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KIZAN 学_エン 閃空時限 鬼山学園  作者: 入羽瑞己
第一章 来客歓待〈ハジマリハジマリ〉
2/15

入学式①

 ――鬼山学園 第一校門前にて――


 俺は薬師寺悟。今日からこの「鬼山学園高等科一年生」だ。

「ホント、相も変わらず凄い奴だよ、お前は。鬼山学園受かるために、俺は死に物狂いで勉強したってのによ」

 このいかにもっていう言い方をする奴。こいつは大和龍騎(やまとりゅうき)。中学の時からの同級生で、親友であり、好敵手でもあり、戦友だ。

 中学の時は、一緒に陸上部の看板を背負った。

 なかなか面倒を見たがるヤツで、俺が鬼山学園に入学すると言った暁には、

「仕方ないな。俺が付いてってやるよ」

 だ。何が「仕方ない」だ。しかも、そんな簡単に入学できるもんじゃないんだぞ、と突っ込みたくなったが、あいつは俺のその様子を伺うと、

「お前達だけだと心細いだろ。まぁ、心配するな。どうにかするさ」

 だ。「お前達だけ」というワードに、俺と礼奈の高校生活に横槍を入れる気満々感しか感じなくて、もう呆れて物も言えなくなったが、どうせ落ちるだろうと見送った。

 しかし、こいつもなかなか頭の良いヤツで、見事入学試験に受かっちまいやがった。だからいろんな意味で残念な話、現在、俺の隣りにいるんだ。

「あれ? そういや礼奈ちゃんは? お前と一緒に来るんじゃ無かったのか?」

 龍騎が疑問を口にする。まぁ、そりゃ気にもなるよな。“礼奈”のことは。

「ああ、それがな……」

 それにしても、ちょっと遅いかな……あ。

「ごめーん。遅れちゃって」

 快活な声を響かせる、俗に言うところのカワイイ女の子。彼女が新井礼奈。

 礼奈と俺は中学の時からの同級生で、ものすごくカワイイし、スタイルも抜群。

 中学の時は、モテすぎて、毎日下駄箱にはラブレターがいっぱいが当たり前だったし、それに加え、毎日のように、無垢なる男子に告白されていた。しかし、根が優しくて真面目だったので『ある事件』以来は、ラブレターの返事を全員に毎日書いて送っていた――らしいので、なかなかの苦労者。告白した一人一人に「ごめんなさい」と返事を送っていたのは印象的だ。

 事件の後、俺と“少し”仲良くなった礼奈は、俺のところに相談に来て、一緒に帰ったり、一緒に話したりと、いつの間にか彼氏彼女のような関係――とりあえずはプラトニックな関係になっていた。

 まぁ、彼女も俺のことが好きで、俺も彼女のことが好きだったので、こんな関係になるのも当たり前か……なんて言うけど。

 たぶんそうなんだと思うっていう願望を抱いているだけで……礼奈も俺のことが好きだという確証はどこにもない。勝手に思ってるだけだということだ。

 まぁ、俺の妹二人が、俺の礼奈との関係を応援してくれていることを感じると、もう少しだけ、この妄想を抱き続けたいとは思っている。まぁ、結局のところは、礼奈の心の中でも読まなくちゃわからないことだけど。

 しかし、これだけは言える。

 龍騎のヤロウは礼奈に惚れていた。いやしつこい話、現在進行形である感じが否めない。あいつは、眉目秀麗、才色兼備、文武両道の看板を立てていたし、他の女子からはその渋カッコ良さと準紳士的行動で、それなりにモテてたから、絶対落とせると踏んでいたんだろう。


 見事なまでに失敗した。


 まぁ礼奈が、そのころは極度の男嫌いがあった、というのが重なったのが原因として大きいわけではあるが……

 自分のことは目も当てられないくらい完璧に一刀両断したくせに、俺とは普通に話すことを知った龍騎は――それからだっただろうか、俺に淡いライバル意識を燃やし始めたのは。

 ちなみに余談ではあるが。礼奈は、その快活な、嫌みの全くない性格から、女子からも絶大な人気を誇っていた。そのため、いつも周囲には‘女子の壁’(通称WW(ウーマンウォール))を展開しており、なかなか話をしようにも、中学の時はままならないこともしばしばあった。

