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袋小路。

 『はぁ』溜息をひとつ吐いて、オレも自分の家に戻るべく、エレベーターのボタンを押す。


 ゆっくり下りてきたエレベーターに乗り込むと、ポケットの中で携帯が震えた。


 右手をポケットに突っ込み、携帯を取り出し画面をタップすると、電気屋のゲームコーナーからのメールが受信されていた。


 予約していたゲームが入荷したお知らせだった。


 予約していたゲームは、優衣と小さい頃からやっていたRPGのシリーズもの。


 優衣が事故に遭う前に、2人で胸を高鳴らせながら予約をしに行ったものだった。


 1作目から、ずっと優衣と一緒にやってきたゲーム。


 優衣とする事は、もうないのだろうか。


 

 家に着き、自分の部屋に入り、優衣から受け取った紙袋を適当に床に置く。


 「・・・ゲーム、取りに行こうかな」


 部屋を出て、脱いだばかりのスニーカーにまた足を通した。


 どうしても期待してしまう。


 何かのきっかけで、また優衣はひょっこり遊びにくるんじゃないか??


 その時、あのゲームがあったら喜ぶだろうな。


 どうしてオレは、言葉でも態度でもあんなにはっきり避けられたというのに、現実を受け入れられないんだろう。


 だって全然慣れないんだ。


 優衣とあまり会話をしなくなって2ヶ月ちょっと経っているのに、優衣が傍にいない事が不自然で仕方ない。


 優衣がいないという、居心地の悪さが消えない。



 電気屋に行き、ゲームを受け取り、帰りにコンビ二に寄る。


 『もしも優衣が来たら』という、願いでしかない万が一の為に、優衣の好きなお菓子を買う。


 小腹が空いていたので、レジ付近のケースに入っていたアメリカンドックも一緒に購入し、それを食らいながらマンションに帰った。


 基本早食いのオレは、家に着く頃にはアメリカンドッグは棒だけの状態になっていた。


 その棒を無意味に歯で上下に振り回しながら、エントランスでエレベーターを待っていると、


 「律、お疲れ」


 後ろから肩を叩かれた。


 振り向くと晃がいた。


 「・・・おう」


 晃は高校で1番仲の良い、いわば親友。


 なのに、晃に対するこの複雑な感情はなんなのだろう。


 親友なのに、嫌な事など1つもされていないというのに、晃に会うのが何か少し嫌だなと感じた。


 だからって、『帰れ』と言うのもおかしな話だ。


 だって、ケンカしてるわけでも何でもないし。


 いつも通りオレの部屋で遊ぶべく、2人でエレベーターに乗り込み、自分の家がある階のボタンを押すと、横からすっと晃の手が伸びてきた。


 そして、晃の人差し指が優衣の家がある階のボタンに触れた。


 「優衣のお母さんがさ、『優衣の送り迎えしてくれるお礼に、夕飯食べに来て』ってさ。 優衣んち、今日すき焼きなんだってさ。 つか、一緒に登下校なんか、彼氏なんだから普通なのに」


 晃が眉を八の字にして、それでも嬉しそうに笑った。


 晃は、オレの家に遊びに来たわけではなかった。


 「・・・そっか」


 優衣の為に買ったお菓子が入っているコンビ二のビニール袋を握り締める。


 優衣がオレの家に来る事は、ない。


 晃は、優衣の家がある階でエレベーターを降りて行った。


 晃の背中を見ていたくなくて、すぐさま『閉』ボタンを押す。


 自分の家の階に着き、『ただいま』も言わずに家に入っては、自分の部屋に直行。


 持っていたゲームとお菓子をベットに投げつけ、ダイニングへ。


 出来上がっていたオカンの手料理を、一心不乱に噛み砕く。


 異常にムカつく。 だけど、オレは何に対してこんなに苛立っているのだろう。


 分からないけれど、イライラが止まらない。

 

