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KIZAN 学_エン 閃空時限 鬼山学園  作者: 入羽瑞己
第一章 来客歓待〈ハジマリハジマリ〉
6/15

ヲタク共はリア充の夢を見るか①

 ――鬼山学園 第四棟 長廊下にて――


「負い目を感じるべきは、この国の偉い人たちが興している御食事券のみです」

「お店が負い目を感じろと言うのか!?」

 ちなみに正しくは「汚職事件」。ってか急に何を言い出すんだ、こいつは。

「ふふふ、薬師寺さん。あなたにこのボケをしたら、どうツッコんでくるのか、興味が沸いたんですよ」

「あ……そう……」

 受け取り方によっては気持ち悪い。俺は健全な男だ。お前には興味ない!

「冗談です。ってか、これからどこ行くんです?」

 嵐は微笑みを浮かべているが、冗談には思えなかったのは俺だけか……?

「で、悟。あと半日どこで過ごすんだ?」

 そうだな、龍騎……ってかお前が決めてみたらどうよ?

「やっぱり敢えて俺様は、茶華道部を推奨しよう」

 薫、いくらあの彼女に会いたいからって……

「却下。あんなところの何がおもしろいって言うのよ」

 薫の提案は却下される。女子に。

「あたしは……そうね。なんかやたら高いところから落ちる系が良いわね」

 それは……あれですか? 落ちたら見えるのはベタなあれですか?

「だけど、アスカ。私たちスカートだよぅ?」

「馬鹿ね。だからこそじゃない」

 それは……龍騎くんにベタベタな展開を強要しようとしてたりしますか? 女子なのに。

「ってか、やたら高いところから落ちる系って、例えばなんだよ、アスカ?」

「悟……そういうのはベタな展開だけに焦点を当てれば良いのよ。過程や理由なんて関係ない。結果のみが重要なのよ」

 もうなんか……どうでもいい。勝手にしてくれ、神宮寺アスカ。

「冗談よ。勝手に一緒に居させて貰ってる立場だし。悟、あなたが決めて頂戴」

 とか言われても、特に行く当てもないし……

 とか考えてる矢先――

 シュパッ! シュパッ! シュパッ!

 とりあえず俺の目の前に、手裏剣が、三つ四つ刺さった。

「――ッ!? 誰だ! 学校で『手裏剣』なんて物騒なもん投げてる輩は! へタすりゃ大怪我だろうが!!」

「悟。いつになく怒ってんな……」

 いやはや、龍騎くん。流石にぶっ飛び過ぎてるから(手裏剣がじゃなくて、行為がね)ここらで正常な判断を。 

 だがまぁしかし。それを投げた相手は、結構云うまでもなくぶっ飛んでいた。

「お見事」

「き、貴様はッ!」

「誰だ? 薫。知り合いか?」

 やれやれ全く……どうせまた、薫の昔の学校の関係者とやらの“あれ”だろ。

「いや、誰だかわからんが、名前的に親しい関係にあったような……」

「……で、どなたさんで?」

北条武(ほうじょうたけし)。以後、俺っちのことはお見知りおきを。そして、(ごう)! お前は、この学園を去って貰う」

 んーっと。何だろう、この急展開。

「ふざけるな! まだ貴様のこと三割も思い出せんが、俺様が学園を去る理由などないわ!」

 いやいやいや、薫? 理由とかは、四人の師弟に聞けば一目瞭然だよ?

「入試の時『忍術』使っただろ。そうじゃなきゃ、剛! お前がこの学校に入学できるはずがない! 精々、中学出で就職が良いところだ」

 またぶっ飛んだ話に。ってか、社会不適合者の薫を使ってくれる会社なんて、存在するのか?

「忍術カンニングして何が悪い!! カンニングはばれなけりゃカンニングじゃねぇんだよ! バーカが!」

「薫、それはお前の口から発するものじゃない。断じてお前が言っちゃいけない言葉だ。世の中の必死な受験生に謝れ」

 まったく、誰の点数で合格しやがったんだよ、こいつは。

 しかし、この薫の言葉に、北条くんが何故か激昂。

「俺っちにばれてる時点で駄目じゃないか! 『忍者育成学校』を途中で中退したような輩の『忍術』が見破れないとでも思ったかっ! お前のことだ。どおせ、『空似疑似(そらにぎじ)』の術でも使ったんだろ!」