 まぁ、礼奈の男嫌いが治ってからは(まぁ、その件は俺が一肌脱いだ訳だが)多少はその壁に入り込む余地ができたものの、礼奈と学校内で話すことによって、変な噂がそれから幾度か流れ始めたのも然りな話。

「遅いぞ、礼奈。何かあったのか?」

「えへへ、ちょっとおめかしとか色々で手間取っちゃって」

 そんなおめかしなんてしなくても、礼奈は充分そこいらの女の子よりも可愛いのに……とか思ってみたり。ノロケてみたり。

 それにしても、鬼山学園の制服。

 まぁ、女子は春期はセーラータイプなわけなんだけど……なんと言っても、センスが良い。なかなかこういう表現は使いたくないのだが……

 萌える。その一言に尽きる。

 制服は、なかなか特殊なデザインではあるが、女子の方からは可愛さが理由で勿論のこと、なんと男子の方からも、高い支持を得ている。

 その理由はやはり、体のラインがくっきり綺麗に映る造形美にあると俺は見ている。特に、バスト、ウエスト、ヒップの三大箇所を絶妙に補完。そして綺麗に強調しているところが、正に『完璧』、もしくは『美麗』の一言に尽きる。

 一度、こんな格好をした女の子が町を歩くと、その日の大人のお兄ちゃんたちによる犯罪報告件数が一挙に跳ね上がりそうなものなのだが……流石は学園都市の異名を誇る鬼山学園。治安維持は完璧であり、そんな報告はいままで聞いたことがない。

 まぁ、この市(市自体が学園そのものであるが)に在住している人間は、商店街であろうと、外部と繋がっている駅であろうと、全員が学園の関係者であるため、そういう事例はそもそも起こらないようになっているのだと思われる。

 だから、女子も安心して街を歩けるし、その学園の華がそのまま男子の活気にも直結し、学園内に良い空気を作っているのだろう。

 流石は世界の鬼山学園。制服の形一つをとっても、学園内に良い流れを生み出すために趣向が凝らされているというのは、感嘆符三つものだと思う。


「別におめかしに気を遣わなくても、礼奈は充分いつも通りで良いと思うぞ」

「駄目だよぉ、悟くん。最初が一番肝心なんだよ? ……あ、それとね」

「ん? 何かあったのか」

 礼奈に対し、友達以上、彼氏未満なりの立場で聞いてみる。

「えっとね。何かあったかといえばそうなんだけど……」

「あぁ、あれだぞ。別に言いたくなかったら悟を5秒弱ぐらいで葬るから心配はいらん」

「いや、いろんな意味で心配よりも、問題が先につくと思うが、龍騎くん」

「いや、問題ない。お前の代わりは既に用意してある」

「そうだね、悟くんの代わりはいくらでもいるから大丈夫だよ」

「俺はそんなに必要とされてない人間ですか!?」

 っていうか、用意って何だよ!?

「大丈夫。お前がくたばるなり、なんなりしたら、最終的に結ばれるのは俺と礼奈ちゃんだ。所謂、万事OKってやつだ」

「良くない良くない! ……っていうか、いろんな設定すっ飛ばしてるだろ。何で俺は始まって数時間で死なにゃならんのだ!そんな斬新すぎる設定、聞いたことないぞ。

 ……って、それよりだ! それより礼奈、何か、あったのか……?」

「う、うぅん! 別に対したことじゃないんだよ」

 やたら、含みのある発言だったと記憶しているが。

「えっとね。ちょっと分かりづらい話だけど。宿舎の前にね、マシンガンの“モノ”と思われる薬莢と弾倉が落ちていて、珍しいなって思ってもっと探してみたら、榴弾の火薬痕まで見つかってね。日本でそんなモノを実際に見られるなんてことまずないから、ちょっと調べてたらちょっと時間がかかって……」

「ストップ。礼奈、何割本当の話だ?」

「ん? 10割だよ」

 さらりと言っちゃった。さも当たり前のように言っちゃったよ。できることなら、そこは「冗談だよ」って言って笑ってごまかして欲しいもんなんだが……。

 ちなみに礼奈はつまらない嘘をつくような娘じゃない。余談を付け加えれば、礼奈は極度の銃収集家、銃愛好家であるため、着弾音や、発砲音一つで、殆どの銃系統の武器の識別ができるレベルだそうな。だから、薬莢やら、榴弾やらいう単語がすらすら出てくるそうな。

 そういえば、ここに来る途中、変な円筒金属をみたような……


「まぁ、それはともかくだ。早いとこ入学式の会場に行こうぜ、悟」

 まぁ、これでメンバーはそろったようだし。

「ああ、それじゃ行きますか、皆さん……ん?」

 どすどすドスドス、だだどどダダドドどどどど――

「この音は、まさか……!?」

 地響きと言い表しても過言ではないような、“足音”が周囲のどんな“音”よりも高らかに、確実にこちらに向かってきている。

 ドドドドドダスダスダスドドド……ダドッ――!

