3話 その壁が斬れても俺を斬ることは出来ない
七瀬は、今回の事件の事後処理を済ませたあと、署のみんなに自己紹介をすることとなった。
「えっ…えっとー、七瀬だ。よろしく…」
自己紹介になってなかったため、修羅がフォローしてた。
「好きなものとか…特技とかでもいいからもう一つくらな!」
「えっ…あのー…ない。」
すると、誰かが質問をした。
「ランクは?修羅さんが連れてきたくらいだから凄いんだろ?」
みんなも気になったらしく、ざわつき始めた。
「ランク外…」
ざわついていた部屋が一瞬にして固まった。またしても修羅がフォローに入った。
「彼はあの赤瀬を無傷で倒したほどの男だ。私より強いと思うぞ?あと、今まで友人がいなかったようだから仲良くしてやってくれ!静かに仕事の続きだ。バカ1号はこっちにこい。」
バカ1号?ていうかみんなこっち見すぎ…ていうかガン飛ばされてない?
「修羅さん?俺なんかした??」
そう言ってバカ1号と言われてた人が来た。
「今日から七瀬がお前のルームメイトだ。署の説明なりなんなりしてやってくれ。」
「ラジャー!んじゃ七瀬君?ついてきて。」
言われるがままに、七瀬はついていった。仕事スペースから出てから階段をさらに2階分上がった。それから少し歩いた。そして、向かい合わせにドアが並ぶ廊下の、一番奥の右側のドアの前で止まった。
「この部屋が俺の部屋だよ。そして今日からの君の部屋ともなる。散らかってるけど我慢ヨロ。」
ドアの先の部屋は、そこそこ散らかっていた。中は2段ベッドと、テーブル1つと、とても狭い部屋だった。
「紹介が遅れたね。俺は霧谷幻で、修羅さんにはバカ1号って呼ばれてる。バカって出て来たらだいたい俺のことだから分かりやすいぜ!」
俺は今、霧谷がとても自虐的なことを言ってるに聞こえたが流すべきと判断した。
「七瀬だ。名前は聞かないで欲しい。」
「そうか、七瀬?ヨロね。修羅さんからは軽い説明は受けてると思うけど、何聞いた?」
…俺は記憶を辿る。が、結論はこれだった。
「悪者をこらしめるしか聞いてない。」
幻はとても面倒臭い顔をして説明を始めた。
「えっとこの仕事は…EASに関する事件を力で鎮火させる仕事だ。あ!そうだ。」
幻は部屋の奥にあったスタンドにたてられている携帯をもってきて、七瀬に渡した。
「これは、ただの携帯じゃなくてな、事件が起きたら、瞬時にこの携帯に場所とそこまでの最短ルートが送りこまれてくる。俺はバイトとこの仕事やってるけど、特例としてこの携帯はバイトをすっぽかして現場に向かっていいことになってる。学校でもそうだ。どんな授業だとしてもこの携帯を手放すことは許されない。事後処理もこの携帯の情報を使う。あと現場の写真と、処理後の犯人を撮る!分かった?」
バカと言われてる割にはまともな説明をした幻に、七瀬は驚いた。
「分かった。わからないことがあったら聞きく。」
「お前は敬語ってもんを知らないのか?一応先輩だぞ?」
人と喋るのも滅多にないのに、上下関係などさらに無縁だった七瀬だった。
「そう言えば修羅さんよりも、強いって本当なのか?て言うか赤瀬をやったとかあり得ない…」
「事実だからしかたない。俺には能力が効かないだけだ。」
「ふーん。じゃ能石いらない?」
「俺の前でそう呼ぶな。石かEASって呼んでくれ。」
首を傾げた幻だったが、理由は聞かずにいてくれた。その後は、風呂や食堂に行き、眠りについた。
翌日、七瀬が起きた時には幻はいなかった。七瀬は、家に荷物がまだ残っていたため、早起きして学校に必要な荷物だけとりにいき、学校に向かった。昨日の今日で学校があるのはどうかと言うところだったが、学校としては、石を生徒に渡してしまえば、奪われるリスクは減るため、早く石を無くしなかったのだろう。基本的に石は体の何処かに埋め込むことが多い。手の内、足、胸部と、いろいろな場所があるが、手の内が一番マイナーだ。埋め込んでも、体ごと持っていかれる事件も多々発生していたため、路地などの道を減らしたり、カメラの数を増やしたりすることでそう言う事件も無くなりつつある。学校につくと、昨日赤瀬が起こした爆発のクレーターが残っていた。教室の席についた。すると、後ろから
「なぁ?お前は昨日何処にいたんだ?そう言えば先生に呼び出されたっけ?」
昨日に続き、また話かけてきた相手に、拒否反応を示すのもどうかと思い、七瀬は返答した。正直に。友達になるために。
「実は俺さ、能力が使えないんだ。だから別の教室で授業ってことなんだ。」
七瀬は、また拒否されると思った。またいじめられると思った。だがそいつは違った。
「能力が使えない?そんなやつもいるんだなぁ…俺達も最低ランクなんだから気が楽だろ?俺は銀武龍って言うんだ。お前はなんて言うんだ?
