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第一章 1・2

   第一章   ~叶わぬ望みも捨てず~

   1

南アフリカ共和国。

アフリカ大陸、最南端に位置する建国百年程の新しい国で、インド洋と大西洋を結ぶ航路上にも位置している。そして、白金や金、ダイヤモンドなどの様々な鉱山資源で有名だ。

表向きは、発展途上の真っただ中、先進国を目標に邁進する国。

都心には高層ビル群が建ち並び、余るほどあった土地の価値は、一気に跳ね上がった。

しかし、そんなので喜ぶ地元民は、ほんの一握りだ。

多くの場合、鉱山などでの割に合わない仕事に身を粉にして奮闘し、その日暮らしをしている。軒並み乱立する高層ビル群も、地元民の土地を地上げ紛いに安く買い叩き建てられた物だ。この国で作られる製品の殆どは、この国で還元されることなく、他の国に輸出されるだけ。その製品を作るための工場など、地元民が働く隙は無い。国内の富裕層は二割程度が、その富裕層が八割もの利益を、豊富な鉱山資源で私腹を肥やしている。


そんな街の一角。バラック小屋が軒を連ねる区画。似たような小屋が立ち並ぶ、その中の一つの。

黒い肌を持つ少女は、狭い部屋の中、丸くなって寝ていた。


   2

 私は、古びた狭い部屋の中で、昨晩丸くなって寝た状態のまま目を覚ました。隣では、寄り添う様に寝息を立てる妹の寝顔を見つめる。そして、寝ている時、夢の中で告げられた内容を思い出す。

「どんな願いも・・・ね」

 馬鹿らしくて、笑ってしまった。当然だろう。

我ながら、幸せな人生を送っている、と言えるほど充実していない。その日の食べ物にさえ困るような生活を『幸せ』と言えるほど、聖人になったつもりは無い。だが、それほどメルヘンチックになってしまう程、病んでいるとも思えない。

まあ、今日から、少しばかり昨日までとは『違う日常』を過ごすことにはなるだろうが。

そんな事を考えて、隣の妹、マリアを起こさないように立ち上がろうとする。

「――――御気持ちは決まりましたか?」

 ・・・ん?

確認しておくと、この部屋は、文字通り、妹と二人で寝るだけで肩身の狭い生活を送っている。つまり、私とマリア以外は誰も居ない。

居ない、筈なのだが、その声は再度響いた。

「御気持ちは決まりましたか?アドゥラ・モンドラーネさん」

 その言葉は、妹が発しているものだった。しかし、その声音は妹のそれとは違っていた。

「驚くのはあなたの自由ですが、こちらも暇ではありませんので、質問などあれば手短に」

 えー・・・と、どういう事?

「ああ・・・この体の事ですか。すみませんね。私の体で顕現しようにも、辺り一帯が更地になる可能性がありましたので、この体を御借りしております。不快だと仰るなら、他の方法を考えますが・・・」

「一つ質問ですけど、それで妹に何か影響が出ることはありませんよね?」

 頭の中には、他の質問も大量に巡っていたが、この質問が真っ先に口に出た。

「ふふ。勿論、如何なる後遺症も起きないので安心してください。――――では、再度質問です。御気持ちは決まりましたか?『代理人』として、この『戦争』に身を投じる、その御気持ちは」

「それって、さっきの夢の話?あの、『勝ち残れば、どんな願いでも叶える』っていう」

「ええ、それです。多少の差異はありますが、おおよそ、そのような話です」

 ・・・ちょっといきなり過ぎやしないだろうか。

あんな突拍子も無い夢を見て、そのすぐ後にこんな話なんて、頭が混乱しても仕方ない。仕方ないはずだ。すぐに呑み込める人間はいるはずない。

「案外、そうでも無いですよ。人間の言うところの欧州の『代理人』や、日本、北米、南米、オセアニアなどの地域には、早速、戦いの概要について尋ねていられますよ」

「なぜ、さっきから心の声に答えてるんですか?」

 一切、口に出していない内容すら返答する彼女は、小首を傾げ、

「そこは御気になさらず。今回の件には、関係の無い事案ですから」

 その後も、幾つか質問したが、もう答える気は無いらしく、妹の姿で、無言で見つめてきていた。

「・・・分かったわ。どうせ、何もかもお見通しなんでしょ。私が、こんな反則に頼らないといけないくらいに行き詰まっている事も。でも、一応概要を教えてくれないかしら?それから、もう一回考えさせて欲しい。それでどう?」

「了解です。では、概要をお話します――――」

 ――――三十分後。

長い!本当に長い。それもまだ続いているときたから、その長さを察して欲しい。何故か、世界創造からの神話を延々と聞かされているのだ。

「――――であるからして、彼は人間をお作りになったのです。それから―――」

「ストップ、ストップ!私が間違っていたわ。その戦いとやらの内容を説明してくれないかしら?」

 下手したら、それこそ数時間は喋り続けそうな勢いだったので、強引に話を止める。話を止められた彼女は、不満そうにするが、渋々と言った感じで話し出した。

その話を要約すると、こうだ。

この『神々の代理戦争』は、神様の頂点・・・主神を決める為の戦争らしい。そして、その為の『代理人』を選出し、その人物に神の加護を与え、戦ってもらう、と言う事らしい。

「ですので、今はその選考会の最中と言う事です」

「じゃあ、あなたみたいなのが、その候補者に逢いに行ってるの?」

「『私みたい』と言うよりは、個体として言うなら、『私そのもの』が向かっております」

 ここまで来ると、何でもアリらしい。

「でもさ、あなたは何者なの?やっぱりどこぞの神様?」

「私は、あの方々とは違う次元に存在する者です。この戦争の監督官を務めるだけの存在です」

 天使の様なものなのだろうか、と適当に考える。しかし、それは大した問題では無い。

「最後に一つ、良いかしら?」

「どうぞ」


「本当に、『どんな願い』も叶えてくれるの?」


 他のどんな事よりも、それが大事だった。そこに偽りがあるのでは、決して受けない。

「保証します。神々の力で叶えられない願いなど存在しないのですから」

 そう・・・と答えると、しばし熟考する。

そして、答える。

「『代理人』、引き受けるわ」

「有難うございます。それでは、ご健闘を心からお祈り申し上げます」

 光が溢れた。どう波長をいじっても作り出せないような、物理的に不可能な色の光が。

『それ』は、私の体に、力の奔流となって流れ込んだ――――


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