 けたたましい、轟音ともとれる人間離れした“足音”と共に、本日、一番拝見したくない、冗談のような男が現れた。

「おいおいおいぃ! ちょっと待てよ。この俺様を忘れてもらっちゃ困るっ!」

 ホントに……何でこんなヤツが受かったんだろう。このいかにもアホだって自己主張してるような奴。

 こいつは剛田薫(ごうだかおる)。自称ジャイアン2世。って、今時「俺様」は無いだろう。どうしてこんなヤツ合格させたんだ。

 こんないかにも「頭悪いです」的なキャラ入学させたら、学校が滅茶苦茶だぞ。……もとい、俺の学校生活が滅茶苦茶だ。

「師弟がいねぇと、鞄持ちがいなくて疲れるぜ。早くこの学校でも俺の師弟を作らなくちゃいけないな」

 お前は本当に師弟の意味を理解しているのかと小一時間問いつめたい。因みに中学校時代において、絶対にお前に付き従う従順な師弟はいなかった!

「まぁ、いい。ってか、もういいよ……とりあえず、中学のメンバーが揃ったところで、会場の体育館に行こうぜ」

 それもそうだ、と一同が俺の意見に賛同したところで、俺たちは体育館に向かった。


 ――鬼山学園 第一棟 長廊下にて――


 生徒は個性派揃いかと思っていたが、以外と普通な「高校生」ばかりで、拍子抜けする部分もあった。

 しかし、あるどうしようもなく人間的な理由から、同学年と思われる一部の特徴的な生徒(世間一般において彼らはガリ勉という呼称が割り振られる)からはもの凄い怨嗟のこもった顔で睨まれた。

 体育館に行く道中、特徴的な生徒に、

「満点近い点数取ったっていう割には間抜け面揃いだな、あんたら。まぁ、精々今の内だけでも粋がってろよ。入学式で最後だな、大きい顔してられんのも」

 などと、粋がっても大きい顔をしてもいないのに、たいそう間抜け面の奴らに言われた。僻みである。ジェラシーである。

「やれやれ。俺たちはあんまり歓迎されてないみたいだな」

「そりゃそうだろう。入試で“満点”取るような変態を同級生が快く迎えてくれるわけがない」

 何故変態と、親友に言われにゃならんのか、とも思ったが、気持ちがわからんでもないのは正直な話。そこへ、

「まぁ、気にすんなよ。あんなのただの嫌味だから」

 ん?

「それにしても、手前はすげぇーぜ! 毎年、トップのヤツでも12,3問は間違えるようなテストで、満点とっちまうなんてな! 信じらんねーぜ! えっと、薬師寺君……だっけ?」

 変なやつが来た。

「えっと、そうで……ってか、何の用ですか?」

 こういうキャラにはちょっと気がひけるというか……正直苦手意識があるというか……。

 ってか、どいつもこいつも。どうして「俺が薬師寺悟で、入試で満点取った」って知ってんだよ? よくよく考えたら変じゃないかよ。

 ……もしかしてあれか!? 最近の、“行き過ぎた”情報公開制度によって、俺のプライバシーの権利は、何らかの公共の福祉によって制限されているのか!?