 夕食をかっ喰らい終わると、また自室に戻る。


 何かを考えてしまうと、イライラが増してしまいそうで。


 何も考えたくなくて、ベッドに転がり込んではヘッドホンを装着し、大音量でロックを聞く。


 目を閉じて洋楽をデタラメな英語で口ずさんでいた時、急に耳からヘッドホンが外れた。


 「何、その変な英語」


 目を開けると、優奈さんがヘッドホンを持って笑いながらオレを見ていた。


 「・・・来てたんだ」


 音量を大きくしすぎて、優奈さんが入ってきた事に全く気付かなかった。


 起き上がりベッドの上に座ると、


 「結構前からいたんだけど、全然気付く気配がなかったから、勝手にヘッドホン外してやしました」


 『フフフ』と笑いながら、優奈さんがオレの隣に座った。


 音楽がなくなると、優衣と晃は今頃何してるんだろと、2人の事が脳裏を過る。


 楽しくやっているのだろうか。


 オレのいないところで、2人だけで・・・。


 イライラが再燃。


 なんでオレがアイツらに腹を立てなきゃいけないんだ。


 オレだって・・・。


 隣に座っている優奈さんの肩を掴み、そのまま押し倒して跨った。


 優奈さんの唇を貪り、洋服をたくし上げる。




 ----------------9月。


 終わりかけの夏。


 この日は残暑が厳しくなくて、エアコンはつけずに窓を開けていて、生ぬるい風がカーテンを撫でていて。


 ヒラヒラ靡くカーテンの向こうから、救急車の音がした。




 --------------優衣。


 頭に優衣の顔が浮び、優奈さんのシャツの中に突っ込んでいた手が止まった。


 「・・・ゴメン。 今日はやめとこう」


 優衣を助けなかったあの日の後悔が押し寄せて、続ける気にならなかった。


 そっと優奈さんのシャツを下ろして起き上がる。


 「・・・救急車、優衣じゃないよ」


 優奈さんがオレの正面に来て抱きついた。 そしてオレの首筋に唇を這わす。


 「・・・うん」


 分かってる。 だって優衣は・・・。


 「優衣は今、晃くんと一緒にいる。 だから、あの救急車は優衣じゃない」


 今度は優奈さんがオレを押し倒した。


 「分かってるよ!!」


 思わず大きな声を出しては、優衣さんを押し退けた。


 そんな事、言われなくたって知っていた。

 

 「・・・じゃあ何で?? 律くんは優衣の事が好きなの??」


 優奈さんが、怒っている様な、不安そうな、涙を溜めた瞳でオレを見た。


 「優奈さんは救急車の音を聞いても何とも思わない?? あの時の後悔を思い出さない??」


 あの日だって今日だって、優奈さんを好きだから抱きたいと思ったんだ。


 優奈さんの的外れな問いかけには答えず、質問を返す。


 「・・・ワタシと寝た事、後悔してるんだ」


 俯いた優奈さんの目から、涙が零れ落ち、ベッドに染みを付けた。


 「後悔してるのは、優衣を助けなかった事だよ。 優奈さんと寝た事じゃない!!」


 優奈さんの勘違いを慌てて否定する。


 勘違いなんかで悲しんで欲しくない。


 「・・・救急車の音に何の反応もしなかったワタシって、冷たい人間かな」


 「・・・・・・」


 優奈さんの問いに、返答が出来ずに黙ってしまった。


 そんなつもりは微塵もなかったけれど、そう捉えられても仕方のない言い方だったかもしれない。


 誤解を生まない言葉を捜していると、


 「・・・何でいつもいつもワタシが悪者なの?? 優衣には悪い事したと思ってるよ。 だけど、知らなかったんだもん。 なのに・・・。 ワタシ、みんなに責められなきゃいけない程悪い事したかなぁ?!!」


 優奈さんがオレの両袖を掴み、腕を揺らした。

 

