4話 少なからず誰かを守った
「面白いことを言うねぇ。あ!ひょっとして君が赤瀬君を倒したって子?僕、昨日突然雇われてね?まぁ戦いは嫌いじゃないからいいんけどね!」
「そんなことどうでもいいんだよ。今すぐここから立ち去れ!嫌なら俺が相手だぁ!」
「無論だろ?戦いにきたんだからね。一応名乗っとくね。新山斬。あの世へのお土産として持っていくといい。跡形も残らないように切り刻んでやるよ。」
斬は、余裕の表情を浮かべていた。
「安西!この子を頼む。俺はこの野郎を」
安西は、急いで七瀬の元に駆け寄り、川内の身を保護した。それを確認した七瀬は、臨戦体勢に入った。しばらくにらみ合いが続いた。先手をうったのは、斬だった。両腕に纏った、実体のない剣で七瀬の首を取りに来た。七瀬は戦闘慣れしていないため、後手をとったのは得策だったのかもしれなかったが、相手が悪かった。その場にいた全員の目は、一瞬で七瀬との間合いをつめた斬を目にとらえることが出来なかった。斬は、そのまま右腕を振り上げ、七瀬の首を斬りつけた。七瀬には能力が効かない。しかし、直接的に受けた攻撃はダメージを受ける。斬の手套は、間違えなく七瀬に致命傷を与えた。幸い首が折れるようなことは無かったが、七瀬は立ち眩みを起こしていた。
「僕は君が斬れなくとも君に勝つことは出来るんだよ?」
脳震盪が起きていてもおかしくないレベルだった。普通の人間ならもう膝をついていただろう。しかし七瀬は倒れなかった。いじめられていたこそ身に付いた身体的、精神的に強靭なタフさに救われた。
やべぇ…ふらふらする、格好つけてこれかよ…やっぱり俺は守れないのか?いや守る。今日話しかけてきてくれた龍の為にも…何より俺が俺であるために。
「まだやるの?まぁそうこないと僕がキレたのがバカバカらしく思えるからまだくたばってもらっちゃ困るからいいや。」
「七瀬ぇ!もういい。私がかわる。お前がこれ以上傷付く必要ない。戦い慣れしてないお前に…」
安西は、七瀬に向けて悲痛の叫びをあげた。
「安西?俺がやらなきゃいけないんだ。仕事なんだ。俺のせいで戦えなくなった修羅さんの為にぃ! そして、俺自身の為にぃ!」
「七瀬?あいつはAランクの神速剣と言われてる。やつのスピードに翻弄されるなよ?」
安西は、せめてもの情報を公開した。七瀬のために。
「安西…あんたの期待にこたえられるように頑張るが、一般生徒は頼むぞ?新山!!俺はお前を倒すぅ!覚悟しろぉ!!」
とりあえず斬を攻撃できる間合いまで接近した。斬は、待ち構えていたかのように大きく振り上げた右腕を七瀬の脳天目掛けて降り下ろした。斬の一撃は見事に七瀬の脳天に直撃した。しかし七瀬は、それをもろともせずに斬の腹に左アッパーを炸裂させた。重く、思いがこもっている一撃は斬に大きなダメージを与えた。七瀬は、もう気を失っていた。彼自身の本能、すなわち新山斬を倒すということを達成すべくその場にたっていた。と、斬が斬った壁から小柄な少年?が入ってきた。
「斬さん?油断し過ぎです。お陰さまで自分の出番です。」
「糞ガキがぁ!くんじゃねぇよぉ!もう僕の勝ちは決まってるんだよぉ!!」
斬の口は、先程の丁寧な口ではなくなっていた。
「でも斬さん?この学校には他にもAランクが2名いますし、そこのCランク教師は強いですし、取締りの連中が来たらもう勝ち目はありませんよ?ここは自分が加勢して、十人くらい回収すれば、報酬も弾みますよ?あと、そこの七瀬博士の息子の回収は任せます。」
「回収?そんなこと聞いてない。まぁあいつは僕の獲物だ。」
「新たに命令がくだったんです。早速はじめましょうか。」
そう言って小柄な少年は、安西を見た。その安西は震えながら言った。
「軽い重力…だな?」
「いかにも。今はそんなこと関係ありません。自分は今この中で最もあなたを危険視させていただいています。」
決まった。もう学校側に勝ち目は無かった。だがその状況は一瞬で逆転した。なぜなら一人の男がこの空間に現れたからだった。七瀬は気を失っていたが、その見覚えのある顔を見て、安堵の表情を浮かべて倒れた。
「七瀬っちは十分にやってくれたよ。ここからは俺様の仕事だ。」
小柄な少年は、その男を見た。
「無限の幻想、霧谷幻。」
「軽い重量、小剛少碕。君は俺様の前では虫けら同然!さぁおとなしく観念するがいい!」
小剛は、強く歯を噛み締めた。
「斬さん!なぜこいつがここにいるかは分からない。もしかしたら作戦が筒抜きの可能性がある!自分がここを食い止めるので、雇い主に報告お願いします!」
斬は無言で、全力でその場を離脱しようとしたが、七瀬の一発のせいで、スピードが鈍っていた。
「逃がすかよ。さぁ無限地獄の幻想を見せてやる!!It's show time!」
斬はスピードで、幻の横を駆け抜けようとしていたが、幻の口から出てきた霧にその先を阻まれた。斬は、しばらくそのまま前進した後にその場に倒れ、もがき苦しみはじめた。
「今頃彼は、赤瀬炎王に殺される幻想を見ているだろう…考えたこっちが寒気がするぜ。」
その後事態は収集された。小剛は幻と戦ったが、幻の圧倒的勝利は揺るがなかった。
翌日の昼、七瀬は目覚めた。
「ん?家か…やつらは?っ!」
勢いよく起き上がった俺はベッドの上にいた。頭痛が激しく、状況を把握せずにいた。
「気がついた?俺様の華麗な活躍によって事態は収集したよ。勿論君もね。」
ことを全て思い出した七瀬は、悔しさを顔から消すことが出来なかった。
「俺、やっぱり誰も守れなかった。自分の力を過信して…」
「そんなことはないさ、七瀬っちは少なからず誰かを守っただろ?えっとー川内って子が起きたらお礼を伝えといて欲しいって言ってたぞ?君が一人の命を守ったことに変わりはない。それに、相手の一人も大分ダメージ与えてたしね!」
そうか、俺は一人だけだけど守ることができた。それは俺の功績なんだ。
「にしても俺の判断は正解だったみてーだな!七瀬っちの学校で、事件が起きたのと同時に、銀行強盗があってな?しかも大規模の。急いで銀行向かおうと思ったら学校で事件が起きたから、七瀬っちに加勢に行こう!と思ってそっちに行ったんだ。銀行の目の前に行ってからの学校は遠かったぜ!」
「ありがとう。俺、もっと強くなる。誰にも負けないくらい強く。」
「おう!そのいきだ!まずは二つ名とかつけられるようなならねぇーとな!」
俺は、自分の無力さを知らされた。でも、誰かを守ることは出来た。次は誰にも手助けされずとも、
守れるようになりたかった。この時既に、偉能石を巡る事件とは別のなにかが、動き出していたことには、誰一人気がつかなかった。