表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第一章 6

  6

――――ない。

暴虐の限りを尽くされるはずの未来が、一向に現実のものとはならなかった。それどころか、全身を突き抜けていた圧力も消失していた。

呆気に取られながら、閉じた瞳を開き、四肢に力を込め、動くことを確認する。

 立ち上がり、周辺に目を配ると、場所が移動したのでは無いことが分かる。依然と、目の前にはルシアが存在し、倒壊した街並みが見渡す限りに拡がる。

何も、変わらない。

寸前までと何ら変わらないのに、呆然としてしまった。私の視線の先には、同じく呆然とし、それから困惑へと表情を移していくルシアの姿があった。

彼の周りには、先程までいた影は居なくなっていた。一瞬、彼が散開させたのかと勘ぐるが、圧倒的有利な状況でさせる意味は無いし、何より、彼自身もこの状況について行けていない事が表情から見て取れた。


「全く・・・油断してはいけませんよ、アドゥラさん」


 どこからともなく、女性の声が響く。

「まあ・・・でも、『時間を稼いでもらう』という当初の目的は達成して頂いたのですから、よしとしましょうか。御怪我がありませんか?」

 声が聞こえてくる方向は分かる。だが、そこへ目を向けても、テレサは影も形も存在しない。

「あらあら、すみません。姿を現すのを忘れていました」

 不意にだった。

空間に割って入ったかのように、彼女の姿は現れた。

悠然と白衣をはためかせながら、テレサは柔和に微笑む。

「さしずめ『再臨せし不遇の王』というところですか・・・。ねえ、オシリスさん?」

 『オシリス』。

そう呼ばれたルシアの顔には余裕の色はすでに消え失せ、蒼白のものへとなっていた。

「それか、『兄さん』とでも呼んであげましょうか?と言っても、あなたには伝わらないでしょうね。まさか、その力を持っていて、私が誰の『代理人』であるかを察せない筈はありませんよね?」

「ま・・・さか・・・」

「おそらく、力を授かった時に、言われませんでしたか?もしくは、今の『神葬』の発動方法を教わった時にでも聞かされていると思いますが・・・。『イシスとはぶつかるな』、と」

 ルシアは開いた口が塞がらない、陸に挙げられた魚の様に、パクパクさせている。

「オシリスは、かつてエジプトの王として君臨し、自らの弟の手によって謀殺された。そして、ある『女神』の手によって復活し、冥界の王として再臨した。自らの妹であり、妻でもある魔術を司る神であるイシスによって、ね」

「『魔神イシス』・・・!!??」

 ようやく搾り出した言葉は、掠れた叫びにしかなっていなかった。その叫びに、テレサは苦笑する。

「あまりその呼び方は好ましくはありませんよ。少々物騒な呼び名ですので。ですが、間違ってはいません。・・・そして、私が『イシス』の代理人である以上、貴方に万が一の勝機も残っていません。どういう事か、わかりますよね?」

 完璧なまでの笑みを、テレサは浮かべる。

会話は、そこで途切れた。

ルシアが、声にならない声を上げながら全力で逃亡を開始したのだ。反射的に追いかけようとすると、テレサがそれを制する。

「私たちの目的は敵の殲滅ではありません。あくまで勝ち残るためです。あの御方ならば、他の代理人にでも敗北するでしょう。私たちが手を下す必要はありません。私たちが考えるべきは、これから先・・・どう立ち回っていくか、ということです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