 「優奈さんは何も悪くないよ!! 誰も優奈さんを悪者だなんて思ってない!!」


 落ち着かせようと優奈さんの肩を擦るも、


 「嘘吐き。 律くんだって今、ワタシの事『冷酷な薄情者』だと思ったくせに!! 律くんは、律くんだけは、ワタシの味方でいて欲しかったのに!!」


 優奈さんは、オレの手を払い退けて部屋を飛び出して行ってしまった。



 「~~~~~~あぁ!! もう!!」


 頭を掻き毟って、ベッドに倒れこみ、枕に顔を沈める。


 なんでこんなに何もかも上手く行かないのだろう。




 ------------モヤモヤする頭をスッキリさせるべく、お風呂に入り、部屋でマンガを読みながらゴロゴロしていた24:00。


 床に転がしていた携帯の画面が光った。


 〔お姉ちゃん、まだ律の家にいるの??〕


 優衣からのLINEメッセージだった。


 優衣は、幼なじみはやめてもLINEのやり取りは続けるらしい。


 〔随分前に帰ったよ〕


 ので、返信すると、


 〔そっか。 帰ってこないから、てっきり律の部屋にいるんだと思ってたよ。 今までそんな事あんまりなかったんだけど、大学生だし、いちいち家族に行先言わないで夜中に遊びに行く事だってあるよね〕


 優衣から暢気な返事が来た。


 ・・・優奈さんが、帰ってない??

 

 〔オレ、探しに行ってくる。 今日、優奈さんとケンカしちゃったんだ〕


 優衣にLINEメッセージを打って、適当な服に着替えて部屋を出ようとした時、優衣から返事がきた。


 〔ワタシも探す。 見つかったら連絡して〕


 ・・・何言ってんの、優衣。


 優衣、バリバリ松葉杖じゃん!! しかも、女のコが外に出て人探しするような時間じゃないだろ!!


 「優衣は家で待ってて!! ちゃんと見つけ出して連絡するから!!」


 メッセージを打つのが面倒で、直電した。

 

 『2人で手分けして探したほうが早いでしょ。 あぁー。 松葉杖邪魔だわ。 お母さんとお父さんに見つかりそう』


 オレの意見など耳にも入れず、お出かけする気満々の優衣。


 いっそお母さんやお父さんに見つかって、優衣の外出を阻止して頂きたい。


 「女のコが外に出る時間じゃないだろ。 それに優衣、まだ怪我治ってないだろうが。 お願いだからおとなしく待っててよ。 またもし優衣に何かあったらオレ・・・」


 『ワタシは、お姉ちゃんにもしもの事があったら嫌だ。 家の中の空気を悪くして、律とケンカした後に家にも帰れなくさせたの、ワタシだから。 ワタシの責任。 だから、本当はワタシひとりで探すのが筋なんだと思うけど、お姉ちゃんの彼氏って事で律も手伝って下さい。 ワタシ、あんまり早く動けないから』


 電話の向こうで、優衣が苦しそうな声を出した。


 怪我をして辛かったのも、オレに救助の手を弾かれて悲しい思いをしたのも優衣なのに、優衣は尚も自分を責めて苦しんでいた。


 違うのに。 違うのに。


 でも、この2ヶ月間、考えても考えても解決案なんか出ても来なかった問題を、今は考える時間じゃない。

 

 「じゃあ、一緒に探そう。 やっぱり女のコの夜道ひとり歩きは危ないから。 優衣、荷台だったらチャリ乗れる?? オレ漕ぐから後ろに乗って」


 優衣が『行きたい』と言うのなら、優衣を連れてでも優奈さんを探しに行かなければ。


 それに、優衣が後ろに乗ってくれれば『手分け』とはいかなくとも、オレが前方を優衣が左右を探す事が出来るわけで、効率も良い。


 『・・・・・・ひとりで探す』


 オレの提案を、優衣は受け入れてくれなかった。


 「じゃあ、優衣のお母さんとお父さんに言って、優衣を出かけさせない様にするよ」


 だから、オレも優衣の意見を突っぱねる。

 