「貴様にその確証はねぇ! それに、俺様には分かってるぜ。貴様がそんな体付きしてるはずがねぇってこと! どうせ『折込皮具(せっこひぐ)』の術でも使ってるんだろう。ダイエットすら持続できんとは、『忍者』の風上にも置けねぇ奴だぜ!」

 そのダイエットを続けるのがなかなか難しい。まぁ、俺は太ったことも、痩せようと思ったこともないからダイエットって辛いのか知らないけど。

 にしても、空似疑似やら折込皮具やら、わけがわからない。

 だが、薫の口ぶりだと北条は『忍術』で体を折りたたんでいる、みたいな口ぶりだが、「天上天下」の五○鈴さんみたいになってんのか? それだったら、北条くんは動く武器庫か……嫌な発想だ。

「ぬぉ、何だと! へ、彼女の一人もいないお前がよく言うぜ!」

 醜い争いだよ、これ。ってか、北条くんの体イコール五○鈴さんってことでいいのだろうか? 気になる……

「残念だったな! 俺様はもうできたんだ、カワイイ彼女がな!」

 いやしかし、薫とあの美少女との関係を彼女と言っていいものかどうか……

「今度たっぷりカツモクさせてやるよ!」

「へーんだ。どうせブスなんだろ、剛の彼女だったらよ! へん、お似合いのカップルだ、って言ってやるよ!」

「な、なんだとっ!!」

 残念ながら超美人です。

「今のは聞き捨てならねぇ! 勝負しやがれっ!!」

「戦ってこそ正義か。古いんだよ! 剛! お前の考えは!」

「剛田ファミリーども! 手を出すなよ!」

「あの、僕も剛田ファミリーですか?」

 嵐が突然、口を開く。

「当然!」

「ってことは、俺もそうっぽいな」

 嘯く真志。ってか、みんないつの間にか剛田ファミリーにされちゃったよ。って、俺の頭も段々状況を飲み込めなくなってきた。

 唯一飲み込めたことと言えば。

 一、薫と北条は忍術を使えるってこと。

 二、薫と北条は仲が悪いってこと。

 三、俺たちは非常に面倒臭いことに巻き込まれたってこと。

「おい、お前らいい加減にしろ。とりあえず、ここじゃ邪魔だ。場所を移して、勝負でも何でもしてろ」

 ここでようやく、一旦北条落ち着く。

「す、すんません。取り乱して。場所を移せ……なら、AG部に行きましょう。あそこでなら、血を見ることは最悪でも無いでしょう。そこで決着を付けます」


「二つほど良いかしら?」

 アスカが訝しげな、微妙に困惑した表情を俺に向ける。

「ああ、別に」

「一つ。忍術って何? 二つ。剛田薫と北条武(あいつら)は何者?」

 どうやら、神宮寺アスカにとっての常識とは、色々とかけ離れたモノだったようだ。まぁ、俺たちは、その手のワードに関しては結構慣れたが。

「えぇと、忍術っていうのは、『身を隠して敵陣や人家などに、密かに入り込む術』あるいは『忍と呼ばれる集団が扱う術』。まぁ俗に、忍法とも言われる術のことだ。

 それから、薫と北条は……俺の知っていることで言うところの、おそらく忍者学校時代の同期だ。まぁ、薫や北条は歳的に、忍者の端くれ、忍者もどきっていう表現が妥当かな」

「……あたしは、忍術っていう言葉で辞書を引いてくれって頼んだ覚えはないし、そんなふうにさも『忍者』っていうものを一般的視点で語れるモノかのように言ってくれと、言った覚えもないわ」

 ああ、俺もそんなふうに聞かれた覚えはない。

「冗談だよ。まぁ、全部本当だけど。少なくとも、薫は本物の忍術使いだ。俺は何度か見せてもらったことがある」

 新しい設定をこちら側から切り出すのはなんとも気が引けるが――全部事実なんだから仕方がない。

 まぁ、薫の忍術を実際に見たことがあるのは、おそらくこのメンバーでは俺と礼奈だけなんだろうけど。

「馬鹿げてる……こういうのをカルチャー何とかって言うのかしら……」

 神宮寺アスカは、この様子だと本気では信じてないみたいだ。まぁ、俺も実物を見て初めて信じたわけだが。




「時に悟。AG部って何だ?」

「私にも教えて」

 龍騎と礼奈が聞いてくる。

「知らん。AGは略語と踏んで間違いはないだろうが、『AG』なんてそんなの俺も聞いたことがない」

 まぁ、鬼山学園には特異な部活動やら同好会が幾つもあるらしいから、AG部っていう部活動もあるんだろう。少なくとも、入学案内パンフレットには、「コスプレ大好き同好会」が、部紹介写真で異常にクオリティの高いコスプレをしながら一列に並んで敬礼をしてたし、「ーリコッロ部」なんかは、恐ろしく完成度の高い自作アニメ(目からビーム、とかいう)ポスターを載せていた。