「何だよ、冷てぇなぁ。こういう時はフレッシュかつ、ラフティに接しようじゃねえの。ん? んー……あれ? ラフティなんて言葉あったっけ?」

「もしラフティが、「Rough」すなわち、「荒く」「乱暴な」などの意味と、「ty」すなわち、「形質」「状態」を表す名詞を作るときに付けられる接尾とを組み合わせた造語であるのなら、「乱暴に接して欲しい」ということを言いたいのか?」

「な、何を言ってやがる!? それじゃ、俺が物凄いマゾヒストみたいじゃねぇか。しかも、初対面からそんなこと言うなんて……もし、俺が本当にマゾヒストだったら、色んな意味で潔さにもほどがあるぜ!」

「潔い? それは間違い。まぁ、簡単に言えば。君が天性の変態的思考を持ったマゾヒストだということだ」

「何!? 俺のキャラは手前らと初対面にもかかわらず、「天性のマゾヒスト」で定着なのか!? ……へへ、なら薬師寺。さながら手前は、そんな俺を虐めるサディストってとこだな!」

 因みに、SやらMやらいうには、辞書的には『異性間の間で』ということが必要、となっているというのは豆知識。

「わかってないな、お前! 悟は、こう見えて、礼奈ちゃんの礼奈スペシャルを受けてこの上ない快感を覚えている変態だ!」

「さ、悟くんッ!? いつもそんな風に感じてたの……!? 幻滅だよぅ……」

 違う! 誤解だ! たまに受けてみたい衝動に駆られないこともないけど、この上ない快感なんて感じていない!

「自分を偽るくらいなら、礼奈ちゃんは俺によこせ」

「えーい、五月蝿い、龍騎! 俺は断じて“普通”だッ!」

「ははは! いいぜ、面白ぇな、手前らっ! 手前らとは旨い飯が食えそうだぜ」

 これが俺が鬼山学園に来て初めて知り合った人間――間宮真志(まみやしんじ)と交わした最初の会話であった。

「俺は間宮真志。自分で言うのもナンだが、勉強も出来て、運動もできる好青年だ。とりあえず、鬼山学園中等科からの進級生な。宜しく!」

 本当に自分で言うのもナンな話だな。

「中学の時に結構頑張っててな。野球部だったけど……まぁ、高校からは武動柔剣部に入ろうと思ってる。手前らもどうだ? 入る部が決まっていなけりゃ、手前らみたいな面白ぇ奴らは大歓迎なんだが!」

 相手のペースのまま行くと、結構面倒臭いことになりそうなので、口を挟むことにしようと思う。『どうして高校初日、最初に知りあった奴がこんな変な奴なのだろう』というちょっとした悲壮感を持って。

「まぁ、知っての通りと思うが、薬師寺悟だ。とりあえず、俺も『武動柔剣部』に興味があってな。だけど、お前のお誘いはとりあえずキャンセルだ」

「そいつぁ、残念だ。……って何で!? 同じ部活入るんだろ? 仲良くしようじゃねぇか! ……ってああ、悪ぃ、続けてくれ、自己紹介」

「大和龍騎。悟と同じ中学出身だ。俺も悟と一緒で武動柔剣部に入ろうと思ってる」

「次は私ね。私は新井礼奈。私も悟くん達と同じ中学校出身だよ。悟くんと一緒に武動柔剣部に入ろうかなって思ってます」

「おお! 奇遇だね、皆さんよ! ……あっと、でもちょっとタンマ。礼奈ちゃん? あのさ、俺ちょっとア行の友達少ないからメアド教えてくんねぇかな?」

 ………………――――――――――!?

「え!? あの、ちょっと……まぁ、構わないけど……」

 ちょぉっと待ったぁ!

 構わないことはない! 俺でさえまだ礼奈とメールアドレス交換してないのに、見ず知らずの人間とメアド交換だと!? ふざけるな!

 ちなみに、礼奈は高校に入って初めて携帯電話というものを所持したんで、まだ、メアドというものを交換していないのだ。今日お披露目のはずだったしな。

 それにしても、初めてのメアド交換が俺じゃなくて、この野郎とだと!

「おっマジで! 俺ってラッキーっ、カワイイ娘からメアド交換してもらえるよ」

「おい」

「ん?」

 ……ボスッ! 

