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海崎白人は思考を止めない  作者: 伊鮫秋人
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2.世界は一つ?

2.世界は一つ?

俺の名前は海崎黒人(かいざきくろと)。一週間前に交通事故で死んでしまった十八歳。……どういうわけか死後、生前住んでた家の妹の部屋にワープし今に至る。

俺は死んだと言えるのか!?という妹の白人(しらと)の疑問により俺は悩んでいた。

と、言うもののその時は結論が出なかったが今はある程度それについて整理でき始めていた。

結局のところ死の定義が曖昧だからよく分からなくなったのだ。しかし定義しようとしても俺にはまだはかり知れなさそうな「未知」があるのでこれは止めた。

結果、俺は肉体的には死んだ。けれど魂や心といった概念としては生きてると言えるかも、という結論に至った。というか至るしかなかった。今は他に考えようが無いからだ。

そんな訳で一時的に白人の疑問にも俺自身の疑問にもケリがついた俺は今、一息ついているところである。

……もうすぐ白人が学校から帰ってくる時間だ。始まるぞ、新しい質問攻めが!

昨日あんなハードなお話をしたのだから流石に今日は楽な質問を願いたい。ドーナツの穴はどうやって食べるのか?みたいな。

……あれ?どうやって食べるんだ?そもそもドーナツの穴って存在するのか?いや、無かったらドーナツとは言えない……?じゃあドーナツは……って自分で思考のドツボにハマってどうする!

いかん、いかん。白人に毒されてしまっている。気をつけねば。

「ただいまー!お兄ちゃん、ただいまー!」

「聞こえてるよ、お帰り」

「お兄ちゃん!外凄い暑いよ!大丈夫だった?」

「全然平気、幽霊はどうやら寒さや暑さに影響されないらしい」

「体がないからかなあ?でも見た目は生きてる時と変わらないよ?」

「そこら辺は流石に考えても分からないよ、お兄ちゃんには」

「そっかー。じゃあ白人がいつか答えを見つけるね!」

……うーん、質問攻めさえ無ければ本当可愛くて良い妹なんだけどなあ。

「……ところでお兄ちゃん!」

「き、来たか!今度は何だ!」

「お兄ちゃんって今どこの世界にいるの?」

「……?いや、白人と同じだよ」

重たい!何故そんな話題を!

「そうなのかなあ?白人は、お兄ちゃんと今一緒にいるけどお兄ちゃんは幽霊だよ?幽霊さんは死んだら人間が生きてる世界にいるの?」

「それは多分、幽霊さんは未練があるからこの世にいるんだよ」

「成る程ぉっ!……うーん?この世って何かな?」

「この世ってのは今俺と白人がいる世界の事だ」

「でもでも、お兄ちゃんの見てる世界と白人の見てる世界は違うと思うよ?」

「え……どう違うんだ?」

「白人はお兄ちゃんを見てるけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんを見れないじゃん!それって一緒じゃないよ!」

「あ、なんだ。それは主観って言うんだよ、白人。白人は白人を基準に世界を見てるって事」

「じゃあ、お兄ちゃんはお兄ちゃんで世界をお兄ちゃんを基準に見てるの?」

「そうそう」

やったぞ……!今日こそ綺麗にまとまった!

と、思いきや。

「世界って何?」

「…………」

「白人やお兄ちゃんの基準が無くなったら……世界は無くなるのかなあ?」

「それは違うな。俺達が死ぬ……あ、ここで言う死は無ね。無になったとしても世界は続くよ。人類が滅びてもな」

「どうしてそう言えるのー?」

「例えば白人が寝てる間、お部屋の机やベットは無くなるのか?」

「ううん」

「寝てる間って俺らの基準は働かないだろ?だからやっぱり世界はある」

「えー」

「納得いかないのか?」

「うーん、それも確かに言えそうだなあって感じだよ〜。白人はやっぱり基準が無いと世界は無い気がするな」

「なんでだ?」

「だって、寝てる間は世界がどうなってるか分からないんでしょう?じゃあ白人がベットで寝てる保証は無いよ!」

「いやいや、目が覚めたらベットの上にいたら、それはベットで寝てた……って事にならない、な。あれ」

知覚出来ないならば寝てる間もベットにいたとは言えない。馬鹿げているが証明は……あ!

「あれだよ!カメラで撮影しとけばいいんだよ!そんで後で確認すりゃいい」

「でも、白人はその映像も自分の基準が無いと……知覚?しないと分からないと思うよ!」

「……?どういうことだ?」

「その撮ったカメラは、白人が寝てる間を撮ったカメラ、っていうカメラとして白人の世界にあるだけで、白人が認識しない世界にはないかもしれないよ、ってこと!」

「いやいや、俺も見てれば俺の世界にもそのカメラはあるぞ」

「でもそれもお兄ちゃんの知覚した世界だよ〜」

確かに……!

大前提として、俺は、人は無になっても世界は続くと白人に言った。

けれどそれを俺たちが知るのは不可能だ。何故なら俺たち人間は皆知覚する事で世界を認識している。

ならば、世界は俺たち人間が知覚しなければ存在しないのか……?

そんな馬鹿な話があるか。

……しかし証明しようがない。証明しようとしても必ず知覚領域に入ってしまう。

「……なあ白人」

「なあに?」

「お前って意外と鋭いのかも……」

「え、ええ……?どうしたの急に」

白人は俺が思っている以上に踏み込んだ事を考えてる。

……世界って何なんだろう。

俺たちのいる世界は知覚する頭ーー脳が無けりゃ存在しないのか?

死の定義同様、俺はまたもや分からなくなった。

こんな事、考える意味はあるのか。

しかしもし世界が知覚無しで存在しないのなら必死で生きた証とはどんな意味があるというのだ。

無意味に見えて、意味があるようにも思える。

「ねえねえ、お兄ちゃん」

「……今度は何だ?」

嘆息しつつ返事を返した。

ーーただ一つ確かな事は海崎白人は今日も考えるという事なのだろう。


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