 『彼氏がいるのに男と2人で夜にチャリ2ケツは、ワタシ的にアウト。 律も、彼女がいるのに簡単に他の女と2ケツするのは良くないよ』


 優衣は、自分がされたら嫌な事はやらない。


 晃にされたら嫌な事は、しない。


 「いなくなったの、優奈さんなんだから、その妹と探すのは自然な事だろうよ。 晃の事は・・・今、晃に電話する。 晃の許可があればいいんだろ??」


 『やめてよ!! 晃くんに関係ない問題に晃くんを巻き込まないでよ。 晃くん、優しいから自分も一緒に探すって言い出すもん、絶対。 ・・・てゆーか、分かってよ、律。 ワタシが今、律とお姉ちゃんと距離を置いているのは、そうしないとあの事故を思い出しては2人を憎んでしまうからなんだよ。 これ以上、何も悪くない2人の事を嫌いになりたくないんだよ』


 優衣が、少し声を荒げた。



 『分かってよ、律』 


 分かるよ。 でも、分かりたくないよ。


 「・・・優奈さんを探すだけ。 ただ、それだけ。 優衣は黙ってオレの後ろで優奈さんを探してればいいよ。 オレの顔を見る必要もなければ、お喋りの相手だってしなくていい。 オレの事は『ただ、自転車を代わりに漕いでくれるロボット』って認識でいいから。 だから、ひとりで探すとか言わないで」


 優衣がこれ以上、怖くて痛くて辛くて苦しい思いをしなくて済むなら、オレは何でもいい。


 人じゃなくていい。 ロボットでも犬でも虫でも何でもいい。


 『・・・入院中、誰かさんの差し入れのお菓子のせいでだいぶ肥えたけど、一生懸命漕いでね、ロボットさん』


 腑に落ちていないのか、若干のしぶしぶ感を出しつつも、優衣の方が折れてくれた。


 「任せとけ」


 張り切って2、3回屈伸をして家を出た。


 マンションの入り口前でチャリに跨りながら優衣を待っていると、


 「ゴメン、待ったよね」


 優衣が、松葉杖をせかせか突きながらやってきた。


 「転ぶと大変だから、そんなに急がなくていいよ。 つか、おじさんとおばさんにバレずに出て来れた??」


 松葉杖を優衣から受け取り、小さく折り畳み、カゴに入れる。


 「匍匐前進したさ。 床を這って来たさ」


 『ふふん』と得意げに鼻を鳴らせると、おぼつかない足でふらつきながらチャリの荷台に腰を掛ける優衣。


 優衣の手が、オレのシャツを握った。


 「しっかり捕まってろよ」


 地面を蹴り上げ、勢い良くチャリを走らせた。


 毎日当たり前の様に一緒にいた優衣が、こんなにに近くにいるのは2ヶ月ぶりだった。


 なんともいえない安定感。


 何に安心をしているのか分からないけれど、ホッとする。


 やっぱり優衣は、しっくりくる。


 だけど、約束通り優衣とは会話もない。


 ただひたすらに優奈さんを探した。


 色んなコンビ二を覗いて、色んなファミレスにも入った。


 ネットカフェでは、優衣が保険証を見せながら『家族を探しているので、個人情報の関係もあるかと思いますが、姉がいるかいないかだけ教えて頂けませんか??』と必死に頭を下げていた。


 が、優奈さんはなかなか見つからず。


 「お友達の家にお泊りとかしてればいいんだけどね。 お姉ちゃんのお友達の連絡先知らないから、確認しようがない」


 『はぁ』と優衣が小さい溜息を吐いた。 と思ったら『ふわぁ』大きい口で欠伸をし出した。


 携帯の時計を見ると、AM2:00になっていた。 そりゃ、眠いわな。


 優衣の為に、目に入った近くの自販機で眠気覚ましのコーヒーを購入。


 オレはブラック。 苦いのが苦手な優衣には微糖。


 「ホレ。」


 買った微糖のコーヒーを優衣に手渡すと、


 「ブラック一口ちょうだい。 だめだ。 白目剥きそうなくらいに眠い」


 限界を感じているだろう優衣が、オレが口をつけたブラックコーヒーに手を伸ばした。


 どうせ吐き出すくせに、と思いながらもブラックコーヒーを優衣に渡すと、優衣は眠さの余り味覚がバカになっているのか、『味がしない』などと意味不明な事を言いながら、普通に飲みだした。


 ・・・コレはやばい。


 寝落ちパターンだ。


 腕に力の入らない眠った人間を、チャリの後ろに乗せて移動するのはかなり困難。


 寝るな!! 優衣!!