「うぷっ……」

 拳がめり込む嫌な音と共に、間宮真志は腹を押さえ、膝をつく。

 薬師寺悟は(まぁ俺なんだけど)鳩尾に一発KO級のストレートを入れてやった。

「うっ……良いね。そんなふうに接してくれることを待ってたぜ」

 こいつはマゾヒストだ。ネタじゃない。完全に俺が殴りかかるのを待っていた。

「舐めたこと、するな」

 真志は暫くうずくまって呼吸を整えていたが、暫くするとよろよろと立ち上がった。

「フー、いやはや友達になれそうで嬉しいぜ。ま、いつかこの借りは返さねぇとな。ええと、‘彼’もお怒りのようだし、メアド交換はまた今度にするよ」

「はい……あ、でも、メアド交換ぐらいなら構いませんよ。かかってきても、応じるかどうかは別として、ですけどね」

「間宮真志はカワイイ女の子のメアドを手に入れた!」

「なっ!? ちょ、待て!」

「心配すんな。手前のメアドもいただくからよ」

「お、お、お前!」

「何か問題でも?」

「大ありだが、すべてが問題すぎて、悔しいが何も言えない……」

 とかなんだかんだで、メールアドレスを交換してしまっている始末。しかも、初対面のマゾッ気のある男子と。

「まぁ、いろいろと分かんねぇことがあったら聞いてくれ。いつでも応えてやっからよ」

「おそらく、どれだけ切羽詰まってもお前には助けは求めんと思う。気持ちだけ、もらっておくよ」


「おっと、水さしてすまなかったな。自己紹介、続けてくれ」

 暴君は動こうとした。

「次は俺様だな。俺様は……」

 だから遮った。

「よーし、じゃ体育館いきますかぁ!」

 と、一同の自己紹介を終わったことにする。だが暴君に通用するわけもなく。

「ちょ、ちょっと待ていぃぃ! 俺の自己紹介が終わってないだろうが」

「お前はおそらく明日退学で、おそらく真志と関わることも無かろうて」

「ははぁん。さてはお前、俺様の知名度が上がることを恐れているな? 心配するな、すでに俺様の方が知名度が上だ」

 何が「ははぁん」だ。黙れゴリラ。

 ……とまぁ、結局こんな会話がなされることになる。しかしまぁ、そのとき俺は改めて再確認することになる。こいつはただのバカだと。

「まぁいいじゃねぇかよ、悟。俺が思うに、こういう性格だとやると決めたことをやらなくちゃ気が済まねえんじゃないか?だろ?」

 それは周りを犠牲にする。

 ……と言っても、まだ真志には通じない……

「俺様は、剛田薫。とりあえず学校征服のための一環として、この3人の部下共と、最初に武動柔剣部を征服しようと思っている。貴様も剛田ファミリーの一員として迎えてやっても良いぞっ!!」

 誤解だけはしないでくれ。俺たちの中学で変だったのはこいつだけで、後はみんな分別のある良い奴ばっかだから! ってか、だれが部下だ。だれが剛田ファミリーだ。っていうか、学校征服なんてアホみたいなこと考えてたのかよ。

 ……ああ、俺だって突っ込みたくはなったさ。アホかと。もしくは、黙れと言いたかったさ。

 しかし、こいつとまともに話していると、こっちの頭がおかしくなりそうなので、受け流した。俺たち中学校からのメンバーは華麗にスルーだ。だが、

「あははははは、面白いこと言うな、手前も。ってかよ、“学校征服”するなんていう、アホみたいなこと考えて入学してきたのかよ、手前。まぁ、冗談なんだろうけど! ははは」

 いまいちこの間宮真志という人物のキャラクターを掴めてないので、ここは黙っておくことにした。まぁ、俺の気持ちを「まぁ、冗談なんだろうけど」の部分を除いて見事に代弁してくれたので、良しとはするが。

「冗談? 俺様は本気だ。本気でこの手でこの鬼山学園を「剛田薫」一色に染め上げてやるつもりだ。どうだ、凄いだろ」

「黙れ薫。少しは羞恥心ってものを知ったらどうだ。俺たちまで馬鹿な人間に見られてしまうだろうが」

「あぁ? 事実、低能じゃないか。‘お前’は」

 こいつに言われるのが一番腹が立つ! お前が言うな、お前が!

「無駄話もそれぐらいにして、そろそろ行かなくちゃ、時間的にまずいんじゃないのか?」

 辛うじて話に流されていない龍騎が言う。龍騎がいなかったら、あと最低三〇分近くはこんな無駄話に付き合わされることになっていただろう。なんていうのは冗談だけど。

「それもそうだな」

「んじゃ! 一緒に行こうぜ!」

「真志お前、中等科の友達いなかったりす……」

「何言ってんだ、悟。俺と手前らは10分前からトモダチじゃねぇかよ」

 いないんだな。よくわかった。

 いろいろとまだよくわからないけど、俺は、とりあえず。真志と“友達”とか言うモノになってしまったことだけは確からしい。 

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