「えっ?」と思わず驚きの声を出してしまった。七瀬は、そう言ってくれる人が他にもいるなんて思わなかった。
「俺…俺は七瀬。名前は聞いてほしくない…」
七瀬は、昨日の幻と同じように自己紹介をした。龍も幻と同じで、その理由を追及しないでくれた。
「そう言えば今日から1ヶ月間は、特別授業しかしないらしいよ?お前暇じゃね?」
「本当だ。でも安西って教師と話すだけだから退屈でもないぞ?」
七瀬が夢見てた、普通の会話が続き、気が付くと朝のSHRの時間だった。
「今日からしばらくは、特別授業のみを行います。昨日のこともあるので、この学校にも戦闘員を配備しました。皆さんは、安心して授業をしてください。七瀬君は昨日と同じ部屋に向かうように。では移動開始。」
七瀬は龍に、「あとで」と言って昨日の教室に向かった。
「七瀬?なーなーせ?小僧ぉ!」
「あ?なんだって?」
「だから敬語を使え!教師への態度をわきまえろ。まぁ昨日は助かった。正直死ぬと思った。」
「礼なら俺じゃなくて大篠津修羅に言え。1ヶ月は能力が使えないほどの重症なんだってよ?本人は普通だがな。暇だから視察したいんだけど…いい?」
「特別授業か?駄目だ。この部屋から出るなって言われてる。」
七瀬はいじめられてきていたころから頭がよかった。勉強が出来るとかではなく、要領がいいといった方が近かった。だから七瀬は、自分の持つものを有効に活用した。
「仕事としては?」
そう言って昨日貰った携帯を見せた。この携帯には身分証明のページも入っていたことを有効に活用した。
「こらこらぁ、授業ちゅ…う?って、え?お前雇われ警察だったの?」
「まぁな。昨日いろいろあってな。てことで行こうぜ。」
七瀬としては自然に安西を誘った積もりだったが、安西自身は自分も一緒に行くとは思ってなかったため、
「私もか?お前一人でいいだろ。」
まずい…自然に誘って友達みたいにしようと思ったのに…俺はお願いとかする感じじゃないし…もっと本とか読んで話し方を覚えるべきだったーぁ!!どう誘おう?…とそんなことを考えてると、
「まぁお前にも借りがあるようなもんだからな。AとBだけでいいだろ?」
「そ、そうだな。とりあえずBのとこ行こうか。」
ちょっとあたふたしてしまった七瀬だったが、自然な流れで安西を誘えてほっとしていた。Bクラスの授業の見学を始めたはいいが話題が無かった。幸い安西が話題を振ってくれた。
「七瀬?お前は何を見に来たかったのだ?」
「いざって時に、この学校を任せられるやつとか…そう言うやつを探してる。」
ふと七瀬の目に一人の女の子が止まった。それを見て気がついた安西は、七瀬にその子について聞いた。
「川内が気になるか?」
「なんで分かった?まぁ気になるけど…」
七瀬は、
「目線で分かる。あいつ凄い地味なのに何に興味があるんだ?」
言えない。俺と何となく似てるから友達になりたいなんて。昨日じゃ考えられなかったなぁ。友達をつくろうとしてる俺なんて…そんな思考の結論は、
「能力はなんだ?」
「人の思考が見えないのはちょっと面倒だなぁ…まぁいい。能力は…水を操るやつだ。」
「普通は人の思考なんて見えないけどな…水流使い?の割に全然使ってないぞ?」
周りの人間はそれぞれの能力の制御練習を行っていた。だがその中で一人何もしていなかったのが川内だった。
「あいつの本当クラスはAだ。だが、力が全く制御出来ないから危険なんだ。もう二人いるAランカーに危害を与える訳にはいかないからな。Aは実戦までやるからな。それで1つクラスをおとしてBクラスにいるわけだ。正式にはAランクのやつなんだけどな。」
複雑な立場にいる川内も複雑だっただろう。どのランクの人間も自分よりも高いランクの人間に妬みがある。(俺は例外だが…)その環境で川内は生活していかない。力になりたい。俺は純粋そう思った。と、突然肩を叩かれた。
「ちょっとまずい感じの空気だ。能力を使ったら、別のものが見えた。多分」
七瀬はすぐに感ずいた。
「昨日の連中だな。」
安西は頷いた。
「昨日の戦闘で、8人の教師が病院送りになっててな。テレパシーが使えるやつも今はいない。やつらの気配を察知したやつもいない。」
「でも雇ったんだろ?戦闘員。それに赤瀬はいないだろうし。」
安西は険しい顔でことを説明した。
「雇った戦闘員は、20人。高ランカーと言うより銃器持ちばかりでな。一人Bはいるが、また別の用心棒を雇っているだろう。まさか作戦失敗して、その翌日に攻めに来るとは思っていなかった…もう10人雇ってあるのだが、明日からの配備になっている。そこまでして石が必要なのか?」
「俺が連絡をとってみる。ちょっと待っててくれ。」
急いで携帯を取りだそうとした次の瞬間。
「銃声?」
この特別実習室は、いざというときのために、音を通しやすくした最硬の壁となっていた。そして、銃声が、止んだ。次は斬撃音が壁に鳴り響いた。最硬のはずの壁が斬られる音が。生徒はすぐに異変に気がついてその壁から離れた。ただ一人川内は、足がすくんでいるのかその場から動かなかった。逆に、その壁に走る七瀬もいた。キレイに長方形の形に斬られた部分の壁が倒れた。同時に一人の人間が川内に向かって飛び込んできた。そいつは、実体のない剣で川内を切り裂いた。いやその剣は川内を抱き締めて背中でかばった七瀬にへし折られた。七瀬は川内をはなし、目の前にいる敵をみた。ポケットでは携帯がサイレンを奏でていた。
「僕の剣が折れるなんて、今世紀最大の事件になるぞ?しかも斬りつけた背中に折られたなんてね。正直なとこ、僕キレてるよ?」
「お前は、その壁が斬れても俺を斬ることは出来ない!!」
昨日に続き、再び戦いの火蓋が落とされようとしていた。