 自分の頬をパシパシ叩いてみたり、髪の毛を引っ張って頭皮に刺激を与えて何とか起きていようとするも、大きく頭が前後に揺れ出し、豪快に船を漕ぎ出す優衣。


 ・・・チャリはここに放置して、おぶって帰るか。 等と考えていた時、


 「・・・律くんと、優衣??」


 聞き覚えのある声が、オレらを呼んだ。


 声の方に目をやると、オレらが探しに探していた優奈さんがいた。


 「お姉ちゃん!!」


 さっきまで半目だった目を全開にして優奈さんを見る優衣。


 「優奈さん、どこ行ってたの??! 探したんだよ??!」


 優衣に肩を貸しながら、優奈さんに近づく。


 「・・・え。 この近くの、友達がバイトしてるバルでちょっと飲んでたんだけど・・・探したの??」


 優奈さんの言葉に愕然とする、優衣とオレ。


 高校生になりたてのオレらに『バル』なんて、毛頭思いつくわけがなかった。


 こんなに心配して探したのに、目の前の優奈さんはほろ酔い状態。


 優奈さんが『探して欲しい』『心配して欲しい』と言ったわけではない。


 オレたちが勝手に心配して探し回っていただけ。


 優奈さんは悪くない。


 酒で気分を紛らわせたかった気持ちも、分からなくもない。


 なんでオレらは、こんなにもタイミングが悪いのだろう。


 優衣の怒りが、少しだけ分かった気がする。


 何も悪くない人に、腹が立つ。


 「・・・心配した。 ケンカしたままいなくなられたから。 優衣だって、凄く心配してたんだ。 事故とかに巻き込まれてたらどうしようって。 もう、嫌なんだよ。 知らない間に誰かが辛い思いをするのは」


 酒が入っている優奈さんに、伝わるかどうかも分からない本心をぶつける。


 オレも大概タイミングが悪い。


 酔っている人に、真剣な話をしても仕方がないのに。


 「・・・ごめんね。 ワタシ、軽率だったね。 優衣からの『どこにいるの??』っていうLINEメッセージ、気付いててスルーした。 頭冷やしたかったんだ。 ちょっと、ほっといてほしくて・・・。 だけど、そうだよね。 あんな事故があった後に、連絡もつかない状態にするのは、無神経だったよね」


 優奈さんは、酒を飲んでいても完全に酔っ払いではなかった様だ。


 オレの気持ちは、優奈さんに届いた。


 「無事で良かった」


 優奈さんに笑いかけた瞬間、突然肩に重みがのしかかかった。


 優奈さんが見つかって安心したのか、眠気MAXだった優衣が、最早気絶に近い感じで眠り込んでしまった。


 「良かったな、優衣」


 優衣の頭を撫でて、そのまま背中におんぶした。


 「優奈さん、ゴメン。 オレのチャリ、優奈さんが乗って帰ってくれないかな。 オレ、優衣おんぶして歩かなきゃだから」


 優衣をおぶりながら、優奈さんの為にチャリのサドルを下げようとすると、


 「いいよ、下げなくて。 自転車引っ張りながら一緒に歩いて帰るから」


 優奈さんは笑顔で首を横に振って、自転車のハンドルを握ると、それには乗らずに引っ張りながら歩き出した。


 「ありがとう。 優奈さん」




 隣に初恋の人がいて、背中には幼なじみがいる。


 3人で歩く夜道は、幸せで、どこか切なかった。


 

 どうしてこんなに近くにいるのに、心はすれ違ってしまうのだろう。

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