「そうなの悟くん?」

「行ってみてのお楽しみですか。まぁ、薬師寺さんと御一緒に部活動が回れるのならば、どこでも楽しいのでしょうけど」

 それはどういう意味だ嵐? 俺には変な意味合いが感じ取れるのだが……

「うん、悟くんと一緒なら、どこでも楽しいよ」

「……そのようだな」

 龍騎が、AG部の入口前で、そんなことを言う。



 ――鬼山学園 AG部部室兼活動室前にて――


「着きました。ここが『AG部』こと「アニメゲーム部」です」

 まず最初に、入り口に、等身大フィギュアを発見。綾○とア○カだったことは言うまい。

「アニメ、ゲーム部ねぇ……」

 部……というよりは、パッと見、同好会に近い気もするが……

「大丈夫です。このアニメゲーム部は健全なおもしろいアニメやおもしろいゲームしか取り扱っていませーんよ。俺っちが保証します。“決して”ヲタク系じゃないし、同好会や同人サークルじゃないから、誰でも大丈夫」

 いや、聞いてないけどね。全くもって聞いてないけどね、北条。何か信憑性に欠ける。というか、余計怪しいぞ。

 同人サークルなんだろ、どうせ!

 ただアニメやらゲームやらおかずにして、雑談に耽る同好会なんだろ!

 まぁ、現物を見なきゃ何とも言えないが――いや、既に現物は、等身大フィギュアという形で、目の前に飛び込んできているんだが……

「あ、それから、取り扱っているというのはですね……アニメを見て『ご飯三杯いけますっ!』とか、『二次元っ娘さえいれば、三次元とか、彼女とかどうでも良いし、っていうか、二次元っ娘ってカワユクない? カワユ過ぎじゃない?』とか言ってるような、学園内の第八棟で活動している『コスプレ大好き同好会』とか『二次元っ娘萌え部』とかとは全然違いますからねっ! まず、そこら辺を勘違いされて、AG部は白い目で見られることが多いんですけど、それは完全なる誤解ですっ」

「ほぅ。じゃあ、アニメゲーム部はどんなことをするんだ?」

 まぁてっきり、北条が言ってるような部がすなわち、AG部だと思っていたんだが……しかし、まさか鬼山学園内に部活動扱いで、本当にそんな奇人変人暇人が集まるような部があるとは……

 もしかしたら――いや絶対。この学園はアブナイんじゃないか?

「具体的に……とは、言いづらいけど――なんせまだ、俺っち自身部長に会っただけだし。とりあえず、日本アニメのDVDの作成、複製や、AG部オリジナルゲーム開発などを専らしているそう」

 なぁ、DVDの複製は犯罪行為じゃないのか……

「まぁ入ってみれば、どんなに健全な部かは、一目瞭然ですよ」

 ああ。だろうな。『一目瞭然』でしかないだろうな。

「……なぁ、悟。不安だぞ、俺は」

 龍騎はこういうのは苦手。まぁ、嫌いな人間は嫌いだもんな。萌えアニメとか。

「俺はじゃない、“俺たちは”だ、龍騎。胡散臭い通り越して、アブナイ部である可能性が高い……」

「も、もしかしてさ、本当に『うぇっへっへっへ。久しぶりの人間のおなごじゃ』とか言って、私っ、襲われたりしないかな……」

「礼奈……それは、何かが違うと思うぞ」

「そうよ、礼奈。彼らは、テレビやパソコンの画面を見ながら、『うぇっへっへっへ』とか、『うほっ、良い娘』とか、言うけど、現実世界への興味は完全に失せてしまっているから、襲われるどころか、あたしたちのことなんて完全無視よ。きっと」

 いや、アスカ、それはそれで言い過ぎ。論点はそこじゃない。

「あの、すみません薬師寺さん。一緒に行くとは言いましたが、まさか、こんな部にとは……」

 俺に対してドン引きするな嵐! 道の指標を指したのは俺じゃない! 断じて俺じゃないぞ! しかも、さっきお前は『俺と一緒ならどこでも楽しい』って言ったばかりじゃないか!

「まぁ、論より証拠。入ってみましょう」

 言って、北条は禁断の扉(パンドラの箱)を開ける……


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