


 「・・・晃くんに、いっぱい嫌な思いさせちゃった。 すっごく優しくしてもらったのに。 大事にしてもらったのに。 ワタシは・・・」


 そしてまた涙を流す優衣。


 もどかしかった。


 苦しそうに涙を零す大切な幼なじみに何も出来ない事が、悔しかった。



 だから今日、優奈さんに話さなければならない事がある。

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