最弱魔王
「オラオラオラオラァ!!!」
俺は片手に持ったロングソードを目の前のモンスターに叩きつける。何度も、何度も何度も叩きつける。
しかし流石に奴もしぶとく、中々倒しきれない。
顎に滴り落ちてきた汗を拭い、重くなった腕を持ち上げる。
「プフッ…アル、死にそうになったら言って下さいね?蘇生魔法、いつでもいけますので」
ーーあれ?死んだら喋れなくね?
目の前のモンスターの動作に注意しつつも、横目で付き人に視線を送る。
彼女はいつもの黒ずくめの装備に身を包んでビーチチェアに横たわり、何やら果実のジュースを飲んでニヤニヤと意地悪く笑っている。俺がモンスターとの命のやり取りをしているのにだ。
「お前…っ…俺の死闘をリラックスして見てるんじゃねぇよ!手伝えよ!」
「いえ、手伝えよって言われましても…」
「なんだ!」
彼女は形の良い眉を怪訝そうに潜める。
「相手、スライムですよね?」
勘違いして貰いたいのだが、俺は弱いわけでは無い。こんな事を自ら言っている時点で頭が弱い奴と思われるのかも知れないが。
「セイッ!」
スライムの攻撃を軽やかにステップで避け、袈裟斬りに斬り上げる。
固形状を保っていたスライムは液状になり、草原の大地へと溶けていく。
俺は剣を一振りし、付いていた肉片を振り落とす。
「残念だが。俺の方が一枚上手だったようだな」
「気取る様な相手でも無いと思いますけど」
ようやく立ち上がった相棒は面白がる様に赤い目を細めた。髪をさらりと後ろに流して近づいてくる。
懐からカードを取り出し、内容を軽く読み取る。
「レベル上がらず…か…」
上がるとは思っていたが、やはり期待はしてしまうものだ。
彼女が手の中のカードを覗き込み、瞳を左から右へ。
「…相変わらず酷いものですね。これが魔王を討伐した男のステータスですか」
「うるせえな。黙ってジュースでも飲んでろ」
その言葉に素直に頷いて手に持っていた容器を傾ける。
その光景を傍目に、再び視線をカードへと戻した。
酷いものだった。これがかつて最強として名を馳せた男のステータスだろうか。
これが現実。思わずため息が漏れた。
剣を鞘へと戻してカードをしまう。
あえて言わずにいたが、スライムの強さを分かりやすく一言で言おう。
5歳児の遊び道具。
つまりは俺との死闘を繰り広げていた相手は世界最弱なのだ。




